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ハイファー

 皇太子の住まいに戻ると、ロボットの呼び方を『アーヤ』に戻した。

 シュルークがジープを車庫に入れて戻ってくるまで、三人は部屋で話し合う。

 シュルークがしたように廊下に立って三人は向き合った。

「アーヤ。部屋の監視カメラとか盗聴器ってどこ? あなた停止させられる?」

「麗子、そんな事をこのロボットに聞く方がどうかしてるんだケド」

「どう言うことよ?」

「機密事項について話さないようにロックが掛かっているに決まっているからなんだケド」

「……」

 麗子と橋口が、ロボットのアーヤをじっとみた。

『いいえ、情報を話すことに対して、ロックはかかっていませんよ。けれど、盗聴や監視カメラを停止する権限はありません』

「じゃあ、監視カメラと盗聴器の位置と向きを教えて」

『スマフォを出してください』

 アーヤが麗子のスマフォに画像を送ってくる。

 部屋の間取り図に監視カメラの向きと盗聴器の位置が記されていた。やはりこの場所が一番聞かれにくい位置だと麗子は考えた。

「スマフォでアクセスする時に内容は検閲されているか教えて欲しいんだケド」

 アーヤはやはり橋口の言葉を理解しない。麗子は面倒臭くなって、「それ教えて欲しい」とだけ言ってみた。

 アーヤが反応した。

『この建物の通信は検閲されています。この建物として、です。私の通信はこの建物の通信を利用しませんので、検閲されていませんが、王国自体の外部インターネット接続は検閲されています。結論としては、王国内のサイトであれば私を経由すれば建物の検閲は免れますが、外国のサイトは王国として検閲されてしまいます』

「変なこと検索できないのね。危ないところだったわ……」

 橋口は目を閉じて何か考えているようだった。

「検閲している人物は誰なの。この建物の場合と、王国での検閲についてそれぞれ教えて欲しいんだケド」

「それ教えて欲しい」

 橋口は麗子を軽くこづいた。アーヤは答え始める。

『この建物は検閲と言ってもログを取っているだけです。よっぽど変な外国のアドレスにアクセスしない限りは内容の確認まではしないでしょう。この建物の通信も、王国の通信も、内容の確認をするのは、政府の諜報局です。この建物の場合は、最終的には皇太子にそれが告げられ、国の場合は国王に報告されます』

「そうだ、そもそも国王って会ってないけど何歳なの? 健康なの?」

 それを聞いて、アーヤはごく自然に微笑む。

 麗子は顔には出さなかったが、内心驚いていた。これはロボット本来の機能なのか、式神の能力なのか。

『国王は入退院を繰り返していて、健康に関して言うなら、状態は良くないです』

 やっぱりもう時間がないのだ。次期国王である皇太子がこの状態だと、王国としては困ったことになる。国内が不安定と見られれば、侵攻してくる国もあるだろう。石油を確保したい国も入り乱れて、ここは物騒な地域なのだ。

「!」

 橋口が、急に鞭を取り出すと、器用に手繰って入り口に向けて放つ。

 鞭の先端がドアに当たり大きな音を立てた。

「な、何よ、急に!」

 橋口は口の前に指を立てて小さい声で言う。

「(静かに、なんだケド)」

「(誰かいたの?)」

 橋口は答えずに、ゆっくりと扉のほうへ向かう。

 勢いよくドアを開ける。

『カンナ!? 私がくるの、よく分かりましたね』

 そこにはシュルークが立っていた。

 橋口は首を振った。

『?』

 シュルークを入れて扉を閉めると、橋口が言った。

「誰かの気配を感じたんだケド」

『ああ、そういえば、ここにくる前、ハイファーとすれ違ったわ。ちょっと表情が変だった』

 麗子がシュルークに聞き返す。

「ハイファーって、第四夫人についている侍女ですよね?」

『ええ、そうね。どうかしたの?』

「ハイファーは……」

 と言いかけ、麗子は悩んだ。

 侍女のハイファーは、皇太子と敵対するものと繋がっている可能性が高い、麗子はそう思っていた。

 第四夫人を調べる際に、麗子達の行動を探っていたのが理由だ。そして今回も扉の外で盗み聞きしていたのだから、ますます持って怪しい。ハイファーが調査状況を探って、誰かに報告しているに違いない。

 シュルークにその事を伝えるべきだろうか。侍女達は、横のつながりがある。こっちが疑っていることが遠回しにバレるのは都合が悪い。しかし、さっき廊下ですれ違っているシュルークが、ハイファーがスパイかもしれないという事を知らないというのも危険だ。

「あのね」

 麗子は第四夫人を調べていた時のことをシュルークに説明した。もしシュルークがハイファーとすれ違ったのなら、ハイファーはまた調査状況を盗み聞こうとしていたことになる。

『分かりました。ハイファーならあり得るかな、とも思いますし』

「それどういうこと?」

『ハイファーはエリートなんですよ。こんなところで侍女をやるような女性じゃないんです。ここにくる前、王国の諜報機関にいたって噂です』

 橋口が言った。

「それはミッションインポッシブルなんだケド」

「だとするとハイファーは正真正銘のスパイなわけね」

 今誰に雇われているのだろうか。それとも王国の諜報機関にいるまま、ここに侍女として潜入しているのかもしれない。どちらにしろハイファーに情報が流れるのは危険だ。

『それはそうと、今後は何を調査するんですか?』

「……」

 香木を使って幽鬼を使い、呪いをかけたとすれば、疑わしい人物の背中を霊視することが一番早い。

 皇太子に掛け合って、一人一人背中を見せてもらうように手を回してもらうべきだろう。

「調査について相談するから、もう一度、皇太子に会いたいな。皇太子は自分が呪われている訳だから、絶対に犯人じゃないわけでしょ?」

『どんな人まで疑っているのかわからないけど、まあ、それが一番いいかもしれない』

 そうシュルークは言う。

「なんとか調整とってもらえないかしら」

『順番的には明日は第三夫人が皇太子と会うから、多分前後の時間で空きを作ってもらうようにお願いしてみます』

 麗子は頭を下げた。

 シュルークは麗子達の部屋を出ていった。

 アーヤは脛から電源ケーブルを出して、充電するためコンセントに接続した。

「背中を調べられるようになればあっという間に犯人がわかるんだケド」

「浮き出る刺青を私たちで見つけられるかしら?」

 橋口は胸を張るように体を逸らした。

「人には霊力の許容量があるんだケド、霊力が溢れてくれば、漏れ出てくるわけ。今回のような霊力による刺青なら、許容量を超える霊力を入れてあげればいいんだケド」

 橋口は胸の当たりから他人に霊力を与えることができる。彼女だからできる技だ。

「そんなもんなの?」

「誰かで試してみるんだケド」

「誰かって誰よ?」

 麗子は訊くが、橋口は首を横に振った。

「??」

 橋口は無言で親指を、自らの背後に向ける。

 親指の示す先には、扉がある。また扉の外に誰かがいて、盗み聞きしているという意味なのだ。

「あんたまともに通訳しないのはなんでなんだケド」

 橋口は自分が囮になるから捕まえろと仕草で伝える。

 麗子は物音を立てないようにドアに近づく。

『ほら、聞いてるのか、ポンコツロボット、なんだケド」

 麗子は扉に立つと、右手を開いて左から右にスライドさせた。

 扉の前に立っている人間に対して命令(コマンド)を入れたのだ。

「黙って入ってきなさい」

 扉の取手が震えるように動き始めた。よし、そのまま入って来い…… と麗子は思った。命令(コマンド)が入っているからそのまま質問して、誰から頼まれたのか聞き出してやる。

「?」

 気づくと、レバーの動きが止まっていた。

「しまった!」

 麗子は慌てて開けるが、もう姿は見えなかった。

「逃げられた……」




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