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黒白の魔法剣士  作者: 傘羅栄華
ファイブアラウンド編
35/114

十二話つまりは空間

午後二時三十分

「デンドローンに住んでいるのか。これはまた」

 アンドリューの画面をのぞいていたラビングが感慨深そうにつぶやいた。

 映っていた画面はニュースをネットで発信することを専門にしている会社のサイト。更新時間が決まっていないため、テレビよりも圧倒的にこちらの方が早い。

「どうします。って聞くまでもないですよね」

「無論、乗り込む。といってももう警察が向かっているかもしれないけど」


五分ほど歩きネットに書かれてあった住所に近づく。そして住宅街の中で角を曲がれば見えてくるといったところでラビングが足を止める。

「待って」

「どうしたんですか」

「家の前に誰かいる」

「ええっ。・・・本当だ」

 アンドリューも千里眼を使用し家の前を見る。そこには女が一人立っていた。

「警察ですかね」

「警察にしては立ち位置が変。家の方を見ているのではなく家を背にして立っている。おそらく家バレしたとき用に傭兵を置いた可能性のほうが高いと思う。ただはっきりとはわからないな」

「ちょっと待ってください」

 もう一度千里眼を発動する。とはいっても何度見てもわからないものはわからない。

 家を守る傭兵か。

 ニュースを見てたどり着いて応援を待っている警察官か。

 アンドリューの千里眼ではポケットの中までは見えない。とはいっても立ち姿から判断できるようなものでもない。

「まあ時間をかけるべきではないし。さっさと乗り込んでしまうか。少しここで待っていて、もし戦闘になっても俺だけで対処する。終わったら近づいてきて」

 ラビングは自信満々に歩いて行った。


 角を曲がった段階でラビングの姿は女から認識された。アンドリューも角からかたずをのんで見守っている。

 ラビングが五十メートル、四十メートル、三十メートルと家に近づいていく。女の顔もこわばりアンドリューの心臓の音も大きくなっていく。

 お互いの手が届くところまで近づき。そして二人はすれ違った。

 そしてラビングが家のドアに手をかける。

「やっぱり空いてないか。まあそんなに金をかけているわけでもないし壊そうと思えばいくらでも」

 その時だった。ラビングから攻撃してこないことに拍子抜けしていた女が我に返り攻撃してきた。


「ファイアブラスト」

 女の掌から炎が出てくる。ファイアブラスト。ファイアーブラストとも呼称されるそれは赤の魔法の中でも初歩的なものだ。

「ふっ」

 大げさな動きなど必要ない。ただ横の動きだけで躱す。

「参ったね。ただ人を訪ねただけだというのに用件も聞かずに攻撃とは。これではこちらも応戦するしかないじゃないか」

 ここまで言われようやく女も気付く。攻撃しなければ警察だと偽って合法的に家に入るのを止めることができた。実際に偽造した警察手帳を渡された。だが当然警察は用件も聞かずに先制攻撃などしない。連局なら可能性はあるがその場合どちらにせよ戦闘になる。一般市民に連局への捜査協力の義務などないのだから。

「さては、あまり頭は良くない見える。それに弱そうだ。となるとこの家も囮かな。運転免許証に書いてある内容を偽造なんてできないだろうし、引き払ってはいない。でも住んではいない。まあ手掛かりの少しぐらいはあるか。」

「なっ」

 女が激高する。頭が良くない発現か弱そう発言のどちらかが癇に障ったらしい。

「炎鎧・両腕」

「風鎧・両椀」

 女の両腕を赤き炎が纏いラビングの両腕を風が纏い、腕と腕がぶつかり合う。 

 風は火をすべて吹き飛ばし拳と拳のぶつかり合いとなる。

 殴る。躱す。拳同士がぶつかる。本来肉弾戦なら社長業をしているラビングより傭兵業をしている女の方が強いはずだ。だがそれでも

「はあ」

「ぐ」

 十回ほどのやり取りの後、ついにラビングの腕が女の顔に激突する。それもただの拳ではなく風を纏った拳だ。それを顔面という急所にもらった女は派手に吹き飛ぶ。だが気絶までには至らない。

「ぐがががががが」

 女が頭から血を流し喉から不快な音を鳴らす。だがどうやら今の一撃で心の方に火をつけてしまったらしい。

「殺す。絶対に殺す。骨一つも残さない。バーニングブラスト!!」

 先ほどのファイアブラストより数倍の炎が手のひらから発射される。

 当たればただでは済まない。だというのにラビングは落ち着いている。

「やっぱり戦いを早く終わらせるには相手にさっさと全力を出させるのが手っ取り早いね。じゃあこっちも」

 ラビングは動かない。間近に迫った炎を見つめながら詠唱する。

「アルスマグナ!」

 詠唱後その体が遠巻きに見ていたアンドリューの視界から消える。慌てて千里眼を発動させようとするがその前に女が吹き飛ばされる光景がその二つの瞳に映った。


「こいつは警察手帳。とはいってもこれは偽造かな。ただ他に何もない。MISIAすらないか。適正は発動していなかったしテレパシーでやり取りかな」

 ラビングが女の手荷物をあさる。素人のアンドリューから見てもその手つきに迷いはなかった。

「結局こいつは何者なんですかね」

「警察手帳は偽造。見た目はともかく質感が違う。本物はこんなに安っぽくない。だが当然持っている時点で犯罪だ。さすがに知らないなんてことはないだろうから、傭兵だろう。表か裏かはともかくとして犯罪行為に躊躇しない」

「なるほど。・・・あれ、今の口ぶりからすると警察手帳触ったことがあるんですか」

「サイバー犯罪が起こるとまず最初にシャインアラウンド社の問題にしたがる奴がいるからね。いい迷惑だよ。パソコンならともかくMISIAは製作者にしかわからないというのに。まあそれはいい。とりあえず中に入るよ」

 一通り女の所持品を調べ上げ、これ以上意味はないと判断したラビングが再び玄関の前に立つ。つられてアンドリューも横に並ぶ。

「それでどうやって壊します?」

「魔法のガードがかけられていないからね。ここは俺の適正で入る」

「アルスマグナ」

 ラビングが魔法を発動した直後、二人は室内にいた。

「ふぅ。成功。・・・案の定埃をかぶっている」

「何なんですか今の?テレポートとはちょっと違うようですけど」

 ラビングが歩きながら答える。

「いや、空間移動の一種だよ。偉大なる秘術(アルスマグナ)。自分を含めた物体を別の物体と位置を入れ替える適正。今回の場合室内にいた鼠と場所を入れ替えた。だからさっきまで俺たちがいた場所には鼠が移動させられているはずだよ」

「なるほど」

 そういってアンドリューが部屋を見渡す。見る限りではいたって普通の部屋だ。正面は廊下、開いているドアからはそこがリビングであることが分かる。右は二階へ続く階段とド、。度を開けるとそこはトイレ。左はドアが二つ。ドアを開けるとそこは風呂と客間と思われるところ部屋だった。どう見ても普通。そしてラビングも同じような感想を持った。

「普通だねぇ。まあだからこそ怪しいと言えるか。時間もないし手分けしよう。さっき知り合いに頼んでこの空間を固定してもらったから俺たちが何をしても警察が来る頃には元に戻っている。俺は一階、君は二階それでいい?」

「ええそれでいきましょう」


「うーん。何度見ても・・・普通の家だ」

 階段を上がって突き当りの部屋を開いて感想を口にする。何度見ても普通以外の感想が浮かんでこない。外見から想像できるとおりの中身だ。今入ったこの部屋もうっすら埃をかぶり、パソコンが存在しないことを除けばどこにでもある部屋だ。机、椅子、ベッド、クローゼット。すべての引き出しを開けてみるが何もない。

「当たり前か。手掛かりのようなものはもうすでに運び出されている。番人も万が一のためであって・・・」

 試しにテレビをつけてみる。指についた埃を払っている間に液晶に映像が映った。やはりラビングの予想通り、引き払っているわけではなく電気代はちゃんと払っているらしい。

「今朝から起こっている連続昏睡事件ですが、先ほど一人逮捕されました。名前はゲート=ニューロ。美術館前で逮捕されたポール=ニューロと関係があるものとして警察は捜査しているようです」

 何枚か部屋の写真を撮り、少し音量を上げ隣の部屋で聞こえるようにしながら別の部屋に向かう。とはいってもここもあまり変わらない。こちらにはポスターをはがした跡や本棚に本が置かれていた跡があるものの何か情報がつかめそうなもの、写真などもまた存在しない。

「このままじゃ、時間の無駄に・・・」

 何枚か部屋の写真を撮り部屋を出て向かいの部屋。すなわち二階最後の部屋に入る。

「さっきまでとはちょっと違う」

 今までは個人の部屋だったが、今回は少し違う。少し広めの部屋だ。今までより少し大きめのベッドが一つ置いてあった。正確にはそれしか置いていなかった。今までの部屋に置いてあった机や椅子さえもない。ベランダに続く窓もあったがそこにも何もない。

「大丈夫かな」

 この事件を解決できるか不安になってきたが何枚か部屋の写真を撮り、一階に向かう。

 一階ではラビングが食器棚の中を眺めていた。

「ラビングさん」

「ああ、アンドリュー君。二階は終わった?」

「ええ、一通り見て写真も撮りました。でも手掛かりになりそうなものは何も」

「やっぱりね。今回の事件を見るに連中はほとんど素人だ。でも準備期間はそれなりにあったみたい。一階の方もほとんど何も変わりはなかったよ。冷蔵庫の中ですらなくなっているから賞味期限から割り出すことも不可能。それに完全に家を空けていたなら警察の捜査でも絞り込めるけど不定期に家の中に入っていたみたいだから埃の被り方も変則的だし、二十日超えたら過去視でも難しいからね」

「じゃあこの捜査は無駄だったってことに」

「いやそうでもないよ」

「やっぱり素人。本や食器、服に靴まで処分していたあたりそれなりに用心は深いみたいだけど。二階にはいくつ部屋とベッドがあった?」

「部屋もベッドも三つずつです。部屋は小さい部屋が二つと大きい部屋が一つ。大きい部屋はベランダに通じてました。小さな部屋は机と椅子とテレビだけでベッドはそれぞれ別の部屋に・・・そうか」

「ああ、ベッドの数はそのままここに住んでいた人の数、そして部屋の内装はこの家に住んでいた人の関係性。一階には寝具の類は何もなかった。リビングとダイニングとキッチンを兼ねた大きな部屋、トイレ、風呂。それだけ。つまり親が一人と子が二人。おそらく逮捕された二人がこの子供だろう。テレビが置いたままなのは万が一この家に退散することがあった場合情報収集の必要があるから」

「ということは親を倒せばこの事件は終わり?」

「元嫁か元夫が出てくる可能性はあるし、傭兵は雇っているとは思うけどおそらくね」

 その時外から音がした。パトカーの音だ。どうやら警察がついたらしい。

「やっと来たか。俺たちがここに来たことがばれても厄介だ。さっさと退散しよう」

「そういえば家の前にいた傭兵どうするんですか?」

「とっくに目覚めてはいるとは思う。ただ偉大なる詐術(アルスマグナ)で記憶を入れ替えておいたから戦った記憶はない。今頃律義に家の前を守っているんじゃないかな。それじゃあ」

「アルスマグナ」

 直後二人の体が家の中から家の外に移動する。

「ファイアブラスト」

 物陰から家の前を覗き見る。そこにはいかにも警察官と思われる二人の男と先ほど戦った傭兵の女が戦っていた。

「大丈夫なんですかね。なんだかんだ言っても警察の設備で家の中を捜査すればもうちょっと何か出てくるかもしれませんし」

「大丈夫。記憶は消えてもさっき戦った現実は消えない。魔力も体力も少ないし、傷も癒えているはずはない。十分もあれば家の中の捜査を始めているよ」

「そういえばさっきの話では記憶も入れ替えられるんですよね」

「専門じゃないからロックがかかっているのは絶対に無理だけどね。女の記憶も探っては見たけど首謀者の顔も名前もわからなかったよ」

「なれこれからどうします?」

「そうだね。これ以上手掛かりはないし、土地勘もないから家族が向かいそうなところもわからない。でもまあここは」

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