二話あるいはPRESIDENT
午前九時の十五分前、アンドリューは家電量販店『シャインアラウンド デンドローン店』の店舗前で開店を待っていた。
アンドリューもまた休日は昼飯前ぐらいまでグースカと寝ており、特に昨日、というか今日だが寮についたのは午前一時ぐらいであり、そのうえベッドに入ってからも待ち焦がれていた事件にあった喜びと今日のひいきにしている企業の新商品の発表会の喜びでほとんど寝ていない。今日ばかりは気合が違う。
無論、それほどの気合を入れているのには訳がある。少年の目的は十年ほど前に台頭してきたAT企業『シャイングラウンド』の新商品の発表がその直営店であるこの店で行われると聞いて寮から三十キロほど離れたこの地へ朝早くからやってきた。
発表そのものは九時十五分からであり、近い席でその発表を見れる整理券も持ってはいるが、発表する場から四十メートル離れた席に座れるといってもその中にも無論優劣はある、特に発表の後に時間が余った時にのみ行われる質問の際は中心にいればいるほど有利であるとされている。
そんなわけで万が一にも遅刻しないように寒い中三十分ほど前から開店を待っている。たとえどんな商品の発売日であろうが、日付が変わる前から待つことは禁止されているこの店だが、それでも整理券を握りしめた電化製品オタクたちが皆、時間が過ぎるのを待っている。
アンドリューもまたポケットの中の財布の中のカード入れの中から今週は百回ほど、今日だけで十回ほど確認した整理券を取り出す。少しよれてはいるが問題はない。
アンドリューの実家はこの星の中心地であるイルミナル国からかなり遠いところにある。いかに彼が筋金入りのオタクであってもさすがに中学生の身で単身発表会に乗り込む勇気はなかった。飛行機の値段を調べたことはある、近くのビジネスホテルの値段を調べたこともある、もっと言えば具体的な計画を立てたこともある。だがそれでも踏ん切りだけはつかなかった。いつも情報を調べるだけ調べて満足していた。いや満足するふりをしていた、だが今は違う。少し勇気を出せば届くところに大きなイベントがあるのだ。
「これが都会・・・」
少年の心は完全に舞い上がっていた。だからなのか周囲の声と動きに気づくのが少し遅れた。
「開店十分前ですので順番を決めるくじ引きを行います。整理券をお持ちの方はこちらまで」
スタッフと思われる白い服を着た人が誘導している。
慌ててアンドリューも周囲の人の波に続く。
くじ引きの箱に手を入れた後、念じながら紙を一枚とって開くそこに書いてあった数字は
『三』
良い。とっても良い。発表会の情報をネットの海で見つけたときには、シャインアラウンドの主力パソコン『グラウンドパーク⑧』が三か月前、据え置きのテレビゲーム機『ストレンジ』が一年前に発表されたばかりでこの発表会では家電か周辺機器あるいは廉価版だと思われていたが、整理券配布の締め切り直前、突然、企業のトップであるラビング氏が直々に来るという情報がリークされ、さすがにフェイクだと思われていたが、締め切り後、正式にそのことが発表され、ネットは大荒れになり、無料で配られた整理券は一夜にして二千ルーガに化けた。発表の内容はその日のうちには必ず、あるいは発表日の正午には正式にニュースとなるにもかかわらずだ。
周囲には三百人ほどの人々が整理券と交換で手に入れた同じぐらいの小ささの薄紙に一喜一憂している。当然ながら上から三番目ということは最前列は確定、その中でも中心に座ることができる。
皆この手のイベントに慣れているのか一度己の幸運を喜び、あるいは己の不運を嘆いてからは、五分もかからず整列した。軍隊のような整列だが、それは己の欲とあまり騒いではつまみ出されるという保身とオタク特有の自分の好きなものではどこまでも誠実でいたいという精神から来る整列だ。あらかじめ決められた規律がある軍隊とはむしろ真逆。誰かから教わったわけではない。それでもみな同じ姿勢で時間が進むのを待っている。待ちに待った本物の空気に浸っていたアンドリューだがここで九時になった。
ガラガラガラ
店舗の中と外を区切る白いシャッターが上がる。
焦る必要はない。競争はないんだ。席順は決まっている。だがそれでも気持ちを抑えられない。走り出したい衝動にかられながら、一直線に発表のために設けられたブースに歩き出す。
十分ほどしてから皆が座る。こういう時に今日の発表について観客たちで語り合い、議論しあい、理想や夢を押し付けあったりすることがあるが、今日は一番後ろの二人組だけだった。
「携帯機に参入かな、今や据え置きより携帯機のほうが市場は大きいでしょ」
「その分、携帯機のほうが玉石混交。数が多すぎる。それにパソコンメーカーが携帯機に進出するとスペック盛りすぎ、値段たかすぎ、消費電力多すぎ、の三重苦で失敗するジンクスがある。いやここの代表取締役ならそんなヘマはしないと思っているけど」
今日の発表内容は一切リークがされていない。その手のサービス精神というかサプライズ好きというか驚く顔が見たいというか映画のネタバレする奴は島流しにすべきだとか、とにかくそういう考えがこの企業にはある。
実際にアンドリュー自身も自分の好みであるパソコンやゲームの話がされる可能性は低いと考えていた。だがそれでもここまで楽しみにしている。
九時十五分。店舗内が少し暗くなる。それを合図に皆の前方の少し床が迫りあがった部分に光が当てられる。
椅子が並べられたエリアからは見えにくい位置にあった従業員専用の出口から高級そうな黒いスーツを着た三十を過ぎたぐらいの男性が現れる。この人こそが三十代にして長者番付にその名を遺すラビング=オードその人である。
観客たちからどよめきが上がる。正式に発表した以上この会社に限りキャンセルなどありえないがそれでも不安はあった。
当然会場の熱気に比例してアンドリューもテンションが数倍にひきあがる。
盛り上がる会場に対して、当のラビングはいたって冷静。
「皆さんお静かに。これからわが社の新事業の発表をいたします」
途端に会場が静まり返る。ここにいる人はほとんど複数回この手のイベントに参加している。だがそれ以外の初めてイベントに参加したアンドリューのような人物まで黙ったのは彼のオーラと呼べるものか。
ほかの人物には当然ないがアンドリューには既視感があった。どことなく昨日ホテルでみたような見る者を圧倒する雰囲気。相当な修羅場を生き抜いてきたような気配。静めようとして逆に煽るノア=フェン=イルミナルとはまるで違う何か。
「今日発表したいのは二つ。一つは電気自動車分野への参入です」
電気自動車。それは一般人には旧時代の遺物。なにせエーテル自動車がある。タイヤがないからすり減ることもない。宙に浮いているから小動物を引いてしまうことがない。三十年ほど前の研究で乗り物酔いの可能性もエーテル性の方はほとんどなくなった。それで燃料の値段はほとんど同じ。ゆえに飛行機や船ならともなく車や電車において電気がエーテルに勝利している点などただ一つしかない。その一つもほとんど一般人には関係がなくなってしまった。それはエーテル自動車を浮かべて動かすために車線の上に専用のシートのようなものを張らなければならないということだ。つまりあらかじめ指定された範囲にしか動かせない。だが今やそのシートも安価で設置できるようになり今やエーテル以外の車を見ることは一月に一度あるかないかという割合になってしまった。
当然会場に戸惑いが広がる。
「ええ、皆さんの心配は最も。電気自動車は狭い狭い分野です。それに私たちは車メーカーではありません。当然今から参戦して簡単に利益が見込めるとは思っていません。ですが」
当然電気自動車にもメリットはある。それは
「早ければ明日ニュースに出ると思いますが、数日前あるジャングルに民族が発見されました。そしてどうにかコンタクトに成功すると奥にはさらに別の民族がいることが発見されました。その場所に行くためには当然電気自動車でなければなりません」
エーテル車はエーテルを燃料として動かす関係上、車にエーテルを供給するエーテルスタンドが必須。例え、住民の九割が七十歳を超える田舎でも、この星の盟主たるイルミナル国に敵対している国でも設置されているが、それでもなお探せば設置されていない場所はある。その中の一つが文明が存在しない未開の地。だが電気自動車は時間はかかるが車に張り付けられている高性能ソーラーパネルで充電することが可能。ゆえに未開の大地に向かう時には、電気自動車が使用されている。
「ええ、ええ皆さんの心配はわかります。狭い狭い分野ですがそれでも一流企業たちが鎬を削る場でもあります。無論勝算はあります。それがもう一つの発表」
ラビングはこの場にいるすべての人間に視線を向ける。従業員にも観客にもだ。その視線を向けられて従業員たちは笑顔で返し、観客たちは驚きで返す。そこで観客たちは思い当る。予想はしていた、だがそれは、それだけはありえないと思われてきた。例えば親がケーキを買ってくると言われてホールケーキを想像するようなものだ。テストの平均が五十点の子供がいつもより点が良かったと聞いて九十点台を取ったと想像するようなものだ。あまりにも高望みが過ぎている。
「それは」
ラビングがためる。本来ならハードルを上げるだけの行為。そして観客は、ファンはみな知っている。この会社はどんなハードルでも超えてきた。
「第十二世代バッテリーの完成です」
一際大きな声だった。それでも歓声はそれを容易く超えた。
正直に言うとアンドリューはそこから先はあまり覚えてはいない。発表の後ラビングが奥に引っ込んでどうにか質問コーナーがないことだけは確認したが、そこからの記憶がない。
この感情を整理しようと近くに喫茶店に入る。店員に促されるまま奥の席に座りアイスこーひを頼むと一言つぶやいた。
「遂に完成したんだ」
第十二世代バッテリーそれは人類の英知。端的に言えば今までより高い効率で電化製品を動かせる。それだけだ。頭の中でラビングの言葉が反響する。
「今後、わが社のすべての製品に取り付ける予定です」
その時、後方で音がした 午前九時の十五分前、アンドリューは家電量販店『シャインアラウンド デンドローン店』の店舗前で開店を待っていた。
アンドリューもまた休日は昼飯前ぐらいまでグースカと寝ており、特に昨日、というか今日だが寮についたのは午前一時ぐらいであり、そのうえベッドに入ってからも待ち焦がれていた事件にあった喜びと今日のひいきにしている企業の新商品の発表会の喜びでほとんど寝ていない。今日ばかりは気合が違う。
無論、それほどの気合を入れているのには訳がある。少年の目的は十年ほど前に台頭してきたAT企業『シャイングラウンド』の新商品の発表がその直営店であるこの店で行われると聞いて寮から三十キロほど離れたこの地へ朝早くからやってきた。
発表そのものは九時十五分からであり、近い席でその発表を見れる整理券も持ってはいるが、発表する場から四十メートル離れた席に座れるといってもその中にも無論優劣はある、特に発表の後に時間が余った時にのみ行われる質問の際は中心にいればいるほど有利であるとされている。
そんなわけで万が一にも遅刻しないように寒い中三十分ほど前から開店を待っている。たとえどんな商品の発売日であろうが、日付が変わる前から待つことは禁止されているこの店だが、それでも整理券を握りしめた電化製品オタクたちが皆、時間が過ぎるのを待っている。
アンドリューもまたポケットの中の財布の中のカード入れの中から今週は百回ほど、今日だけで十回ほど確認した整理券を取り出す。少しよれてはいるが問題はない。
アンドリューの実家はこの星の中心地であるイルミナル国からかなり遠いところにある。いかに彼が筋金入りのオタクであってもさすがに中学生の身で単身発表会に乗り込む勇気はなかった。飛行機の値段を調べたことはある、近くのビジネスホテルの値段を調べたこともある、もっと言えば具体的な計画を立てたこともある。だがそれでも踏ん切りだけはつかなかった。いつも情報を調べるだけ調べて満足していた。いや満足するふりをしていた、だが今は違う。少し勇気を出せば届くところに大きなイベントがあるのだ。
「これが都会・・・」
少年の心は完全に舞い上がっていた。だからなのか周囲の声と動きに気づくのが少し遅れた。
「開店十分前ですので順番を決めるくじ引きを行います。整理券をお持ちの方はこちらまで」
スタッフと思われる白い服を着た人が誘導している。
慌ててアンドリューも周囲の人の波に続く。
くじ引きの箱に手を入れた後、念じながら紙を一枚とって開くそこに書いてあった数字は
『三』
良い。とっても良い。発表会の情報をネットの海で見つけたときには、シャインアラウンドの主力パソコン『グラウンドパーク⑧』が三か月前、据え置きのテレビゲーム機『ストレンジ』が一年前に発表されたばかりでこの発表会では家電か周辺機器あるいは廉価版だと思われていたが、整理券配布の締め切り直前、突然、企業のトップであるラビング氏が直々に来るという情報がリークされ、さすがにフェイクだと思われていたが、締め切り後、正式にそのことが発表され、ネットは大荒れになり、無料で配られた整理券は一夜にして二千ルーガに化けた。発表の内容はその日のうちには必ず、あるいは発表日の正午には正式にニュースとなるにもかかわらずだ。
周囲には三百人ほどの人々が整理券と交換で手に入れた同じぐらいの小ささの薄紙に一喜一憂している。当然ながら上から三番目ということは最前列は確定、その中でも中心に座ることができる。
皆この手のイベントに慣れているのか一度己の幸運を喜び、あるいは己の不運を嘆いてからは、五分もかからず整列した。軍隊のような整列だが、それは己の欲とあまり騒いではつまみ出されるという保身とオタク特有の自分の好きなものではどこまでも誠実でいたいという精神から来る整列だ。あらかじめ決められた規律がある軍隊とはむしろ真逆。誰かから教わったわけではない。それでもみな同じ姿勢で時間が進むのを待っている。待ちに待った本物の空気に浸っていたアンドリューだがここで九時になった。
ガラガラガラ
店舗の中と外を区切る白いシャッターが上がる。
焦る必要はない。競争はないんだ。席順は決まっている。だがそれでも気持ちを抑えられない。走り出したい衝動にかられながら、一直線に発表のために設けられたブースに歩き出す。
十分ほどしてから皆が座る。こういう時に今日の発表について観客たちで語り合い、議論しあい、理想や夢を押し付けあったりすることがあるが、今日は一番後ろの二人組だけだった。
「携帯機に参入かな、今や据え置きより携帯機のほうが市場は大きいでしょ」
「その分、携帯機のほうが玉石混交。数が多すぎる。それにパソコンメーカーが携帯機に進出するとスペック盛りすぎ、値段たかすぎ、消費電力多すぎ、の三重苦で失敗するジンクスがある。いやここの代表取締役ならそんなヘマはしないと思っているけど」
今日の発表内容は一切リークがされていない。その手のサービス精神というかサプライズ好きというか驚く顔が見たいというか映画のネタバレする奴は島流しにすべきだとか、とにかくそういう考えがこの企業にはある。
実際にアンドリュー自身も自分の好みであるパソコンやゲームの話がされる可能性は低いと考えていた。だがそれでもここまで楽しみにしている。
九時十五分。店舗内が少し暗くなる。それを合図に皆の前方の少し床が迫りあがった部分に光が当てられる。
椅子が並べられたエリアからは見えにくい位置にあった従業員専用の出口から高級そうな黒いスーツを着た三十を過ぎたぐらいの男性が現れる。この人こそが三十代にして長者番付にその名を遺すラビング=オードその人である。
観客たちからどよめきが上がる。正式に発表した以上この会社に限りキャンセルなどありえないがそれでも不安はあった。
当然会場の熱気に比例してアンドリューもテンションが数倍にひきあがる。
盛り上がる会場に対して、当のラビングはいたって冷静。
「皆さんお静かに。これからわが社の新事業の発表をいたします」
途端に会場が静まり返る。ここにいる人はほとんど複数回この手のイベントに参加している。だがそれ以外の初めてイベントに参加したアンドリューのような人物まで黙ったのは彼のオーラと呼べるものか。
ほかの人物には当然ないがアンドリューには既視感があった。どことなく昨日ホテルでみたような見る者を圧倒する雰囲気。相当な修羅場を生き抜いてきたような気配。静めようとして逆に煽るノア=フェン=イルミナルとはまるで違う何か。
「今日発表したいのは二つ。一つは電気自動車分野への参入です」
電気自動車。それは一般人には旧時代の遺物。なにせエーテル自動車がある。タイヤがないからすり減ることもない。宙に浮いているから小動物を引いてしまうことがない。三十年ほど前の研究で乗り物酔いの可能性もエーテル性の方はほとんどなくなった。それで燃料の値段はほとんど同じ。ゆえに飛行機や船ならともなく車や電車において電気がエーテルに勝利している点などただ一つしかない。その一つもほとんど一般人には関係がなくなってしまった。それはエーテル自動車を浮かべて動かすために車線の上に専用のシートのようなものを張らなければならないということだ。つまりあらかじめ指定された範囲にしか動かせない。だが今やそのシートも安価で設置できるようになり今やエーテル以外の車を見ることは一月に一度あるかないかという割合になってしまった。
当然会場に戸惑いが広がる。
「ええ、皆さんの心配は最も。電気自動車は狭い狭い分野です。それに私たちは車メーカーではありません。当然今から参戦して簡単に利益が見込めるとは思っていません。ですが」
当然電気自動車にもメリットはある。それは
「早ければ明日ニュースに出ると思いますが、数日前あるジャングルに民族が発見されました。そしてどうにかコンタクトに成功すると奥にはさらに別の民族がいることが発見されました。その場所に行くためには当然電気自動車でなければなりません」
エーテル車はエーテルを燃料として動かす関係上、車にエーテルを供給するエーテルスタンドが必須。例え、住民の九割が七十歳を超える田舎でも、この星の盟主たるイルミナル国に敵対している国でも設置されているが、それでもなお探せば設置されていない場所はある。その中の一つが文明が存在しない未開の地。だが電気自動車は時間はかかるが車に張り付けられている高性能ソーラーパネルで充電することが可能。ゆえに未開の大地に向かう時には、電気自動車が使用されている。
「ええ、ええ皆さんの心配はわかります。狭い狭い分野ですがそれでも一流企業たちが鎬を削る場でもあります。無論勝算はあります。それがもう一つの発表」
ラビングはこの場にいるすべての人間に視線を向ける。従業員にも観客にもだ。その視線を向けられて従業員たちは笑顔で返し、観客たちは驚きで返す。そこで観客たちは思い当る。予想はしていた、だがそれは、それだけはありえないと思われてきた。例えば親がケーキを買ってくると言われてホールケーキを想像するようなものだ。テストの平均が五十点の子供がいつもより点が良かったと聞いて九十点台を取ったと想像するようなものだ。あまりにも高望みが過ぎている。
「それは」
ラビングがためる。本来ならハードルを上げるだけの行為。そして観客は、ファンはみな知っている。この会社はどんなハードルでも超えてきた。
「第十二世代バッテリーの完成です」
一際大きな声だった。それでも歓声はそれを容易く超えた。
正直に言うとアンドリューはそこから先はあまり覚えてはいない。発表の後ラビングが奥に引っ込んでどうにか質問コーナーがないことだけは確認したが、そこからの記憶がない。
この感情を整理しようと近くに喫茶店に入る。店員に促されるまま奥の席に座りアイスこーひを頼むと一言つぶやいた。
「遂に完成したんだ」
第十二世代バッテリーそれは人類の英知。端的に言えば今までより高い効率で電化製品を動かせる。それだけだ。頭の中でラビングの言葉が反響する。
「今後、わが社のすべての製品に取り付ける予定です」
その時、後方で音がした。
ガチャン。バタッ。
そこには複数の人が倒れていた。
。
ガチャン。バタッ。
そこには複数の人が倒れていた。