合図
「っ」
「げぇ」
「おっと」
暗い緑の森に赤き炎が降り注ぐ。周囲の被害など気にしていない。
戦うにせよ逃げるにせよ捌かなければいけない初撃。
ドラゴンの口から発射された火は瞬く間に森へと燃え広がった。周囲をすべて破壊するように。
「くっ」
何とか初撃をかわしたカインが周囲を見渡してみる。だが周囲に見えるのはすべて赤。
動物も怪物も虫も何も見えない。
もちろん自分と同じく攻撃されたほかの五人も。
「どうすれば・・・」
七色英雄に匹敵すると言われていたダムスが何も言えない以上もはやカインが一人でドラゴンに立ち向かっても勝機はないことはわかっていた。
だがそれでも戦わなければならない、生きなければならない、勝たなければならない。ならばどうするか。
決まっている。そして知っている。
天音雄我は何度でも起こした。
奇跡を。
幸いカイン=ルーグは幸運だ。炎への対処はできる。それどころか翼だって生やせる。だからこそ選択がある。まっすぐ炎の中を突っ切るか、空を飛ぶか。
「どうする・・・」
空を飛んでも自分一人が助かるだけでこの火が消せるわけではない、だがだからと言って炎の中を突っ切ってドラゴンに殴りかかってもどうにもならない。翼にせよ足にせよカインの何倍も大きい。
ならば
「ここは皆と合流」
答えは出た。だがそのためにはどうするか。右か左か前か後か。
あるいは。
『そう単純な話でもない。黙って寝てれば望みがかなうこともある。ただ動かないことそれが正解の時もある』
周囲は燃えている。耐火の魔法を使わなければ呼吸すらできないほどに。今が夜であることを忘れるほどに。
赤の属性を持つからこそわかる。これは本物。人を殺す炎だ。たとえ合流できた時ほかのみんなが生きている保証はない。
その時炎の中から人が現れた。
反射的にそちらを見る。その人は
「ダムス先生?」
「・・・いやぁ、下手に動いていたらどうしようかと思っていたけど大丈夫そう」
炎の中をそのまま歩いていた。当然服も皮膚も焼けてなどいない。
「え」
「体は魔法。服は特殊なもの。それよりこっちに皆もいる」
「対炎」
カインを見つけたダムスが炎の中を戻っていく、
念のため服も含めた自分の体を焼かれない耐火の魔法をかけた。そしてダムスの後ろを歩いていく。
そこにはみんながいた。
「カイン」
「サイラスさん。皆も」
「悪いね。赤の魔法だって聞いたから後回しにしてしまった」
「いえ、」
みんなが合流すると炎が消えた。
「え」
炎がある時には見えなかったドラゴンの姿。
「ふーん。さすがにそこまで愚かではないか。はぁー」
ドラゴンが少し力をこめると先ほどまで燃えていたはずの自然が戻っていた。
「な」
明らかに魔法でどうにかできる範囲を超えている。
「どれほどまでに」
「言っただろう。我らドラゴンは怪物でありながらその本質は神に近い。意思なき自然などこの程度。それにまさかこの程度で終わりではないだろうな」
「当然」
「まった」
サイラスが飛び出そうとした。だがそれをダムスが止める。
「普通に戦ったってどうにかなる相手じゃない。ですよねハリルドさん」
「まあスペック勝負じゃどうしようもない。とはいっても情報が少なすぎる。それでも戦った記録は複数のこっているんだ。人類種が殺害までとどいたことはないだが十年前に戦った男がいた。証拠がなかったから正式な論文や図鑑には乗らなかったけど、それでも残っている」
「十年前、つい最近そんなこと・・・ビバレットか」
ドラゴンが口を開く。
「・・・本当なのか」
「その男がそいつかは知らないが、ちょっと前に谷底に住んでいたドラゴンが人間に殺されそうになった話はある。ドラゴンの生命力をもってしても一人の人間に殺されかけた話ならこの辺に住むドラゴンならみんなが知っている」
「・・・その話では弱点は頭、それ以外はないに等しい。ただ先に翼をどうにかしなければそもそも戦いにならないとね。ただ生半可な傷では瞬時に治る。翼を片方でも折る。その後体にもダメージを与える。その後に頭」
目の前で自分の倒し方が話されているというのにドラゴンは何も言わない。それは人類の武器を尊重するように。
「これはドラゴンに共通することだが。とにかくすべてを戦闘で決める。そういう種族」
「わかっているじゃないか」
時間切れと言わんばかりにドラゴンが空を飛ぶ。
「まずはあれをどうにかしなければならないってことか」
ドラゴンは何も答えない。
「わかっている。行動で示すさ」
「でもどうすれば、俺の戦法と相性が悪いですよ」
「ああ、僕もだよ。あの三人は戦力にはならない」
「自分の身を守るのが精一杯。戦力には数えないでくれ。ドラゴンの知識もないし。私はどうしようもない」
「そういえば。ハロルドさん。あの銃は」
「あれかここにあるけど」
そういって木にかけてあった銃を取る。
「さすがにそれじゃあ竜の体を貫くのは・・・」
ハリルドの不安ももっともだ。
近距離で当ててもどうにもならないのにそもそも相手は現在空を飛んでいる。
怪物退治専門の銃といっても別のゲームのように特別な効果がついているわけでもない。そこら辺の怪物なら一撃で殺せる威力が出ると保証されているだけだ。
ドラゴンはまだ何もしてこない。
「準備を待っているか。余裕だね」
「それよりサイラスさんは何を」
「マニアの中には有名な話さ。この銃。ヴァルシオンは少しいじればさらなる火力が出るようになっているんだ。大戦当時は限られた人しか知らなかったけど・・・ただ」
「何かあるのか」
「反動が桁外れている。発射時には目と耳と鼻と口をどうにかしてふさぐ。そして自分の体に強化魔法をかけたうえで肩の脱臼は確実。最悪死ぬ。そのうえ運が悪ければ一発限りで銃の方が破壊される」
さらりと言ってのける。
「でも、それしかないということか」
「それに今回は」
「ああ、僕がいる。だから大丈夫」
「ダムス先生が?」
カインの疑問にサイラスが答える。
「先生の適正は自分に起こるすべての影響を無効化することだ。さっき炎の影響を受けずに歩いていたのはそれがあるからなんだ」
「なるほど」
「だから大丈夫。問題はこの銃のほう。そして射程距離は」
「あれだけ大きければ外れません。ただ先生の身体能力を考慮しても十メートルぐらいに降りてきてもらわないと・・・」
「ならオレの出番ですね。二翼一対」
カインの背中から翼が出現する。空に羽ばたける。
「白で援護はする。だが主体はたぶん」
「わかってます。はぁーーー」
カインが一息で空に羽ばたいた。
「きたな」
戦闘が始まった。