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黒白の魔法剣士  作者: 傘羅栄華
ファイブアラウンド編
28/114

六話そして再開

正午。

 カイン=ルーグはハンバーガーをほおばりながら父親に検査結果を報告した。もちろん暴飲暴食で注意されたことは隠してだ。病院から出たら報告するつもりが色々あって後になってしまった。

「精神操作の魔法の影響も昨日の戦闘の傷もないだって」

「そうか。ならよかった。さすがに今週の授業で分からないところはないだろうし、勉強は後回しでもいいだろう。昨日の戦闘の疲労は残っているだろうから今日はゆっくり休みなさい。何かそこらへんで事故があったそうだから早く寮に戻るように。でもちょっと連絡遅くないか?」

「ああちょっと長引いたんだよ」

「そうか」

 連絡が切れる。父親も非番の日はほとんど一日ベッドからうごかない。ならこれから鉢合わせることもないだろう。

 ピーポーピーポー

「またか」

 電話中だけでも三台目、病院から出てからは二十台ほど見た救急車だ。病院が見つからず国内を走り回っているのもいるのだろうから実際はそれだけの数ではないのかもしれないが、それでも異常だ。

「さてと、どこから整理するべきか」

 さすがに救急車が道を走っているだけでその事情には追求しない。だがさすがに多い。これだけ多ければ何か事件が起きている。そう判断する。そしてカインは困っている人も起こっている事件も見過ごさない。それにもしかしたら昨日学校を襲った事件とも関係があるかもしれない。そう思ったら止められない。

 事件(仮)を整理する。とはいってもカインが入手できる情報などたかが知れている。ほとんどがテレビのニュースで放送されていること。政治家の父なら事件に慣れていそうな雄我ならこの手の情報を集めることに抜群の能力を発揮するアンドリューならわからないが、カインにはネットの情報を精査する能力すらなかった。だがそれでも懸命に整理する。

 国内の五か所で集団昏睡が起きている。昏睡の原因は今もって不明。犯人からの要望も今のところはない。警察や警備が調査しているが今のところ何もわかっていない

 わからないことだらけだ。そもそもカインがほかの調査者と比較して持っている情報は『昨日の学校を襲った事件と関係があったとして学校の中で意識を保っていたため、ブレインズメールとやらで昏睡する人を直接見たことがある』ぐらいだろう。それですら直接敵と戦った雄我やアリシアと比べれば大した情報じゃない。

 試しに雄我に連絡を取るが出ない。無視されているのではなく電源が入っていない。

 試しにアンドリューにも連絡を取るが出ない。こちらは電源こそ入っているが応答しない。

 雄我は高級な和食料理店で食事中。そこでは電源を切ることがマナー。

 アンドリューは家電量販店で放心中。今なお喜びから戻ってきていない。

 一方そういう状況を知らないカイン。頭を抱える。

 先ほど昏睡事件が起こった現場の一つに向かったが人でごった返して入れなかった。どのみち赤の属性と翼対の適正では捜査の役にはほとんど立たないだろう。せいぜい熱源の感知と空から現場を見れることぐらいだ。だが何もしないよりはましと第二の現場に向かいその途中で昼食にしているが、調査は芳しくない。首を突っ込むべきではないのだろうか。そういう思いが浮かんでくる。

「昨日の事件と関係があるかもしれない」

 言葉に出す。決意を表すように。


 第二の現場に到着するが、当然それで何か変わるわけではない。相変わらず人だらけだ、そしてそのほとんどが事件解決にも現状の打破にも影響しないただの野次馬だ。おそらく客観的に見たときにカインもまたそうなのだろう。

 結局近づけない。このままでは何もしてないのと同じだ。いや調査とはそういうものなのだろう。街を歩けば情報に行き当たる。あるいは事件のヒントのようなものが見えてくる。それは相当特殊な人間。もっといるものとそうでないもの。本物の英雄と偽物の英雄。昨日の学校長との会話が思い浮かぶ。

『例えるならばそう。乱世の時代において無敗を誇り英雄と呼ばれた人物がいたとする。新しい大陸を発見したことで英雄と呼ばれた人物がいたとする。その人は今の時代に生まれたのならば英雄となりえたのか、何か新しい技術を発見したのか、それはない。所詮教科書の中のあるいは神話の中の英雄など時代と幸運と才能に恵まれただけの存在。本物の英雄とは生まれながらのもの。才能、努力、幸運、時代。すべてに恵まれなくてもなおそんなものを上回る先に存在する。街を歩けば訳アリの異性に出会い神に嫌われ運命を惑わせる。そういう人間が本物なのですよ。やれるだけのことはやったからうまくいかないのは仕方がない、こんなもの誰にも予想できない、そんなのはただの言い訳に過ぎない。それすら予測してその先に行く。否応なしに人を事件を引き寄せてしまう。王によって完全に監視された社会ならその網をかいくぐり、王を倒す。群雄割拠の時代ならば敵対者すべてを倒し、平和を実現する。平和の時代に生まれたのならば、その闇に生きる悪を滅ぼす。それが本物。教科書に載る程度の人物などでは決して届かない。そしてこの学校にはそんな人物が存在する』

 おそらくカインという人間はどんな時代でも英雄と呼ばれるほどにはなれないのだろう。いかに人を救うと謳っていても。

 だがそれでも神はまだカインを見放していなかった。カインにも来たのだ、それは。

「ええ、終末理論(カタストロフアーツ)は完璧に。今のところ誰かが気付いた様子はありません」

 物陰で声がした。当然だが小さな声だ。普段なら気付かなかったかもしれない。そもそもどうにかして近づこうとして右側の道から行くか左側の道から行くかの二択でたまたま左側から向かったがゆえにその途中でその声を拾った。言っている意味は分からない。だがそれでもただごとでないのは事実だ。

 焦るな。

 心の中か頭の中で声がした。その声色は雄我だった。

 実際に火曜日には何度がその声を聞いた。またこうも言っていた。チャンスをつかむためには我慢もまた必要なのだと。

 ゆっくりとその声に近づく。できる限り足音を殺す。

 一歩、二歩と歩く。心臓が大きな音を鳴らす。その音に構わず電話の内容に耳を傾ける。

「ああ。親父にもそう伝えておいてくれ、あ、それから・・・だれだ、そこにいるのは」

 気づかれた。やはり素人じゃダメか。自分では音を出していないつもりだったが、聞こえていたようだ。

 大人の走る音が聞こえた。

 追いかける。だが

「だめだ」

 カインはこの辺に来たことがない。逆に相手は調べつくしてある。追いつけるはずもない。

 だがそれでも収穫はあった。

終末理論(カタストロフアーツ)

 聞いたことのあるようなないようなそんな単語だ。


「頼む出てくれ」

 念じながら電話帳からその人物の名前を探し押す。ネットで調べても問題はないとは思うが、情報の精度と信頼性ではかなわない。

 思うが通じたのか連絡が通じた。

『もしもし』

「良かった通じた」

 心の底から安堵する。

『あ、いくつか連絡が来てる。悪い電源切ってたんだ。で何か用か?』

「ああそうだ。今ここで時間を取っているわけにはいかないんだ。カタストロフアーツって知ってるか?」

「終末理論?お前それ近代史の一ページ目に乗ってることだぞ。今週学んだばっかりっていうか一般常識だろうが」

「いやー、知っているよ。でもオレより確実に雄我のほうがね。そりゃね詳しいでしょ」

 カインの学力は父の想像のはるか下を飛んでいた。

『本当か?まあいい、でそれがなんだって』

 雄我はその単語がカインの口から出た理由を聞いてきた。

「あーええっとそれは」

 雄我は昨日の放課後いろいろ回って疲労しているはずだ。ならこの事件にかかわらせるべきではない。どうやらあっちは事件のことを知らないらしい、知っていたのなら察していたはずだから。

「まあ、ちょっとね」

 雑なごまかし方だ。むしろこれでごまかせる人はいないだろう。だがカインにはそれが精いっぱいだった。

『なんじゃそりゃ。まあいい終末理論ってのは、第二次世界大戦から百年後、先進国だけでなく発展途上国、それから兵器と何の関係もないただ一つの企業まで核を所有し始めた結果、先進国の首脳陣の間で考えられた《核を上回る影響力を持つ兵器あるいは技術》を開発・保有しようということになり、その結果それぞれの国で様々な形の兵器が開発された。それを総称して終末理論と呼ぶんだ。あくまで総称だからその形は様々で攻撃力を核の数百倍に引き上げた新兵器を開発しようとした国、核兵器そのものを小型化及び大量生産しようとした国、国際条約で禁止されているはずの毒ガスを研究し始めた国、人を洗脳する装置を開発しようとした国、多種多様。まあほとんど資料が残ってないから詳しくはわからないけどな。結果的にそれぞれの国で極秘に開発がすすめられた新兵器は、それを勝機と見た大国が戦争を始めだした。それが第三次世界大戦というわけだ』

「なるほどなるほど、でそれがいまだに残っている可能性は」

『ない。結局それは魔法ほどの利便性はないから魔法が人類に発現してから歴史学者以外は研究しないし、その実物も銀の魔女がすべてを潰したんだ』

「そうか、わかった。ありがとう」

 電話を切る。雄我は話している最中だが、存在しない可能性を雄我が断言しただけで十分だ。王族が断言した以上この世に存在しないのだろう。

 だがそこで疑問が残る。相手はなんでそれを口に出したのか、かけらでも残っているというのか。

 その時だった。誰かがカインに近づいてくる。

「わあっ」

「うおっ」

 気配がしなかった。思わず身構えたが。そこにいたのは三時間ほど前まで一緒にいた女医フューネだった。



「フューネさん!どうしてここに?」

「この事件を現場に行って解決して来いって言われちゃって」

「解決?」

「根っこを絶たないと。対処療法じゃいつまでたっても終わらないから。まあもともとこのあたりに来る予定があって、ところでカイン君はどうして?寮は近いといっても病院から直接寮に戻るなら、この辺は通らないわよね?」

「あ、いや、病院を出てから多数の救急車を見かけて何が事件が起こったのなら解決しなきゃと」

「それはいい心がけだと思うけど、病気なら医者に事件なら警察に任せた方がいいわよ」

「それはそうなんですが、昨日学校が襲われたことと関係があるとすれば放っておくわけにはいかなくて」

「なるほど。そういえば昨日の事件でも昏睡者がいたとか。ところで何が起こっているのかわかる?とりあえずタクシーの中でニュースは一通りチェックして、現場で何人か診てみたんだけど、原因がわからなくて、病院の機械でも調べてわからなかった以上は、恐らく魔法による攻撃だと思うけどそれにしても」

「自分にも何が何やら。ただ昨日のブレインズメールとは違うみたいですけど」

「そうなの?」

「ええ昨日は昏睡している人もいましたがそれ以外にも発狂したり意識がないまま歩いている人がいたりしましたし、第一、昨日の事件の犯人たちはほとんど逮捕されたと聞きましたが」

「なるほど。どうせなら昨日一斉に襲っているということ。昏睡以外に症状がないのはまああり得ないことだとしても、それにしても目的が分からなすぎる・・・解除に金銭を要求するパターン。でもそれにしては場所が散発的すぎる。昨日の事件で医者がそれなりに疲労している見た・・・」

「ああそれと、さっき怪しい人が終末理論だとかなんだって」

「終末理論?なんで今それが・・・何かの隠語と考えるのが自然よね。おそらく何か大きなことをするつもりでそのことを歴史の中でも最も大きな転換点となぞらえている」

「なんであれ、何か関係していると思ったほうが良いと思いますよ」

「でしょうね。その人は?」

「逃がしてしまいまして、でも自分では足音は出していないはずだったんですけど気づかれたんですよね」

「となると相手は武術の達人ってことになるけど、外傷の類はなかったのよね」

 伝えるべきことを伝えたその時、二人に聞き覚えがある電子音が鳴った。

 二人が同時に腕につけたMISIAを見た。

 音と光を放っているのはカインの方だった。

 浮かび上がる青白いディスプレイに映った名前は父親。

「ちょっとすみません。もしもし」

『ああカイン。無事だったか』

「無事って何が?」

『学校の近くで数十人が昏睡する事件があったらしい』

「ああ住宅街のやつでしょ。でもそれは二時間ほど前に」

『いや違う。たった今情報が入った。ニュースじゃまだやってない歓楽街の方だ』

「それは本当?」

『ああ部下がさっき入手して私に送った情報だ。嘘じゃないだろう』

「わかった。すぐ帰るよ」

 電話を切る。

 当然ながらカインの頭の中には寮に戻るという選択はなかった。

「歓楽街の方で立った今事件があったばかりだそうです」

「起こってすぐならなら新しい情報が拾えそうね」

「なら今すぐ行きましょう」

「すぐ帰るんじゃなかったの?」

「まさか。それに昨日近くで人が倒れるのを見た自分を連れて行った方がいいと思いますよ」

 医者は少し考えて。

「わかった。でも変な人を見つけても勝手に追わない。患者に勝手に触らない。約束できる?」

「ええ、もちろん」

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