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黒白の魔法剣士  作者: 傘羅栄華
ボーイミーツガール編
52/114

夢旅

 電車と構内の隙間をまたぐ雄我が男二人とすれ違う。

 それを合図にクレアが別のドアから外に出る。

 焦らない。急がない。慌てない。あくまで自然に。ただの一般人として。

 少女に冷たい汗が背中を伝う。

 当然だ。もしかしたらその場で捕まるかもしれない。

 だがそこには誰もいない。

 当然うれしくなる。だが表情は変えない。あくまで平常。

 すれ違う三人。

雄我と男二人とは二時間ほど前にあったが二人の表情はすれ違う前と後で変わらない。

傲慢な男は不機嫌を隠そうともしない。

卑屈な男も隠そうとはしないが不機嫌が漏れ出ている。

「おおい」

 大きな声だ。公共の場所だというのに。格下だと思った他人の気持ちなど考えたことない。

 たとえそれが上司の管理する場であろうとも。

 恫喝するように声を荒げ卑屈な男へ命令する。

「別の」

「へい」

 雄我とクレアが座っていたのは一両車。

 案の定二人とも一番前から乗ってきた。

 正確にはほかにも見張りいるのだろう。

 雄我が六両編成の一番後ろに目を向けているとそこにはMISIAを見てるわけでもない。ただ黙って時間を潰しているわけでもない。四、五、六両の扉をにらめつけている男が一人。

(さすがにいるか。だが二人が乗り込んだ一両者には意識が向いていない。好都合だ)

 不機嫌さを隠そうともせず傲慢な男が優先席に座り込む。

「あーあ」

 これこそが雄我の戦略。

 男三人。効率でいえば一人がすべてのドアを見張りほかの二人は三両目と四両目に乗り込み、前に後ろに探していくのが最も効率の良い。だがそれはしない。

 そこまで頭は回らない。

 それは二人の性格か。あるいは投手の技量か。

 雄我が電車の方を振り返る。

 そこで座り込む傲慢な男を見て。

(眉さえ動かさない。青色薔薇(アレ)は目立つからな。渡して正解だったな。東洋人の顔の区別などつかないか。あるいはそこら辺の人などどうでもいいか。こっちの貴族の集まりには参加してなかったからな)

 その時構内放送があった。

『ただいま緊急事態により、この駅で五分間停車いたします』

 聞きやすいように調整された機械音声ではなく。聞こえにくい肉声だ。

 雄我はほくそ笑んだ。

(五分か。離れてそのうえ座ったこのチャンス・・・五分まあそんなもんか)

 考える時間など無駄だ。

 いかに夢と言えど。

 雄我も手早く椅子に座る。少し離れている。だがすれ違ったときにすでにそれは埋め込んでおいた。

「ぐおおおおお」

 地響きのような声がした。

 周囲が一斉に音の方向を見たが皆そっちを見ると納得した。

 太った男が腕を組んで眠っていた。

個人のプライベートルームのように遠慮など微塵も感じられない。ほおっておけばそのまま寝転がりそうだ。

(時間はあまりない。それにいつもう一人が戻ってくるかわからない)

 周囲に聞こえないように声量を抑えて。

「記整の夢旅」

 ふわりと雄我の肉体が浮いたような感覚に包まれる。


「どこだ」

 記憶の中を旅する。案の定ろくでもない。

 

 だました記憶。だまされた記憶。

 威張った記憶。威張られた記憶。

 陰口を言いまくった記憶。自分の悪口を偶然聞いた記憶。

 一方的に愛した記憶。決して愛されなかった記憶。

他人の罪を糾弾した記憶。糾弾した罪を自分は侵した記憶。

 自分が生きるために仕方ないと言いながらその中で必要のない犠牲を強いてきた。

 世間が悪いと言いながら。環境が悪いと言いながら。自分では決して壊そうとはせず。

 己の保身と利権にかしずいた。

 完全な善では決してなく。完全な悪でも決してない。しかし中途半端な悪ではあった。中途半端な善ではなかったのに。


「虚しいな」

 金などいくら渡されても自由でありたかった雄我には決して許容できない人生。

 おそらくクレアもそうなのだろう。ゆえにすべてを捨てて逃げだした。戦いこそしなかったがそれでも己の意志で変えようとした。

 とはいえ、雄我の目的はそんなものではない。

「ここじゃないか・・・問題はどっちだ」

 雄我が夢の中で探りたいのは夢に見た景色。

 つまり剣士について。

 顔、体つき。剣。剣術。戦法。魔法。

 知りたい情報は複数。とはいえもともと望み薄だ。

「あれか」

 泡の中で剣が見えた。

 いや剣というより刀。それにあれは・・・


 次の瞬間。雄我は駅の椅子の上で目を覚ました。

「っ」

 寝起きとはいえ雄我の思考はクリアだ。もうここには用はない。

 人の間をすり抜け、改札に向かう。

 注意深く今この場を見ている人がいればその動きは不自然。

 電車から出たかと思えば椅子に座って眠りこけて数分ほど眠って改札に向かっていった。

 だが探している二人も見張りの一人もそんな動きには気付かない。


「せんぱーい」

 卑屈な男が傲慢な男をゆすっている

「んー」

 傲慢な男は見るからに不機嫌そうだ。

 それは休日に仕事に呼び出されたように。

「見つかったのか」

「いやーいないっす」

「なにーーー」

 大きな声が電車を揺らす。

「ひぃ」

「見つかるまでで探せ」

「もう無理っすよ。そろそろ列車が動きます。とりあえず出ましょう」

「ちぃ」




 雄我が駅の前に降り立つ。

 周囲を見渡してみてもさすがにクレアの姿はない。

 イルミナル国とはいえここは端の端。

 人っ子一人いないというほどではないが。それでも寂れが伝わってくる。

 駅前という好立地にも関わらずだ。ビルどころか定食屋すら見えない。

「外国の田舎に興味はあったが、さすがに田舎過ぎたか」

 渡しておいた杖をもとの居場所。もとの形に戻す。

 音もなく杖はネックレスに形を変えた。

 飛んできたその方向は

「山?それも整備されてない」

 人がいない方に向かいたい。おそらくクレアの考えはそうなのだろうが

 問題は怪物が出るということだ。クレアが自分の足で行ける範囲に住んでいる怪物など実力、性格ともにたかが知れているが、それでも火を吐き牙を氷をつけられる怪物は動物とは危険度が違う。戦い術も持たずに入っていい場所ではない。

「家どころか都会には基本的に怪物はいないからな。さすがに取って食うことはないと思うが」

 日の当たらない緑の中に歩いて行った。


 人の手による舗装などされていない。とはいえ怪物にも動物にも生まれつき体積の大きい種類は存在する。ゆえに必然、道のようなものは存在する。

 そしてそこには明らかに人の靴と思われる足跡が存在した。

 コンクリートの地面と鉄の列車の中しか歩いていないため自信はないが。

 さすがに靴跡が新しい。

「まっすぐ進めばいいとはいえ。襲われて逃げてなければいいが」

《何か探しているのかな人の子よ》

 声のした方を向いてみると怪物。種類は。

「バーミントか」

 飛行種の怪物。バーミントが話しかけてきた。

 バーミントはその青い翼をひるがえして。

《ええ》

「さすがに人の子はないだろう。バーミントの寿命設定は四十年だがどう見ても若い。おそらく十も立ってないだろう」

《バレましたか。人相手なら騙せると思っていたのですが》

「特殊でね。まあいい。人の少女をみなかったか」

《・・・ああ、あの少女ですが。かなりはしゃいでいた》

「・・・見たことない場所だろうからな。どこへ」

《それなんですが・・・》


「何やってるんだ」

 雄我は今日複数回あきれたがさすがに今ほどではなかった。

 目の前の少女は右腕の骨を折っていた。

「・・・あはははは。ころんじゃって。でも大丈夫服はそこまで汚れていない」

 痛みで顔をゆがめながらも胸を張る。

「受け身を・・・仕方ないか・・・腕を出せ」

「うん」

「白き救急」

 少年の掌から出た柔らかな白い光が少女の骨と痛みを治し癒していく。

(昨日、白を使っていたらやばかったな)

 そんなことを思っていると

「うん。大丈夫」

 試しに腕を動かす。見る限りでは傷もなく。痛みもなさそうだ。

「まったく・・・それより、父親に剣士の知り合いはいるか」

「うーん。あまり父親が普段何をやっているのかあんまり知らない・・・隠れているときにあの二人が何か言っていた気がするけど・・・」

「そうか」

 先ほどの覗いた夢を思い出す。

 顔はあまり見えない。おそらくあの傲慢な男は興味がないのだろう。

 だがそれでも立ち姿で分かる。強敵であると。

 そして朝見た夢の限りなら戦うことになる。

 おそらく剣士としては相手の方が数段上。

「おーい」

 急に無言になった雄我を心配してクレアが声をかけてきた。

「ああ、悪い」

「もしかして回復の魔法を使いすぎて」

「それは大丈夫。さすがに骨折を治すとなるとかなり魔力の消費はあるが、こっちは最近使っていなかったからな」

(こっち?・・・ああ適正のこと。確か属性のほうが魔力切れを起こしても適性の方は問題なく使えた)

「どうするの?また電車?」

「いや徒歩だ。近くはないが歩けない距離じゃない。それに今頃あの駅には人が集まっている」

「え、なんで?」

「改札には監視カメラがあるんだ。そこを通った時点でシステムに引っ掛かっている。おそらく駅の周辺を探している」

「ならこの森を通っていけば」

「大丈夫だろうな。人を隠すには人の中。つまり街中を探している」 

 二人は緑を歩き出した。

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