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黒白の魔法剣士  作者: 傘羅栄華
ライフ編
73/114

頂点

 一人増えて歩き出す。

 暗い暗い道なき道を。

 そもそも人の手が入っていない自然に夜に向かってはならない。

 それが鉄則。

 だが危険な場所に入ってはならないのなら調査など進まない。

 危険な場所を安全にする。それもまた研究者の使命などだから。

 命を懸けるほどにそこに情熱をある。

 研究者二人は経験が少ない。だがそれでも情熱は誰よりもある。知恵もまた粗削りながらもある。

 

 夜の山、そして自然は思ったより音がした。

 風は吹く、月が照らす。だがそれだけではない。それは単純。バロットタイガーが音を出さないことを生きるための武器としていたように、夜に目が効くことを武器とする動物がいる。

 ホホホホッホ

 当然ながらこの森で光るのは月だけだ。そのためダムスの光玉の放つ光量も控えめにしている。パーティメンバーを包む程度の明かり。その前を何かが横切った。

「ヒィ」

 モーリスが小さく驚きを漏らす。

「今のはフクロウ。人は食わないよ」

 ハロルドがさらりと言ってのける。当然少年二人には見えなかった。

「モグラか。見ていきたいけど」

「だめですよ」

「・・・わかっているよ。言ってみただけ」

 兄弟で同じことを言っている。

 血かあるいは仕事柄か

 一人っ子のカインにはうらやましくも思える。

「二人とも俺の弟みたいな反応しますね。好きなものには一直線というか」

「サイラス先輩には・・・」

「ああ、四つ年下の弟が一人。いわゆるオタクと言われるタイプ。ゲームが好きでね。攻略本のデータの欄を何時間でも見ていられる」

「へぇー」

 ハロルドが立ち止まる。

「ちょっとまって」

「何か・・・この気配」

 ハロルドがそしてダムスが何かに気づいた。

「何か起こったのか。それともテストの続き?」

 モーリスが真剣な表情をする二人に事情を聞いた。

 だが二人から帰ってきたのは沈黙だった。

「・・・」

「・・・」

「何?絶体絶命?」

「思ったより早かったですね」

「僥倖ではある。ただ」

「目的の地へ着いたということか」

「そういうこと」

「目的地そういえばそこに関しては深く聞いていなかったような」

「そういえばそうですね何があるんですか」

 考えてみればサイラスとカインには研究者と賢者の護衛としか聞かされていない。

 正確には先ほどハロルドとハリルドの会話から人類の先祖が分かるかもしれないと話していたが、それの可能性が低いということも同時に聞いていた。

 そもそも二人とも恐竜や動物は好きだが、人類の先祖と言われても興味が薄い。

「そういえば詳しくは・・・この際だ、説明しておくよ。この森にはいくつか監視カメラがある。とはいっても動物にせよ怪物にせよ異物は排除しようとするからそこまで長くはもたない。はずなんだけど」

「ダムスさん。そこから先は私が」

 話し手がダムスからハロルドへ変わる。

「山の出入り口を監視するほうはともかく中にあると壊されるんだ。だがある日不思議なものが映った。それは」

 そういってMISIAから浮かび上がった画面を見せてくる。事情を知らない四人がのぞき込むとそこに映っていたものは


 初めに映ったのはただの自然の景色。この森を走る川とその周囲を映している。

 そこに突然画面が切れた。

 そして次の瞬間画面に映っていたものは別の風景。今度は水辺ではなく平原。

 あまりに見晴らしがよすぎるため狩りにも寝どこにも使用されない場所。

 そこに一頭の動物が通りかかる。

 日が暮れたとき画面が切れた。

 その次に映ったのはまた別の風景。今度は木々の中。

 日の出から日の入りまで映していた。


「これがどうしたんですか」

 カインには何もわからない。当然サイラスにも。

「説明しよう。もともとただ散漫に自然を写していた。そこに画面が切れた。まあこれはいいんだ。壊されたんだろう。研究チームもそう思っていたらしい。ただその後電源がついた。まあこれもそこまで驚くべき所じゃない。カメラを巣に持って帰ろうとしたところで落として何かの拍子に電源がついた。その可能性が高い。というよりそれしか考えられない。だが今度は木々の中。それも太陽が出ている間だけ電源がついている」

 そこまで言ってハリルドが何かに気づいた。

「なるほどね・・・これは確かに不気味。そして先祖か」

「どういう・・・」

「つまりこのカメラを狩りに使っているということ。電源ボタンを認識し、自分の姿を映さない知恵を持つ夜間性の何かがね」

「あるいはこの森の中に人がいるか」

「そんな」

「馬鹿な・・・偶然。日の出と日の入りぐらいなら気象衛星があればわかる。その情報を自動でカメラに送る機能だってあるはずだ。その機能がたまたまついた。それに動物にせよ怪物にせよ誰かが移動させた」

「かもね。巣に持ち帰ったとして、巣に住んでいる動物、そして巣そのものが映っていないのは珍しいけどありえなくはない。巣に関する調査だって完全にはできていないし怪物の中には金属を食べる種類だっている。そもそも夜の間つけっぱなしじゃないのも不思議。だからこそ新人が呼ばれたんだ」

「じゃあここがそのカメラの場所?」

「いや違う。該当地点は割りだせなかったけど初めに接地した川まであと十キロほどある。だが何かを感じない?ただの人間ではない何か強大な何かが」

 そこまで来てようやく二人にもわかった。

 何かが近づいてくる。正体不明の光にも臆しない何か

「ダムスさん」

 サイラスが反射的に担任の名前を呼ぶ。

「どうやら人類の先祖どころか人の理解の及ばないほどの何か・・・これはこれで大発見だけどね。まあいい二人ともここからはテストじゃない。本気だ。僕も戦う」

「それなら」

 サイラスの心に安心が生まれる。

「いやこれはもしかしたら僕の力では及ばないかも」

 指揮官であるというのに不安を口にする。それほどまでの敵。

 元からそうだ。甘い言葉などない。お世辞などない。楽観などしない。余裕も油断もない。

 だからこその強者。

「まだみんな離れないように」

 風が生まれた。

「な、」

「これは・・・」

「うわあああ」

「鳥?いや」

「なんだ」

「でかい」

 自然の風ではない。だが魔法で生み出るようなものではない。大型の鳥が羽を動かした。風はその何かがいる方向から出てきた。

 つまりその何かは翼をもつ。

「ダムスさんこの辺に洞窟はありますか」

 木にしがみつき風に耐えていたハリルドがダムスに聞く。

「ええ、かなり大きい。ただそこにはなにも」

「やっぱり・・・どうやら無理をしてでもついてきたかいがあったかもしれない」

「何を言っているんだ、ハリルド」

「動物学者(兄さん)じゃあどうしようもないってこと。まあ怪物学者(僕)も震えは止まらない。幸運すぎて不幸にまで届く。動物の長と言えばいろいろといる。最大の動物クジラ。陸上最強と言われるゾウ。そして最も頭のいいヒト。だが怪物の長と言えば二種類。怪物王ともう一つ」

 巨大な何かが近づいてくる。この時間この森にやってくる不届き者に興味が出たらしい。

 夜空に大木が浮かぶ。人類がいない森特有の何千年と生きている木。

 それを邪魔であったために一瞬で引き抜いた。落ちた先になど気にしない。

「幸福を・・・光玉」

 周囲を照らす光の玉をさらに増やした。

 そしてその何かが照らし出される。

 このエリアのあるいはこの森そのもののボス。


 その怪物は羽が生えていた。大きな羽だ。先ほど風を起こしたのはこれだろう。

 その怪物は尻尾があった。武器とするのに十分なほどに。

 その怪物には角があった。天候さえ操作できそうな二本の角が。

 その怪物には威厳があった。ただいるだけで他とは違う。

 


 その怪物は神にすら数えられる。あまたの生物の営みとは、善悪とは、利益とはまるで別の次元の生きている者。

「まさかお目にかかることが生きている間にできるとはね。ファーラー教。生物学に怪物学すべてを上回る」

 ハリルド以外は驚きすぎて声すら出ない。




 驚嘆、諦念、恐怖、畏怖、憧憬

 そして崇拝



(ドラゴン)


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