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黒白の魔法剣士  作者: 傘羅栄華
ファイブアラウンド編
29/114

七話そして邂逅

正午から十五分ほど過ぎたころ。デンドローン区の喫茶店で。

ようやく我に返ったアンドリューが見たものは倒れている人と救急車に乗っていた消防士と昏睡事件を捜査する警察だった。皆疲労している。当然だ、今日だけで何度もこんなことがあったのだから。

「あのちょっと」

「あ、はい」

 アンドリューも消防士に声をかけられた。いや何度か声はかけられていたのだろうが耳に届いていなかった。正確には脳のすべてを今日の発表会の回想に充てていた。実際に注文したコーヒーは一滴も飲んでいない。そのうえ注文した記憶はかろうじてあるが目の前に置かれた記憶はない。良く通報されなかったものだ。喫茶店の壁の時計を見ると三時間弱。さすがに長すぎる。これが田舎者が都会に来るということか・・・

「君は体に何ともないの?」

「はい。さっきまで放心してましたけど。それは別のことでですから。特に不調とかは」

 実際に軽く体を動かしてみる。今日一日ほとんど座っていたためか節々に痛みがあるが、昏睡事件とは無関係だろう。

「それなら話を聞かせてもらってもいいかな」

 今度は奥にいた警察官が話しかけてきた。

 疑いの目で見てくる。なぜ君には影響はないんだとでも言わんばかりに。君が犯人だろうとでも言わんばかりに。

「自分は何も知りませんよ」

 アンドリューも語気が強くなる。

 このままでは有益な情報が引き出せないと察したのか相手が警戒を弱めてきた。

「この喫茶店で何も影響がないのは君だけじゃないから君だけを疑ったいるわけじゃないんだ」

 もう遅い。先ほどの表情。明らかにあれは信じていない。

単純な疑いだけではなく、昨日の事件と火曜日の事件で解決したのがクルクス高校の生徒で警察も警備も叩かれに叩かれていたから外国からきた学生と思われるアンドリューに敵意を向けるのも人間の心理としてはよくあることだ。だからこそ感情を仕事に持ち込むような人間は信用がない。それが許されるのは一握りの天才だけだ。断じて三流の人間がやっていいふるまいではない。

ここにいても何の収穫もない。それどころが疑われるだけだ。

 アンドリューは会計伝票をもって立ち上がり、キャッシュレジスターに会計伝票をセットしクレジットカードを通した。幸いこの喫茶店は機械化が進んでいる。

「ああちょっと」

 後方で警察官の慌てる声が聞こえる。

 立ち止まる義務などない。

 カラン。ドアが開き閉まる。一人の少年を外に出して。

 三つ着信履歴に同じ名前が並ぶ。初めは九時過ぎ。次に九時半、最後は十二時前。

 慌ててかけなおす。

 相手も待ちわびていたのかすぐに出た。

「わるい。ちょっと放心してて出れなかった」

『放心?いや、こっちも勝手な要件で電話して悪い』

 電話の向こうからは微かに車の音が聞こえる。

「要件は?」

『朝からこの国のいたるところで複数人が昏睡する事件が起こっているんだ』

「え?」

 カインの答えはアンドリューの想像を超えていた。それにしてもよく事件の起こる街だ。二日連続とは。そしてそれに自分もかかわっているとは。

「そうか。さっきまでいた喫茶店でも何人かが昏睡する事件が起きていたんだ」

『喫茶店?』

「ああ消防士と警察がいた」

『じゃあ今大丈夫なのか事情聴取とか』

「別に問題ない。でそれがなんなんだ」

『解決したいから情報を整理してもらえないか?同時に事件が起きて情報がうまく拾えないんだ』

「任せろ。錯綜した情報をまとめるのは得意技だ。それにこっちにも解決しなけりゃならないわけができたからな」

 アンドリューの頭に先ほどの警察の顔が思い浮かぶ。あの喫茶店には店の入り口と店内を見通せる位置に監視カメラが設置している。つまりそれを見れば自分は誰とも連絡を取っていないのはわかる。それでも疑ってきた。私怨。自らの無能さを反省せずにただ感情で動いた。それも事件解決に一ミリも寄与しない。

『ならネットの情報収集は任せた』

「ああそれじゃあ」

 電話が切れる。

「さて、やりますか」


 カインが投げだしただけのことはあり情報は絡まりあっていた。

 数が六か所というサイトと十か所というサイト。

 大まかな区の名前だけ書いているサイトとその先の細かな住所が書かれてあるサイト。

 様々だ。そもそもどちらも間違っているわけではない。入手した時間の問題だ。最新もいずれ旧式となる。にもかかわらず最新と書かれたタグがつけられている。

 収集している間にも新しい情報が入る。普段はあまり利用しないが一応個人のサイトも開いてみる。正義の味方から有害な愉快犯に広告収入目当てまで様々だが、事件が住宅街にまで及んでいる以上、玉石混交に踏み込まなければならない。

こういう時に高校入学祝に買ってもらったハイエンド機種は役に立つ。同時に複数のサイトを開きさらにそのサイトから別のサイトへのリンクを踏み海を泳いでいく。

 十五分ほどたっただろうか、これ以上集めてもすぐに新しい情報に上書きされる。そう判断してカインにメールを送る。

 一息つく。さすがに頭痛がしてきた。相手が戦闘を想定している場合自分は役には立たない。

 そこで声をかけられた。


「三時間ぶりかな」

 そこにいたのは三十代ぐらいの男性。

服装は一言でいえばラフ。ポケットの多さだけが自慢とさえいえる。服装に詳しくのないアンドリューにもわかる安物。

 キョトンとするアンドリューに男は続ける。

「さすがこの時期、あの時間にわざわざ最前列に座っていただけのことはある。かなりの情報処理能力」

「・・・・・・・・・あなたはラビングさん?何でここに」

 すぐには声が出なかった。それぐらいの衝撃。

 ラビング=オードその人だった。

「理由は簡単に言えば・・・脅迫かな」

 そういって一枚の紙をアンドリューに見せる。書かれてあった内容は。

《街中で事件を起こした。止めたくば第十二世代バッテリーを捨てろ。これがいたずらでない証拠は正午ちょうどにクスクス高校近くで事件が起こる》

「発表後一時間ほどたったぐらいにメールが届いてね。ああちゃんと警察に報告はしたよ」

「じゃあこの事件はあれが目的で・・・」

「いやそれはない。発表会の前にも事件は起きていたからね。おそらくネットの記事を見て本当の目的を隠すために勝手に名前を使ったんだろう」

「なるほど。じゃあなんでトップ自ら事件の調査を?」

「もともと今日は確認したいことがあったから予定は明けてあったんだ。だが喧嘩を売られたなら買ってやるのが礼儀。それがテロであろうともね」

「じゃあなんで僕に声を?」

「もともとの予定とさっきできた予定。どちらにせよクルクス高校の生徒と一緒にいるのが効率的だと判断したんだ」

「・・・なんで僕がクルクスの生徒だと?」

「それは簡単。始めて視た顔だったから」

「なるほど」

 発表会の会場は様々だ。十万人規模のところも三十人規模のところもある。そのすべてを記憶しているというのか。

「君はどうする?俺としては是が非でも手を貸してほしい。戦闘力ならそれなりに自信がある」

 憧れの男が自分を必要としているんだ。断る理由などあるわけがない。

「もちろんですよ」

 アンドリューが右手を前に出す。ラビングがその手を握る。

「よろしく」

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