腹の中
「そちらは刀でこちらは刀と剣ですが。まあ剣士であることに否定はしません。とはいっても魔法剣士ですがね。黒閃相」
雄我の左手に握られた魔法剣から黒い魔力が放出される。
策も何もない。いうならば挨拶。それを
「・・・」
リプタスもまた一言も発しない。ただ己が刀を信じるのみ。形を保った魔力ならば切れる。
蛇腑によって黒は薙ぎ払われる。
刀も含めて近接武器とは投げる以外の遠距離攻撃はできない。ゆえにその長さが重視され少し長さが変われば実力が数段上でなければ得物が長い方が勝つ。
ゆえに剣は槍に弱い。それが自明の理。そしてそんな刀の欠点に刀鍛冶たちはとっくの昔から気付いていた。そしてその対策をしてきた。
刀鍛冶たちの中でも頂点の評価を受ける刀剣清廉には遠距離攻撃は様々ある。斬撃を飛ばす。刀が分かれる。それでもそれらは邪道にすぎない。
なにせ早々にどんな槍よりも長い刀を生み出してしまったのだから。
問。刀と弓なら盾を持たない限り刀は不利。ならば刀はどうすれば槍や弓にあるいはこれから生まれるであろう兵器達に勝てるのか。
結果は
使い手の意志によって自由に伸びる。それが鬼才たちが生み出した第一の答え。
「次はこっちだ。ふんっ」
リプタスが刀を振るう。その力があるいはただの意志か。
刃が伸びた。
「な、」
「え」
後ろで見ている二人には予想すらしていない。
だが一人違う。雄我は知っている。
刀身がまだまだ伸びる。そしてその先は当然雄我のもとへと。
(意志によって曲がる。ただそこまで自由自在ではないはず)
攻撃を右に躱し突撃する。どこまで伸びるのか、どこの文献にも載っていなかったが少なくともこの広場内は自由だろう。
ならば場所が狭くなる前に攻める。
「はぁっ」
雄我がさらに距離を詰める。とはいえ相手も黙ってみているわけではない。
「甘い。はぁーーーー」
蛇腑の先がギルドに着く直前で急カーブして後ろから雄我を再度襲う。
「危ない」
カインがセリフを言い終える間にすでに剣先は止まっていた。
「え」
リプタスも何が起こったのか理解できない。ただわかるのはこのままでは斬られるということだけだ。
「・・・チィ、仕方ない」
幸い。少し押しても動かなかった刃だったが戻すと手元へ戻ってきた。とはいって先ほど描いた道をそのまま戻ってくる。
間に合わない。カインがそう思った時だった。
ガギン。
奇跡と元の長さに戻っていた蛇腑が激突した。
「ぐぐぐぐぐ」
「はぁーーーー」
鍔迫り合い。ドラマではよく見る展開だが実戦となるとそうではない。いかに奇跡にせよ蛇腑にせよ刀として頑丈さはかなり高いがそれでも力で押す武器ではない。
叩ききるのではなく切り裂く。それが日本刀。
美しき武器。
二秒もなく。鍔迫り合いは終わった。そもそも雄我には魔法がある。リプタスの刃は伸びる。ならば次は
背中。
蛇腑が伸びるその先は当然無防備な雄我の背中へと
だがその時リプタスにも違和感。そもそもなぜ先ほど刃は動かなかったのか。
両目がうずく。だがまだ。
音もなく魔法剣がリプタスの背中をむかい飛んでくる。
「ぐ」
認識した。ならば意識はそちらへ向かう。
直前まで雄我の背中を向かっていた蛇腑の先は飛んできた魔法剣へと。
ガチン。さきほどの軌跡と蛇腑とは違うがそれでもこちらからも音がする。当たってはただでは済まない。
いやこれは試験。直接さすつもりはない。だが未知の剣士とのもっと戦いたいと思っているのは本物。
二人ともその意志は非常に高い。片や本でした見たことのないがそれでも実際に見てみたい戦いたい蛇腑、片や今まで見たことも聞いたこともない正体不明、製作者不明の刀奇跡と魔法剣不可能。
その能力の端から端まで見てみたい。
二人が距離を取る。今ので蛇腑が元に戻る速さを見た。あれほどの速さなら遠距離でも近距離でも変わらない。
「まだまだ終わらないよ。蛇腹剣の本気。もう少し見たいだろう」
「それはもちろん」
「言うね。人のこと言えないけどキミも結構戦闘狂。上等だ。はぁーーーー」
蛇腑がさらに伸びる。正確にはさらにさらに大きく伸びる。
「うおっ」
本気。ゆえにカインのところまで。いやもはや節操すらないように思える。
「くっ」
雄我の視界の三割が刀身で埋まる。だというのに笑っていた。心の底から。
「これが本気。いやもっと上がある。それを引き出すためにも」
雄我が話す間にも刀身はさらに伸びる。だというのに持ち手には変化がない。
「さすが刀剣清廉。そしてその使い手」
「どうも。それじゃあ君はどうするかな?」
リプタスが挑発的に笑う。
雄我もまた笑っている。
「ぇ」
カインやパンジーがたっている場所からは詳しくは見えない。二人とも千里眼は持っていないうえに視界の七割は刀身で埋め尽くされている。
だがそれでもその隙間からその光景は見えた。
というより。予想はしていた。この状況ならそれしかない。
刀身の上に雄我が乗った。
そしてその上を飛び乗る。当然刀身は今なお伸び続けている。だがそれでも流れに巻き込まれる前に前へと進む。
そしてついに
「届いた・・・」
だが、
「残念だが」
「な、」
雄我は刀身に乗り移ることに意識を向けていた。いやそうでなければ渡れなかった。だからこそそこが狙いだった。
リプタスが雄我から奇跡を取り上げるチャンスとなった。
蛇腑が奇跡を巻き込みはるか後方へと消えていった。
「これで」
「俺の勝ちです」
刀がだめならば剣がある。正確に言えば刀を囮とし魔法剣にためておく。
逃げ場のない世界で。
「黒き世界の始まり(ブラックエンド)」
一つの戦いが終わった。
合格