出発前
雄我たち三人が第三広場まで戻ってくる。
するとそこにいたのは一人。当然リプタス。そして二人が本を読んでいた時から変わらない。
「うーん。うーん」
「今戻りました」
「あ、うん。おかえり」
「三十分ほどですか。誰も来てないみたいですね」
雄我たち三人が食堂に来たのは十一時。特殊な事情が多い傭兵でも昼ご飯には少し早いぐらいだ。そして三人が食べている間にも食堂に来る人もいたがそれらは皆仕事終わりの雰囲気だった。
つまり四人目は見つかっていない。
「うーん。いやでも・・・あまり時間もないし」
そして少し経つと決心したようにうなづいた。
「・・・・・・うん、よし決めた」
「何をです?」
「この四人でいく」
「・・・え」
パンジーが驚きの声を漏らす。パンジーもいたずらに数を増やせばいいとは思っていないがそれでも経験のない高校生三人ではまずいと思っていた。いやカインはともかく雄我は怪しいがそれでも大金のかかった仕事、それなりに準備はするべきだとは思っていた。
だがことはそう単純ではない。
「・・・まあ、あまり長く待っていてもいいというわけでもない。そもそもこの運搬を知られないためには傭兵の数を少なくする。そして募集期間を短くする。これは基本」
「そういうこと。運搬の護衛となれば普通だけど。その内容がね。武器というカテゴリーの中では最も値段がはる。国とまではいかないまでも金持ち同士の見栄の張り合いならばかなりのものさ。それに国じゃないからこそ」
「どういうこと?」
「国ならば誰かがいる。それに王もそこまで自由ではないがただの金持ちならば頂点にすべてが集中する。野球が好きだから球団を持つ。フレンチが好きだから家にコックを呼ぶ。王がやれば税金の無駄遣い、だがただの金持ちならば何に使おうが自由。なにせそれは自分の金だ。最も下に行くはずの金を不当に吸い上げている可能性が高いがな」
「それでも・・・」
「ここから約七十キロ、移動手段。まあ車だろうがそれでも数時間はどうやってもかかる。ならば今から向かうのが一番いい。夜の闇に紛れるというのもあるが、そうなると数のある襲う側が有利。あるいは俺が景欄を持てるならそれもありだがな・・・まあ、カインが空を飛んで見渡すことを考えれば明るい方がいい」
「そういえば触れられないのかい。見たが限り剣士としてもかなりのものだ」
「おそらくは・・・」
雄我が立ち上がり景欄に近づく。そしてリプタスの横にあった木箱の蓋を開こうとするが
「・・・いっ」
バチリ
目に見えない何かが雄我に走り木箱から手を戻す。
はじかれてしまった。それはつまり手に取る資格がないこと。
雄我の剣士としての実力を刀剣清廉は認めていない。
「・・・そうか。十分にあると思うんだがけどね」
「構いませんよ。それでも超一流あるいはその上には届いていない。魔法剣士ですから。ただの剣士としても実力はそこまで高くは。それにこの刀と魔法剣も刀剣清廉に劣らない」
「それは確かに。見たことのない刀だった。一体それは・・・どこで」
「銘は何も。ただ幼少のころから握っていた最も信頼する武器。剣としてならともかくこの状態なら自分以外には誰も触れられない。そういうやつです」
ネックレスの状態から二振りの剣へと形を変える。
雄我の言った通り、リプタスが触れようとすると確かに触れることはできた。
だが
「・・・ぐ」
リプタスが音もなく二振りの剣にはじかれた。
「少しなら何とかなるが、それでも使うとなると・・・なるほど君にしかできないわけだ。しかし見たことのない。・・・気にはなるが今は置いておこう」
リプタスがパンジーの方を見る。
今からの出発に反対していたパンジーを
「まあ・・・任せます」
「カインもそれでいいな」
「ああ、俺も任せる」
こっちは何も考えていない。
「いくつか考えてはいたんだけどやっぱり移動手段はこれになった。雄我君の言った通り」
傭兵ギルドの裏側、駐車場でリプタスが案内したところには当然車があった。
見た目は普通のエーテル車。八人乗りの左ハンドル。
「運転は俺、助手席にこの刀を。三人には後ろに乗ってもらうことになる」
「迎撃や調査の方はどうしましょうか」
「・・・言いたくはないがその時次第だね。俺からいう時もあるし、怪しければ勝手に動いてくれても構わない。何もなくても声さえかけてくれれば。自動運転だと乗っ取られるかもしれないから基本的に運転に集中する。蛇腑なら運転しながらでもある程度なら何とかなるけど」
「・・・カイン。窓はどうだ」
「・・・・・・問題はない。通れる」
「ならいいか。ただ出発の前に一つ。リプタスさんの適正は何ですか」
「『魔眼千里眼・調』だよ。当然運転しながらじゃ使えない」
「『調』?」
「・・・千里眼は大きく分けて三つある。未来や過去を見る虚。現在を広く見る現。そして別角度から見る調。監視カメラに例えられる現と比較してレントゲンなんかに例えられる」