集合
『いやぁ、この政策はないと思いますよ。国王様がやったらしいですけど、自信を持って言えます。絶対失敗しますよ。こんなゴミ政策。そもそも弱者は生まれながらに生まれるもんじゃないんです。努力次第なんですよ。例えば僕みたいに』
電車の中でさっきまで駅名が表示されていた場所にニュースが流れる。どうやら昨日国王が通した政策に関してらしい。
そしてそれを論じているのが大学教授でも元政治家でもなんでもない。ただの介護会社社長だ。
父親の仕事のこともありルーグ家ではニュースをよくつけていた。だがこの人物に関しては父親曰く。《なぜ政治に携わったこともない。勉強をしたこともない奴がここまで言えるのかがわからない》親友曰く。《始めに世に出たときにある政治家が出した政策を批判してそれが失敗してから世に出るようになった。だが功績と呼べるのはそれだけでそれ以外は外してばかり。世間を馬鹿にしているが基本的にこいつのほうが無能。たまたまうまくいって金持ちになった。その典型。そしてそこから増長した。その典型。そもそも最初の失敗も有名政治家の二世だからって誰も声高に言わなかっただけでほとんどの専門家が否定していた。ただ世間一般。それも政治に疎い層にはそれらしく聞こえるだけで、いわゆる意識高い系やら世間は皆自分より馬鹿だと感じている連中が信者についているのと宰相派のマスコミに気に入られているだけでここにいる。まあいずれ滅びるよ》
性格のまるで違う。共通点と言えば政治の第一線に関わっている。そしてカインにとって頭脳面にとって最も信頼している二人がそう言っていたため、いつごろからかテレビも新聞もあまり信用しなくなった。
あるいはそれはカイン=ルーグが受けた帝王学と呼ばれる物か。
今現在、何気なくニュースを見ているのもダムス先生からの質問に備える以上の意味はない。
そして代わり映えのしない政府批判。そして市民批判が終わったようで、コメントをするのは隣に座る女性に変わった。
この女性は確か弁護士。それも弱者に寄り添う人権派と呼ばれていた気がする。
だが
《やっぱり王政を取っているのがこの国のガンなんですよ。ほら二日前にも会ったでしょライン病院の問題。あれと一緒ですよ。優秀な人は民間にいくらでもいます。それなのに血だけで次の王を決めているでしょ。世界中を見てもこんなシステムこの国ぐらいですよ》
太り気味の女性が叫ぶように言う。
この人物に関しては父親曰く。《なんで弁護士が政治を知っているんだ。第一、議員は九割以上が民間からだぞ。なんだったら二世議員のほうが多いぐらいだ。そもそもこの弁護士自体、親は弁護士会。その中でも上の方の位置にいるのに。単純にこの局にとって都合がいいことを言うそれらしい肩書を持った人ってだけ》親友曰く《前提としてそもそも人権派でもなんでもない。ただの弁護士だ。金をもらった側に味方する。その対象が正義でも悪でも構わない。ある時は毒液を川にまき散らした工場、ある時は工場の煙で起きた健康被害を訴えた市民側。その片方をプロフィール欄に書いているだけ》
「はぁー」
ため息が出る。だというのにニュース内では変わらない。そろそろコメントの時間がVYRの時間を超える。それも確か内容はヘドロで汚れた川をきれいにしようと尽力する高校生の話だったような気がする。
つまらないニュースを見るでもなく眺めているうちに目的地に着いた。
放送が地名を告げる。
そして予定の場所で待っていると人が集まった。
まずは生徒会の一人。サイラス=アイヤ。
「こんにちは」
「よろしくー。確かカイン君だったかな」
カインの目の前に立つ二歳年上の男性。サイラス=アイヤが笑顔で挨拶をする。
「はい。カイン=ルーグと言います」
「俺はサイラス=アイヤ。よろしく。いやぁお互いすごく幸運だね。ここは普通では入れない場所なのに。これも普段の行いが認められたからかな」
赤と茶。
どちらかと言えば熱を発するのはカイン側だというのにどちらかと言えばサイラスの方から熱気が伝わってくる。
緊張で寒気さえするカインにとってその熱気はありがたかった。
「実地任務は今日が初めてだろう。だから安心してくれ。フィールドワークで鍛えたこの肉体。そしてあのダムス先生と動物学者であるハロルド=ヴィーヌ博士。そして賢者モーリスさん。よっぽど奥に行かない限り大丈夫だよ」
緊張で少し震えている後輩を安心させるようにサイラスが言う。
一つ確認しておかないことがある。
「ダムス先生ってどんな人なんですか?」
ぎこちない敬語で聞いておく。
正確に言えば昔護身術の稽古を受けたことはある。だが筆記に関してはまるで分らない。
「優しい人だよ。ただ・・・ちょっと問題を出される。」
噂は本当だった。
「どんな?」
「昔は教科書からだったけど最近は一般常識から」
それを聞いて少し自信がわいてきた。ある程度なら親から教育を受けている。
「それなら多少は・・・」
だがサイラスの顔は別のことを指していた。
「問題はモーリスってやつ。それがロクでもないらしいんだ」
「賢者なのに」
「・・・実を言うと」
サイラスが口元を隠して耳打ちをしてきた。
正確にはその唇が開く前に
「・・・あ、二人とも悪いね。待たせちゃった」
二人が反射的に離れて、声の方向を見てみると三人の男性。
一人は二人とも知っている。一人はテレビで見たことがある。父にせよ親友にせよきちんと能力も情熱もある。特定の分野では信頼できる人であると。
七色英雄に匹敵すると言われる戦闘の天才。ダムス=ランキ
興奮を抑えられないといった表情をしている動物の専門家。ハロルド=ヴィーヌ
そしていかにも神経質そうな賢者。モーリス
ダムスが口を開く。
「まずは自己紹介をしておこうか。僕の名前はダムス。この場所の奥に住む何かを調査するように国に依頼された。そしてこの調査では僕の言うことに従ってもらう。そうでなければこの場に置いていきます。いいよね二人とも。そしてハロルドさん」
「「はい」」
「・・・・・・・はい」
生徒二人には笑顔。そして最後に名前を出したハロルドにも笑顔ではあったがそこに圧を感じた。
そしてその意味をその後の自己紹介で二人は知ることになる。
「・・・ふふふふふふどうも学者のヴィーヌです」
一息で話しきる。
そして話し終えた後も少し体が揺れている。
そんな姿を見ないようにして最後の大人が自己紹介をする。
「言うまでもない。むしろ知ってないのならばそいつは愚者だ。救いようもない」
「モーリスさんだ」
「サイラスです」
「カイン」
全員の自己紹介が終わった。
そしてダムスを先頭に森へと入っていった。
ダムスが国から依頼されたという何かの調査のために




