雑談
「・・・」
雄我は目線を下におろしたまま動かない。真剣そのもの。
「・・・」
パンジーも雄我と同じように手元の本から動かない。
「・・・」
対して一人カインはきょろきょろと落ち着かないように周りを見渡した。
二人と同じように本を持ち歩いてはいない。普段ならMISIAで動画でも見るのだが今日初めてあったリプタスがいる。そして真面目な顔で文字中心の本を読んでいる二人の横にいるとどうしても見栄が邪魔をしてしまう。
馬鹿の自覚はある。勉学に対して不真面目なのもよく知っている。
高校生らしいナイーブさ。いやそれより先に空気を読んでいるというべきか。
本を読んでいる二人はカインを突き放す。言い方を変えれば空気を読んでいない。
時々自分を見てくるカインを無視することをめんどくさくなったのか雄我が口を開いた。
「なんだよ・・・」
「いやぁなに呼んでいるのかなって」
「そんなに暇なら寝てれば。お前ならいける。そして起こすのなら任せとけ。グッドナイト」
「そうね、私も視線を感じて集中に入るのに邪魔だから寝ていてくれない」
「二人とも辛辣過ぎない?」
時間は十一時前、太陽は頂点にまで届いていないがなおも輝いている。
高校生三人は体を休めている。体力そして魔力の回復のために。そして四人目の戦士を待っている。強力で勇敢そして誠実な傭兵を
「いいじゃねぇかよーちょっとおしゃべりしようぜ」
「ニュースでも見てれば。そろそろパンシラオンの大統領選が始まるだろ。ファーラー教を国教にするっていう次期大統領候補。あの人が大統領になったら、ますますルーグ議員が忙しくなる」
「別に変りはしないだろ。寮生活なんだし部屋に帰っても親はいないんだから」
「それだけではなくて・・・」
パンジーが口を挟もうとする。なにせカインは何も知らない。
「何かあるのか」
「その大統領候補とやらの三番目の娘がクルクスの二年三組なんだ」
「本気で。聞いたことないぞ」
「今まではあの勤勉で知られる政治家の息子が戦闘科そのうえ授業のほとんどを寝ているなんて信じられなかったから苗字が同じと言え接触はしてこなかったんだろ。アンドリューが何度か一年のフロアにいるところを目撃しているらしい」
「息子と娘の仲がいい。よくあることだ。どこかの国では首相は民間からとか言っておいてすべて一つの家系図で説明できるところだってあるんだ。大っぴらに政略結婚とまでは言わないまでもそれに近いのはある」
「いやでもノア殿下は自由に・・・」
「その辺は王子と姫で結構違う。王様の妻。つまり王妃は当然一人だがそれは外交やらなにやらの形式的なもの。愛人。さすがにそんな言い方はしないが第二夫人、第三夫人がいる王はざらにいる。女王の夫、すなわち王配も一人だがこれはそのままただ一人の配偶者。愛人は基本的にいない」
「なんで?」
「愛人の制度がある理由だ。なんであれ色に狂ったからではだめだ。建前として子供を残すためがある。その場合夫が何人いても生まれてくる子供は妻の数以上に増えない。双子三つ子を考慮しない場合はな。だが妻の場合は理論上妻の数だけ子供が生まれる」
「それでも男でも女でも王として活動するときには子供なんて産めないだろ」
「そもそもそれが問題だ。七十になれば定年。それはどんな産業でも変わらない。公務員であろうが銀行員であろうが総合商社であろうがな。それは何もそういう決まりだからじゃない。知力と運動神経そして活力なんかがもはやそれ以上に続かない。例外なんていくらでもあるがな。いや今はそんな話じゃない。その先輩の話だ」
「そうだ。それだ。どうすればいいんだ。オレこういうときの対応なんてわからねぇぞ」
「他国の王族に聞くのか。それも日本国という国は早くから宗教と政治を切り離したんだ。天音家がある限り政治家内で宗教派閥は起こらないと思え。父親は。あの人は表に出始めたのは二十歳のころからだがその前、十代の時点で政治家になると語っていたらしいから詳しいだろ。というか聞いてないのか」
そこまで言われてカインも思い出してみる。だが思い当たらない。
「・・・何も言われていない」
「・・・知らないわけじゃないだろう。予想できないはずもない。そして対策を取っていないはずもない。話を通しているのかな」
「それにしても息子に説明ぐらいしているものじゃないの」
パンジーの家は一般家庭。父も母も公立高校で教師をしていた。
だからこそ興味はあるが知識はない。
正確には知識はあるが知恵ではない。本物を見たことがない。触れたことどころか近づいたことさえない。
「そのはずだ。心配しなくていい。まあそんなことはあり得ないがそれぐらいは言うはず」
「なんで?」
カインが不思議がる。
別に親の愛を疑っているわけではないがそれでも不思議なものは不思議だ。
「それほどまでに子供を政治にかかわらせたくない。あるいはまだどうすべきか本人の中で決まっていない・・・過去に失敗でもしたかのように」