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黒白の魔法剣士  作者: 傘羅栄華
プリンスブラッド編
57/114

裏側で

 そこに所属している人がどれだけいるのか。

 もはやそこにいる人たちでもわからない。

 傭兵ギルド

 その場所は退役軍人たちが糊口をしのぐ職斡旋の場。

 ゆえにほとんどは素寒貧。あるいはそういう生活がしたい連中が門をたたく。

 とはいえこの世界にも夢はある。

 上澄みの上澄み。

 上位一パーセントにも満たないがそれは確かに存在する。

完全なる実力主義の頂点。

その王は傭兵ギルド、その最上階にいた。

どかりと自分の強さを証明するように男が高級な椅子に座る。

「あんたが俺に依頼したいっていうやつか」

 どれほどの就職難の時代にも様々な会社を渡り歩くような人や高給取りがいたと同じようにここまで来ると雇用者と被雇用者の関係はひっくり返る。

 大金を積んで礼を尽くして頼んで依頼させてもらう。そこがスタートライン。そこからは傭兵の感情の世界になる。

「ええ私はエーリアット」

 雇用者である老人が名乗る。

「まちな」

 失礼にも名乗りを止める。老人は感情を外になどださない。

「何でしょう」

「悪いが俺が交渉するのは一人だけだ。後ろの連中には金だけおいて降りてもらう。それができなきゃご破算だ」

 老人は少し考えて

「・・・わかりました」

 その声に反応してスーツの男たちがアタッシュケースを置いてエスカレーターに乗っていく。全員降りてたのを確認してから

「依頼内容と期限。条件をきこう」

 堂々としている。そういうところが一階の傭兵とは違う。

 頂点を極めた者の傲慢。文句を言うやつはすべて力ずくで黙らせてきた。

「内容は私の息子を守ってほしい期限は今週の水曜から金曜まで。つまり明後日から。報酬はすべて前払いここにあるすべてのアタッシュケースの中身」

「ふーん」

 そういって立ち上がるとアタッシュケースの一つをつかみ中を開いた。

 そこには紙幣の束が所狭しと並べられていた。

「一つにつき五百万ルーガ。それが全部で十」

 アタッシュケースの中の紙幣。その中からもさらにひと束取り出し、本物かどうか確認する。

 どれほどの傭兵でもこの作業だけは自分の目と手で行う。

「・・・本物か。まああんたほどの人なら用意できる。そしてそんな人がわざわざ会いに来たんだ。よっぽど裏ではあくどいことをやって恨みを買っている」

「・・・」

 この傭兵が伝説の七人のうちの一人でなければ帰っていた。

「冗談だよ。冗談。安心しな俺は金さえもらえればそれ以外には興味がない」

 老人は懐から写真を取り出し

「これが対象の顔。名前はリーバネット。ただクルクスでは別の名前を名乗っていますが」

「・・・あそこにはアレもいただろう。学校長様も・・・それじゃ不安か」

「担任というわけでもありませんから。それに」

「ああ分かっているあいつじゃどうやっても俺には勝てないさ」

「ところで依頼ですが」

「・・・あれじゃあ足りないな」

「というと」

「最近少しこの稼業にも飽きてきていてね。そろそろあがりを迎えたいと思っているんだ。要するに政界進出。それをこの国の王に口利きしてほしいんだ」

 とんでもないことを口走った。

 そもそも選挙はどうするきだ。政治家として能力はあるのか。

 ただ

「わかった」

「交渉成立だな」

 問題はそんなことをはるかに超えてきた。





生徒数千三十二人。そのすべてを御する立場。

 学校長室に。

 ガチャリとした大きな音が空間に響く。その静寂の空間においてそれは何かを告げる鐘のように。

 そのドアを開いたロイドにとってその音は嫌いだった。ただドアを開く。その行為だけで何かの罪を犯した気になる。あるいは散々教師に呼び出された経験が戻ってくるからか。

 鎮座する王。

いや学校長は何かの書類を眺めていた。

いつもながら独特なにおいのする部屋だ。見渡しても何ら特殊なものはない。王の存在かあるいは権力かあるいはただの入るものの心情か。

ロイドは手に持った報告書を手渡し学校長はそれを受け取る。

「これが報告書です」

「ありがとうございます」

「詳しいことはその中に。俺の見立てではまだ五人にはなにも」

「そうですか。やはり水曜日からでしょう」

「・・・いやあ申し訳ありません。あれがなければこんなことには」

「気にしないでください。暗黙の了解は必要があって作られるものです。場合によっては為政者が己の考えで生み出す法よりもはるかに現実に沿っている。誰か一人が利益を搾り取るものではない以上、許容すべきものかもしれません。それにこの学校のネットセキュリティの厳重さを考えるとある程度ゆるみが出ることも。予想できたことです」

「それでも・・・」

「それに早々に撃退された。あいてもそこまで詳しく見たわけではない」

「・・・ならいいんですが。ところでそれは」

 ロイドが学校長の持つ紙に視線をやる。

「これは護衛申請書です」

 さらりといった。聞きなれない単語が聞こえてきた。

「なんですかそれ」

「この学校に関わらず教育機関というものは関係者以外立ち入り禁止です。体育祭や文化祭を除いて。ただこの学校には王侯貴族がいますから申請すれば護衛をつけてもよいというシステムなんですよ」

「聞いたことないんですが」

「このシステムを生み出してから十年以上たちますが今まで受理どころか申請されたことすらありませんでした。縛りが強いんですよ。前提としてまず国家元首の印鑑と大金。それから念密なボディチェック、授業には絶対に邪魔をしない、何か事件が起きたときには真っ先に調べる対象となる。教師の同伴等々。一応入学要項には書いてありますが・・・」

「・・・それが申請された。いったいどこから」

 無言でその紙を見せてくる。

 視線が上から下へと動く。そして一番下に書かれていた名前で目がとまる。

 納得したというような表情をして。

「・・・イルミナル」

「土曜のことを考えればということでしょう。詳細は明日の朝の職員会議で。その間調査の方をお願いします」

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