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ハリーファとの再会

 午前中に侍女のシュルークがやってくると、第三夫人が皇太子と会った後にお話しする時間を作れると言うことだった。

 シュルークが車を取りに出て行くと、車回しから第三夫人が出て行った。

「今から行ったら、相当待つんじゃないかしら?」

「オンボロジープのスピードなら、ちょうどいいかも知れないんだケド」

 麗子は思った。皇太子と夫人の会っている時間が、短い気がする。

 初日だって、ほとんどプライベートな時間はなく、私たちが話をしただけで第一夫人はハリーファの元を離れてしまった。第二夫人も、麗子達がいないだけで時間的には第一夫人の面会時間と変わらない。

 橋口じゃないけど、ボディタッチとかそういう時間が必要なのではないか。

 夫人と会うときぐらい、周りに人をいれず、夫婦水入らずの時間にしたいと思わないのだろうか。

 もしかして、皇太子が『ED』なのかもしれない。そういう意味では呪われるより前に、そもそも役に立たない皇太子なのかもしれない。

 シュルークが運転するジープがやってくる。

 麗子と橋口、ロボットのアーヤが乗り込む。

『出発します』

 今日はエンストしなかったが、ものすごいエンジン音でびっくりした。

 車の中で麗子は打ち合わせを始める。

「今日は『アーヤ』のままだから」

『はい、分かりました』

 麗子は気になっていたことを、シュルークに質問した。

「みた感じ、皇太子には子供がいないようだけど、合ってるかしら?」

 アーヤが通訳するとシュルークが答える。

『確かにいないわね。弟のジャファルには子供がいるのに』

「ハリーファには何か問題があるんじゃない? 例えば…… 男色家とか」

『ないない。他の国では知らないけど、王国では宗教上、大問題になるのよ。あったら王家から出されているわ。下手すりゃ王族どころか、国外追放ね。そして、皇太子を救うためにあなた達を呼んだりしないでしょうね』

 麗子はそう考えた根拠の面会時間の短さを言った。

『ああ、そう言う意味では、皇太子はアレが早いかもしれないけど……』

「麗子だって、しっかりエッチなこと訊いているんだケド」

「いいでしょ訊いたって」

 早い、の一言で済むような問題なのだろうか。

『まあ、あんまり子供ができないと、今みたいに、色々噂は立ってしまうでしょうね』

「確かに四人も夫人を抱えていて、男色というのはあり得ないか」

 アーヤが通訳しそうになるところ、慌てて止める。

「ああ、今のは訳さないでいいから」

『はい』

 長い直線道路に入ると、シュルークが質問してきた。

『今日は皇太子とどういう話をするんですか?』

「内緒です」

 運転中にもかかわらず、シュルークは麗子の方に顔を向けた。

『私、疑われてます?』

 麗子は笑いながら言った。

「内緒です」

 それを最後に、ジープの中の会話が途切れた。

 しばらく、一定のエンジン音だけが響いていたが、ようやく軍の施設に到着した。

 車を止めて、施設に向かって歩き出すと、第三夫人が施設から出てきた。

 麗子達と、第三夫人達がすれ違い様、第三夫人のマリアが言った。

『あなた昨日もこの施設に来たって。皇太子は均等に愛す約束を守っているのかしら?』

『私は通訳として同行しているだけなので、妻として会うわけではありません』

 マリアが疑いの目を向けてくる。

『あなた…… アイーシャなの?』

『……』

 アーヤは麗子達の指示もあり、返答するのに時間が掛かってしまう。待っていると、第三夫人のマリアはシビレを切らして車に行ってしまった。


 麗子達は、施設の前でスワイリフと会った。

『また君たちか……』

 アーヤが通訳しようとすると、スワイリフが止めた。

『夫人、今の言葉は通訳しないでいただきたい』

『……』

 スワイリフは皇太子のいる浴場に案内すると、自分の執務室へと戻っていった。

 シュルークを脱衣所に残し、アーヤと麗子、橋口で風呂場に入る。

「……」

 風呂場の湿気を感じて、麗子は一瞬アイーシャを模したこのロボットが壊れるのではないかと心配した。壊れないにしても、早めに出るべきだろう。

 麗子達の姿に気づいて、皇太子であるハリーファが言った。

 ラッシュガードと長めの短パンのような水着を着て、乾かないようにお湯を体にかけている。

『アイーシャ。君がくるなら、四日日後だと思っていたのに』

『通訳としてきました』

『そ、そうか。では四日後もくるのだな? そのもの達がいない時に』

 ハリーファは、うっとりしたような表情を浮かべる。

「お願いがあってきました」

 ロボットが通訳する。

『お願いはいいが、とにかく早く呪いを解いてくれ』

「夫人達の身体検査をさせてください」

『身体検査だと? なぜそんなことを』

 麗子は説明を続ける。

「あなたがここに囚われの身となる直前、ジンを呼び出すための香木が発見され、すぐに売り渡されました。この呪いはその香木を使ってジンを呼び出した可能性があります」

『で』

「呪い殺すことは簡単だったと思います。なぜ殺さない方法を選んだか。それはあなたが生きていることに『も』メリットがある人だからです」

 ハリーファはまた湯を浴びた。

『だから夫人達を疑うのか。俺は全員愛しているし、恨まれることはしていない。私を恨んでいるなら、こうしてここに来ないだろう? なあ、アイーシャ。昨日はリーンも来たし、今日はマリアだって』

「そうかもしれませんが、あなたに愛されることだけが人生の全てではないかもしれませんよ」

 ハリーファは麗子達を追い払うように、手で湯を弾いた。

『侮辱するのか』

「そう言うわけではないですが。とにかく夫人達に私たちの検査に協力するようお話しいただけませんか」

『ああ。だが、これで誰からも呪った証拠が出なかったらどうするのだ』

「その可能性も考えながら行動はしてます」

『……』

「では、要件はこれだけなので」

 麗子が背中を向けると、ハリーファが言った。

『お前、アイーシャじゃないな? 私の作らせたロボットだ』

『その通りです」

「さすがですね。なぜお分かりになったのですか」

 ハリーファは足元を指差して言った。

『足の裏のほくろがない。ロボットを作らせる時、足の裏の写真をつけるのを忘れたんだよ』

 橋口は、自分の言葉は通訳されないことを逆手にとり、皇太子を振り返らずに言う。

「ものすごい変態的な発言が出たんだケド」

「そうですか。それではもう一つだけお願いがあります。このロボットのことを夫人達に知らせないでほしいんです。夫人達には、まだロボットだと気づかれていないので」

『わかった』

 脱衣所に戻ると、シュルークが言った。

『何話してたの?』

「機密です」

『……冷たいなぁ。ジンのこと教えてあげたのに』

 麗子は頭を下げた。

「ごめんなさい」




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