英雄の
火曜日。今日も授業が始まった。
前に立つのは担任。何となく特別感が出る。
「近代史の授業。今日はまだ全体の概要から。千年前に大きな戦いがあって 」
授業は続いていく。とはいえまだ歴史という大きな川を空から大まかに眺めていくだけの時間。
黒板代わりのディスプレイをまだ使ってはいない。
ならば問題なしと判断して雄我の思考はまるで別のところにあった。
内容はもちろん昨日感じた違和感。なぜわざわざロイド=バークは自分たちに会いに来たのか。
(娘に会いに来た割には俺の方に意識が向いていたような・・・まさか・・・いやさすがにそれはないか)
「そして三十年前におこった。バーラスト帝国。今のファーラスト神聖王国で起こった革命。軍が王族をすべて殺して権力をもった。そこでバーラスト帝国を旗印としてイルミナル聖国に反感を持つ国や企業を集めて戦争が」
(・・・革命か。とはいえそれはさすがにないか。そもそも今のところどこにも問題は起きていない。考えすぎの可能性もある)
「世界中が戦火に包まれたその戦いでの死傷者は五千万人。飢餓の被害者は二千万人を超えるともいわれている」
(戦い。ノア=フェン=イルミナルの拉致事件がこの国の外で起きれば外交問題。戦争一歩手前にはなる。戦争が起きれば得をするのは商人。いや傭兵か。退役軍人があの頃を忘れられなくて・・・)
「世界中の人々が十年以上も続く戦争に疲弊したころイルミナルの軍部の頂点は士気の低下を問題とした。そこで考えられたのが英雄」
(英雄になりたい。か。確かそんな奴もいた気がする。いやそもそも道路や施設はともかく。人材やら金やらは何処の国でもまだ元通りにはなっていない。なら戦争自体そもそも起こらない・・・それを知らないアナーキストの頭お花畑が考え・・・いやそもそも俺個人を狙ったと考えれば。日本に敵意のある連中・・・それにしてもまだ何も被害はない。だがロイド教諭はこの学校の中でも指折りの重要人物。そんな人に調査を命じているんだ。あの学校長が・・・そこには意味がある)
「それで英雄の決め方だけど。まあ第一として強さ。ただ悲しいことに完全に実力で選んだわけじゃないの。まあそれも当然。上から順に七人を選んでいたら全員の属性色が分かれていたなんでできすぎ。おさまりがいいからこのそれぞれの属性から一人選んだ。そしてこれが」
ロレッタは懐から円形の金属を取り出した。
クラスからもどよめきが巻き起こる。
それは英雄の証。ほとんどの生徒が実物をみたことはない。
「《七色雄貨》。七色英雄であることを証明するコイン。単純な実力で選ばれたわけじゃない七色英雄だけどそれでも私は誇りに思っている」
《七色雄貨》
その名前が出てきてさすがの雄我も目線と思考が現実に戻ってくる。そしてそのきらめきをじっと見つめる。
英雄であることを証明する証。矛盾しているようだがそれでも当時の人々があこがれた煌めき。
コインを元に戻して。
「まあこれにも偽物が出回っていたりするんだけど」
(考えすぎ。その可能性がすてきれない・・・)
結局午前中に答えは出なかった。
正午過ぎ。食堂で。
今日はアリシアがクラスメイトの女子と食事に行ったため、今日は男四人で円形のテーブルに座っている。
「いやぁすごい輝きを流行っていたな」
「まあどれほど力を入れても絶対に壊れないって話だしな」
「しかし偽物が出回るとは世も末」
「オークションに乗っているのは見たことある。ただ買っている人はいなかったからそこまで馬鹿じゃないと思うよ」
「そういや雄我は見たことあるんだよな」
「そりゃ親が七色英雄だからな」
「ところでさ、七色英雄って最強は誰なんだ。オレ、この学校に来るまで誰一人あったことないんだ」
「そういや僕も絵では何度か見たことある写真は見たことない」
「・・・散々議論されつくしたことだ。黒と白が別格。その次が茶。後はそれ以外ってところだ」
「じゃあロレッタ先生は」
「それ以外。まあ今の俺たちより強いと思うが。そもそも七色英雄は単純な実力で選ばれたわけじゃないからな」
「え、そうなの」
「そういや先生も濁していたね」
「女性の社会進出だの。貴族の箔付けのためだのの影響で七人中五人が女性だ。それもある程度顔で選ばれている。年齢も関係しているし実際に七色英雄より強い人はそれなりにいるよ」
「なんじゃそりゃ」
「となると残りの男二人は何者なんだい」
「建前として最強の女性達じゃなく最強の戦士であり英雄だから、その属性最強はその人しかいない。民はそう思っている。選定する側もさすがにそう思った。ゆえに入れざるをえなかった。権威の低下を避けるために」
「・・・それはロマンあるね」
「戦ってみたいな。さすがに相手にならないだろうけど」
「まあそもそもそのうちの一人は」
その時だった。
校舎を揺らすような大きな音が鳴り響いた。
「なんだ」
『ただいまの異音について確認しています。学生はそこを動かないように』
この学校の生徒ならば知っている。学校長の声だ。そしてこの人が言うのなら動かないほうがいいのだろう。
とはいってもだれになにをいわれたからといって騒ぎが収まるわけじゃない。パニックにはならないが騒ぐ。皆事件に慣れている。
「なんだいったい」
「行ってみるか」
「当然でしょ。絶対に面白そうなことになる」
「やっぱり事件が起こる頻度が違うねこの国とこの学校は。楽しいよ。インスピレーションが刺激され続ける」
問題児四人が立ち上がった時にそれを制する声があった。
「待ちなさいそこの四人」
先ほどまで自分たちしか見ていなかった四人の顔が一人に向かう。
そこにいたのは一時間目ぶりの担任。
「・・・なんでここに」
「十分ほど前に教師の静止を振り切って校内に侵入した人がいてね。そういう状況を知った場合真っ先に見に行きそうな人に向けて直接止めに来た」
階段を見てみるとそこにも一人教師がいた。そして生徒の一人と話している。取り巻きたちが恨めしそうに教師を見つめていた。
三人の顔が次は別の一人に向かう。
向けられた一人雄我は
どうする。と聞くように。
「さすがにやめておきましょう。担任に目を付けられるのは中学の時もそうでしたが。さすがに。いやそっちはもう手遅れかな」
「そういうこと」