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黒白の魔法剣士  作者: 傘羅栄華
ソードブレイク編
95/114

食堂

「ハッグモグ。うめぇー。どれだけでも食える。最高。楽園はここにあったんだ。あ。すみません。これと同じの二つお願いします」

 料理屋で出てくる料理とは当然、目標としている客層によって変わる。

 例えるならば駅前なら酒を提供する店が並びその店にはタクシーを呼ぶサービスがある。高校の近くにあるのならば酒ではなくジュースが多く並ぶ。喫茶店のモーニングにはその名の通りパンと目玉焼きとベーコン。あるいは米とみそ汁が並ぶ。

 考えるまでもなく当たり前のことだ。それは経営戦略。それ以前に道理。

 つまりは基本的に肉体労働である傭兵ギルド、その隣でも道をはさんだ前でもない。

 同じ建物どころか運営そのものを傭兵ギルドが行っているこの料理屋では当然肉と酒、油と糖がこれでもかと使われている。

 そして周囲には下品ともとれる笑い声。真昼間だというのに酒のにおいが立ち込める。

「はぁ」

 パンジーが周囲に聞こえないようにため息を吐く。

 その手元には水。いつもなら本を開く。そして集中しているならば少しの音など耳に入らない。あるいは入っても脳まで届かない。だというのに今は溜息を吐くだけだ。

 何もブラックアイボリーやエスプレッソやカプチーノを期待したわけじゃない。だがここはそれ以下。そもそもコーヒーが置いていなかった。

 当然紅茶もない。ゆえに水を頼んだ。

 静かに啜る。ただの水道の水を。

「まあ仕方がない。ここはそういう店だ。疲れも痛みも飲んで食って騒いで忘れる。俺たちの方が異物。文句を言うのも筋違いだ。魚屋に野菜は売ってない。本屋の小説コーナーに少女漫画は置いてない」

「進歩がない」

 ばっさりと言い切った。

「そっちの方か。いや両方かな。まあ確かに」

 雄我も少し周囲を見渡してみる。丸い机の左側に座っている自分たちの三倍ほどの昼ご飯を美味しそうに食べているカイン。その左に呆れているパンジー。そして自分たちの机の他。すなわち外側には夜通しの仕事から帰ってきたのか酒を飲んでいる人々。そしてその酒も決して高級なものではない。壁に書かれてある品書きには一杯四ルーガ。当然質などいいはずもない安酒。そんなものに溺れる。

 休息でも反省でも勉学でもない。逃避

 ここを我慢して、さらに鍛錬を積めば、さらに高い酒が飲めるなど考えない。

 こんな生活長く続かない。いずれどうにかなると思っている。

 根拠などあるはずない。それでも自信はあふれている。

「まあそういうな。ここから未来の敬称持ちが生まれるかもしれない。こういう生活にあこがれる人だっているんだ。最も成功者は少ないがな。勉学科じゃ雇うことはあっても雇われることはないだろう」

「それでもここのメニュー偏りすぎじゃない・・・定食のメニュー、最低のカロリーが千三百はどう考えてもおかしい。学生食堂でももうちょっとまともでしょう」

「普通の人より体を動かすだろうからな。アスリート。さすがにそれはよく言いすぎだがおかしなことでもない」

「・・・それに脂っこくて調味料も多い。王族じゃあおいしいと感じられないんじゃ」

「あいにく俺も普通の王族じゃない。まあこういうのもこういうので好きだよ。やっぱり体に悪いものはうまい。それでもまさか炭酸とアルコールしかないとは思ってなかったけど」

「大戦か。それにしては客も若いような」

 傭兵ギルドは元々十一年前まで続いていた戦争で兵士として戦っていたが戦争が終わり仕事もない人のために作られた。

 ゆえに三十代か四十代が最も多い。だが周囲にはどう見ても三十手前もいる。

 酒と傷で分かりにくいがそれでもパンジーには人を見る目に自信がある。

「好景気でもリストラされる奴はいるさ。不景気となればなおのこと」

「それでもここの連中は」

「多いだろうな。通常の社会でのつまはじきもの。自分の実力をこの会社は認めてないと叫ぶ無能。実力主義のこの傭兵ギルドなら頂点に立てると息巻いて結局ここでも認められず社会が悪いと言い出す。まあ本当に会社が認めなかったこともある」

「そういう一部の成功者だけをメディアが映す」

「そういうことだ。最も王だって対策はしているさ」

「・・・聞いたことないわね。それはどんな?」

「会社というかある機構の中じゃどうしても派閥が起こる。それは黙っても仕事が割り振られる企業でもそうなんだ、客を取るあるいは講演会やメディアに出ることまである職種じゃあ特に大きい。だがここにはそれがない。戦闘力なんて数値化しようがないのに」

「そういえばそうね」

「上位層が基本的に指名手配犯なのがそれだ。さすがに世界的に犯罪者であると知られている奴と仲良くしたくはない。そしてその辺がクリーンな奴はそもそも名前を知られていない。雑誌もテレビもそういうのはとりあげないからな」

「なるほどね」

「それにここの従業員はすべてが親方が王。つまり公務員だ。必然的に傭兵としてランクを上げてなおかつ国に目を付けられないなんて不可能。濡れもせずに水に入れるはずもない」

「一応考えてはいるのね」

「ぷはー。食った食った」

「ようやく終わったか」

「ああ。満足したよ。昨日と今日の午前で消費した分は全部補充した。ただ動くのはちょっと待ってくれ」

「わかってる。後は三人募集が来ているかだな」

「そういえばどれぐらいになるのか」

「いつごろから募集を始めたのかわからないがそれでも一人くればいい方だろうな」

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