談義
「そういえばどんな本を読んでいるんだ」
「黙って寝てれば、私も雄我も本を読んでいるところを邪魔されたくない。魔法が飛ぶかもしれない」
「それはそう。人とかかわるのは読んだ後でいい。むしろそれがいらない本もある」
「『獄天』とかね」
「あー、わかる。あれはその人の解釈があるからそれ以外の人の意見を聞くと面白さが半分以下になる」
「えぇー」
カインには理解できない。この二人は何を言っているんだ。
「本好きの間じゃ常識だ。面白い。それ以外の感想を他の人から聞いちゃいけない」
「考察好きも自分の頭だけで終わらせてる。二次創作はアンチか原作未読かしかないと言われた傑作」
「そう。それよりパンジーはともかく雄我がそれほど本が好きだったとは意外だった。頭いいとは思っていたけどパンジーと本で語り合えるとは知らなかったぞ。オレ本の話ふられたことないんだけど」
「お前に言っても無駄だろ。見てる活字は漫画とスポーツ新聞だけの男に」
「失礼だな。ほかにも読んでる」
「ゲームの攻略本があったな」
「・・・」
図星を突かれる。こうなれば黙るしかない。
「教科書すら読んでないのに」
「・・・で、結局その本はどんな本なんだよ」
ある程度強引だが仕方がない。話題を変える。というより戻す。
「・・・これか。カインが分かるようにというと。そうだな・・・アニメ映画でいうと少年あるいは少女が路地裏か地下に入るとそこは不思議な異世界で、現地の人と交流していくうちにちょっと大きな事件に巻き込まれて終わったと思ったら自分の部屋のベッドの上で母親に起こされて目覚めようとすると自分が何かを握りしめていることに気付く。異世界に思いはせながらそしてこれからも頑張ろう。っていう話の小説版だ」
「・・・」
「まさかこの説明で理解できてないのか」
「いや、大丈夫。でもそれのどこがおもしろいんだ。思いっきり子供向けって感じだが」
「その話の面白さはその独自の世界観。スペースや行間一つに込められた意味。科学者と小説家の共同で生み出された設定にね」
「というと。やっぱりパンジーも知っていたか」
「本屋でね。この本とその本のどちらを買うかで迷っていたから」
「貸そうか・・・いやそれは違うか」
「ええ、自分の部屋の本棚に入らない本を読むのは主義に反する」
「となるとそれは『傀儡』か」
「ええ」
「買ったけどまだ読んでないんだよな」
「・・・どんな話なんだ」
本の深い話をされるとまた自分がハブられてしまう。それを避けるためにカインが先手を打つ。
なにせ寂しさがある。
「キャッチコピーは一流の喜劇」
「何じゃそりゃ」
「書いた人はさっき言った『獄天』と同じ人だ。この人はよく一つのコンセプトに沿って本を書いているんだ。この場合がそれ」
「いやそれが分からないんだ」
「はぁー」
雄我が聞こえるようにため息をつく。
「『一流の悲劇より三流の喜劇』という言葉を知っているかしら」
「さあ」
当然カインに聞いたことなるあるはずがない。
「悲劇と喜劇なら人は喜劇を求める。少なくとも売り上げではね。多少無理矢理やご都合主義があったとしても娯楽としては喜劇の方が客受けはいい」
「万人の言う面白さならば喜劇だ。だがこの言葉には裏がある。ある小説家の言葉だが『感動ならば一流の喜劇より三流の悲劇』」
「つまりは」
「ゲームでいうとストーリーが感動すると言われているロープレのほとんどが最後は主人公あるいはそれに近い人が犠牲になる。あるいは最後はなんやかんやで救われて終わるのがほとんどだ。つまり人の死あるいは記憶の喪失を絡めずに感動作品を作るのは至難の業ということ」
「つまりは」
ゲームという単語で理解できそうな気がしたが、それでも半分ぐらいしか理解できなかった。
「『喜劇でもって感動させる』それがこの本のコンセプト」
最後の一文はシンプルだったがそれでもカインは理解し切れていない。
雄我とパンジーもそのことを察していたが面倒なので無視することにした。
「お前にはこの二つは無理だ」
「うん。それだけはわかった」
「そろそろ昼飯にしてくれないか」
リプタスが話しかけてきた。
「・・・十一時十五分か今日中に運ぶとなるとそろそろ食べるべきですかね」
「俺は朝に今日一日分の料理を食べてきたけど、君たちはそうでもないだろう」
「それは無論。人が来ているわけでもないですし。今がそのときかな」
「誰かのこっていた方が」
「気にしなくていい」
「傭兵ギルドの三階が飯屋か。どんな料理なんだろうな」
「そりゃあ肉料理だろうな」
「え、」
「ここはかなり脂っこいからね。仕方ないけど」