表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒白の魔法剣士  作者: 傘羅栄華
聖都脱獄事件編
3/114

青い薔薇

「黒砲」

雄我が左手に握った魔法剣の先から黒の魔力の塊が放たれる。黒の魔法としては初歩の魔法。それも牽制のためにはなった。しかしベイルは大げさに右によけ、崩れた姿勢のまま銃を撃つ。

当然当たるはずもない。一瞥し自分に当たらないことを確信した雄我は距離を詰める。

「それっ」

体ではなく銃を狙う。簡単にα37はベイルの手から床に落ちた。。

ベイルが驚きの表情を見せるよりも早く雄我はα37を破壊しその首に《奇跡》の刀身を近づける。戦闘と呼んでいいのかもわからない。一方的な戦いだった。

違和感を覚える。脱獄したばかりで精神の疲労もあるだろう。収容所内では必要以上の運動は禁止されているから筋力も軍人時代より落ちているだろう。収容所内でふるまわれる料理は豪勢なものでもないだろう。狙撃手にとって近距離での実戦など経験がないだろう。しかしどんな事情を鑑みても弱すぎる。ベイル=スクロールは勲章をもらうほど優秀や人物ではなかった。しかしそれでもかつての大戦を生き残った軍人であった。

「さあ。聞かせてもらおうか。仲間の場所と怯えているわけを」

刃の刀身をいままでよりも近づけて問う。答えないと命はないと教えるように。

しかし本来この脅迫にあまり効果はない。なにせ天音雄我は学生という身分を示す学生服を着ている。人殺しなどできるわけがない。そう考えるのが普通である。

しかしかつて戦場にいたベイルには目の前の少年がまるで怪物のように見えていた。

だからなのか震えながら答えた。

いや、答えようとしたところで少年が離れた。その直後だった。

ズガガガガ。とマシンガンの音がしたと思うと。その音の主はベイルの体を穴だらけにした。

「だれだ!」

雄我が振り向くとそこには両耳併せて十個ほどピアスをつけた三十歳ほどの男がいた。

バタン。人が鉄の上に倒れた音がした後。倉庫には静寂が広がっていた。

誰もいなかったからの静寂ではない。そこにいる皆が怯えていたからの静寂ではない。対峙する二人は、ともに人間を殺したことがある目をしていた。

初めに動いたのは刀を持った少年でもマシンガンを持った男でもなくたった今連絡を終えたカインだった。

「熱血ボンバー!」

赤の魔法のひとつである炎を自身の肉体の一部分に纏い攻撃する《炎鎧》

魔法の詠唱は個人によってアレンジされるものであり、カインは四肢のどれかに纏う《炎鎧》を《熱血ボンバー》と呼称していた。

銃を持った敵を正面から殴る。誰がどう考えても下策であるが命を尊ぶカインにとってたとえ犯罪者であろうとも命を奪った相手を許さないという気迫と彼が世界で一番好きな単語である熱血を加えたオリジナルの魔法の迫力。その二つにピアスの男は銃を持つ手が動かなかった。

「くそっ。サイコキネシス!」

ピアスの男が詠唱した瞬間近くにあった。鉄の箱が動きカインの背中を襲う。

「ぐっ」

それは頭に血が上り正面しか見えていなかったカインに直撃した。

「これでもくらえ!」

重力制御(グラビティ)!」

細かい数値の設定をしている時間はない。

ピアスの男の人差し指が引き金が引くより早く雄我の魔法が間に合った。

カインの周辺の重力が通常の約三倍に増加する。発射された弾丸は重力に負け倉庫の床にめり込んだ。

「何っ!」

驚くピアスの男に刀が振り下ろされる。男が紙一重でかわすと詠唱した。

「光る世界」

周辺を白が包み込んだ。

「これは目くらまし」

「闇の世界」

白を黒が打ち消していく。時間にして二秒もなかったが、その場に残されたのは、学生二人と死者一人と散らばった箱と服だけだった。

「くそっ」

「どうするつもりだ!」

「決まっているだろ。 追いかけるんだよ!」

カインの問いに当然とばかりに雄我は答えた。

「どこに逃げたのかわからないのにやみくもに追いかけて街中で銃を乱射されたら危険だ」

「それでも・・・いや」

雄我自身にも今追いかけても効果が薄いことは承知していた。

「ただ。お前はもっと冷静だと思っていたけど割と感情で動いているよな」

「悪いか?」

「いや全然。むしろお前にやっと親近感を覚えた。」

「そういやまだ自己紹介していなかったな。オレの名前はカイン=ルーグ。お前は」

「天音雄我」

「天音ってあの?」

「ああ」



戦いから十分後三人の人が見えた。少女と女性と太った男。

雄我にとって一人は中学生のころから知っている顔。もう一人は昨日知った顔。そしてもう一人は知らない顔だった。

「雪風とロレッタ先生」

雄我が声をかけ終えるより早く太った男が自己主張してきた。

「看守長のバーナードです。よろしく」

「どうも天音です」

「天音君。ここで何があったの?」

担任の問いに雄我は答えた。

「捜査中にこの六番倉庫のカギが壊れているのをカインが発見し入ってみると脱獄犯の一人ベイル=スクロールを発見。なだめようと思ったんですが、相手はとても錯乱状態で戦闘の末相手の銃を壊して質問しようと思ったんですが別の男が乱入。ベイルが撃たれ別の男にも逃げられたというわけです。逃げた男ですが渡された情報の中にはない顔でした。そもそも魔法使ってましたし。」

捕まえるべき相手を殺され別の男にも逃げられたというのに雄我は自分に非はまったくないと言わんばかりに堂々としていた。こうなると面白くないのは看守長だ。ここでベイル=スクロールが生きていれば尋問(拷問)ができる。ならばほかの脱獄犯の居場所が分かり、早急に逮捕。現状維持とまではいかなくても何とか降格ぐらいで済んだかもしれないからだ。もちろんそんな簡単に行くわけがない上に今まで部下に対し当たり散らしていたこの男が降格すれば待っているのは地獄だがそんな自分にとって都合の悪いことは頭から消えていた。 そもそもここで不快感を少しでも顔に出さず謙虚になれるのならば元から部下からの顰蹙を買って脱獄事件がおこる可能性はもう少し低かっただろう。

「ところで雪風はなぜ一人で?」

雄我は苦虫をつぶしたかのような顔をしている看守長を確認しその性格を推し量りながら昔馴染みに声をかける。そのクールな容姿に似合わず性格もクールだ。たとえ他人に理解されなくても構わないと公言している自分以上に友人のいない女友達を心配しての発言だった。

「一人休んでいて一人余っているのよ。別にあなたに心配されることじゃないわ」

「まあそうなんだが」

「それよりあいつがじろじろ見てくるほうが何倍も不快。」

看守長とは違う意味で豊満なその体を軽く揺らしながら雄我以外の人に聞こえるか聞こえないかのぎりぎりの音量で答える。周囲に聞かれないように配慮した声量というよりただ単に今日はあまり言葉を発していないため結果的に音量が小さくなっていた。

「二人とも知り合いだったの?」

大人二人が銃弾や被害の確認をしている間、学生三人は雑談をしている。

色恋の話に興味津々であるべき思春期であるカイルとしては昨日近くの席の生徒と話題になったクラスで一番の美人と気安く話す相棒に聞いた。

「「中学が一緒。」」

まるで長く連れ添った夫婦のように男女の言葉がシンクロする。

「中学が島にあったし寮だったから必然的にね」

「ふーん」

カインはキレイ系よりカワイイ系が好みでありそういう意味では出雲雪風は趣味ではないが、何となく二人からラブコメの雰囲気を感じ取り、茶化したくなった。

しかし二人はすでにシリアスな雰囲気を醸し出しながら万が一にもほかの人に聞かれないように会話をしていた。

「もしかしたらあのおっさんの目的はーーー」

「了解したわ。もしそうなったらどうする?」

「対象物を凍らせるかごまかすか。その辺は任せる・・・悪いな。もう少しあいつのそばで監視してくれ」

「いまさら私とあなたの間に遠慮など不要よ」



MISIAからディスプレイを出し先ほど見たピアスの男のモンタージュを書いていく。芸術を愛する天音家の人間にとって絵をかくのは皆ができることだ。十分もかからず大まかな顔ができていく。

「こんな感じだったよな?」

絵描きが対象を共に見ていた相棒に確認する。

なにせ倉庫内は朝だというのに光が少なく暗い。少しの間対峙していたためある程度は覚えているが、おそらくあの男を最も近く最も明るい状態でみていたいのは、あの時右手から炎を出していたカイルだろう。

「確かこんな感じだったと思う。ただあの時のオレ頭に血が上ってたからよくわからん!」

わからないことを自信満々に言った。

「そもそもなんで銃を持った相手に近距離で殴るんだよ。火球とか炎出すとかいろいろあっただろ」

「仕方ねぇだろ。人の命を奪ったあいつが許せなかったんだから」

「あのベイルは酔っぱらって暴れたうえで人を殺してつかまっているだが」

「それは・・・」

雄我の問いにカインは珍しく歯切れの悪い答えだった。

人を殺した人間が人に殺されそうになったとき、警察あるいは警備隊は命を懸けてその命を守る。とんでもない矛盾。

雄我とカイン。片方は頭脳、戦闘の二つでクルクス高校の入試を突破した。もう片方は戦闘能力の一点でキルキス高校の入試を突破した。片方は冷静。たとえどんな状況でも取り乱すことはない。もう片方は熱血。自ら感情を素直に表に出す。

正反対に見える二人だが、共通している特徴として、自らの信念を信じ、矛盾や不条理を嫌っている。その部分において二人は共鳴した。

「バーナード看守長」

「なんだ」

四十歳を過ぎてもいまだに美しい女性であるとロレッタ=レイニーとの相談を邪魔された苛立ちを隠さずに答えた。

「こちらが逃げた男の容姿です。年齢は30歳ほど。使用した魔法はサイコキネシスと白の魔法。武器はマシンガン」

描き終わった絵を教わっていた番号に送信しながら淡々と報告をしていく。その態度が看守長は気に入らなかった。だからその後の申し出も快く受けた。

「自分とカインは別のところを捜索します。よろしいですね?」

バーナードは今まで見せたことのないような喜びを見せた。

「ああ構わないよ。」

本来ならその回答はあり得ない。まだまだやることは残っている。

「では。行くぞ。カイン!」

カインの腕をやや強引に引っ張って倉庫を出ていった

この場限りの相棒の強引な態度にカインは疑問を持った。

「何を隠しているんだ?」

「以外に感は鋭いな」

雄我は大げさに驚いたしぐさをして答えた。

倉庫から離れて十分後カインの腕を引っ張っていた雄我は立ち止まり。先ほどの疑問に答えた。

「疑問点はいくつかあるが。まずなぜベイルは殺されたのか?」

「アジトの場所をばらされそうになったからじゃないか?」

「いやそれはない。口封じが目的だとすればベイルの死亡を確認した後さっさと逃げればよかった。わざわざ俺やお前と戦う必要はない」

「なるほど」

「そしてベイルと戦っているうちに気づいた。あいつ俺と戦う前から魔法で攻撃を受けていたんだ」

「ピアスの男じゃないのか」

「あいつの服が少し濡れていたんだ。つまり攻撃は青の魔法。しかしあのピアスの男が使用した属性は白」

「別人がやったってことか!」

「それに奴が持っていたマシンガンはサーキット2。市販されている武器だ。魔法での攻撃方法が多彩であるなら持ち運ぶだけで罪になる銃は不便。よっぽどのミリオタでない限り、魔法銃をつかうはず。おそらく奴が使用できる白の魔法は目くらましが精々。」

人類が魔法を使用できるということは、重火器が持っていた遠距離攻撃ができるという大きな長所が消え、弾に限界があるという短所が浮き彫りになった。それでもどんな兵にも一定の戦闘力が見込めるため軍隊ではそれなりに使用されているが、それ以外で使用されている場合は、魔法では制御が難しい超超超遠距離から狙撃できる手練れ。あるいは特殊な事情で銃が最も仕事に適した場合。あるいは銃に対して並々ならぬこだわりがあるマニア。あるいは魔力が切れた場合の保険。あるいは遠距離攻撃不可の弱点を補うため。ピアスの男は最後。銃を使う理由としては最もダサく最も弱者。

「つまり二人以上の人間がベイルの命を狙っていた。あの収容所は魔力が一定量以下の人間が収容されている。つまり青の魔法を放った人間は脱獄を手引きした側」

バーン。と思考を遮る音が二人に聞こえた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ