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黒白の魔法剣士  作者: 傘羅栄華
ファイブアラウンド編
34/114

十一話つまりは時間

午後二時。

「やっぱりね」

 家電量販店の店前にあるテレビを見ながらフューネはつぶやいた。隣にいるカインも興奮している。

 二人とも先ほどまでクルクス高校から近い事件現場にいたが、今は移動している。そこでの問診で倒れた人に回復魔法がかけられていたことが発覚した。初めは誰か通りすがりの人が試しにかけてみたものだと思っていたが、そうではなかった。カモフラージュとして全身にかけてあるが、もっとも深くかけていたのは耳の穴の中。病院に運び込まれる段階ではほとんど他と区別できないが、事件が起きた直後だから、優れた医者であるフューネだから見破れた。重大な手掛かり。

 犯人は聴覚に関する魔法を使用し気絶させた後、回復魔法をかけることで見破れないようにした。その後簡単な催眠かあるいは夢想睡(グッドナイト)をかけることで患者は皆眠っている。それが昏睡の原因。

「フューネさんが見破った通り、聴覚の変化が適正の人間が逮捕された。ってことはもう昏睡事件は起こらないということに」

「聴覚の変化をできる人がほかにいないのならね、それより先ほどカイン君に連絡してきた人の方が気になる。耳鼻科専門医なら病院内でも気づいたかもしれないけど」

「まあそれはいいじゃないですか。とりあえず警察に伝えましょうか」

 カインがMISIAを起動しようとしたその時だった。

 怪物が襲ってきた。

「うおっ」

「えっ」

 二人ともその攻撃をどうにか離れて躱す。

「なんでこんな街中に」

「とりあえず逃げましょう」


 二人が走る。狭く暗い路地裏を右に左に曲がり時には攻撃しながら。

 怪物は止まらない。まっすぐ二人を狙っている。

「あいつは確か」

「ボードアール」

 その名前を聞き。カインは頭の中で昔見た図鑑の知識を引っ張り出す。ボードアールそれはイノシシに似た怪物。それなりに強い怪物としてかなりポピュラーだ。大きさは頭から尻尾まで百五十センチほど。地面から頭まで百センチほどだが、体重は二百キロを超える。それに加えて鋭い牙と軽い攻撃を無効化する毛皮、早い脚、狡猾さなどを併せ持つ強敵だ。幸いそこまで狂暴ではなくたとえ山の中で出くわしたとしても陣地に近寄らなければ背中を向けて逃げても襲ってはこない。カインは実物をみたことはないがそれでも激怒しているのはわかる。三日間何も食べてないか、子供を殺されたかそのあたり。

「このままじゃ追いつかれる。どうすれば」

 カインは目の前を走っているフューネを見る。どうやらフューネは何か考えがあるらしい。

「この辺かな」

 公園。それも球技などを行える広場に出る。この周囲の家はきたことない人がいないぐらいの広い公園だ。土曜日といってもそこらで事件が起こっているためか、人ひとりいない。


 カインにはその言葉の意味を理解できない。

 ボードアールの突進力と言えば小学生でも知っている。そんな相手に広い場所に出ようとするのは自殺行為に等しい。

 案の定、目の前の怪物は先ほどより威勢がいいように見える。今にも飛び掛かってきそうだ。だが隣の女医は警戒こそしているものの、どちらかと言えば余裕。ここで倒せると踏んでいる。

「ブォォォォ」

 日常生活ではまず聞きなれない声を出しながらついに怪物が突進してくる。狙いは女性の方だ。

「フューネさん」

 カインが叫ぶ。だが叫んでいる途中で怪物はフューネの位置までたどり着いた。

「え」

 ポートアールが人の体を突き抜けた。フューネの魔法かと思ったがどうやら違うらしい。

「やっぱりね」

「やっぱりってどういうことですか?」

「偽物」

「えっ」

「注意深く観察してみればわかるわ。あれが通った後、地面がへこんでいない。本来あれぐらいの大きさのポートアールなら成人男性の軽く二倍の重さはあるはずなのに」

「すり抜けたってことは実体がないということですよね、でもさっき路地裏を通った時こいつが当たった場所は音がしてましたよ。それにさっきの声だって」

「・・・そこっ」

 フューネが指先から炎を出す。カインの目にはその炎は何もない場所を狙っているように見えたが。

 炎が何かに当たった。果たしてそこにあったのは。

「犬のぬいぐるみ」

「おそらくラジコンで動くタイプでしょう。それに上から幻覚をかぶせた。でもさすがに人の体に当たったら正体がばれてしまう。だから幻覚だけ動かして本体は景色の中に隠した。逆に言えば相手の適正は見た目をごまかすことのみ」

「へぇ。やるじゃん」

 路地裏から男が出てきた。年は二十代ほど、何となくテレビで報道されたポール=ニューロに似ている気がする。

「この一連の事件の・・・まあ関係者ではあるのでしょう」

「ならこいつを倒せば」

「それよりわざわざ目の前に出てきた方が不穏。顔だって隠せるだろうし、何か企んでいる。まさか敗北宣言ってわけではないでしょう」

「まさかそんなわけない。ここで医者の口から昏睡の主原因が聴覚の過敏が限界だと公表されたら計画の失敗の可能性が跳ね上がるからどうしても倒しておきたいだけ。それに昨日色々あって魔力を大量に使用したからこれぐらい近づかないと致命傷にならないんだよ」

「黄色き花は熱ににて(ガザニアオーダー)」

 公園の地面から黄色いガザニアが無数に出現する。

「やっぱり華はきれいなもだねぇ。それに引き換え」

「はぁ、熱血ボンバー・翔!」

 お互いの場所は近い。

フューネやカインからすれば、相手が情報を吐いているうちはそのままにしておきたい。近づいてくるとは言えこちらから攻撃すればそこで本格的な戦闘になる。フューネはもちろんカインもまたそれぐらいの頭は回せるようになった。

男からすれば、昨日の銀と幻影使いの戦いで消耗している。ゆえに多少情報を吐いてでも近づく必要があった。今動けるのが自分のほかにいるのなら迷わず譲ったぐらいには戦いたくない。ここまで騒ぎが大きくなると傭兵を雇うわけにもいかなくなる。

ゆえに普段は制御しづらい翼対もある程度は制御下にある。

「くっ」

 男は植物でできた棒を生み出し、翼を生やし空から攻撃してきたカインの炎を纏った拳を受け止めた。

 棒術でカインを押し返すことはできなかったが、それでも拳と棒のぶつかり合いで時間稼ぎ、カインはバランスを崩す。

「くっ」

 これ以上は制御不能になると感じたカインが翼を消して空中戦から地上戦に切り替える。植物を踏み荒らしながら男に迫る。

「はぁっ」

 パンチ、そしてキック。己の肉体を使用して追い詰めようとするが届かない。

「くそっ」

「当たらないよ。はぁ」

 カインが一通り攻撃をしたのを見て、男が距離を詰め棒を振り下ろす。避けようとするが足が思ったように動かない。

「ぐっ」

 振り下ろされた棒を腕で受け止める。どうにか頭には当たらなかったがそれでもかなりのダメージだ。

「やれやれ、植物を踏み荒らすことにちょっとは罪悪感とか持たない?」

「魔力で生み出した花だろう。なら遠慮は無用だ。だがくそっ。ファイヤー!」

 今まで自身の動きを鈍らせてきた足元の花に炎をぶつけるが。

「燃えない。さっきの幻覚?」

「いや、詠唱と花を見るに、この花はガザニア、もともと熱さに強い花にさらに魔法をかけている。そして自分の周囲だけ幻覚で生えているように見せている。だから相手だけ動きに制限がない」

「なら相手に接近すれば、いやでもさっきは」

「多分咲かせるのも幻覚に入れ替えるのも自由自在でしょう」

「・・・どうすれば。フューネさんは戦闘の経験は」

「中学生の時ある医者と出会ってからはずっと医学の勉強をしてきた。まあそれなりにある」

 その時カインの目の前からフューネが消えた。


「な」

「え」

 カインと男が同時に驚きの声を漏らし周囲を見渡す。

「テレポート?いや・・・」

 あたりを見渡していた男の目が一点で止まる。正確には先ほどフューネがたっていた場所から自分の近くにまである花を踏んづけた跡を。テレポートならこんな跡はできない。つまり歩いて近づいてきたためこんな跡ができている。

「ぐっ」

 男の背中に衝撃が走り、体が吹き飛ぶ。体は花と地面を少しえぐりながら五十メートルほど飛ばして止まった。男が先ほど立っていた場所を見ると蹴りの動作を終えたフューネがたっていた。

「さすがに一度では仕留めきれなかったか。でも魔法を使うと気絶まで行っちゃいそうだし」

 フューネの口元が少し動く。魔法を発動した。それを見て男も急いで魔法を発動させる。

「風の衣を身にまとい(グリーンベール)、植の恵みが身に染みて(グリーンキュアー)」

 男の体を風のカーテンが包み、その中で自らの傷をいやす。

 男が魔法を発動し終えたと同時にフューネが近くにいた。今度はパンチを繰り出すが風に阻まれてた。

「ファイアーブラスト」

フューネの手のひらから炎が出現し風のカーテンを攻撃する。男は疲労困憊といった様子だが、フューネに躊躇はない。徐々にではあるがカーテンが破られていく。

 そのうえそこにカインが加わってきた。

「熱血ボンバー」

 炎を纏った拳が風のカーテンにぶつかる。

メキメキメキ。と魔法が破られる音がする。そして炎と風。その両方が消える。

「しまった」

「はぁ」

 炎を失ったカインの拳がそのまま男の腹にめり込む。

「ぐほっ」

 それだけ言って男は動かなくなった。

 それを確認してカインの体も動かなくなる。かなり魔力と体力を消費してしまった。

「あ、でも気絶されたらこれ以上情報が」

「いやさっきは挑発のために言っただけでどっちにしろ話さなかったでしょう」

 カインが息を整えている間にもフューネは男の手荷物をあさっている。そうしているうちにポケットの中から財布を見つけ出した。

 専用の機械なしではMISIAから情報は拾えない。その場合最も証拠が残っているのは運転免許証。そして財布は免許証が入っている可能性が非常に高い場所だ。

 フューネが目当てのものを探しているときカインものぞき込む。クレジットカード、どこかの店の会員証、多数のポイントカード、そして少数のルーガ札と硬貨。イルミナル国の人間として平均的といってもいいそれを眺めていると二人の視線と声が一致した。

「「あった」」

 そこに記されていたのは、氏名、顔写真、住所、生年月日。

「顔は一致。名前はゲート=ニューロ。住所はデンドローンか結構離れているわね」

「でもこれが本物かどうかは」

「本物でしょう。街中で事件を起こすためには自由に使用できる車は必須。幻覚を使おうにもばれる可能性のほうが高いから」

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