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黒白の魔法剣士  作者: 傘羅栄華
ソードブレイク編
97/114

出発

 その車は音もださない。

 駆動の際にも走行の際にもブレーキを踏んでもアクセルを踏んでもその事実は変わらない。

 なにせ空中に浮かんでいるんだ。物体同士の摩擦から出る音など出るはずもない。

 そのうえ普段は自動で運転してくれる。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「どうだ?」

「さすがに何もない。そもそも人気のないところで来るだろうな」

「問題は一人で来るのかどうかね。ただこの車ごとの可能性も」

「ん。どういうこと?」

「・・・もう忘れたのか。そもそも景欄に触れるためには剣術に秀でていなければならない。そしてそれほどの使い手ならば大抵の場合、顔が知られている」

「その二律相反をどうしてくるか」

「大勢でくるにせよそれは囮、結局のところ脅威となりえるのは一人か二人だ。あるいはパンジーの言った通り車ごと動かすか。木箱なら魔法すらはじくが車ごとなら動かせはする。取り出すときに結局手を借りることにはなるんだろうがな。それでも

「車か・・・そうなればどうする」

「俺が重力操作で車ごと動かす。逃げている間にお前は相手の迎撃を頼む。とはいっても相手はそれなりの手練れ。数も多いだろう。まともに相手をすればまず負ける。だからちょっと相手をして逃げればいい。勝とうなんて考えるな。相手の特徴を覚えて帰る」

「ああ。うん。わかった」



 出発から一時間ほどたった。

 景色はなおも都会と言えるままだ。

高速道路ならもっと早いが、数で来られたくはないため人目のある地道を走っている。

ゆえに遅い。とはいっても渋滞が起こるはずもないため今のところ問題は起こっていない。

「今のところ何もなしですか」

「別に密輸ってわけじゃない。だからといってこの商品を運んでいることが知られるとよくはない。それでもこの刀がどれほどの金額をしたとしても素人が何人束になろうともどうにもならないからね」

「そういえば狙ってくる人に心当たりの方は」

「・・・あるとすればレッドアーチ家かな。月曜日。いやその前の日曜日の夜あたりから何か動いている。それとファーラスト国でも何か動いている。そういやクルクスでも何か騒ぎがあったんだっけ。そうなればファーラストの方は何もないかな」

「・・・レッドアーチですか。まあブルラメールが表に出てくるならかみついてくるとは思いますが。ただそこまでの力が今あるのかどうか」

「そうか三貴族同士であるのか。じゃあオレたちのしていることはまずくないか」

「それはさっきも言っただろう。三貴族のどれかが力を持てば自分たちも持とうとする。誰かの力が弱まれば自分たちをさらに優位にしようと力を持とうとする。拮抗しているならばそこから抜け出そうとして力を持とうとする。ただの一般庶民がちょっと動いた程度じゃどうしようもない」

「戦争ね。確かに景欄は武器としても有名。でも本当に有名なのは美の方でしょ」

「ああ、自分たちで美術館を作りさらに著名人を招くこともあるんだ。そんな連中が景欄を戦場に送るとは思えない。だからこそかもしれないが。まあそれもない」

「・・・戦争では使わないのか。いかに美しいといっても刀だろう。人を斬る武器だ」

「天音家として断言してやる。そもそもあの家にとって格とはいかに美しい芸術を並べるかだ。あの家が積極的に戦争を起こすようなことがあればそれは金でもコネでも家でも手に入らない芸術がそこにあった時だけだ。三貴族同士仲が悪いがそれでも景欄を求めた理由は美しいから。それだけだろう」

「・・・お前がそこまでいうなら」

 それ以上はカインは何も言わなかった。だがパンジーには少し気にかかることがある。

 それは時間。

「たまたま交渉が終わったタイミングがレッドアーチ家に問題が起こった日と近かったってこと?」

「それはまた別だ。今なら邪魔をしてこないだろうと思って、交渉を急いだ可能性はある。というか俺はそれが真相だと読んでいる」



 イルミナルはこの星の中心。とはいっても自然がないわけではない。常に高層ビルが立ち並んでいるわけではない。

 王宮に背を向けて車を動かし続ければ必然、田舎と呼ばれる地域に近くなる。

 他国の人々がその地名を聞いた印象とはまるで逆、光と影。あるいは残り香というべきか。

 とはいっても当然線をまたいで切り替わるわけではない。

 そもそも都会など王が作るものではない。

 王が住む場所。それを中心としていて、そしてそれが大きな影響を及ぼすがそれでも王の意志ではどうにもならない。

 住む人々の営みが都会を生み出す。ビルがあり店がありその外側に家があったのならばそのさらに外側は都会と田舎の中間。

 都会のど真ん中にある傭兵ギルドを出発してから一時間半ほどでたどり着いた。


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