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黒白の魔法剣士  作者: 傘羅栄華
ファイブアラウンド編
22/114

一話あるいはDOCTOR

全知全能の神には子供が五座生まれた。とはいえ母親はみな違った。



土曜日。

 日中は冬の寒さがだいぶ収まったが、朝はまだ寒い。

授業中にも寝ており、適性が夢想睡(グッドナイト)である友人から自分よりよく寝ているとされるカイン=ルーグという人間にとっては本来ならまだベッドの中にいる時間であり、昨日の事件と授業が始まったばかりだからと言い訳をして昼過ぎまで寝ようとしていたが、現実は学校から四十キロほど離れた病院にいた。


 カインが聞いた限りでは昨日、雄我が相手のボスを倒してその後、敵が全員逮捕され、その知らせを聞いて医者を足止めしていた連中が撤退していった。それぐらいに校舎内を襲っていた魔法、ブレインズメールが解除されて、起き上がった人から検査していって、午後九時ごろにすべての検査が終わってからその場は解散になった。

 昨日連絡がつかなかった原因を父に話したら、一通り検査した後だが、もっと検査が必要だと言われ、世界でもトップの名医に診てもらうことになった。

 始発に乗って一時間ほど電車に揺られ、その後バスとタクシーを乗り継いで、眠い目をこすりながら病院の前に来た。

 ブロッサム病院と書かれた大きな看板が見える。

 クルクス高校が世界中から勉学、戦闘、スポーツ、芸術の天才、鬼才が集められているとされるのならばブロッサム病院は世界中から内科、外科、小児科、精神科、産婦人科、皮膚科など医療に関するありとあらゆる分野の天才、鬼才が集められている。カインの知る限りでも十ほどの科に分かれておりほかにも薬剤師や看護師など大勢の名医がいる。また研究の分野でも目覚ましい成果を上げている。紹介状をもっていないのならば、数か月は確実に待たされるといわれている場所だ。

 朝八時だというのに人の出入りはあわただしい、受付で要件を言い、待合室に座る。お気に入りの漫画でも持ってこようかと思っていたが、意外にも十分ほどで通される。

「どうぞ」

 女性の奇麗な声が響く。

 自分のような健康な人間が来てもよいのかと思いながら、カーテンを開ける。そこに座っていたのは声から想像していたよりもずっときれいで優しそうな女性だった。

 名医だというからには眼鏡をかけた年寄りで、横柄なおっさんだと決めつけてかかったいたカインだったが、自分の担任より一回りほど若い女性に促されて回転する丸椅子に座る。

「カイン=ルーグさんですね」

「は、はい」

 カインの声が少し上擦る。

「フューネと言います」

 女医が豊かな胸に押し上げられたネームプレートを見せてくる。

 その中に入った結婚指輪だと思われる指輪を見て、そりゃそうだよなと思いながらそれでも緊張は解れない。

 女医の美しさもそうだが、最近の二週間は親元を離れた影響かかなり自堕落になっている。特に先週の土日は眠りたいだけ眠り、食べたいだけ食べた。

 というより昨日の連絡は何処からかその情報を入手した父親から、ある程度は規則正しい生活を送るようにという忠告だった。

 話を生活態度からそらそうとして連絡がつかない理由を長々と話してみたが、その結果始発に乗って病院に来る羽目になった。

 過保護な父親のことだから、事件のことを心配してのことだろうが、今年で十六になるカインにはむずがゆかった。


 昨日で追ったダメージは脳と肉体のみであったため、血圧や脈拍などの基本的な検査を終えてからは、魔法で脳の異常を見る検査と、肉体の傷の検査を行った。

 女医の視線に背中がかゆくなったカインが少し前から友人から聞かされて疑問に思ったことを聞いてみた。

「友人に心臓部に傷跡がある奴がいるんですが、それは命に別状はないんですか?」

「ああ、その話は私も聞いたことがあります。確か天音家の・・・」

「知ってるんですか?」

「天音家の定期健診にも行ったことがありますから、そこで聞いたんですよ。本人にあったことはないですけど」

「へー」

「実物を見てみないと何とも言えませんけど、本人は何と?」

「確か生まれたころからあるとか」

「・・・生まれたころから」

 フューネはカインの肉体の触診を行いながら、脳の一部で思考する。

「ああいや、オレ記憶に自信がないので本当にそう言っていたのか自信はないですが、身内の医者から《傷そのものの悪影響はない》って言われたって言ってましたけど」

「身内・・・天音家に医者が・・・」

 天音家は防犯や教育の関係上あまり情報はほかには出さない。複数回家に訪れ、信頼を得ているフューネであっても知らないことはある。

 フューネが思考している間、部屋には沈黙が続く。

 一通り指針と触診を終えて思考にも一区切りついたのフューネがカインの疑問に答える。

「やっぱり直接見てみない限りははっきりとしたことは言えないですね。その傷跡に痛みがあるようなそぶりは?」

「・・・何も、動いたり風呂に入ったりしているところは見てますが、特に本人が何か気にしてるようなことは」

「なるほど、天音家が身内とまで表現するのなら、優秀な医者だとは思います。その人が大丈夫だというのなら、ひとまずは」

「ああ、昨日学校に来たケネスっていう闇医者にも聞いたんですが、直に見てみたいといっていましたが、結局会えなかったんですよね」

 敵のボス、クリフが気絶した後、三人はそのままパトカーに乗って警察で事情聴取を受けた。学校の敷地内を覆っていた魔法ブレインズメールは数日前からその影響があったものの、実際にその効果が発動されたのが金曜日の午後五時ちょうどであったため、その時に敷地外にいた雄我とアリシアとアンドリューは警察からほど近い病院で軽い検査で終わったため、ケネスは雄我には会えないまま、別の予約の方へ向かっていった。



「ケネス=リングにあったの?」

 その名前を聞いてフューネの顔色が変わる。驚いてはいるがある程度予想していた。そんな表情だ。

 あるいは裏切り者のように、あるいは尊敬していた同業者のように、そしてそれは大きく間違ってはいなかった。

「ええ、学校長が呼んだそうですけど。知り合いなんですか?」

 内心カインはしまったと思った。

 ケネスは医療会を捨てた男、たいして医療界の頂点ともいうべきブロッサム病院でその中でも一位、二位を争うほど有名で優秀なフューネに伝えるべきではなかった。

 表と裏。王道と邪道。

 険悪な中でもおかしくはなかった。裏切り者なのだから。

「ああ、昔同じ人に師事していたことがあって」

 フューネの顔が戻る。カインが推し量れる範囲ではそこにあったのは裏切り者を憎む感情ではなく、連絡が取れない旧友の無事を安堵する表情だった。そしてそれは大きく間違ってはいなかった。

 人の地雷を踏まなかったことを安堵した。

「そうなんですか」

「この病院で治せなかった患者さんが次に会ったときには何事もなかったかのように回復していたことがあるから生きているとは思っていたけど・・・よく連絡をとれたものね」

「学校長の権限は大きく深いですから」

「なるほど・・・じゃあ今度学校長にあって探し物を探してもらおうかしら」

「もしかしてケレブレムアニマですか?」

 今度こそフューネの顔に驚きに満ちる。

「どうしてそれを・・・」

 今度こそカインは地雷を踏んだ。そもそもケレブレムアニマのことは学校長から口止めをされていた。

 それでも学校長は入寮から二週間でカイン=ルーグという人間を知り尽くしていたのかもし口走ってしまった場合の対処法も口止めと同時に授けた。

「『昨日の放課後、学校を襲った連中が学校長を脅して探させようとしていたんですよ。』結果失敗したみたいですけど」

「・・・なるほど。敵は精神操作を適正とする連中。脳を是が非でも知りたいと思うのは当然・・・」

 ここにきてフューネが思い当たる。

「確か、ケネスがその場にいたのよね・・・そうかケネスもあわよくばケレブレムアニマを手中に」

 妙に納得した表情のフューネにカインが問いかける。

 カインにとってケレブレムアニマは敵の目的以上の価値はないが、それでも興味はあった。脳のすべてが書かれているかもしない。ということしか知らないその本の中身を。

「何なんですかその本」

「ケレブレムアニマという名前自体正式な名前ではないの、著者は何も言わなかったしね。ある医者が休憩中に書き留めていたノート。それ以上でもそれ以下でもなくて」



「ただその医者がただものじゃない。あの人は・・・私たちの師匠は医神とまで呼ばれ、問診、手術、精密機器の取り扱い、適切な薬の処方、病気やその治療法の研究。医療に関することならばありとあらゆる分野に精通した鬼才。私もケネスも歴史上の医者も神話上の医者も一分野でさえあの人にはかなわない。神にさえ匹敵する。そんな人が残した遺産。その死後、天涯孤独だったあの人の私物を友人と弟子と国が共同で精査した。その中にはいかにあの人でもたどり着かないとされていた未発表の難病の治療薬の配合表、かつて歴史の中に語られた難病の情報。死してなお、医療会を震撼させた人だけどそんな中でどれほど調べても見つけられなかった一冊のノートがあるの」

「・・・それが」

「そうそれがケレブレムアニマ。医者の間では完全で完璧な脳の図解だとか、不老不死に至る薬だとか言われているけど中身は誰も知らない。でも確かにどこかには存在する。ただ・・・」

 そこでフューネの言葉が一区切りつく、まるで関係のない話をするように。

「ただ、私は医療とは何も関係のないただの大きなの日記帳だと思っているの。それなら死期を悟って燃やしているから見つからない可能性もあるし、それが医療の進歩に役立つのならば生前公表しているはずだしね」


問診と検査が終わって二十分後

 待合室で待っていたところを呼び出されたカインに検査結果が伝えられた。

 『異常なし』

「良かったー」

「検査の結果、脳にはどこにも異常はなし。ただちょっと暴飲暴食しすぎね」

「ぐっ」

「運動習慣があるのと若いから今はあまり問題ないけど、さすがにね」

 父の忠告をそらすために出た言い訳で、今度は医者から忠告されてしまった。

「気を付けます」

 弱弱しくそう答えることしかなかった。


 すごい話だった。

 もとは検査をしに来ただけで、ケレブレムアニマの情報は口止めされていたこともあってたまたま聞けただけだが、伝説の医者が残したノート。そう聞くと興味が尽きない。あの女医の話では今、その人の私物は国が持っているらしい。それが転じて某国の裏では非道な実験がされているという陰謀論まであるらしい。弟子の誰かが盗んで隠し持っているというは謀反論まであるらしい。面白そうだ。目が覚めてしまったことだし今日は調べてみようかと思い、死と生の狭間特有のオーラを出す病院を出て深呼吸をした後、父親に検査結果を伝えようとしたカインが見たものは、大量の救急車だった。

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