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黒白の魔法剣士  作者: 傘羅栄華
聖都脱獄事件編
6/114

「・・・・・・・やったのか」

「ああ周辺にもあんまし被害はないようだ」

「ならよかった。いや良くはない。あの廃墟も自然に崩壊したって感じじゃなかった、ちょっと衝撃を加えただけだろうが、おそらくやったのは戻ってきたウール。つまりまだ人形制動の魔法使いとウールが野放しになっているんだ。」

「さすがにあの死体の身元判明を待つ必要があるでしょう」

地下から取り出された死体を見ても冷静にパンジーが言う。

「方法はある。」

「まだ何かあるのか?」

底が見えない雄我に対し、カインは問う。

「死体の一人が免許書を持っていた。おそらくアジトはどのかのマンションの一室で借りるには必要だったんだろう。」

「ならそこに向かえば」

興奮するカインに対しパンジーはいまだに冷静だった。

「でも偽装の可能性があるでしょう」

「たとえ住所や名前が偽造だったとしてもこの免許書で借りた記録は残っている。学校長の権力なら時間はかからない」

「なるほど」


「アンドリューから連絡。もともと収入が不明ながら三つほど部屋を借りていたからそのうち調査されるはずだったらしい。そのうち一つに三十分前にフードの男が入っていった場所はここから南に二キロ」

「二キロか時間的にウールかな」

「とりあえず行くぞ。二人は報告を」


「ここか」

「ああアンドリューからの連絡ではいまだに誰も出てきてないらしい。ただ裏口には監視カメラがないから確かなことは言えないらしいが」

「ちょっと待て。それはおかしくないか」

「何が?」

「監視カメラがない出入り口があるならなぜそこから入らなかったんだ」

「そういえば、ほらあれじゃないか・・・今朝このアジトを知ったばかりで知らなかったとか」

「可能性はあるが」

その時だった。二人の頭上に上から爆弾が降ってきた。



「何だ・・・」

「爆弾?青色薔薇!」

落ちてきた爆弾をひとつ残らず切る。

しかし間髪入れずに先ほどより多く落ちてきた。

「くそっ」

「雄我・・・」

「こっちを気にするな。ただ落としてきているだけだ。街中で爆発させるわけにはいかないがこの程度何とかなる。それより上って相手を捕まえてくれ、万が一にも赤は使うなよ。後これ」

雄我がカインにプラスチックの塊を投げる。

「コレ何だ?」

「死体の一人が持っていたカードだ。おそらくこれがないとマンションに入れない、おそらく奴がいるのは四階だ。」

「オッケー!まかせろ」

カインがカードを使用しマンション内に入った後すぐ。爆弾の雨が止んだ。

(なぜだ・・・弾切れか?まずいな分断させられた。結局ベイルが銃と銃弾をどこで手に入れたかわからない状態では正門と裏門をふさぐのが正解だったか。だが時間をかけて人質を取られるわけにはいかないし。重力制御で飛翔・・・いや魔力が足りない。狙ってやったわけじゃないだろうがやけに運がいいな・・・いや俺が不運なだけか。とりあえず報告と裏門に罠を張っておくか)


雄我が裏門に罠を張ったころマンション内では男と少年が対峙していた。

「まさかもうここまで来るとはね。それもドアを殴って破るとは」

「お前はウール=アンダー・・・」

「さすがクルクス高校の連中だ。私がこの場所を知ってから十時間もたってないというのに」

「優秀な参謀がいてね。悪が栄えたためしなし。ここでおまえを倒す」

「できるかな、キミに?」

そういってウールは手元の爆弾を自分のズボンのポケットに入れ、拳を握る。

すなわちカイン対策。もしカインがドアを破った時のように赤の魔法で攻撃しようものならその瞬間爆発。マンション内には平日の午後三時にあまり人はいないだろうが、それでもカインはさける。そう判断しての自爆。

無論カインは承知している。だから赤の魔法は今封印する。これから使うのは彼の得意魔法。戦闘にも日常生活にも役立つ当たりのほうの魔法だが、肝心の精度が悪い。

(確かウールは緑と念動力。とはいっても動かせる範囲は一グラム以下。今脅威にはならない。勝負は一瞬。うまくすればここで自爆する可能性がなくなる)



数秒の沈黙の後、先に動いたのはカインだった。

「はあっ」

右の拳で敵の顔を狙う。

「ふんっ」

顔を右にずらす。それだけの動きで拳をかわし、右足で蹴る。

蹴りを後方に下がってかわす。二人とも喧嘩に慣れた動きだった。

(何かタイミングを計っている?赤は使わないだろうし、確保だとすると関節を・・・いやそれにしては拳を握りすぎ、パンチ以外はしない。そういう構えだ)

(やっぱり慣れてる。当然か・・・喧嘩して高校中退しているもんな。)

(こっちが魔法を使えないことは知っているはずだ。しかし爆弾以外遠距離方法はない。それは相手も分かっているはず。だが魔法を使ってこないということは、ここでは使えないということ。時間の勝負となればまずい)

四十代と十代。徹夜と爆睡。学校と監獄。いくらウールが喧嘩慣れしているといっても、当然監獄内ではできない。身体能力、スタミナ、情報その他諸々当然カインに分がある。お互いそれは理解している。だからまた動いたのはカインだった。

「はぁ!」

「おらっ!」

二人の拳がぶつかる。その後もパンチとキック入り乱れた肉弾戦。

被害のために爆弾を起動させたくないカイン側と遠距離魔法の可能性をなくしたいウール側で思惑が一致したがゆえの答え。

(相手も死にたくないだろうし、爆弾を起動してこないはず。殴り合いなら根性勝負。だが・・・)

(このままでは負ける。こうなったら最後の手段・・・)

ウールがポケットを探る。最後の手段。すなわちライター。

ウールの意識がカインから離れた。さすがにそれは致命的。

(スキを見せた。今だ!)

ウールが背中にためていた魔力を開放する。

「わが身に宿れ、無翼一対(ダブルウインド)

詠唱後カインの背中から半透明で二翼一対の翼が生える。

「なにっ」

驚いているウールの服をつかみ窓を破る。

「成功だ」

《翼対》それは名前の通り自らの背中の服の上から半透明の翼を生やす魔法。

飛行。それは人類の夢。

翼。それは頭上の輪と並び天使の象徴。

飛行。それは鳥類の持つ優位性

翼。それは生活にも戦闘にも便利な能力



バリバリバリ。

「なんだあれ?」

報告を終えた雄我の耳にガラスの割れる音が聞こえた。音の方向、すなわち上に見えたのは二人だった。

「あれはカインとウール!」

「まて。わかった。降参だ。だからゆっくりおろして」

「待てカイン」

地に足がついていないウールと地に足がついている雄我が叫ぶ。

四階から受け身もとれずに背中から落ちたら死ぬ。わかっているからこそのみっともない懇願と相棒に人を殺させないというより、情報を抜き取るために生きててほしい思惑。

しかしウールの必死も雄我の制止もカインの耳には届かなかった。

ただ手を放すだけでも命の危険がある高さから、さらに投げを追加した。

「はああああああああっ」

「光の網」

カインが投げた体を落下地点に生み出された光の網が受け止める。いや受け止めきれずに背中をコンクリートに強打する。

複数回バインドするウールに雄我は聞いた。

「生きてる?」

返事はなかった。

確認しようと近づいたとき横から風を感じた。

「うわああああああああ。止めてくれ雄我、自分では止まれないだーーー」

「はあ?ああもう、青色薔薇、系統一」

光が両手に集まる。左手の魔法剣に魔力を通し、自らの魔力で生み出されたであろう翼に振り回されている相棒を向く。

「受け身はとれよ」

「え」

「はあっ」

二人の少年がぶつかる刹那。刀と剣が二翼一対の翼を切る。

「あああああ」

《翼対》とはあくまで翼を生やす魔法。その翼によって飛べるだけで、翼を失った天使は大地へと墜落する。そのうえウールの時とは違い現在雄我は剣にのみ意識を向けている。

カインもまた地面にぶつかる。さすがに高さがなく制服がその衝撃を和らげているため、ウールほど衝撃はない。

十秒ほどで起き上がったカインが雄我を批難する。

「オレにもあの網使ってくれよ」

「悪い悪い。黒の魔力が切れるぎりぎりだし、白の魔力は温存しておきたい。ていうか《翼対》がつかえるなら初めから言え」

「無色の魔法では唯一の得意魔法だけど、あんまり制御きかないんだよ、あれ」

「熱血ボンバーより翼生やして炎で遠距離攻撃してるほうが強いだろ」

「いやそうだけど、昔からやってるけど上達しないんだよ。それよりウールは生きてる?あとポケットに一個だけ爆弾入ってる」

「さっき確認した。気絶しているだけだ。爆弾は破壊した」

「だが、これで情報は引き出せなくなった」

「そいつなら大丈夫だ。方法がある。カイン=ルーグの得意魔法が《翼対》なら天音雄我の得意魔法は《夢想睡》だ。眠っているなら好都合。ちょっと夢に入ってくる。見張っててくれ、後だれか来たら起こしてくれ」

「ああ、うん」

「夢の世界に」

雄我はコンクリートの上にそのまま眠っていった。



雄我の精神がウールの精神に入る。カインが《翼対》より赤の魔法が得意なように、雄我も《夢想睡》より黒の魔法が得意だ。というより黒の魔法と白の魔法の切り替えや同時使用のほうを重視して鍛錬してきた。また事情により三年間ほど魔法を使っていなかった時期が夢の中に入れる時間を削っている。

睡眠。一説では記憶を整理するためにこの生理現象は存在する。

夢の世界を浮かびながら旅をする。

「いつみてもあまりいい気はしない場所だ。どのみち長くはいられないし」

学校、職場、牢屋、恋愛、就職、喧嘩、喜怒哀楽、二十年前、十年前、一年前。一人の歴史を旅する。

「これか」

雄我が見ようとしているのは約十時間前の記憶。ここに黒幕の記憶があるはず。そう確信しての行動。

『どうしてこんなことを』

『いっただろう約束は守る。それに面白そうなパーティーを考え付いてんだ。協力してくれないか。なにせ人数がいるんだ。それも人殺しに躊躇のないような奴が』

話しているのは二人の男、片方がウール=アンダー。もう一人は見たことのない顔だ。

脱獄犯のリストにはない。廃墟での死体にもいない。

「あいつが黒幕か?どうせならあいつのデータも」

エピソード記憶のエリアから意味記憶のエリア、その中の人名に移動しようとしたとき。世界が揺れる。強制的に目が覚めた。


「雄我、雄我起きろ」

「ふぁ・・・カインか」

「起きたか。バーナードとかいうのが直々に来るらしいぞ」

「それはまずいな」

体についた埃を払いながら答える。あいつの前で無防備をさらしたくはない。

「で、収穫は?」

「ウールと男が話しているところが見えた。顔だけだがな」

「顔か、前進はしているがここからどうする?」

「考えがある。だがあの看守長には何も言うな」

「それはわかったが、顔写真を書いてる時間はないぞ」

「奴に教える気なんてないさ」

夢の世界から帰還した後。三分もたたずに醜悪な男はついた。

「こいつはウール=アンダー!君たちよくやった。やはりロレッタ先生の教育のたまものですな」

バーナードが捕まえた男子生徒二人よりも容姿端麗な女教師を褒める。いまだに授業が始まっていないのを知らずに。

「いえいえ、私は何も」

美しい女教師が謙遜する。いや謙遜というより実際に教えたことなど何もないのだから当然だが、調子のいいバーナードは生徒二人に向き直る。

「ただ、キミたちだけで捕まえたのはいただけないな。今度からは報告だけするように。私がすっ飛んでいくのに」

心の中で二人を毒づきながら、器の大きい男と見られために褒め、注意できる男と見られたいために注意する。

さすがにカインにも嘘だとわかる。

「それは申し訳ない。ただこの男、自分たちがついたころにはすでに気絶していまして」

「気絶していた?雄我君それはいったいどういうこと?」

「さあ、それはなんとも。自分たちは歩いていたら街中で寝ていたウールを見つけただけですから。徹夜明けで疲労していたのでは?おそらく優秀な看守長の網から逃げることを考えると気が休まることもなかったでしょうから」

雄我が大げさにバーナードをほめた。

さすがにカインにも嘘だとわかる。

しかし自意識と承認欲求が天よりも高いバーナードは気が付いていなかった。

「いやぁそれほどでもないよ。私は私にできることをしているだけだ」

バーナードがもはやどこからが胸でどこからが腹なのか他人はおろか本人にすらわからない体を張る。

「奴が握りしめていたカードがあるんですが。カイン」

「ああこれです」

礼も言わずにひったくる。まるでこの世のすべての人類が自分に傅くのが当然と言わんばかりに。

「これは近くのマンションのカードキーのようだが」

「さすがカードを見ただけでそれだけのことが分かるとは」

「いやぁ、ほめすぎだよ」

まんざらでもなく、当然とでも言いたげにもう一度樽のような腹を張る。

「後は、二人で調査をお願いします。自分たちは昼まだ何も食べてないので」

「ああ、任せておきたまえ」

「では」

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