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黒白の魔法剣士  作者: 傘羅栄華
聖都脱獄事件編
2/114

事件

神の王は自分の父を殺した怪物の王を殺すため英雄たちに殺し合いをさせた。

なぜならその者を殺しきるには英雄の中の英雄でなければならないからだ。



四月五日火曜日

「遅いな」

入学式を昨日に済ませ本来なら今日から授業であったはずだが、青い薔薇のネックレスをした少年、天音雄我はイルミナル国の中でも若者が多く集まるファッションの中心地の商業ビルとビジネスホテルの隙間で飾り気のない制服で人を待っていた。

周囲の人間が遠巻きに見てくる。

平日の午前中に下ろしてた手の制服を着た学生が派手なネックレスをしてファッション街にいる。なかなかにレアな光景だ。

事の始まりは、少し前

入学式に教科書配布、学校内の施設紹介、寮のルールの確認など学校行事を済ませいつもより早く眠りついた。授業開始一日目から寝坊からの遅刻など絶対にないように少年の得意魔法である眠りを操作する魔法で起きる時間を設定し、念のため寮に備え付けられていた置時計のアラームをかけた。しかし少年は自身が問題ごとに巻き込まれやすいいわゆる不幸体質であることを自覚していた。そして寝る前に直感のようなものがあった。明日は何があると。

悪い予感ほど当たるとは、誰が初めに言い出したのか。

事件は起きた。

それも一年に一回もない、一般的に大事件と呼ばれることがその日の夜にあった。



「おーい、こっちだ、こっち」

死刑囚の一人が掘られた穴に仲間を誘導した。

かつて一緒に銀行強盗を企てた同業者から十五年前にいつか脱獄させると言われいた。

死刑囚自身がそのことを忘れていたが、同業者は人並外れて律儀であったのか一年前にスリに失敗し収容された二十歳ぐらいの男から脱獄させる計画があることを知った。その方法とは買収

すなわち金

この世界、いや歴史の様々な王や英雄や一般人を狂わせ戦わせ血を流させた魔性

死刑囚が罪を犯す前にしていたスーパーの店長の数倍の金額と安定を得ているはずの看守を狂わせたのもそれだった、

「まあ、俺たちとしては願ったりかなったりだがな」

「こっちです」

「しかしな」

「何ですか?」

「この穴は何処につながっているんだ。」

人口の洞窟を通りながら死刑囚の当然の疑問にスリは答えた。

「まず建物の外に出ます。その後木の陰からまた別の穴がありますのでそこからシャントの森の洞窟にでます」

「なるほど。後これだけの人数を脱獄させて何がしたいんだろうかあいつは」

「さあ・・・それは私にも」

逮捕される前に少しだけ一緒にいてそのころから変わったやつだと思っていたが、死刑囚にはその意図が理解できなかった。

闇と光が漏れる。

それは牢屋の中からは決して味わえない自由の象徴

夜の闇と月の光

それを見たときには死刑囚もその他の犯罪者も誰かの意図などどうでもよくなっていた。

囚人たちが洞窟についた二時間後収容所ではようやく看守たちが異変に気が付き始めた。

「一夜にして七人が脱走だと!どうなっているんだ」

腹に脂肪を蓄えた看守長が怒鳴り散らす。

「申し訳ありません」

額に大量の汗をにじませながら看守の一人は答える。

傲慢な看守長にとって普段の振る舞いがこの事件の一端であることを気付いていなかった。

「どうする。どうするか言ってみろ。このウスノロ」

看守長が怒鳴り散らす。

「本当に申し訳ございません。いま収容所内を探索させているところです。しかし隅から隅まで探させていますが、まだ囚人たちは影も形もありません。早いうちに上に知らせたほうが」

「ぐぬぬ」

看守長の頭の中では、普段は見せないほどの計算が合った。

このまま収容所内で全員捕まえられれば上に知られることはない、しかしもし収容所の敷地の外に出ているようなことがあれば、脱獄のことを上が知るのは時間の問題、その時脱獄させたことと脱獄に気づかなかったことの責任が問われる。そうなれば自分は無事では済まない。良くて降格、悪ければクビ。女を囲むには金が要る。金がなければ自分などだれにも相手にされない。それが分かっているからこそ普段は見せない全力だった。

「くそっ」

机の上に置いてあった灰皿を床に投げ捨て少し冷静になる。

いつもならこうすることで少しは苛立ちも晴れるのだが今回ばかりは違った。なにせ失業の危機だ。保身。そんなものがこの男を動かす。

そしてここまで来てこの状況は自身の普段の振る舞いが招いたことに気づいていない。

「とりあえず上に報告だけでもしたほうが」

「わかっている」

看守長の豊満な体はその苛立ちが最高潮に高まったことを示すように震える。

看守の一人が笑いを必死にこらえるように無線機から情報を受け取り報告した。

「大変です。収容所内の南東にある木の陰に穴が開いています。」

「その先は何処へ?」

「調査中ですがおそらく敷地の外かと・・・」

「看守長、こうなったら早く報告を」

「やむを得ん」

心底不快そうにそういった。

脱獄がイルミナル国警備隊に知らされてから一時間後死刑囚ウールはかつての同業者ロベリアと洞窟内で話し合っていた。

「どうしてこんなことを」

ウールの疑問はもっともだ。

なにせ収容所内の約半数の看守に賄賂を渡し洞窟から収容所内への穴を掘った。別に二人は特別親しかったわけでもない。自分しか知らない隠し金庫の番号があるわけでもない。ただ居酒屋で少し気が合い金のために銀行強盗を企画した。その程度の間柄だ。

「いっただろう約束は守る。それに面白そうなパーティーを考え付いてんだ。協力してくれないか。なにせ人数がいるんだ。それも人殺しに躊躇のないような奴が」

ロベリアは整った顔立ちを楽しそうにゆがめながら答えた。


ロベリアが計画について話している間警備隊の詰め所では議論があった。

議題は脱獄した囚人たちをどのようにして捕まえるのか。そして今現在の対策はどうするのかである。さすがに集団脱獄の対応などマニュアルには存在しない。

混乱に乗じて脱獄する可能性がある収容所への警備の増加。

脱獄の手口の解明と手引きした者がいるのならばその逮捕。

脱獄犯の逮捕。

などなどやることは山積みである。イルミナル国の中を警備と捜査するだけの通常業務の時点で慢性的な人員不足が叫ばれていた組織にとって、それらすべてに対処することなど不可能に近かった。

「恐れながら一つ策があります。」

責任追及のために呼び出された看守長が口を開く。

「学生に街に配置してもらって、不審者が出れば自分たちが逮捕する。というのはどうでしょうか。もちろん私も出ます。」

あまりにも下策

しかしこれ以上議論する時間的余裕も隊員の精神的余裕も存在しなかった。

「ではその策でいこう。」

看守長は醜悪な顔をさらに歪めて笑った。



午前六時イルミナル王宮の東。王国立クルクス高校男子寮の三○一号室で少年は大きな音で目を覚ます。

じりりりり。強制的に目を覚まさせるような音が寮に響き渡った。置時計の出せる音量ではない。

夢や眠りを操作する魔法を得意とするため、ほかの生徒より目覚めが速かった天音雄我は机の上に置いてあった腕につける多機能デバイス。通称MISIAを起動し確認した。電子機器から青白いディスプレイが出現し、学校からの連絡が映し出された。

「今朝一時に七人がルル収容所から脱獄。ルル収容所から半径四十km以内に警戒態勢を敷く。学生たちにも援助の申し出がある。細かなところは担任に聞くように」

思わず目を疑った。そして複数回目線を上に下に動かしてみたが、書かれている内容は一文字たりとも変化しない。

クルクス高校は世界中から勉学、運動、戦闘、芸術のいずれかには秀でている生徒しか存在しない。生徒会と風紀委員ともなれば、学内のことだけでなくイルミナル国の事件に関わることがあるというのは聞いたことがあったが、三年や二年だけではなく入学したての一年生まで呼ばれたという事実が起こっている事件の大きさを予測するのには十分であった。

三回見て事の重大さを予測し始めてからまるで内容を理解し始めたタイミングを図ったように担任から注意事項とそれぞれの生徒の配置表が送られてきた。

生徒たちは立っているだけまたは歩いているだけで怪しい人間を見かけても捕まえようとせずに警備隊に報告すること。

常に2人1組で移動し単独行動はしないこと。

ありきたりな注意事項を流し読みし、少年は朝の外に駆け出した。



午前八時。天音雄我は周囲を探りながら共に行動する相手を待っていた。

彼自身待つことがあまり好きではないが、時間を守ることに対してはこだわりがあった。すなわちそれは遅刻してくる相手の心理をあまり理解できないということでもあった。

「悪いな、遅れてしまった」

集合時間より二十分ほどの遅刻であった。

「何があったんだ」

「いやあ、道に迷っている人がいてつい・・・」

クラスメイトであるカイン=ルーグは悪びれもせずにそういった。

人助けは大切なことだ。天音雄我自身も助けられるのならば助ける主義であるが今は状況が違った。

「優先順位があるだろう。道案内と脱獄犯どっちを優先すべきか誰にでもわかる」

「両方だ!」

カインは自信満々にそういった。

「いや・・そうじゃなくて」

そう言いかけて雄我は気づく。ここで素直に指摘してこれからの協力に問題がおこるのはまずい。そしてただでさえ遅れているのにここで時間を食うべきではない。

「わかった。その話は後にしよう。さっき担任に連絡したら。俺たちは遊撃として調査してくれと言われた。」

「なるほど!よし行くぞ」

カインが元気よく返事した後、元気よくかけていった。

慌てて止める。

「待て、脱獄犯が隠れているところに思い当るところがあるのか?」

「ない!でもこっちのような気がする」

「直感かよ」

「オレの直感は当たる。まあついてこい」

元気よく飛び出していったカインに対し、雄我は仕方なしについていった。


二十分後幸か不幸か二人は服屋の倉庫の中で脱獄犯の一人ベイル=スクロールと対峙していた。

「言っただろう。俺の直感は当たると」

「嘘だろ・・・」

「これで、これからもお前はオレの言うことを聞かないといけないな」

「そんな賭けしてなかっただろ」

少年二人が言い争っているとベイル=スクロールは顔面蒼白になりながら答えた。

「何言い争ってやがる。お前らも俺を殺しに来たのか?」

「お前こそ何言ってるんだ。まだお前らに殺害許可は出てない」

カインが言い切る前にベイルは持っていた拳銃を乱射した。

「わっと」

「おっと」

学生二人は軽々とかわし鉄製の箱の影に隠れた。

「おいどうするんだ。街中で銃を乱射されたら厄介だぞ」

何よりも市民の安全を確保することを優先するカインの問いに雄我は答えた。

「大丈夫だろ。あの銃はα37、看守が護身用に持たされているやつだ。奪われてもいいようにダメージは抑えられている。至近距離で顔面に放たれたとしても死にはしない」

断言する雄我にカインは苦笑する。

「そういう問題じゃないと思うが・・・」

「それより気になることがある」

「気になること?」

「あいつ怯えすぎだろ。確かあいつ元狙撃兵って書いてあったぞ。」

カランカラン。と銃弾の装填に失敗している音が聞こえてくる。渡されたデータによるとベイルは元軍人。それも狙撃兵であったはず、そんな人物が装填に失敗するなど考えづらい。

「よく覚えているな、そんなこと」

「誰かさんが遅れてきたからな」

「それよりおかしくないか」

自分の失敗を追及されそうになったカインが少々強引に話題をそらす。

「なんで銃弾に変えがあるんだ。」

「それは・・・」

それこそが乱射した後二人が確保しにいかなかった理由。

α37の弾は五発まで。四発撃った段階で距離を詰めればよかった。相手が最後の一発を撃ってきても弾丸を切る自信が雄我にはあった。

しかし現実として相手は六発目七発目を撃ってきている。

脱獄の際に弾丸を奪ったとしか考えられないが、わざわざそうする意味はもっと考えづらい。

「とりあえず学校に連絡を頼む」

「お前は?」

「ちょっと会話してみる」

雄我は隠れるのをやめ、両手を上げ会話を試みた。

「何を怯えているんだ?」

「うるさい!」

相変わらず顔色悪く乱射してくる。

「そっちがそういう態度なら、こっちも戦わざるを得なくなるだろ」

少年は笑う。まるで戦いこそが望みといわんばかりに。

青色(せいしょく)薔薇(そうび) 系統一」

首から下げた青い薔薇のネックレスが光となり少年の両手に集まる。

右に刀。ありえないことを起こす能力を持つ日本刀《奇跡》

左に剣。偽りの現実を否定する能力を持つ魔法剣《不可能》

それこそが天音雄我の最も正しいあり方だった。

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