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スワイリフの秘密

 会議室スペースでの端と端にスワイリフと麗子、橋口、アイーシャが座っていた。

 シュルークに内容を知られるのは、侍女たちに情報が流れることが考えられる。

 そう判断した麗子はシュルークには席を外してもらうことにしたのだ。

 会議室の奥から、スワイリフが言った。

『依頼された用件について調べました。ハリーファ様が施設に止まることになって、風呂のメンテナンス代がかかるようになっていますが、この施設を使った演習や訓練が減った為、弾薬や燃料の消費が減り、光熱費も含め、軍としての出費は減っていました』

「分かりました。お風呂のメンテナンスの業者はなんという会社ですか」

 麗子が言うと、アイーシャの姿をしたロボットが通訳する。男女は接することが出来ないので、遠くに座っているのだが、この距離があることで、アイーシャの姿をした者がロボットであることが、スワイリフにバレにくいと思った。

『基本的な業務なので、国営企業です』

 なるほど、と思ったが念のため聞き返す。

「個人的な儲けは発生していないと言うことですか」

『そうです』

 スワイリフはアイーシャが気になるのか、麗子が質問しているのにそっちばかり見ている。

「軍は、演習ができないと、何か別のことにお金を使ったりしませんか?」

『思いつく限りですが、ありません』

「ちょっと失礼します」

 麗子は立ち上がって、スワイリフの方へ歩いていく。

 命令(コマンド)を入れる為だった。

 四メートルほどに近づくと、スワイリフが立ち上がって、手で押し返すような仕草をした。

「……」

 麗子はその場で立ち止まり、手のひらを開いて左から右に、スッと流した。

 すると、スワイリフの目の光が消え、押し返すように前に出していた腕が『ダラリ』と下がった。

 入った、と麗子は確信した。

 最初にハリーファに命令(コマンド)を入れて以来、この国で確証を得たのは二回目だった。

 麗子は、アイーシャを呼んだ。

「このことは、他の人には言わないでね」

『承知いたしました』

 そしてスワイリフの方に向き直って言った。

「スワイリフ、あなたはハリーファに呪いをかけましたか?」

 アイーシャは相互に通訳する。

『いや、俺はそんなことしてない』

「けれど、ハリーファに好きな女性を取られたことで恨んでいますね?」

『……恨んで、』

 それ以上言葉が出ない。

 スワイリフは必死に首を振っている。心の葛藤があるようだった。

「では質問を変えます。あなたの好きなのは第一夫人でしょ」

『違う』

 はぁ? 恨んでいるかどうかは、葛藤しているのに、第一夫人のことはあっさり否定した。麗子は首を傾げた。

「もう一度聞きます。あなたの好きなのは第一夫人ですね」

『違う』

 どういうことだろう。麗子は思った。

「では第二夫人ですか?」

『違う』

 面倒臭い。誰が好きなのか言わせる。

「誰が好きなんですか?」

『……』

 スワイリフの顔は赤くなっていた。子供か、と麗子は思う。

「第三夫人かな?」

『違う』

「じゃ、第四夫人だ」

『……』

 足を閉じて、手をギュッと握り込んだ。

 多分、こいつは本当に第四夫人が好きなんだろう。それにしても面倒臭い男だ。好きな女子から見れば、これも良いところなのかもしれないが……

「それが理由でハリーファに呪いをかけたんですね?」

『かけてない』

 そこは否定するのか。やはりこの王国の『信仰』が壁となって、術がしっかりかかっていないのかもしれない。スワイリフの汗を見て麗子は右手を右から左に振り戻し、手のひらを握り込んだ。

 するとスワイリフの目の光が戻った。

 そして、状況を見て後ずさる。

『ここは監視カメラが有効だぞ』

「スワイリフ、あなた、何か恐れている?」

『恐れてなどいるものか』

 麗子には、声が震えているように思えた。

 橋口の方を見ると、橋口は首を横に振った。

「じゃあ、監視カメラ映像を見せてもらって良いですか?」

『映像を確認できる端末をここに持ってくる。ちょっと離れてもらっていいか』

 スワイリフは汚いものを払うような仕草をして、麗子に退くように言った。

『(あなたに言ったわけではないので誤解しないで)』

「あなたに……」

 スワイリフはアイーシャが通訳し始めると、言葉を被せてきた。

『(通訳しないで)』

「?」

 麗子にはそのやりとりが分からなかった。

 スワイリフが会議室を出ていくと、三人は会議室の中で話し合う。

「今、なんて言われたの?」

『通訳するなと』

 麗子は首を振る。

「違う。アイーシャに言った、その前の言葉よ」

『あなたに言ったわけではないので誤解しないで』

「完全に、第一夫人と思っているんだけど」

 確かに、目元しか見えてないわけだから、勘違いしても無理はない。ロボットは第一夫人を真似て作っていて、アバヤやヒジャブも同じものを着せられているから。

「まだバレてないってことね」

 スワイリフが入ってくると、ノートパソコンを開いて渡した。

 距離を取った状態で操作を説明し、軍の機密に当たる部分は削除してあるから大丈夫だと言った。

 麗子は、皇太子のいる風呂場に出入りする映像をしばらく確認した。

 食事を持っていく、持って帰る。

 下の世話をする、それを持って帰る。

 皇太子が寝ている間中、交代で湯をかける人が交代する為に一定時間ごとに入れ替わる。

 激しい人の出入りがあったが、それに怪しい点は感じられなかった。

 麗子は別の監視カメラのフォルダを見つけて、映像を見ていく。

「これはアイーシャね。服が濡れて着替える為に戻ってきたんだわ」

『……』

 通路を通る映像から、姿が消えた。あれ、そういえば、アイーシャはどこに移動したんだ? 風呂場の更衣室あたりで着替えたのだと思っていたが……

 不審に思い、さらに別のカメラの映像を調べていく。

 見慣れた人物の後ろ姿が映っている。

「これは?」

『私だ。ここは私の執務室になっている』

「昨日の映像ですね」

『そうだ…… それがどうした』

 声はさほど震えてはいなかったが、さっきからスワイリフの挙動がおかしい。

 やけにアイーシャ、ロボットの方に視線を送っている。ロボットは見られている感覚がないのか、それに気づかない。

 どうも執務室前の通路を映した映像は、加工されているようだった。

 一部の時間帯の映像が切れている。

「映像が切れていますが」

『軍の機密だ』

「そうですか」

 麗子は怪しいと感じて、昨日の頭からそのカメラの映像だけを見直す。

「これは訳さないで、橋口も一緒に確認して、入った、出た、出た…… これでおしまい。おかしいと思わない?」

「確かに、入っている映像が残っていないのに、スワイリフは執務室から出てるケド」

 橋口は思い出したように言う。

「別の出入り口があればそういうこともあるんだケド」

「また通訳して。執務室の出入り口はここだけですか?」

『ああ、ここだけだ。何かおかしなことでも?』

 麗子は映像を見ながら、言った。

「入った、出た、出た。これしか映像が残っていない。出るには入らなければならない」

『さっき言ったろう。軍の機密で映像を見せられないのだ』

「誰か要人が入ったということですか? その人が出て行く様子は? その要人は一人で出て行かれたのですか?」

『そ、その通りだ』

「軍の要人なのに?」

 スワイリフは麗子達の視線を無視して、アイーシャを睨みつけるように見ている。

『正確に言うと、私は送って行った。執務室に戻ってくるところの映像も間違えて消してしまったからないだけだ』

「入った映像を見せてもらえませんか」

 大袈裟に時計を確認しスワイリフは言う。

『時間だ。帰ってくれ』

 ノートパソコンに手をかけてきて、それを急に閉めた。

 麗子は手が挟まれるかと言うくらい、その態度の急変に驚いた。


 別室で待っていたシュルークと一緒に施設を出た時、第二夫人達は駐車場で車に乗り込むところだった。

「第二夫人達はハリーファと会っている時間は短いのね」

「まあ、服が濡れるようなことしなければ、昨日だってこれくらいで車に戻ってたはずなんだケド」

 麗子は第二夫人の車に向かって走り出した。

「アイーシャも来て」

 アイーシャと呼ぶが、人間ではなくロボットであり、高額ではあったが、走る機能備わっていなかった。

 麗子は第二夫人の車の前に飛び出し、車を止めた。

 アイーシャがくると、窓を開けさせ、第二夫人に質問する。

「リーン様申し訳ありません。先ほどのハリーファ様との面会は時間が決まっているのでしょうか?」

『ええ、その通りです。四人を均等に扱ってもらうと言う意味もありますし、軍の施設ですから、時間内に出ないと他の方に迷惑がかかりますので』

「ありがとうございます」

 窓が閉まりかかった時に、第二夫人が言った。

『アイーシャ、今日はどこにも出ないとか言っていたのに、気が変わったの?』

『……』

 ロボットは自分の言った発言ではないと認識すると、短時間で回答に達することができなかった。

『まあいいわ。私は家に帰るわ。車を出して』

 そう言うと窓が閉まり、車は埃を巻き上げながら走り去っていった。




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