それにして
「・・・さすがに多い。まあでも予想の範囲内だけど」
正門では
爆炎が周囲を包む。敵も味方も破壊する赤い炎。だがそれでも
「知られている。でもまあその程度なら炎耐性そのすべてを貫通するのみ。七色英雄をなめないようにね」
ブオオオオオオオオオ
本来炎に意志などない。油であれ、木であれ、マッチであれ、ライターであれ、着火したならば味方も敵も富も建造物も何もかも破壊する。
とはいえそれは通常の炎の場合だ。
火をつける方法はそれだけではない。
魔法がある。
だが今は、操作する気などさらさらない。
すべてを燃やし。
すべてを破壊する。
とはいっても、さすがに専用のコーティングが施されてあるこの学校の壁に焼け跡どころか傷すらつかない。
だからこそ全力を出せるともいえるが。
だがそれでも
同じ赤か赤を打ち消す青か茶か。あるいは無色魔法か。それとも耐火装備か。なんにせよ爆炎を乗り越えて傭兵が三人入り込んだ。
「三人ね。ここを動ないようにか。こっちの性格も感情も分かっているでしょうに」
赤の七色英雄がここにいると聞いて対策を取ってきた連中をその対策の上からねじ伏せる。それができなかった傭兵が三人。
一人は授業が終わり自分の部屋に戻った生徒が多くいる寮へ。
一人は授業が終わり部活動に精を出す生徒が多くいるグラウンドへ。
一人は授業が終わったにもかかわらずだらだらと校舎にいる生徒がそれなりにいる校舎へと。
反射的に追いかけるがどうにか立ち止まる。
ロレッタ=レイニーが教頭から受けた戦略はこうだった。
役割は正門で敵の勢力のほとんどを削る。できればそこで傭兵のランクを見る。
入り込んだ賊はそれぞれに待機している教員たちで各個撃破。
「退屈ね。雑魚ばかり」
そんな小さなつぶやきを知ってか知らずか連絡が入ってきた。
「どう?」
女の声だ。
それも感情などまるでうかがえない。冷静、冷徹。あるいは傲慢にさえ聞こえる。押し殺しているというよりは湧いてこないそんな声で。
それでいて内容は端的を極めている。
「三人。読み通りそれぞれ寮、グラウンド、校舎」
「でしょうね。くれぐれも正門から目を離しでないでしょうね」
「・・・当然」
「二秒。その沈黙は何かしら」
攻めるように言う。
「人にはどうしよもない反射っていうのがあるの。あなたは知らないでしょうけど」
「・・・まあいいわ。ここであなたと長話に興じる暇はないの」
「ちゃんと大丈夫なように戦力の配置はしているんでしょうね」
「問題ないわ。朝の内に事情は説明している。王子五人の内。一人はリューインゲル部。つまりグラウンド。一人は事件のこともあり、寮の一室にこもっている。一人はこの学校の外の教会に二十人の護衛と。一人は職員室で教師と。一人は教室に。まずはその三つから攻めるのは常道・・・連絡がきた。教会の方には誰も来ていない。狙いは絞ってきている。あるいは六人目か」
「六人目?昨日の夜言っていたけど本当にいるの?」
「昨日一晩バーリガンを雇ったことを考えればむしろ・・・」
「むしろ何?」
「今寮の方に向かった傭兵が教師の一人に倒された。これから尋問に入る。とはいっても隠してあるでしょうけど。グラウンドの方も早々に捕まっている・・・やっぱり教えた教師を。いやそれは無理か・・・」
「・・・あっけない。先週はそれなりにまずかったというのに」
「もともとヘクターはイルミナルの王族からの推薦で十年ほどこの学校に勤めていた。それがなければこんなものよ。土曜日に事件が起こらなければ学校も秘密裏に対処していたでしょうね」
「ふうん」
ロレッタはつまらなさそうだ。それも当然。
「また、やる気のない返事」
「だってそうでしょう。私としては雑魚つぶしに時間を取られたくもない。知っているでしょう私の性格」
「知っているわよ。それはもちろん。それでも対多数なら赤は特に強力」
「ん?」
「何があった」
「人がいなくなった」
「ならそれで打ち止め?」
「みたい」
「・・・ならそのまま待機」
「校舎の一人は?」
「今のところ何も。フレルメルがいる職員室付近にも天音がいる一年一組の教室付近にも」
「となると六人目?」
「そこにはバーリガンがいる。いやバーリガンを雇った人のことも気になる。それにそれを調べるように学校長から指令を受けている」
「私やあなたと同じ七色英雄。いったいどこの王族なのやら」
「予想はついている。だからこそ学校長はこの事件の指揮は私に任せて自分は行方をくらませているのでしょう。ただ一つ問題が」
「何?」
「もう一人の七色英雄のこと」
「・・・誰かいた?」
誰も来ない正門を見つめながらロレッタは少し考える。
だがわからない
「普段から学校にいる私とあなた。そして雇われて校舎内にいるバーリガン。ほかにいた?」
「・・・天音雄我のこと」
意外な名前が出てきた。
前提として七色英雄とは十年ほど前の戦争で活躍したということだ。ゆえにみんな現在は四十を過ぎている。
「あの子の息子ね。それがどうかしたの?」
「・・・何度か見かけたことあるけど何かしでかしそう。そんな予感がする」
「・・・事件に関わりすぎている。それは私も思っていたけど」
がらりと副担任が勢いよく一年一組の教室のドアを開いた。
教室内にいたのは四人の生徒。それ以外は誰もいない。
ロイド=バークの担当はこの周辺だ。だが傭兵が一人校舎を入り込んだため少し調査班に加わっていた。だがそれを一周して教室に戻ってきた。
何か嫌な予感に急き立てられるようにして。
「雄我にカイン。アンドリューに出雲か。何か変わったことは」
「いえ、なにも」
返事をしたのはカインだ。ほかの三人は雑談に興じるでもなく、警戒しているでもなく。
そこに感じた違和感。
「雄我は?」
不思議なことを聞く。授業と同じ位置で座っている。ただし。
「そこにいるじゃないですか」
ロイドの体から漏れ出た電気が放出される。
だというのに雄我は動こうともしない。
「・・・さすがにそう何度も通用しませんか」
口を開いたのは雪風だ。そしてその口ぶりは席に座っている雄我が幻影であることを意味する。
ロイドが驚いている間に雄我は霧のように消えていた。
「雄我は?どこに?」
聞いた内容は先ほどとほとんど一緒。少し足されただけだ。
「大丈夫ですよ。護衛は天音家に断られたんでしょう」
「そういう問題じゃ・・・心当たりは?」
「それはもちろん六人目の王族を探しに」
「やっぱりか」
六人目の王族。その単語を聞いてもそこまでロイドは驚かない。
「知っていたんですか?」
「教頭からね。存在としてあり得ることだと。ネットワークに侵入されたことを五つの王族に連絡はした。でもどこかの家はバーリガンを雇った。つまり誰かが教師が王族に連絡をしたということ。そしてそれぐらいしかバーリガンを雇ってわざわざ許可もとらずに突撃してきた理由がない。まだ王族であることを隠したい。それ以外には。むしろ・・・・・・いやなんでもない」
そこまで言って押し黙った。
だがそこから先を続けたのはカインだった。
「傭兵を雇ったのがそもそも六人目の王族かもしれないですか?」
「なんでそれを」
「雄我が昨日言っていましたよ」
「なんでそこまで・・・いやそうか。王族そして七色英雄。その二つの情報を天音雄我はよく知っている。ならば・・・」