一問目
第一問といったほうにも気にはなるがそれより問題の方だ。
答えられなければまずい。
とはいえこの問題は常識。通常なら小学生でもこたえられる。そして複雑な計算式や歴史の事件とは異なり社会に出ても忘れることはない。それほど常識。
だが
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
高校生二人は答えられなかった。
「えーーー」
横で聞いてきたモーリスが絶句する。それぐらいの問題。
「・・・・・・・・・・・・」
サイラスの左手が自身の頭に向かう。
「・・・・・・・・・・・・」
カインの右手が自身の顎の下に向かう。
「えーーーーーー」
二人とも考え込むしぐさとしては一般的なものだ。だがこれはまだ第一問目、それどころか悩むべきではない。それぐらいの難易度だ。
「いや、嘘でしょ二人とも。高校生なんだよね。確かクルクスは筆記テスト免除はあったけど中学校はずいぶん前に留年制度ができたよね。それを合格したんだよね。二人とも」
「・・・」
この惨状にダムスは何も答えない。
呆れているわけでも諦めているわけでもない。努力を認めるようにただ二人を見つめている。
そしてようやく一言。
「たしか・・・魔法陣」
サイラスの口から出てきた。自分は使わない。だがクラスメイトが使っていた魔法を発動するための方法。
便利と思った魔法はある。とはいってもそれがきちんと任命されているかはわからない。
授業の内容は覚えていない。だが授業中に教師が言った話は覚えている。そういうこともある。つまり授業で聞いても頭に入らないがそれを別の場所で聞けば覚えていることもある。
カインにとって魔法陣と聞いて思い出す。授業開始一日目。
『このぬいぐるみの正面になにかついている・・・魔法陣か』
『魔法陣?』
『魔法発動方法の一つだ。詠唱。杖。身振り手振り。魔法武器。そして魔法陣。詠唱は一の手間で十の効果、十の手間で百の効果。それが基本。だが魔法陣は五の手間で三十の効果を得る。まあ詠唱を極めると百の手間で一億の効果を出せるようになるんだ。だから一定以上の成果は得られない。逃げだ。最もこのぬいぐるみはそこまで効果を求めていない。魔法消費の節約』
「たしか簡単な詠唱より手間をかけることで高い効果を得る魔法発動方法」
「正解。あと二つは」
ようやく一つ目だ。これをあと二つださなければならない。当然後になるほど難しくなってくる。
とはいえそれも二人の学力というより常識力の問題だ。それでも授業で習う内容に他ならない。
「・・・回復魔法ですよね。白の魔法で簡単な怪我。例えば擦り傷、切り傷、骨折、病ならともかく怪我ならば治せるようになったとか」
「そういえばそれも」
「正解。最後は?」
そもそも世界三大発明というぐらいなどだから人生の端々で登場している。
そして最後の一つはもはや他の魔法とは別格。
日々の暮らしを楽にするあるいは豊かにするというよりもさらに上。
ライフライン。水、電気、ガス、そしてエーテル。
それらと同じで無くては生活が成り立たない。
例えるならば服装など指定されていない外出。友達の家に行くのに下着姿でいく人などいない。修学旅行のしおりの持っていくものの欄に財布や通信機器など書いていない。それは当然。それほどまでに社会にしみついている。剥がそうとすると明確で激しい痛みを伴うほどに。
だからこそ出てこない。人は夢から覚めるとき目覚めようと思って目覚めない。夢の中では夢を認識しない。そして誰かに夢からの目覚め方など教わらない。
それほどまでにそこら辺にあるもの。
人が円滑に生きていくために必要なその魔法。
カインがさらに思考に集中するために背中を木に預ける。その動作に思い出すことがある。
それはちょうど一週間前、この国を駆け回り。
「言語連動調界」
国が違えば、当然文化も変わる。それは争いの種となる。
だがそれはそれをわかりあうための一歩であり、また別の争いを生み出すもの。
「そうか・・・それがあった。あまりにもなじみ過ぎて忘れていたよ。そういやアレがなければ今ここで会話もできないんですよね、俺。この国の出身じゃないし。そもそもこの国の人もまざりすぎて使用言語はばらばらだっていうし」
「そう、それが三つ目。世界中の人々が円滑に交流できるのはこの魔法のおかげだよ。そしてこの三つの魔法の何が他と違うのかは知ってるかな?」
「さすがにそれは知ってますよ。俺の父親にも関わってきますから。金ですよね」
「金?」
「・・・身もふたもない言い方をすればまあ・・・通常、魔法は生み出してからその人が死ぬまで保護される。使用に金がかかる。だがこの三つは偉大過ぎて生み出されてからどれほど時間がたってもイルミナル国が存在する限り使用料金が発生しそれを国が負担すると決めている魔法なんだ」
「・・・」
カインが感心しそうになったがそれを表に出すとわかっていなかったことがばれそうなのでやめておいた。
「それじゃあそろそろ進もうか。さすがに十二時を過ぎたくはない」