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黒白の魔法剣士  作者: 傘羅栄華
ソードブレイク編
83/114

ギルド

 右、左、前、後ろ。

 どこを向いても人であふれている。先ほどまでいた学校の食堂塔とは真逆だ。

 それは当然。食堂塔はそもそもあの学校の生徒か教師か従業員しか入れない。それも休日と祝日は従業員はいないうえに、そもそも一年生しか二階にはいない。

 それにインドア派にせよアウトドア派にせよそもそも食堂にはいない。カインですら連絡しても出なかった雄我を探して、部屋、グラウンド、裏庭と一通り探した後、ダメもとで食堂塔に入って見つけたぐらいだ。実際に数人しか人がいなかった。

 対してここは祝日であるがゆえに栄えている。

傭兵ギルド。一階。

その中の最も長い列に三人が並ぶ。

「・・・やっぱりここは人が多いねぇ」

 老若男女問わずというわけではないが、それでも多種多様な人がいる。

「問題はここが栄えているがいいことかどうか」

 雄我の一歩後ろを歩いていたカインのさらに一歩後ろを歩いていた少女が声をかける。一人で入ったことはなく、それもこれからもないと思っていた。だからこそというべきか少し腰が引けている。

「どういうことだ」

 少女、パンジーのつぶやきにカインが反応する。

「一般的に不景気になるとリストラもなく収入の安定している公務員の募集が増えるもの。ただ冒険者はさすがに水ものってわけじゃないけど安定はしない」

「・・・それも含めて難しい場所なんだ。芸能界と違って実力がある奴はよっぽど運が悪くない限り成功できる。就職できずに仕方なくって人もいるが、夢を抱いてって人もいる。実際にクルクスの卒業生で就職じゃなくこっちを選んだ奴もいるみたいだからな。ただまあこの施設がイルミナルの失業率の不透明性に影響しているのはあるんだがだからと言ってここを潰すわけにもいかない」

 かつて様々なポピュリズムたちが壊そうとしても壊せなかった非正規雇用。それが今、目の前にある。

「ままならないものね。戦争の業と言えばそれまでだけど」

 雄我とパンジーが難しい話をし始めたのを見てカインが止める。そして先ほど話していた雄我ではなくもう一人の生徒に向けて意気込みを聞いた。

「それよりパンジーは良かったのか。結構本気の依頼をするつもりだけど・・・」

「・・・これでもそれなりに荒事の経験はあるから大丈夫。もとからここには興味があったけどさすがに女学生一人が飛び込むのは憚られただけ」

 従業員のいないその店にも客は数人いた。

 その中の一人が雄我と同じく本を読んでいたパンジー。傭兵ギルドの単語に反応して雄我とカインについてきた。

「ただの日雇い労働ならほかにもあるからな。ここにあるのは戦闘を前提としている」

「パンジーはどうしてここに?」

 疑問に思っていたことをぶつけてみた。回答はとても簡単なものだった。

「金。少し必要になって」

「ふーん」

 そんなことを言っていると三人の番になった。

「どういった御用でしょうか」

 受付嬢が笑顔で問いかける。カインとパンジーの目線が雄我に向かう。そもそも経験がない。

「ここにいる三人で。できれば今日中にすべてが終わる仕事。できれば高い戦闘力が求められる仕事がいいんですが・・・」

「かしこまりました。少々お待ちください」

 受付嬢が手元のパソコンを操作する。とはいっても先ほどの雄我の口頭である程度は打ち込まれているため、そこからの調整がメインとなる。

 当然ながら報酬の何パーセントかは受付のもとに入る。そしてもし任務に不適切な人がよこされた場合それは失態となる。だからこそ慎重にかつ迅速に精査している。

 十秒もしないうちにいくつかの案件がコピーされた。

「こちらになります」

「はーい」

 雄我が受け取り、カインとパンジーが横から覗き見る。後ろからの圧が激しい。

 サーナの森での採集、怪物ラットビットの退治、トラップの確認。

「ふーむ」

「・・・」

 依頼書にはそこまで詳しいことは書かれていない。だが少なくともカインの目には簡単そうに見えた。そしてそれを証明するかのように報酬の欄には少額の数値が書かれてある。

 この国で暮らしてきたからこそカインにはその値段がわかる。中学生の一月のお小遣いの三分の一ほど。大人でいえば何とか今日一日の飯代ほどだった。

「申し訳ありませんがもっと戦闘によっても大丈夫ですよ」

 受付嬢が怪訝な顔をする。どう見ても三人は高校生だ。あまり信用はできない。

 そのことは雄我も分かっている。ここに所属しているわけでもない素人が受けられる任務など簡単すぎるか危険すぎるかのどちらかだ。

 三人の高校生の後ろにはまだまだ人が並んでいる。

「戦闘に自信が?」

「ええ、それもすごく」

「ならばこれなんてどうでしょうか」

 半ばあきらめたように机の引き出しの中から依頼書を取り出した。

 人生で数回しかここに来たことのないカインやパンジーにもわかる。普通ではないと

「どれどれ・・・」

 雄我が手渡された手書きで書かれていた依頼書を見る。そこには

『依頼内容 物品の運搬の護衛    条件 高い戦闘力。戦闘力を見るために一度戦う   報酬 前金で一万ルーガ 成功報酬で二万ルーガ     その他詳しいことと試験は第三広場まで』

「これでお願いします」

「ではあちらの扉の奥が第三広場となっております」

「どうも。それでは」

 雄我が歩きだしたのにつられてカインとパンジーも歩く。

 雄我が読むのが速すぎてカインにはロクに読めなかった。ただ見えたのは二つの数字。一万ルーガと二万ルーガ。どちらもまず高校生が手にできる金額ではない。

 扉を開き、第三広場へと続く通路を歩く、ここにはすでに人はいない。

「よく読めなかったんだけどなんて書いてあったたんだ。一万とか二万とか書かれてあったのは報酬か。だとしたら」

「護衛任務だとさ。前金で一万、成功報酬で二万。ただ受けるためには戦闘力を示さなければならない。最低でも一回の戦闘する。それもただならうってつけだろう。パンジーもあれだけあれば問題はないよな」

「ええ」

「大丈夫なのかその任務」

「さあな」

「さあって」

 そこにはすでに男がいた。


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