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黒白の魔法剣士  作者: 傘羅栄華
ファイブアラウンド編
41/114

十七話ゆえに

「昨日の事件でクルクス高校を狙ったのは単純に学校長の権力目当てではないと思うんだよね」

午後五時半

 少年と青年はクスクス高校前にいた。二時間ほど前ニューロ家を出た際にこの学校が怪しいとラビングが言い出したからだ。そこからここまでラビングの会社の車で来た。

「そういやエーテル製の車なんですね。電機メーカーですし自社製品しているパーティフルかプラスだと思ってましたけど」

「基本的にはこっちの方が便利だからね。山の中に入るわけでもないなら基本的には・・・さあてとりあえず近づいてみたけれど・・・」

「どうします?警察にせよ連局にせよ一通り調べられた後ですから手掛かりのようなものは・・・」

「まあそうだね。俺たちは探偵でも医者でもない、俺だけなら昨日の事件とすら関係のない。ただ自分の会社が脅迫された事件を追っているリーマンだからね。できるのなら学校長に会いたいけどさすがに学校側としても得はないしアポなしじゃ難しいかな」

「じゃあさっき乗っていたニュースの内容に関して探ってみますか?」

「『ニューロ家の目的は昨日と同じ』か。確かアンドリュー君の聞いた話では敵の目的はケレブレムアニマ」

「ええ」

「噂としてなら聞いたことはあるけど実体は・・・」

「昨日一緒にいた友人によると内容は誰も知らない。噂の段階では人の脳のすべてが分かるノート。ただ実際に生神とまで呼ばれた医者が書いたノートがあるのは事実らしいですよ」

「…その友人はいったいなんでそんなことを」

「王族ですからそういうことに詳しいのでは?」

「王族・・・確かあの医者の遺留品の管理は弟子と友人と国が共同だったか・・・その友人と連絡は?」

「さっきやってみましたが通じないんですよね。かなり問題ごとに巻き込まれやすい体質みたいなんで今も何か・・・」

「王族・・・そうか王族か」

「何かわかったんですか?」

「確かアンドリュー君は昨日学校中を千里眼で視たとか」

「ええ、とはいっても校長室とか寮はガードがありますから見えませんでしたけど」

「その中で最も権力の強い親を持つ子は何処に?」

「権力ですか・・・貴族、いや王族・・・イルミナル。確か近くで戦闘が起きて・・・そうだ加勢しようとしていたけど電気の檻があって近づけなかったんだ」

「電気の檻・・・ロイド=バークか・・・七色英雄(セブンカラー)に匹敵すると言われた歴戦の猛者・・・」

「なるほど・・・狙いはノア=フェン=イルミナルだったがたまたまそこに重要度でいえばほとんど同じロイド=バークがそこにいたわけか・・・相当幸運だね。ただそのせいで敵が何を最も狙っていたのかわからなくなった当たりどこまでも独りよがりな幸運ということか・・・やっぱり王族に生れ落ちる奴というのはちがうね」

 ラビングは心底納得したような顔をした。

「ってことはそこでロイド先生と戦っていた人というのは」

「ニュースを見る限りリーレの陣営にもある程度人の精神あるいは思考を操れる人がいる。てことは昨日戦っていた人というのはリーレと学校側の黒幕二人に操られていたということか。どっちが主体なのかそれをお互い知っていたのかは知らないけど。リーレは王子の拉致を学校側の黒幕はジャマ―を探れるロイドの排除を狙っていた。おそらく学校側の黒幕が主体。リーレの家はあくまで五感に関する家系。精神操作を適正にしていた学校側の黒幕には勝てない。おそらく暗示に近い。最初に出会ったどちらを狙ってもいい。リーレとしては昨日ではなく今日こそ本命。この国に住んでいたからこそ王子をさらうという考え方ができていたんだろう。ということは学校側の黒幕の正体はただの教師ではないね。生徒からは立場も名前も認識されている。学校のどこにいても不思議には思われない。ただあまり生徒の余暇には詳しくない。おそらく養護教員かな」

「養護教員・・・確かヘクターとかいう名前だったような・・・」

「おそらくその人が学校側の黒幕か・・・しかし昨日学校を覆った魔法がロイドに効かなかったところからして実に運命的だ。そのあたりが同じ金持ちの家に生まれていても長年兵士として戦い英雄と呼ばれるようになった人間とスペックだけを積み上げてきた人間の違いか」

「問題はその戦っていた人ですね・・・電気の檻の中は見えなかったので・・・」

「・・・おそらく純粋な被害者だろうから助けてあげたいけど顔も名前もわからない。第一警察がもう・・・」

「・・・」

「まあそれより今はできることをしよう。連中の目的はわかったノア=フェン=イルミナルだ」

「千里眼を使ってみます。でも」

「寮の中にいた場合か。ここから直接は・・・確か男子寮ならアンドリュー君は」

「男子寮なら問題なく入れます。さすがに王子とはいえ別の寮には入れないと思いますから。それに学年とクラスで大まかな部屋はわかりますから内部から千里眼を使えばある程度は・・・あれ何だこれ・・・」

「どうかしたの」

「ここから東に二百メートルほどの地点に何か戦闘の跡があるんですよ。それにこれは風?いやでもこれは完全に人の意志で動いて・・・」


八十一話

「風ということは緑・・・あの家の生活レベルを鑑みるとそう何人も傭兵を雇えない。そしてここまで出てこなかったということは、おそらく切り札級の戦力かあるいは」

「リーレ=ニューロ本人!」

「とりあえず俺はそこに向かう。キミはこのことと昨日ロイド=バークが戦った相手のことを学校長に伝えてくれ、それぐらいなら時間はあまりとられないしそもそも学校側も昨日の事件の関しては調査はしているはずだ。早く伝えればもしかしたらその相手も救えるかもしれない」

「はい」

「終わったらまたここで」

 二人は別の方向に走り出した。


「はぁふぅ」

 ラビングが走る。とはいってもついた後は戦闘になるだろうからあまり体力の消耗はできない。あくまで小走り程度。息を整えながら走っている。

(ひさしぶりだな)

 ラビングは笑った。その表情は昔を懐かしむようだった。

「そろそろか」

 百五十メートルほど進んで壁越しに向こう側をのぞいてみる。すると・・・

 そこにあったのは複数の絵が描かれた壁とその中を明らかに意思をもって動いている風、そしてところどころコンクリートが傷つけられている。

(なんだ、あれ?)

 一人が生み出した光景とすればどれほど考えても意味不明であったがそれを戦闘の後と考え思考は別に移る。

(あのコンクリートの切り傷は剣じゃないな。斧・・・そしてあの壁・・・茶かいやそれだと壁に複数の絵画にサインまでかかれてある理由がわからない・・・まあいいそれより一番の問題はあの風)

 ラビングが考えている間にも風は壁の間を動いている。さながら回し車を走り続けるハムスターのようだがあの風は人間が魔法で変身していると考えるとその意図が理解できない。

(何かを待っている。この状況ならプリンスか。いやそれならこんな目立つ真似はしない。それにどう見ても戦闘の後)

 『戦闘の後だと考えると誰と戦ったか』という問題になる。普通に考えれば王子の護衛だが護衛はこんな特殊な魔法は使わない。それに何よりどう見ても剣ではない武器が振り下ろされたコンクリートが割れた痕。

(確か騎士は剣と盾。精鋭でも槍のはず・・・一般に知られていない特殊な部隊?いやそれよりもあの疵のつき方は・・・それに状況を考えるとあの風側が勝利している。ならここにとどまっているのはおかしい。『王子を連れて逃亡している』でも『騎士がどうにか逃がした王子を探している』わけでもない。王子と何か秘密の取引のための合図・・・あるいは何かの待ち伏せ・・・まさか)

 その時ラビングの頭の上から大木が降ってきた。

 ドガン。大木が夕日を受け止めるコンクリートの上にぶつかり、その破片が『自色のペン』で生み出されたサイン入りの壁の色を変える。だがそこに攻撃の対象であるラビングはいない。

「偉大なる秘術(アルスマグナ)

 おそらく相手の意図にもう少し気付くのが遅れていればただでは済まなかっただろう。

ラビング=オードはすんでのところで相手の意図を察し魔力で生み出されたであろう壁と場所を入れ替わった。

「ぎりぎり。いやそこまでではないか・・・それでも気配を消すのは結構自信あったんだけどな・・・まあよく考えれば聴覚を強化されたら意味はないか」

 攻撃が失敗したというのに風はその姿を現さない。

 魔力を大幅に消耗するのにだ。

 あえて考えを声にだす。

「『風撫化』か。段階はいろいろあるけどそれなりに時間をかけているところを見ると一番下。物理攻撃無効はない。もっとも当たらなければ意味はないけど」

 風は動かない。ラビングが物陰から見ていた時と同じようにその場をぐるぐると回っているだけだ。とはいて相手に攻撃の意志がある以上ラビングも動く。

「まあこれでいいか・・・誰かは知らないけど借りるよ。偉大なる秘術(アルスマグナ)

 近くにあった先ほどとは別の壁を動き回る風に狙いを定めて飛ばす。

 音もなく壁は空間を跳躍する。

しかし風は寸前でその身をひるがえし躱す。

だがラビングの本命はそこではない。

「っ」

 風がその動揺を示すように揺れる。なにせ躱したはずの壁が動いたのだから。

「ウッ」

 声が漏れた。

 だがそれでも動いた壁を躱す。

 そして今度こそ確かな声が出た。

「なっ」

 壁の向こう側から人が出てきた。

「はぁ」

 壁の向こうの人影が体勢を変える。蹴りの姿勢へと。

 だがそれでもその蹴りを風は躱す。

「ふっ」

 だがそれもまた・・・

 人影の主であるラビングは壁をけり風に接近する。

 ラビングの足が風を切った。

「・・・手ごたえあり・・・だが」

 風は地面にぶつかり初めに飛ばした壁の陰に隠れる。

「あたりはしたがクリーンヒットってわけじゃない。それにあんたの家の前の門番にそれなりに消耗はさせられたからな」

「・・・」

 相手は何も語らない。

 音がしない以上『風撫化』は解除している。そしてラビングの耳には息を整える声が聞こえてきた。

「お返しだ。偉大なる秘術(アルスマグナ)

 ラビングの周囲にあった二つに割れた先ほど飛ばした壁を相手が隠れている壁の奥に向かって飛ばす。先ほど自分がされたように相手の頭の上へと。

「・・・」

 バキン。と大きな音がした。間違いなく壁はコンクリートの地面にめり込んだ。

 だが。

ビュロロロロ。

 風が吹いている。自然のものではあるがその中に別の風が混ざる。

「そこか」

 吹いている風が少し曲がる。それは風というより水面に浮かぶ波紋のように。一方向に動いていたはずの風に別の方向からも吹きそのすべての流れが変わる。

 一方向なら読みやすい。二方向でも頭の良さと経験があればできる。緑が属性であるラビングなら問題はない。だが多方向となると難易度は別次元に変わる。ランダムに動いた風が無秩序に動いた風にぶつかりさらに制御不能となる。

 これらすべてを認識することは生み出した本人かこの場で起こるすべてを観測するかしなければ不可能。

 風はラビングの服と体に当たる。

 自然のものだ。ダメージはない。だがいつ本命来るのか。

「そこか」

 違和感があり、左斜め後ろにラビングの体で一番近かった肘を入れる。

 だが風は体を通り抜けラビングの服を切る。

「偉大なる秘術(アルスマグナ)

 とっさに魔法を発動し距離を取る。

「物理攻撃無効。なるほど上げてきたか。第二ラウンド開幕かな。とはいってもあんたが風を起こし続ける以上俺は何処にでも逃げられるけどまだやる気かリーレ=ニューロ」

 その声に返事をするように風が強くなる。

「逃げる気はないみたいだね。上等だ」

 風が襲ってくる。肌を優しくなでるはずの風が肌をその奥を傷つけようと襲ってくる。

 その手では風はつかめず捕らえられない。霧散するだけだ。

 それでも勝算はある。

 なにせラビングもまた緑を適正とするものだ。

「風よ」

 捻りなど何もない。ただの掌から風を出しただけだ。

 だがそこに込められた魔力量は普通じゃない。

 風を押し返す。

 風の中でもひときわ大きい風がラビングの発した風で揺れる。

「やっぱり物理攻撃に強くなった代わりに魔法攻撃には弱い」

 このまま押し切れる。ラビングがそう思ったとき。風の主は詠唱した。

 『風撫化』は声に出していなかったかラビングが聞き取れないほど小さな声で詠唱したというのに。

「風が今この世に吹く(グリーントルネード)」

 地面から風が吹いた。いや風というより突風あるいは嵐と呼ぶべき緑色の風が地面から空へと吹き荒れた。

 問答無用でその場すべてを吹き飛ばす風が男の体を浮かせる。

「な」

 ラビングの体が空を舞った。またこれほどの全体攻撃。アルスマグナで逃げられる範囲はすべて風が吹いている。

 だがこれほどの一撃消費魔力も増大。ゆえに今は耐える。

「棘の鞭」

 薔薇の茎が延び片方はラビングの体を縛り、もう片方は・・・

「捕まれるところがない!」

 目で見える範囲で重そうなもの。

 例えば魔法で生み出されていた壁、マンホール、看板。巻きやすそうなすべては同時に宙を舞っていた。

「何かないか」

 探す。この際少し巻きづらくてもいい。

「あれしかないか」

 視線の先には斧で壊されたと思われるコンクリートが割れている跡。そのコンクリートの端にしがみつく。

「滑る・・・」

 棘はコンクリートに刺さるがそれでも滑る。だが懸命に耐えていると風は収まった。

「うわっと」

 風がなくなりその体は自由落下する。地面を見ると壁やコンクリートの破片が多数。当然こんなところからこの高さで落ちてはただでは済まない。

同時に落ちてきた壁の破片を一時の足場として高所から着地する距離を少なくする。

 それよりも嫌な予感がした。ラビングの感覚では相手はもう少し魔力に余裕はあった。温存の考えがあったとしても風がやんだということは。

 地面に足が安全についたことを確認してから風のあった場所を見る。

「いない・・・」

 逃げられた。もともと逃げるための大技だったのかそれともこのままではらちが明かないとして体勢を立て直すことにしたのか。

「なんであれまずいな。どこに逃げたのかまるで分らない」


ラビングが敵との戦闘が終わったころ校長室では

「なるほど。そういう事情ですか・・・ロイドさんからもどこか普通でないと聞いてましたが」

「それでは」

「ただ本人の話を聞いてみたいことには何とも。いま現在本人がどこにいるのかはまだ。昨日の事件の主犯であるヘクター元教諭も知り合いから紹介されただけでどこの学校に在籍しているのか知らないらしいですから。警察が逮捕する際に止めることはできますがそれでもその少年の今後には影響がある」

「今後に影響?ああそうか逮捕されたとなればたとえ罪にならなくても」

「ええこれからの人生。少なくとも学校生活内で偏見にさらされることは確実でしょう」

「なるほど・・・」

「それに変なのは警察です」

「まだ見つけていないことですか」

「本来なら午前の内に見つけていてもいいはずなんですよ。このあたり、あるいはこの国の高校を調べていけばいずれはたどりつきますから。たとえ手掛かりがロイド教諭とカイン君の証言で生まれた似顔絵と使用魔法しか手掛かりがなかったとしても黒が属性の人は単純計算で七分の一。その中で重力操作に特化した人なんて複数人いるとも思えないんですよ」

「じゃあなんでまだ逮捕されていないんですか」

「その少年が記憶を取り戻して逃げている。あるいは誰かがかくまっている。あるいは何か警察側でも事情がある。といったところでしょうか。あまり人員をさけない。あるいは普通の人材は使えない」

「それはまずくないですか・・・」

「・・・まあ問題ありませんよ。実はある人から『昨日の少年がそこに行くから時間を空けておいてくれ』と言われまして。予定ではもう着くころなんですよ」

「それなら」

「ロイド教諭を呼びました。そこで話に問題がなければその少年は無罪放免。この事件のことでその少年を調べることは違法となります。本当はカイン君もお呼びしたかったんですが連絡がつかなくて」


 アンドリューが学校長室を出て待ち合わせの場所に戻った時、そこにはすでにラビングがいた。

「どうだった?」

 アンドリューは笑顔で答えた。

「昨日の少年は問題ないみたいです。実は・・・」

 学校長室での会話をかいつまんで話す。

「なるほど。確かにそれは問題なさそうだね。無関係な人とは言えやはり悪人でもないのに裁かれるというのは目覚めのいいものじゃないから」

「それとどうしたんですかその傷・・・」

 アンドリューがラビングの服と体についた傷を聞く。

「ああこれ?さっきの人と戦いになって逃げられちゃって」

「そんなに強かったんですか」

 ニューロ家前での戦闘はアンドリューから見てラビングの強さは圧倒的だ。

 だが相手はそんなラビングを傷だらけにしてさらに逃げおおせたという。

「いや。風で服が切り裂かれているからそう見えるだけで傷は大したことはない。まだ本気も出してないし」

 考えてみれば発表会の準備から始まりラビングはそれなりに多忙だったはずだ。

「どこに行ったとかは」

「かなりの大技を使用されたからね。相手もそこまで離れてはいないとは思うけど手掛かりはないに等しい。さすがに千里眼でも広い。こうなったら」

「こうなったら?」

「自分たちらしくネットの海を探るとしようか」

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