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黒白の魔法剣士  作者: 傘羅栄華
ソードブレイク編
81/114

報告。その神

 神話最高の鍛冶神は己のすべてを誰かに教えることはしなかった。

 それは罪か、贖罪か。あるいはそれ以下、

 不安だったのか










 男にはたまには一人でいたい時もある。

 それがたとえ十五歳の少年であろうとも。

 土曜日の朝。

 この世の時間が止まってしまう。あるいはこの世界からすべての動物が消えてしまったのではないかと思うこともある。つまりは一人でいることにつかれ、誰かの姿を見に来た、だがそれでも誰にも話しかけられたくはなかった。

 その少年はそんな心境ではないが、それでもここに来た。

 食堂塔。その二階。

 休日の食堂には当然ながらほとんど人がいない。それは当然調理してくれる人が誰もいないからだ。

 食材を温めるレンジはある。捻ると水が出る蛇口はある。ボタンを押すと火が出る焜炉はある。水を温められるポットはある。そして自販機もある。

 ただそれだけだ。包丁などはすべて鍵がかかった棚の中だ。そもそも自分たちの部屋に簡易的ながらキッチンはあるのだ。

 そして一年生しかいない二階となれば当然人はいない。まだ眠っている人もいるぐらいだ。

 少年、雄我の傍らには紅茶を入れたカップ。

 そこから湯気がしないことがその少年の集中具合が見て取れた。

 本を読んでいる。それも彼の中では三本の指に入るほど読書家として信頼している本屋の店主のおすすめとあって朝日が昇るより前に読み込んでいる。

 自室で三時間。その後、喉が渇き紅茶を沸かしわざわざ食堂塔まできてさらに二時間。

 一周目、そして二周目が終わった時だった。

 少年の名前が呼ばれた。





ガチャリと大きな音がする。その音の大きさは防犯や防音のために特殊な加工に加えて、物理的な頑丈さのためにドアの幅を厚くしたからだけではないだろう。

オーラあるいはプレッシャーあるいは人の作り出した何かがその部屋の気圧を下げている。

それも物理ではなく精神的な話だ。ゆえに人ではどうにもならない。

男は知っている。時間ではどうにもならなかった。空間でもどうにもならないのだろう。

 仕方のなかったことだ。誰かが悪いわけでもない。ただ運が悪かった。そして幸運だった。それは大の大人であってしても。

 だが遅れたのは事実だ。

「申し訳ありません、遅れてしまった」

 ダムスが頭を下げる。相手はこの学校のトップ学校長。そして十年以上前この学校の長の座をかけて争った相手でもある。

 頭を下げるときにダムスの頭にはその時の景色を思い出した。

 前提は良かったはずだ。

 やる気。単純に金、あるいは人脈づくり。皆が様々な目的がある中、ダムスの目的は特別高尚なものではない。貴族の家庭教師に少し飽きが来た頃、王侯貴族が納得できる家庭教師を辞める理由があったから。

 タイミング。それもよかった。五年に一度試験がある。たまたま見ていたネット上の新聞に学校長選のことが書かれてあった。それも締切日はその日の零時。

 試験内容もよかった。

 人気。それは単純にダムスが上だった。応募してきた人の中でも一番上ではなかったが、『英勇者』という二つ名をもらうぐらいには世界と人々を救ってきた。現に投票では現学校長が一番下であった。当然だ。だれも見たこともない。名前すら知らない。そんな人に誰に投票しない。

 問題解決力。それは知識、運動神経、ひらめきや機転。己の内にある様々な能力を総動員し未解決事件に挑んだ。だがここからだった。少なくともダムスが真相にたどり着いたときすでに学校長は裏付けまで取っていた。

 そして戦闘力。問題解決力以上に開きがあった。相手は魔法を使ってこなかった。ダムスの魔法も決して強力な方ではなかったが、素手に負けたことはさすがになかった。それでも完膚なきまでに敗北した。拳と足で負け、魔法で負け、魔法銃を使っても、当たりすらしなかった。

 学校長を苦手としている教師と生徒がほとんどだったがその中でも直接決勝で戦ったダムスと親を呼ばれたノアはこの学校長が苦手だった。

 すなわち生徒会長と生徒会の担当が苦手としている。

 それはまずいとほかの教師からも言われるがそれでどうにかなるのならば誰も苦労はしない。

 ダムスが頭を上げたとき学校長は笑っていた。

 それも邪悪な笑みではなく人を安心されるための笑い。

「別に構いませんよ。あの山では通信機器も使えませんから、わかっていたことです。それよりドラゴンですか。私の方こそ調査不足でした。生きて帰ってきただけでも」

「それこそ、どうしようもありませんよ。ドラゴンと言えば神も同じ。ただの英雄程度が触れていいものではなかった」

「五人。いや六人でしたか。検査の方は」

「今日の朝、病院で。異常は誰にも見られませんでした。魔力と体力は皆切れましたが相手からの攻撃はくらっていないので大きな怪我もなく。今にして思えば最初から戦うというより遊ばれていましたね・・・さすがに山の中だけあって擦り傷程度は無数でしたが白魔法でどうにかなる範囲。その病院でハロルド氏、ハリルド氏、モーリス氏とは別れました。あちらはあちらで報告することがあるみたいで」

「生徒二人は何処へ」

「寮までは一緒にそこからは別れましたが」

「成績の方は」

「二人ともドラゴン相手にしっかり戦っていました。一学期の中間は合格で」

「ドラゴンと会ったことに関しては」

「口止めしておきました。どこかに飛び立ったとはいえあの山にドラゴンがいるのは事実ですから」

「ではそのように。ダムスさんも休んでいた方が・・・」

「気遣いはありがたいですが実はそうもいかない以上がありまして」

「と言いますと」


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