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黒白の魔法剣士  作者: 傘羅栄華
ライフ編
69/114

怪物の

 一部の人にとってそれは自慢になるのだろう。だがここのいる誰もがその反応は薄かった。

 神話学。そしてその研究者。

 少し前にコンピュータの授業の時にカインが自分、そして自分の家族の名前を入れてみたときに、父親の肩書に書かれていた気がする。

「・・・」

 カインにとってそれは反応に困る。家にそのタイプの本もあった。それでも読んだ記憶が少ない。

 完全にないわけでもなく。興味深く読みこんだわけでもない。

 父は強要しなかった。だからこそ悪いエピソードもない。

 強いて言うなら英雄姫が怪物王を殺した後の話が好きだ。元居た場所に戻りその国の王子と結婚した話。

 だが親友に聞くとそれは作り話だという。

「・・・」

 話すべきか黙るべきか。とはいってもカインの父親は神話学の中では高名。知らないというわけでもないだろう。実際に先ほどからチラチラとカインの顔をうかがっている。

 サイラスにとってそれは反応に困る。とはいってもこちらは宗教がらみに関わりたくないという理由だが。

 だからこそ少年二人の視線は一人をとらえる。

 この場をこの人に任せるように。

「・・・はぁ。張り合わないでください。生物と違って神学は学校の授業にないんですから」

 ダムスがなだめるように言う。さすがにかわいそうになったのだろう。

 先ほど少年二人は動物学者を尊敬のまなざしで見た。

「それがおかしいと・・・」

「・・・今そんなことを言っている場合ではないみたいだよ」

 冷静な声だ。聞いたことのないぐらい。

 それは命の危機すらある。

 ヴィーヌの視線が一点を見つめる。そこには闇。いやその中から

 その獣は声などださない。音などださない。

 なにせそんなものだしても狩りには邪魔なだけだ。

 今までとは違うヴィーヌの声色に少年二人だけではなくダムスとモーリスもまたそちらに目を向ける。

「これは」

 ダムスが臨戦態勢をとる。だがそれをすぐに解いて。大人二人を抱え木の上に下がる。

「いや、忘れていた。時間もないがそもそもこれは課題だ。大丈夫危なくなったら止める。遅くなっても構わない。だから二人で」

「ええわかってますよ」

 サイラスが銃を握る。魔法銃。それも簡素なものだ。

 カインも己の拳に炎をのせる。基本的に動物というものは炎が苦手だ。体に浴びて平気でいられる動物などいない。

 だが相手は動物ではなかった。

 その獣を二人の目が捕らえる前に

「バロットタイガー。動物ではなく怪物。それもかなり腹が減っているらしい。まあそうでもないと襲ってこないか」

 木の上から声がする。ヴィーヌの声だ。

 試験が始まる。



 カインとサイラスが目をこらす。だがそこには何も見えない。ただの黒。ひとになんとなくの恐怖を与える。

 その怪物が武器にするのもそういうものなのだろう。

 だからこそ闇から引きずり出す。裏で糸を引く黒幕を白日の下にさらすように。

 最初に仕掛けたのは魔法銃を握っているサイラス。

 自身の指先から出た魔力が魔法銃の内部に集まり銃身から発射される。

 バロットタイガーの姿は見えない。だがそこにいる。

 何となくそんな気配がする。

 果たして弾は闇に飲み込まれた。

 音がする。それはただ土の弾丸が地面に衝突した。

 怪物の体に当たることも怪物が避けた際に発生するはずの音もなかった。

「・・・手ごたえがない」

「え」

 それは罠。動物や怪物たちは生き抜くために進化した。あるいは生きていけるように神が与えた。

 そして己の武器を最大限に生かすための知恵をつけた。

 人のそれとは明らかに違う。

 バロットタイガー。幼いころに怪物図鑑で見たそのページを思い出す。

 だがその怪物はそんな間。

 気を抜いた一瞬に迫ってきた。

 カインの拳の炎。それが微かに揺れた。

 風などなくてもこれはカインの意志によって生み出るもの。もとから微かに揺れている。だがそれは明らかに異常。

 反射的に前を見る。そこには音もなく怪物が迫ってきた。

「」

 驚きの声などでなかった。それはそれほどまでに驚いていたのか。あるいはリアクションなど取れないほどに視界の端に映った時にはすでに次の動作に映っていた。

 火事が起こるかもしれない。森の中だから炎はあまり出さないでおこう。

 そんなカインの思いなど無駄だった。

 驚きすぎて足など動かない。もともと慣れない自然で動けない。反射的に炎の拳を動かす。

 バロットタイガーにとって炎など初めて見るものであるはずだが。さすがにその危険性を察知し引いた。

 音もなく。

 羽でも生えていない限り、空中ではどうしようもない。

 ゆえにその着地の寸前を狙いサイラスは弾丸を放つ。

 だがバロットタイガーはひらりと避ける。音もなく。

そして炎より銃の方がくみしやすいと見たのだろう。カインではなくサイラスに飛び掛かった。

「先輩!」

 カインが声をかけたときすでに一度戦いが行われていた。

 サイラスもまたバロットタイガーの突進をかわし横っ腹に土の弾丸を打ち込んだ。

 今度こそ音がした。黒色の腹に命中。

 だがバロットタイガーはチラリと撃たれたところを見て、それから二人とは距離を取った。

 傷の影響などない。

 弱いところを見せれば食われる。二人ともそれを感じ取り、目線をバロットタイガーから離さない。

 どうにか情報を引っ張り出す。


 バロットタイガー

 陸生種

 主な武器はその俊敏性と牙。走る。ジャンプする。着地するなど様々な動作で音を発生させず、獲物に気づかれないままに仕留めることに長ける。牙は一時的に伸びることで獲物の内臓まで届かせることにより即死させる。


 弱点は尻尾



(確か尻尾が弱点。なんでだっけな・・・)



 少年二人は動けない。いや動かないといったほうが正しいか。

 だがいずれは戦わなければならない。

 いやそれよりもどうするか。

(・・・殺すか逃がすか)

 相手は獣。会話などできない。殺すか殺されるかあるいは不運な結末を察し逃げるか。

 人の殺人鬼とはまるで違う気配をその怪物は漂わせる。

 少年二人はこれがテストであるため、逃げる選択はない。腹を空かせて人を襲う獣にかける慈悲も二人にはそこまで多くはない。少なくとも己の命を投げ出すほどではない。

 ならば倒すだけだ。だが問題はどこまでバロットタイガーは襲ってくるか。

 怪物が人を襲う理由など縄張りに入ったか腹をすかせたかあるいは求愛や食事を邪魔されたかそのうちのどれかしかない。

 ヴィーヌなら区別がつくのだろうが実物の怪物を見るのが久しぶりの少年二人にははっきりとしたことはわからない。

 だが恐らく腹を空かせているのだろう。ということはわかる。

 ならば相手はどうするか。


 いやそんなことはどうでもいい。そもそも獣にとってもカインとサイラスだけならともかくダムスにはどうしようもないことはわかっている。

 それを承知で向かってきた。

 今日もまた生きるために。

 貯蓄などしていない自分の愚かさを嘆くこともなく。




 その時だった。

 爆音が放たれた。


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