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黒白の魔法剣士  作者: 傘羅栄華
ボーイミーツガール編
54/114

戦士たち

「ふん」

スペンサーは息を整える前に脇腹の剣を引き抜いた。当然血が出る。その場所からは鋭く冷たい痛みが走る。

刺さりが甘いとはいえそれでも確実に複数の内臓まで届いている。

通常ナイフなら血が噴き出すためそのままだがこれは魔法剣だ。触れずとも敵の意志で動く。それに回復の方法もある。ならば抜くしかない。

「・・・剣術同士の戦いなら使わなかったんだがな」

 そういって懐からまがまがしい模様が描かれたカードを取り出す。そしてそのカードを噛む。

 カードが光り、光の中にカードそのものが溶けていく。

 すると見る見るうちに血は止まり傷はふさがる。一目見て傷の状態を見ると動かしても痛みが出ないか確認するために刀を構えなおす。

 どうやら問題なく機能したらしい。

「剣士同士の真剣勝負。魔法など使うのか。剣士の風上にも置けないね」

 ただ刀を構えただけで風が生まれ、その風は周囲を揺らす。クレアが身を隠す木が揺れた。

「ひぃ」

 驚きのあまり声が漏れ出たクレアとは違い非難された少年。雄我は一切悪びれない。それどころか自信に満ち溢れた表情で言い放つ。

「あいにく俺は剣士じゃない。魔法剣士だ。生まれたときからね」

 雄我も刀と剣を構えなおす。

「言い訳だな。それにさっきの魔法。君の年で『白劇』を使えるのは大したものだ。だが相当魔力を消費した。単純な刀の強さはほぼ同じ。刀鍛清廉に匹敵するとは驚きだが剣士としての実力は君じゃ俺には届かない。諦めなよ。少女のために戦うのがそれほどか。もしかして惚れたのか」

 スペンサーの言うことももっともだ。魔法剣士が魔力を失ったときそのときの戦闘力の喪失は単純に半分ではない。戦力は二割ほどまで下がると言われる。それに少年には少女を助ける義理はない。金で雇われたわけでもない。少女に恩があるわけでもない。当然惚れているわけでもない。

 そしてもう一つ。『刀鍛清廉』

 先ほどのファミレスでクレアは雄我に聞いていた。追ってくる人その中でも最悪の可能性。伝説の刀。

 『刀鍛清廉』。千年ほど前に存在した伝説の鍛冶たちが生み出した百振りの刀。そのすべてが刀としてありえないほどに鋭く頑丈かつ優れた剣士でなければ触れられずそれぞれに特殊な能力が備わっている。

 触れることそれだけで優れた剣士の証明となる。そしてそれを実際に使用している人など世界中を見ても三十人もいない。

 その刀を見て悟れないのならそもそも勝つことなどできるはずもない。

 刀を抜いて時点でクレアにもその予感はあった。だが考えないようにしてきた。

 だが雄我はわかっている。わかっているうえに挑んだ。なぜなら

「残念だが俺は誰かのために戦ったことはない。俺は俺のために戦う。約束したからな。それにな、俺は死ぬまであきらめない。だから俺を止めたければ殺して見せろ」

 絶望的な力の差。それでも笑う。

 退く気はない。

「後悔するぞ」

「構わない。それも人生だ。それに『仲界』ともう少し戦ってみたい」

 ここにきてさすがに動揺したのかスペンサーが持っていた刀が動く。

「わかるのか」

「意思一つで刀身が曲がり刀身にどんな変化があっても重心が変化しないそういう能力だ」

「・・・そこまで知っているのか。存外素人ってわけでもないらしい。そういう君の刀も魔法剣も普通じゃない。剣としての強さだけじゃなくて能力もち。それも両方とはかなりレアもの。そのうえ普段はネックレスの形になるなんて聞いたことがない。それなりに値が張るはずだろう。君は何者なんだい」

 ようやく感心したようだ。

「あいにく非売品だ。刀鍛清廉とは違ってね」

「なら奪い取るとしますかね」

 それ以上は言葉もなかった。

 あるとすれば剣を極めようとした者の本能。

 二人とも本気だ。速度が気迫が踏み込みが違う。

 ガキン。

 ガガガガガガ。

 ザジュ。

 それは示し合わせた劇のように。抜き身の殺意と凶器が二人の隙間をすり抜ける。

 今のところ傷が入ったのは服だけだ。血など一滴もこぼれていない。皮に当たる前に躱すか受け止めている。

 二人とも先ほどの動きとは違う。

 いつ決まってもおかしくない。そんなクレアの不安とは別に。

 雄我は刀と剣をクロスさせスペンサーの刀を受け止める。

 スペンサーはそのまま刀を上に滑らせ刀の上下を半分の位置で垂直に曲げる。

 躊躇なく頭を狙う。だがその先端は空を斬る。雄我も中界を奇跡と不可能で上に押し上げた。

 二人の体制が崩れる。がだそれも一瞬。

 クレアが瞬きをしたその瞬間。二人は打ち合っていた。

 魔法剣『不可能』が『中界』をおしとどめ。その隙に日本刀『奇跡』がスペンサーに迫る。いままでと同じ上から下へ。捻りもない。ゆえに早い。

するりと躱す。そして魔法剣を弾き飛ばす。

 そして日本刀同士のつばぜり合い。

 ギギギギギギギギ。

 今度は雄我も日本刀を両手に持っている。ならば力の勝負。

 魔力を使わぬ刀どうし、剣士同士の実力勝負。

 まずいとクレアは思った。なにせ単純な剣同士の戦いなら勝てないと雄我本人が言っていた。

 だがクレアの不安とは別で雄我とスペンサーの刀同士の戦いは拮抗していた。

 理由は複数。

一つ目は剣術。スペンサーは一つだが雄我は二刀流の時と一刀流の時で二つの剣術をとる。そのために単純な年季の問題ではなく二刀流時の雄我の剣の腕は一刀流を極めようとしたスペンサーに及ばない。習熟難易度そして使い分けるタイミング。それだけ純粋な剣術は落ちる。だがその分雄我はスペンサーの剣術に多少なりとも慣れはしたがスペンサーは雄我の一刀流の剣術には慣れていない。それどころか存在していることさえ知らなかった。二刀流はあくまで二刀流であり一刀流とは何もかもが違う。単純に両手に持てばいいという問題では決してない。

二つ目は刀の能力。二人とも普通の日本刀ではない。能力がある。当然それは戦法や得意不得意、そして弱点と密接にかかわってくる。だが情報アドバンテージにおいてスペンサーは完敗している。剣士にとって『刀鍛清廉』は憧れであり知らない剣士などいやしない。ゆえに能力や対策は知れ渡っている。だがスペンサーは雄我の『奇跡』の能力を知らない。本来ならそのハンデは『刀鍛清廉』の切れ味一つでひっくり返せるがどうにも『奇跡』は切れ味だけでも『刀鍛清廉』と互角。そして能力は必ずある。

三つ目は魔法剣。いつ動くがわからない以上そちらにも意識をやらなければならない。視界の端で耳の奥で探り続ける。当然それは一流の剣士の世界では大きい。

ガギン。雄我が両手に持った刀をふりぬきスペンサーが受け止める。受け流すこともできたがそれよりも相手に剣の能力を使わせる方がいい。

だが当然雄我もやすやすとは使わない。

「っ」

 声が漏れ出た。出すつもりなどなかったがそれでも出てしまった。

 それほどまでに衝撃が大きい。

(さっきの魔法と使った時より速い。これが本気か)

 そしてスペンサーは『奇跡』を見てみるが

(刃文。鍔。どちらにせよ見たことのない刀だ。これだけの刀なら知名度も・・・いったい何者だ。それにさっきから魔法剣が纏っていた以外魔法を使っていない。魔力切れ・・・いやそれももう少しあるはずだ)

 その時スペンサーが感じていた重さが急になくなった。

「え」

 背後にある影から出てきた。その体と刀が。

 そしてスペンサーの首に刀が突き付けられた。


「俺の勝ちだ。刀を置け」

 その声によどみはない。斬らなかったのはそちらの方がよかったから。

 ガチャン

 スペンサーは刀を手放し両手を挙げた。

 刀が地面に落ちる。それは決着の合図だった。

「勝った?」

「・・・降参だ。でもいいのかい」

「このまま殺しきるのはおそらく不可能だ」

「まさか。俺はその刀の能力をまだ見ていない。それに先ほど使ったのは・・・」

「俺はただの魔法剣士じゃない。黒白の魔法剣士だ」

「ああそう・・・そういや聞いたことはあったな・・・手に内をさらしすぎたか。本来ならそれでも勝てるんだが。君は少し・・・」

「紙一重ですよ。いやそれどころかおそらく実力ならあなたのほうが・・・」

「それでも俺の負けだ。行きなよ。まだ旅は終わってない」

「ええ。それはもちろん。行くぞ、クレア」



 あと一キロ。去っていく若人二人の背中を見送ってからスペンサーには疑問があった。

「今の剣術。あまり見れなかったけどあれは・・・まさかな。似てはいるけれど違う」

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