そこにあるから
研究者の問いなど答えない。
答える義理もない。
ドラゴンは鎮座する。この世の頂に。生命の頂点に。
勝手に自分たちで図を作り、勝手に自分たちを最上位に置いたヒトをあざ笑うように。
ドラゴンはそこで笑っていた。
絶対。それが与えるのは絶望だけではない。研究者二人の心には確かに喜びが生まれていた。
従属する神に巡り合えた幸運ではない。ただ己の性に寄り添うように。
絶対。それが与えるのは絶望だけではない。その強さは戦士一人の心に喜びを生み出した。
どうあれ三人の心は一致した。
【それでこそドラゴン】
ブオオオオオオオオオオオオ
ドラゴンは吠えた。初めて会った時よりもさらに大きな遠吠え。
強さや優秀さの誇示ではなくただの日常的行為であるように。
動物にせよ怪物にせよ、戦う武器とは生まれや環境によって変わってくる。
例えるのならば鳥ならば飛べることを武器とする。魚ならば泳げることを武器とする。牙が頑丈ならば牙を爪が長いのならば爪を武器とする。そしてそんな生命から逃げるために目、耳、首、足を使って逃げ延びる。
人もそれは同じだ。動物ならば人間より脳が発達した種は存在しない。ならばそれを武器とする。言葉での意思疎通。あらかじめ自身を有利にする知恵や武器。
ただそれは昔の話だ。
魔法がある。
人の戦法は己の使用できる魔法と相談することになる。
ならば己の体にしか魔法を発動できないものは。必然的に肉弾戦を主体とする。
すなわちその英雄にとっての武器とは手と足。
「はぁぁぁ」
ダムスが何も持たずにドラゴンに突っ込む。
「ふん」
ドラゴンもまた己の拳を振りかぶる。今まで使ってこなかった。だがその腕の大きさは明らかに人のそれの数倍はある。骨も筋肉も人とは違う。たとえ同じ大きさだったとしても同じ膂力かどうかはわからない。
すなわちどう考えても勝てない。
魔法がないのならば。
ドガン
拳と拳が激突する。
そしてそのまま力比べ。
「あああああ」
「ん」
先に手を離したのはドラゴンだった。ダムスは怪我をしなければ痛みも感じない。
ならば吹き飛ばさなければ負けはない。
そして蹴る。その体勢に入る。飛ばれては厄介だ。だからと言って力負けすればそれで終わり。光はある。目印はある。音はある。だからと言って夜の山に一人はさけておきたい。
今度は属性魔法を足に乗せる。
「純粋なる愛の喜劇」
光でできた輪がその足に。
所詮は飛ぶ術を持たない人の攻撃だ。ならば飛べばそのすべての攻撃を避けられる。一撃目は翼を攻撃しなかった。
ならば
「ぬ」
ドラゴンが翼を動かそうとするが動かない。何かにしがみつかれている。
ドラゴンが対峙しているのはダムスだけではない。
紅い瞳をそちらに動かすとそこにいたのはサイラス。
「・・・俺じゃああんたに致命傷は与えられないが、その助けぐらいなら」
翼を押さえつけている。一時的とはいえこれならば飛べない。
だがドラゴンは鳥ではない。空を飛べないドラゴンなどいないが歩けないドラゴンもまた、いないのだから。
まだ足がある。それどころか尻尾まで残っている。
ドラゴンの能力。すべてどころかその一部でさえ人間たちにはわからない。だがそれでもいい。そもそもそれが分かるのは何千年も先。もしかしたら何億年たってもわからないのかもしれない。
それでもだからと言って歩みを止めるのは命ではない。
熱き血がたぎる。いつだったかその言葉。
確か父親からだったと思う。もともとはただの煽り文。意味など薄い。本当にそうだったのかまでわからない。
それでも少年はその言葉が好きだった。
今の今まで。そうでありたいと願った。そしてそれはこれからも変わらない。
たとえ効果などなくても誰にも理解されなくてもかまわない。
自分の生きざまを死ぬ時まで貫けるのならばどれほど幸福なことだろう。どれほどかっこいいことだろう。
それはどれほどの金を積み上げることよりも価値のあることなのだろう。
「超・・・熱血っ・・・・・・ボンバァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
熱き血よ滾れ
心のままに
血がすべて燃えた
ボオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
爆炎が黒き世界をのたうち回る。
それは脅威となってドラゴンを襲う。
ダムスにもサイラスにも魔法はかけてある。何があっても死にはしない。
ドラゴンは動きがない。動けないのか動くつもりがないのか。それは判断などできない。だが今ならば当たる。
「それでこそ・・・面白い」
ドラゴンはさらに笑う。
そして戦いが終わる。