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黒白の魔法剣士  作者: 傘羅栄華
ソードブレイク編
82/114

実戦

「・・・なんだ」

 声の主はよくわかっている。だからこそ雄我は本のあとがきのページから顔を動かさない。

 名前を呼んだ少年は普段は雑な対応をすれば突っ込んでくるが今日ばかりは違った。

「それが聞いてくれよ、大変なんだよ」

 声色を聞く限りでは慌てているように聞こえる。そしてこの手の予想で天音雄我は大きく外したことはない。

 昔から

 そして雄我は少し考える。カインがここまで慌てているわけを。

 思い当る。考慮はしていたがおそらくないと思っていた不運を。

「まさか問題に答えられなくて落とされたのか。日頃の行いだな。言っておくとこの学校は進学校特有の進学校だからこそ留年者を出さない方針じゃないから、容赦ないぞ。それじゃあな後輩。来年こそは勉学頑張れよ。大丈夫時間はある。同級生ともお前の社交性なら年が一つぐらい違ってもやっていけるさ。ああでも留年者は留年者だけでクラスを作られるんだったかな。一年生から陰で笑われる生活か。想像したくもないな。人間の闇とやらか」

「ちげぇよ」

「いつも食堂の端っこで一言も話さず早食いしている連中がいるだろう。あれが留年者だ。かわいそうに。怠けにして愚かなものの末路。一人だけ堂々としている生徒。あの人は確か理由があって留年したらしい。まあそこはアンドリューの領域だな。学校としても傷をなめさせあうだけにしたくはないだろうからな・・・」

「だから違うって。即時に答えられなかったけどそれでも合格と言われたよ」

「じゃあ何なんだよ。わざわざ俺を探しに来たということは勉強を教えてくれじゃないのか」

 不思議ではあるが顔に出るほどでもない。

 雄我は知っている。先週の土曜日は早くから出ていったが日曜日は八時の段階ではまだ寝ていたことを。

 なにせ夢見睡の適正だから。

「それがあの森でのことなんだが」

 そもそもそれがあったか。と雄我は思う。

 それもそうだ。なぜならそこは嘆きの森。

「嘆きの森のことか。そこであったことなら明後日の昼にアンドリューとどこからか聞きつけたセシルも交えて話すんだろ。ここで俺が聞くのは違う」

 昨日の放課後に約束していた。

 まさかそれすら忘れているわけではないのだろう。

「・・・そうなんだがそうじゃないんだ」

 歯切れが悪い。

普段から頭の中でまとめて話すことを苦手としているカインだが今日は少し違う。それにいくら感情豊かなカインと言えどここまで騒いでいるのは珍しい。

 そこで興味を持ったのか雄我はようやく本から顔を上げた。

「で、なんだ」

「それなんだが詳しくは言えない」

「・・・は?」

「言いたいんだよ。信頼してないわけじゃないんだよ。でもちょっと・・・」

「・・・口止め・・・か」

「そう」

 嘆きの森。それは王族である雄我でさえ入ったことのない人類未踏の地。歴史的に見ても十分な研究がされているとはいいがたい。

 逸話でいえばそれは当然多い。人類の生まれた地。真の王族の住居。神話の写し絵。世界最大の怪物の巣。歴代王の墓所にして金の保管庫。政治犯の流刑地。絶滅危惧種たちのよりどころ。楽園。

 そしてこの地球に三つしかないと言われているフロンティア

 陰謀論や荒唐無稽としか言いようのないこじつけや地理学、歴史学の本物の研究者に至るまで語られるその秘所。

 この森。正確には山であるが。この調査をだれが王に進言してもはねられる。噂でいえば王の不支持率の一パーセントはこの山を秘匿し続けるからともいわれている。そしてそれを言われても頑なに誰も入れさせない。

 それほどまでにここは厳重。

 カインとサイラスが入れたのは奇跡と呼べる。

 正直なことを言えば何が出てもおかしな場所ではない。

 怪物や動物はいるとしてさらには神座、妖精、冥嶽に天使。そして恐竜。誰も知らないその場所に。手つかずの風景が底にある。

 興味はある。

 画家なら思わず描きたくなる。詩人なら口から言葉がついて出る。

 そこはそういう場所だ。だが雄我から見たカインとははたして

「神か天使かそれともイエティかプテラノドンあたり」

 適当に名前を出してみる。普段のカインなら表情あるいは身振り手振りでどのあたりかはわかる。少なくとも雄我には。

「いやぁ・・・それが」

 だがそのどれにもカインは等しく反応が薄い。

 ならば何か

 もはや残っているのは絶世の美女かあるいは

「そのどれでもない。怪物」

「・・・怪物ぐらい珍しくもない・・・いやそういう」

 可能性はあった。昨日の時点で。

「わかってくれたか」

「なるほどそれはまた運命的な。神王に動物王そして怪物最強か。血かな」

「口止めされている」

「なるほどそれは明後日も誰にも言うな。それはそのダムスって人からも言われているんだろ」

「そうなんだ。だからこれは直接見た六人と学校長。それと研究会でも上の人しか知らない」

「それでどうしたんだ。」

「戦ってみてオレわかったんだよ」

 そこから先の言葉を雄我はわかっている。

「・・・無理だ。俺とお前の頭の中に同じ怪物が浮かんでいるのならば言っておく。人類がどれほど鍛えてもどうにかなるものではない。この学校の戦闘科の卒業生。そいつらを一万人集めても届かない。そういう相手だ。天才程度ではだめだ。生誕から成長に至るまで奇跡でなければならない。高校一年生が勝てる相手じゃない。今の七色英雄が全員集まっても勝てないだろうさ」

「それでもだ。傷一つ付けられなかった。強くなりたい。そのための方法を」

「強く・・・強くか。それはまた漠然とした。戦闘科は一般生徒より戦闘の授業は多いだろう。それにおそらくその七色英雄に匹敵するっていうその先生でもどうにもならなかったんだろ。ならちょっと鍛えてどうにかなるものでもない。神につばを吐く。それは努力では無理だ」

「それでもだ。授業じゃない本物の実践ってやつを知りたいんだよ」

「・・・命の危機があってもか」

「ああ」

 迷いもせずに断言した。

 正直なところ、ここで一瞬でも迷えば放っておくつもりだった。

 所詮高校一年生。この学校の生徒だとしても肉体も魔力量も成長し切っていない。まだ何か適性が眠っているかもしれない。己の戦闘スタイルの確立すらできているとはいいがたい。

 だがそれでも。

 雄我は自分の中にルールを架した。カインが迷えば教えないと。ならば迷わなかったカインには教える。そういうルールを。

 自分が決めたルールだけは破れない。

 天音雄我のプライドがそれを許さない。

 ここでようやく持っていた本を閉じる。

 それを合図と取ったのかカインの表情にシリアスが増していく。

「実践。実践か。一つ方法がある」

「それは・・・」

「傭兵ギルドだ」

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