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黒白の魔法剣士  作者: 傘羅栄華
聖都脱獄事件編
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避難指示

街中の人という人が移動する。皆避難指示を聞き逃げていた人たちだ。

三十分ほどで騒ぎが収まり、カインが雄我に聞いた。

「なんで今になって避難指示が?」

「バーナードが出してないのを学校側が確信して出したんだろう。そして今出したのは学校側に集まっている情報で犯人があと一人であることを確信したからだろう」

「一人っていうとロベリアか」

「ああおそらく、脱獄犯と違って顔や本名が分かってないからな。市民にとって警戒しようがない。第一、今この街にいるかもわからないし。それに理由はもう一つ」

「何だよ」

「たいていの人は今ので避難したはずだ。つまり街に残っている人は、学生か筋金入りの能天気(馬鹿)かロベリア本人っていう判断だろう。ここにいる人を全員逮捕、あるいは監視すればわかる。それに奴の得意魔法は人形制動だとみんな知っている。相手がどれほどの悪党だとしてもこの情報アドは大きい」

「つまり俺たちは街中の人の気配をたどっていけば」

「この事件は解決だ」



クルクス高校会議室

集められたのは世界中から集められた選りすぐりの教師たち。皆の視線の前で学校長が問題を提起した。

議論の内容は、ロベリアの殺害許可。

一人の生きる権利について。

現在学校側で確定している罪は人の殺害。

問題は殺した数。

市民が三十二人、看守が七人、彼の仲間が四人。合計で四十八。それが生徒全員で見つけた被害。

どんな司法でもまず死刑あるいは寿命の何倍も長い刑期が言い渡される。

「しかし学生に人を殺させるのは・・・」

教員の一人が懸念するのはたとえ法で裁かれないとしても、たとえそれ必要なことでも、人を殺すことそのものが若人の人格に与える影響。

「ええ。それは最も。」

少々大げさな手ぶりをして学校長は言った。

「あくまで生徒が自己防衛の末に人を殺めたとしても過剰防衛と言われないための措置です。無論できるのならば報告のみ。もちろん私も出ます」

「そういうことなら」

学校長の提案に教師のほとんどがうなずく。皆十一年前から君臨しているこの男が苦手だった。



人の気配とは何か

あるいは直観、あるいは感覚。多くの戦士が認識していながら誰も答えを出していないもの。

無意識下での布ずれや呼吸の音という人もいれば、その場所に人がいるがゆえに起こる風の流れの変化という人がいる。

少年二人は導き出した。罪人の気配を。


「ようやくお前にたどり着いた。」

少年二人は今回の事件の黒幕ロベリアと対峙していた。この二人がたどり着けた理由。それは運命と呼ぶにふさわしかった。ただ人の気配をたどれば一人目がただならぬオーラを放っていた。当然二人の頭には警備に報告など頭から消えていた。

「絶対に許さない」

「おまえを倒す前に聞いておこう。何がしたいんだ。」

「野暮な質問だね。だがここまでたどり着いたキミたちへの報酬だ。こどくって知ってるかい?」

目の前の男は驚くほど冷静に答えた。

「孤独・・なんだ、お前友達がいないからこんな事件起こしたっていうのか」

「いや、カイン違う。奴が言っているのはおそらく蠱毒」

「何だよ、それ」

「簡単に言うと多数の蠍や蝮なんかをひとつの壺に閉じ込め殺し合いをさせる。その中で残った最後にして最強の一匹で毒を作る。呪いの一種だ」

「よく知っている」

「だから脱獄者と手引きした側で殺し合いをさせ立っているのか?結局何のために」

「命の価値だよ」

微笑みながら続ける。

「人は生まれ死ぬ。つまり人は生と死を抱き向き合うことで完成する。しかし死んだ人間はその先には進めない。つまり人類という種族が生きたまま完成するためには人を殺しそのことを心の奥底に刻み付けなければならない。その集団から一人抜き出てきたものを人は見出だすべきだよ、世間には公表されてないのがほとんどだけど、今回事件の関係者は皆人殺しの経験者だよ。脱獄者も僕の仲間もね、何人かはレギュレーション違反してたけど。本来は健全なんだ」

「何が健全だ!結局はただの殺し合いだろ。命に勝るものなんでこの世にはない。実際にお前らが殺し合いをしていた中には罪を償ってまともに生きようとしていたやつだっていただろ」

「ただの?」

心底理解できないとでもいうようにロベリアは首をかしげた。

「君こそ理解していない。命とは誰しもが持ち得る最高の宝石なんだ。磨き上げること。こそが人の生きる意味。ただ生きるだけなんて知性を持った生物としては最大の業。僕にはそれは我慢がならない」

「くるっている・・・」

「やめとけカイン、変態には何を言っても無駄だ。どのみちこのままお前を引き渡す気はない。黙って出頭するわけないだろうし。お前の言う命の価値っていうのに付き合ってやるよ」

「やる気か?」

「いやなら逃げてろ」

「冗談だろ。こんなやつ死んでも野放しにできるか」

雄我は刀と剣をカインとロベリアはこぶしを握る。

「零と無限の先に英雄は我を貫く。青色薔薇系統一。さあ戦いだ」

「オレの魂が叫ぶ。お前を許しはしない」



三人が対峙する。残り魔力が少ない雄我、元から遠距離魔法が得意でないカイン。まだ切り札を出したくないロベリア。三者三様の狙いが交差する。

(拳か、今まで奴の仲間も脱獄犯も銃を使ってきたが、奴はほかの連中とは違って魔法を使える。だがその魔法は・・・)

(拳か、ああいうタイプのシリアルキラーは殺した感触とか言って、自分の肉体を武器に選ぶ傾向にあるが、こいつもそれか・・・)

「君たちからは来ないのか・・・ならこちらから」

ロベリアの背後から巨大ロボットが現れた。

「何だ?」

「人形制動か・・・これほどとはね」

「さあ行け、ワンダー。二人を贄としよう」

鉄がこすれる音をさせながら狭い室内を動き回る巨大ロボット。男の子のロマンを詰め込んだその赤いボディから拳を繰り出す。

「危ねぇ!」

「くっ」

ロボットはロベリアの魔法によって動いている。ならば

「白き世界」

周囲が光に包まれる。

「いまだ!カイン、相手は巨体。適当に打っても当たる」

「そうか・・・超熱血ボンバーーー」

倉庫で見せた時より二回りほど大きい炎がカインの右腕を包む。

自分の後ろで発動した雄我には当たらないと確信した動き。

そしてその狙いは当たった。

熱源センサー、気配感知。ロボットアニメならばありそうなものはこのロボットに存在しない。操作者は外にいる。肉眼ゆえに見えるものがある。つまり肉眼ゆえに見えぬものがある。

考えは良かった。コンビネーションも当たった場所も。それでも

「何っ!聞いてない・・・」

「甘いっ!」

カインの体を左手でつかみ投げ飛ばす。

「光陰線」

光が矢となりロベリアを狙う。

「ふんっ」

ロベリアが後ろに下がり、ロボットは前に出てその体で受け止める。

鉄に直撃した白はそのまま霧散する。

「効いてない」

「ふっふっふっ。これは魔法にはない機械のメリット。体から出れば急速に弱体化する魔法とは違い機械は前々から準備ができる」

「どういうことだ」

カインの疑問に答えたのは雄我だった。

「ずいぶん金をかけたな」

「僕としては、答えにたどり着くための行動なんだけどね、どうにも非合法なことのほうが稼げるんだよね。この世界の闇だよ」

「くそっ。どうするんだよ雄我。このままじゃ」



「カイン」

「何だ」

「察してくれ」

「え」

「はぁ」

雄我がロボットいやロベリアとの距離を詰める。

「正面から?狙いはわからないが近づけさせない・・・ライトファイヤー」

ロボットの右手の指先が外れ、そこから火が出る。

ロベリアの魔法の色が赤なのか、それとも火炎放射器でも備えているのか

どちらにせよ足の動きのみで射程外、すなわち後ろに下がる。しかし火が切れたころにはまた前に出る。

「何が狙いだ・・・ダブルファイヤー」

両方の手指から炎が出る。片方でも後ろに下がった。しかし今度は

「重力制御」

雄我の体が空中に浮く。

「ホワイトブラスト」

天井から放たれた光がロボットを攻撃する。

「黒と白?どうなって・・・だが」

効いてはいない。一点に集中させてダメージがなかったのだから拡散させたところで意義は薄い。

しかし

「眼が・・・これが狙いか・・・・」

白が部屋を包む。

「目くらまし。だがそれがなんだっていうんだ」

「違うな」

声は後ろからした。

「なにっ」

「二翼一対」

翼を話したカインがロボットの後ろから回る。元から制御が聞かないカインにとって目が見えないかはあまり問題ではない。初めに決めた軌道をぶれながら近づく。

「熱血ボンバー」

「ファイヤーバリア」

炎が盾となりロベリアの前方を守る。赤と赤がぶつかる。どちらも無色を使用しながらの赤の魔法使用。条件はほぼ同じ。力量もほぼ同じ。ならば結果は重力が乗ったカインが有利。そしてロベリアはもう一人の少年のことが頭にあった。

その予感は的中した。

ワンダーはロベリアが子供のころからのロマンを詰め込んだ二足歩行の兵器

そんなロボットが支えなしで立てるはずもなかった。

「えっ」

巨大な鉄の塊が術者の真上に落ちる。

「くそっ」

ロボットが横にぶれ落下地点であった場所からロベリアが出てくる。

「なんで?」

ぎりぎりロボットの影からは脱出できたが地面にめり込んだカインが聞く。

「おそらく自分の体がつぶされる直前ギリギリ人形制動が間に合ったんだろう。ただもとには戻せずどうにか横に動かした」

「正解だ」

「しぶとい」

「お互い様だろう。しかし切り札を使わなければならなくなった」

「まだなんかあるのか」

「カイン後ろだ」

「後ろ?」

カインが振り返るとそこにあったのは上方向に空いた複数の段ボール。

「まさか・・・」

「察しの通りだよ。いでよ人々の(ワールドエンド)

所狭しと並べられた八個の段ボールから顔の気持ち悪い人形がわんさか出てくる。そのうえそれぞれが炎を纏う。

「まだそんな魔力を・・・」

「だがこれだけの数、一つずつ操作はできないはず。何か条件があるはずだ。それも融通の利かない」

「当ててごらんよ」



ぬいぐるみたちが動き出す。狙いは

「オレ?」

「いやこっちもだ」

燃えたいるぬいぐるみたちが二人を襲う。カインは後方から雄我は左方から

かわすにしても場所は密室。下手によけても相棒に当たる。それもどうやら術者には当たらない設定になっているらしく。ロベリアは炎を集め何かを形作る。

「まずいぞこのままじゃ」

「いや絡繰りはわかった」

「へぇ速いね」

ロベリアは感心したようにつぶやく。

「人形が狙うのは俺の左手とお前の背中。すなわち魔力を流さなければただの鈍器の魔法剣とまだかすかに残っている翼、魔力を狙っている」

「そうかなら適当に遠距離に攻撃すれば・・・」

「だめだ、遠距離でも発動しようとした段階で魔力は体にある」

「じゃあどうすれば・・・」

「いっそのこと翼を生やして天井をぶち破れ。俺はロベリアを倒す。お前は気持ちの悪い人形を頼む」

「了解」

先ほどよりも大きな翼を生やし天井をぶち破る。その動きにすべてのぬいぐるみが一人を追いかける。

「気持ちの悪いとはひどいな。いや君に限らずみんな同じような反応をするんだけどさ。愛がないよ」

「人形を燃やすのはいいのか?一部以外は燃えにくい素材にはしているんだろうがどのみち長くは持たないだろう」

「人形制動と赤の魔法をもって生まれたのならば必然こういう戦法になるよ・・・よしできた」

ロベリアの手に出来上がったものそれは炎の剣。

炎の纏った剣や赤い剣を炎の剣と呼ぶこともあるが、それはそんなまがい物とは違う100%炎で作られた武器。

対して雄我も宣言する。

「今ここであんたが相手ならば・・・青色薔薇系統 」

「それは・・・へぇただの夢じゃなかったのか。ここで見れるとは僕も幸運だね」

英雄と殺人鬼が激突する。



「はぁはぁはぁ。これで全部か」

二階でカインはぬいぐるみの最後の一つを倒して呼吸を整えた。

魔法陣がなくなり動かなくなったもの、燃やし尽くしたもの、四肢を保てなくなったもの、大量の綿の上でひとまず休む。

カインもまた今日一日でかなり魔力を使用している。もともとカインの翼は攻撃には向かない。つまり相手を倒す方法は赤の魔法しかないが、ぬいぐるみたちは元々燃えているうえにどうにも燃えにくい素材でできているようだった。そのうえぬいぐるみの顔が人に恐怖を与えるように考えられているのではないかと思わざるを得ない見た目なのも少年のメンタルを削っていった。

寝ころびたい気持ちをこらえ歩き出す。

「こんなところで止まってたまるか、あとちょっとで事件は終わる」

気力と根性と熱血で体を動かす。

「まだ魔法は使える、それに体も動く。ならばここで止まれないな」

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