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黒白の魔法剣士  作者: 傘羅栄華
ファイブアラウンド編
38/114

十五話つまりは時間

午後四時。

「で、ここ?」

 雪風は目の前の建物を見つめている。正直なところ予想はしていた。

「ええ」

 ピアーナはさも当然の成り行きといった顔で頷いた。おなかが減ったら何かを食べに行く。眠くなったら眠る。それだけの話だ。ピアーナ=クインにとって捜査に必要とあればその地に向かう。たとえそれが政務中の王宮であろうとも大型の蛇や鰐がうろつく無人島であろうとも。

「まさか入る気?」

 雪風としても数時間一緒にいただけだがピアーナの思考はわかってきている。

 この人はやる。

「知らないの?連局は手続きとか必要ない。まあ見つかったら追い出されるけど。そしてあなたは合法的に入れる。大丈夫大丈夫。お姉ちゃんって顔するから」

「顔つきどころか髪の色も・・・まあいいわ。それでもあまり長い時間はいられないでしょ。めぼしはつけてあるの?」

「できれば昨日ゲート=ニューロと戦ったところ。正確にはその周辺に何があるか。何か細工をしているのかもしれない。それと保健室。さすがに教員寮には入れないから変わりにね。一通り調査した後でしょうけどちょっと探っておきたい。少なくとも正門との距離と窓から何が見えるのか。後は・・・」

「後は?」

「まあ、歩いていたら出会うでしょう」

「誰に」

「さあ」

「・・・」

 出雲雪風という人間は知っている。こういう普通じゃない女を引き寄せるこの世の誰もまねできない魔法でも化学でも再現できない香りを放つ薔薇があることを。

 薔薇には棘がある。いやその棘こそが人を引き付けるのか。たとえ棘に刺され動けなくなっていたとしてもその香りがあるのならば他に何もいらないと言えるほどの・・・

「まあ最後のは大丈夫。私が私であるなら」

 そういって歩き出した。


 授業が始まって初めての土曜日であるからか、あるいは昨日の事件で心配した親が会いに来たためか敷地内にはそれなりに大人の姿があった。

「いやぁ、事件もあったしお姉ちゃん心配だよー」

 決して棒読みというわけではない。むしろ演技力としてみるなら上等の方だ。幻影使いにはわかる。とはいえ。

「これなら大丈夫そうね」

 暗に演技の必要がないことを伝える。いや演技の必要がないことはすでにピアーナにもわかっているだろう。要するに演技をやめろと言っている。

「まあそうね。むしろ家族と言い張るには無理があったでしょうし」

「わかってくれて何より。正門にいるしとりあえず保健室から行きましょう」

「二十分ぐらいかしら。正門からはともかく寮からも校舎からも近い位置。目的を考えれば当然か」

「この学校周辺に医者はないからね。大抵のことはこの保健室に来るしかないから。とはいっても十年前に位置が変わったそうだけど」

「なるほど。学校長ね。身元が一切わからない代わりに今までの誰よりも優秀と言われていたけど本当みたいね」

「連局の人間でも知らないの?」

「調べている人はいるけどね。大戦にも参加していないしどこかの国の諜報機関に所属していたわけでもない。それでもあの肝のすわり、あの戦闘力、あの問題解決能力。どれをとっても超一流。明らかに普通じゃない。試験にしたってあの英雄者を下しての就任でしょう」

 しばらく保健室の前を強盗犯のようにうろうろしていたピアーナの足が止まる。

「もしかして忍び込む決心がついた?」

「それは元々気にしない。でも中に誰がいるかは関係あるでしょ」

「気配はない。でもまあ」

「ええ、医者の中にはスポーツ選手やら戦士から変わった人もいるからね。まあ保健室で気配を消す必要性はないけど。それに昨日逮捕されたばかりで変わりの人はまだ見つけてないでしょ。一週間医者不在でもおかしくは・・・」

「何かあったんですか?」

「え、」

「な」

 声をかけられた。男性の声だ。この学校に通う雪風も調査をしたことピアーナも聞いたことはある。

 だが二人が驚いたのは気配を一切感じなかったことだ。方向は違えど今は気配を探ろうとしていたのに。

 二人が声の方に顔を向ける。そこにはさっきまで話していた人物の顔があった。

「雪風くん。それとあなたは確かピアーナ君。連局の」

「ええ、」

「はぁ」

 学校長のその表情は動かない。そこにある感情を二人して読み取ることができない。

「調査ですか。警察の方は何人か来ましたが連局の方は今日初めてですね」

ガチャリと保健室のドアが開く。

「学校長はどうしてここに」

 ピアーナがその真意を探る。とはいっても学校内に学校長がいるのは普通のことだ。

「先ほどまで新しい教諭の案内をしていたのですが今は寮の整理をしているので、私がこちらの確認を。まあもう少し後になるみたいですが」

「いいんですか?」

「つまみ出しても構いませんが、ここで事を構えるつもりはありませんよ。先ほど別の予定も入りましたから今は鍵の確認に来ただけですから。三十分後に鍵を取り換える業者の方が来るのでそれまでなら」

「なら遠慮なく。正直なところ昨日の事件の共犯者とみられる可能性をどうしようか迷っていたので」

 言葉通り遠慮なく保健室に入っていく。

「はぁー」

 溜息を吐きピアーナについていく。面倒だがこの人を一人にはしたくない。というよりこの人はもう少し見はっておきたい。

 そんな雪風に学校長室に戻ろうとしていた学校長が声をかける。その表情は先ほどまでそして今まで浮かべていた微笑ではなく、わが子を見守るような表情に変わった。

 雪風は反射的に距離を取るが学校長の声色も心なしか優しかった。

 出雲雪風という生き物のこれまでには様々な困難があったがそれでも十五年。その記憶のどこを探っても学校長の感情を推察することすらできない。

「大丈夫ですよ。あの人はあなたの敵にはならないですから。まあ確信はありませんが。これでも的中率はそれなりですよ」

「敵。ですか。おそらく私が何かしても知り合いだからで捜査の手を緩めるような性格ではないと思いますよ」

「・・・。まあそうですね。それでは」


 雪風が保健室に入った時ピアーナは窓の外を確認していた。

「ここからじゃ校舎は見えないか。まあ調書を見る限り必要はないか・・・」

 歩き、止まり、また歩く。その際に小声で何かを言いながら部屋の中を二周する。

 そしてほかより少し長い逡巡を終えて顔を上げた。

「何か見つかった?」

「いや、書類やらなにやらはもう警察が持って行ってる。ここでもそうだから寮の自室もとっくにね。まあそれはわかっていたこと。じゃあ次は戦った場所に」


「この廊下で」

「ええ、人を探していたらゲート=ニューロがね。私が幻影使いであることを知っていたようだしヘクターとゲート=ニューロが知り合いなのは間違いないでしょう。授業で使ったことはないから知っているのは同じ中学校だった人と月曜日の事件を詳しく知っている教員だけだから」

「となるとやっぱり幻覚と精神操作。同じ脳に影響する魔法の適正でつながりがあったか。いや年齢を考えれば交流があったのは父親の方か・・・その後は?」

「ギリギリのところで逃げられてね。探していたら大きな音がして。その方向に向かったらマジックカードを使った傭兵の姿が見えた」

「マジックカードね。聴取ではほとんど無音で攻撃したのに読まれたとあったのは聴覚を強化する魔法が入っていたからか。リーレ=ニューロからすればもうちょっと暴れていてほしかったってところかしら」

「そのようね。ただそれでは」

「ええ、やっぱり不穏。連中にとって最も警戒すべきは教師の中でも高い戦闘力を持ち電気使いであるがゆえにジャマ―の位置を直接探れるロイド=バーク。実際にあの人には数人が襲ったらしい。でも全体攻撃ができるのなら聴覚の強化も意味をなさない」


「ヘクターの目的はケレブレムアニマの入手。そのために学校を制圧し、生徒を人質に取り学校長を脅迫する。リーレいや正確には息子のどちらかがヘクターの知り合いでその企みを察知にそれを利用とした。昨日はちょっかいをかけて本命は今日」

「まあそれが正解でしょうね。ただ問題はリーレの目的だけど」

「聴覚の変化と視覚の乗っ取りの二人の家族ならおそらくリーレというよりニューロ家もまた人の脳に関係する一家。つまり精神操作系の弱点である魔法の成否がランダムっていう弱点を抱えてしまっている」

「一家も狙いはケレブレムアニマってこと?・・・そもそも実在するの?」

 人の脳のことが書かれた図面。それを悪用すれば人を操ることができる。

雪風が昨日校舎を一通り見た後、学校長室でケネスと名乗った人から聞いたのはそんな話だ。ただそれは弟子であるケネス本人も中身は見たことはない。

本来ならただの陰謀論だが書いたとされる医者の名声によってその伝説はある程度信憑性を持っている。

敵の目的は精神操作魔法の発展。それによって人を思うままに操りたい。誰に心も思うまま。

とんでもなくつまらない。雪風はその場で笑った。

恋あるいは心がそんなに簡単であるのならば、人はそれほど恋に熱心ではなかっただろうから。

「連局の中には探っている人もいる。偽物が出回ってそれを作り出した人を逮捕したこともある。ただ確証はない。それにヘクターは医者でもあったけどリーレはただの会社員っていうのがね。まあそれも探ってもらうけど」

 そういってピアーナは片手でMISIAを操作する。使用した機能はメール。相手はヤナ。

「連局でさえ確証を得ていないのでしょう。なら一般人がそんな都市伝説を当てにして事件を起こすものか・・・。いやそうか。親一人子二人」

「ああ、なるほど。逃げられた妻を取り戻したいか。それならこれほどの事件を起こしたのもある程度納得は」

 ピアーナは驚く。それも心の底から驚いているように雪風には見えた。

「・・・ずいぶん驚いているけど家族構成が明かされた時点である程度予想できたことでは」

「ああそれは・・・まあ私が育った家庭は特殊でね。父親に愛人がいて、普通に家に私の母も含めて同居していたから」

「・・・それはまた複雑ね」

「大人になるまでそこまでおかしいとは思っていなかったけどね。だからそういう家庭の問題にはどうも疎くて」

「問題点の見直しも自分を磨こうともせず、魔法に頼るとはね、最初から人を愛する資格がない」

「まあ、それほど大切なのでしょう。手を尽くしてからどうしようもなく手を出したのかもしれないし。私の家では歪ではあったけど大きな問題もなくうまくいっていたし腹違いの兄や姉とも仲は良かったし大切だとみんな思っていたから。家族っていうのはそれほど大切なものなの」

「・・・・・・まあそうね」

「あらどうやらあなたも家庭環境は普通ではなかったようね」

「・・・天涯孤独でね。長い間家族はいない」

「あー。それはまた。悪いことを聞いた」

「別に気にしてないわ。とりあえず相手の一家の目的はケレブレムアニマの入手。それを使って自分たちの魔法の発展。そして昏睡事件のニュースを見る限り、精神操作の魔法も使用できるからそれの発展も兼ねていると」

「後者はそれを世間に広める気はわからないけど、まあそれで間違いはなし。ただ方法だけど」

「昨日の事件では学校長の権限を使う。だけど、今日は無理ね。休日だし」

「そうね。そもそも学校長の権限を使ったとしても見つかるものなの?そもそも実在が危うい」

「昨日の事件の黒幕はこの学校の教員そしてそれなりに有名な医者でありその著者とも知り合いだった。あれほど大掛かりな魔法と人員。実在する確証があって彼の頭の中では成功する可能性は高かったのでしょう」

「まあわかった。その本は実在する。そういうことで話は進めましょう。そしてヘクターそして連局が手を尽くしても今まで見つけられなかった」

「でもその本を見つけたい。手段は問わない。事件は国中で起こっている。混乱も起こって入るけどそろそろ沈静化する。でも犯人は動かない」

「絶好の機会を待っている。そして学校長の権限ではないとなれば・・・」

「「そうか」」

 ようやく。昼から行動してきた二人の声がようやく重なる。

「国王」

「それなら一人を拉致すればいい」

「問題は四人いる王子や王女がどこにいるか・・・」

「一般には公表されてはいない情報だけど国王には子供が四人。その中で娘三人はこの国にはいない。となれば息子が一人。この一人は目立ちたがりだから。一般人でも・・・」

「ノア=フェン=イルミナル」

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