爆音の主
銃にも種類がある。
距離でならば短距離用の銃、長距離用の銃、中距離用の銃。そしてどんな距離でも安定して運用できる汎用性の高い銃。
弾の種類ならば、鉛に魔法。魔法の場合さらに七色、そして無色。あるいはその両方を採用できる特殊な武器。
そして役割。眠らせる、しびれさせる。殺す。
さらに目的。人用、獣用、怪物用とある。
そしてほとんどの場合目的と自分の能力そして属性と適正から選ぶ。
今現在放たれた銃でいうならば距離は汎用、弾は無色、役割は殺す、目的は怪物用。
そして自然を極力壊さないため自動で目標を狙い打つことのできる対怪物用の特殊銃。
二人がその音を認識した時にはすでに怪物は倒れていた。腹からは血が流れる。怪物用を殺すように生まれそう使用されているのだから意識を向けていない空腹で全力などだせないバロットタイガーを一撃で葬ることができる。
近づかなくてもわかる。絶命した。
「え」
何が起こったのか。それを確認するために二人は音の方面に目を向ける。
そこに立っていたのは特殊銃を持ったヴィーヌだった。
「ヴィーヌさん?」
二人にはその意図が分からない。
これがテストであることはヴィーヌも知っている。ダムスは危なくなれば止めるといっていたが今はその時ではないだろう。だが止めた。
それどころか怪物に対し熱く語っていたヴィーヌが躊躇もなく殺すとはとても思えなかった。
そしてサイラスの呼びかけにヴィーヌは答えようともしない。
それどころか一度ぐるりと見渡して
「出てこい。話がある」
誰に向かって話しているのかその声は闇に消える。
「何だ・・・もうばれたのか」
カインとサイラスが最後にダムスとヴィーヌとモーリスと見たのはダムスが二人を抱えて木の上にジャンプした時だった。
そしてその木から人が一人落ちてきた。
そしてそこには同じ顔の男が二人。
「え、」
つられたのかダムスとモーリスも落ちてきた。
そしてみんなの目線が銃を持っている方のヴィーヌに注がれる。
「・・・あなたは」
代表してダムスが聞く。彼自身この状況をよくわかっていないがそれでも責任感からか踏み込んだ。
「私の名前はハロルド=ヴィーヌ。動物の研究者。そしてそこにいるのは弟のハリルド=ヴィーヌ。怪物の研究者」
「・・・え」
今まで冷静であったダムスの顔に驚きが生まれる。さすがにこの展開は予想していなかったように。
「ばれてしまっては仕方がない。ああそうだよ。双子の兄がこの調査に呼ばれると聞いて成り代わったよ」
悪びれない。
それは必要なことのように。
人が入らぬ自然そのままとはいえそこには力かあるいは流れか生み出されたエリアがある。そして研究者がいるのだから研究されている。
細かいところは変わるが地図も一応は存在する。
怪物や動物を食らう獰猛な獣たちは日頃縄張りを争っている。
直接戦うこともある。とはいえそれは毎日ではない。
たとえどんな怪物でも一対多では勝てない。本能か教育かあるいは運悪く群れから離れた大型の獣を集団で狩ったことがあるからか、それはここにいるすべての獣が知っている。
戦いにメリットなどほとんどない。
生き延び長ければ戦わない。相手の住処に入らない。
とはいえだからといって戦いが行われないわけでは決してない。
狩りに適した場所、寝床に適した場所、日の当たる場所、水辺が近い場所、甘い果実が実る木が生えている場所。
是か非でも欲しい場所もまた存在する。
カインとサイラスがバロットタイガーと戦ったのはそういう場所だ。
怪物バロットタイガーと動物バーバリーライオンとの緩衝地帯にして二種類とも好むカリッドの実がなる場所でもある。とりつくされているため見えなかったがどうにかして見つけ出そうとやってきたところで人と出会った。
先ほどの場所では危険であるために、少し場所を移した。とはいえもともと人が入ることを想定されていないため安心できる場所などない。
むしろ開けた空間があればそこは動物や怪物の一族の食事あるいは寝床ではないかという気すらしてくる。
それに加えて時間もない。
だがだからと言ってこの疑問を置いておくわけにもいかない。
パーティの不和などロクなことがない。それは人ならば知っている。
ダムスが生み出した光玉に照らされた二人の顔を見る
双子
当然服装は違う。だがそれ以外は同じといってもいい。親ならばともかく赤の他人が見分けられるものではない。
「で、どういう経緯でこうなったんだ」
周囲は当然先ほどよりも暗い。心なしか光玉も弱くなっている気がする。それどころか視線を感じる。戦闘力のある少年二人。少年二人より高い戦闘力を持ち、一般に出回っていないこの山の地図を持つダムス、動物、怪物、植物、そして山や森に詳しい双子とは違い、ここまで来るともはやただの神学研究者ではどうにもならないと悟りモーリスも少しおとなしい。もしここではぐれたら助かる可能性などないだろう。初めにチラリと地図を見たが今どこにいるのかまるで分らない。先ほどからファーラー教徒であることを示すリーキを握って離さない。
だが顔にも口調にも皮肉を含ませて問いただす。
問いただされた相手、ハリルドと呼ばれた男は改めて自己紹介をする。
「僕はハリルド。怪物の研究者さ。いやぁ・・・でも仕方がない部分もあるじゃん。嘆きの森だよ嘆きの森。わかる?怪物、動物、自然そのタイプの研究者なら憧れの場所。それに双子の兄弟が招かれたんだよ。それも実績なんてたいしてない。今後の活躍に期待してなんて、ほとんどコネじゃん。だったら成り代わってでも問題ないでしょ」
「だめに決まっている。そもそも今回の目的は奥に住むと言われる人類の先祖。怪物と動物では先祖がまるで違う。それが通説。怪物研究者には意味が・・・」
「それほど大事ならばなんで兄貴なんだ。まさかもう父さんを超えたなんて思ってないよね」
「・・・それは」