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黒白の魔法剣士  作者: 傘羅栄華
ケレブレムアニマ編
15/114

騒ぎ

「ぼく達のクラス一人少ないだろう。不思議に思って聞いてみたら修行が長引いててまだ来てない人がいるらしいんだ」

「あらそれなりに知れ渡っているのね、あたし」

「修行?中学校じゃなくて修行?」

「あたしにとって修行のほうが重要だった」

「え、まあそっちは今おいておこう。中の様子はどうだった」

「校舎内で無事な人は十七人。傭兵と思われる人は縛られているのが一人。それ以外は三人。ただ傭兵の数は隠れている奴がいたらもっと増えるけど」

「十七人か戦闘できる人の割合にもよるが微妙なラインだな」

「それが校庭に水で字が書かれてあるんだ」

「なんて書いてあるんだ?」

「外を頼む」

「ならそれを信頼するか」

「いいのか」

「校庭に書いてあるってことは、千里眼を使える人物が無事であるということを知っているってことだ」

「そっか、確かカインに誘われたけど断ったんだ。でもカインは赤だよな。誰が書いたんだ」

「ほかに青の使い手がいたんだろう」

一人の人物を思い浮かべながら雄我が答える。

「とりあえずあたしたちは外の敵を倒せばいいわけね。そっちのほうが戦闘は多い。うん初日から面白そうなことになった」

「だが人数も居場所も分かっていない」

「そこだよな。ある程度は千里眼で見れる。寮やら校舎やらを全部覆っている以上そこまで離れていないだろうけど。潜伏場所も複数ある可能性あるしやみくもに探してもな・・・」

「できることから探すか。ジャマ―を破壊していこう。それなら大まかな場所が分かるだろうし。直接連絡が取れるようになる」

「なら二人ともあたしについてこい」

三人が駆け出して行った。

校長室

「問題はこれで伝わっているかどうかしらね」

「これば祈るしかないと思いますよ。それより先ほどの音は何だったんですかね。場所は近かったですけど」

「誰かが戦闘したと考えるのが自然。だがそれにしては一度きりだったな。一撃で決着がついたのか」

「あの位置は・・・」

「麗華君とカイン君は校舎のほうを見てもらえませんか」

「校舎ですか?」

「ここで集まっていてもなにも進展しません。重篤な人がいればここに運び込んでケネスさんの治療を受けてもらう。もし戦闘が起こっているのなら加勢する。私たち二人はは寮の方に。あそこは教員以上の権限がないと全ての寮には入れませんから」

二人と一人が別の方向に走り出した。

ピンポンパンポーン

校舎と寮中に響き渡る。

「現在敷地内を覆っているのは精神操作魔法の複合であり数日前から少しずつ発動していたと判明重大な怪我を負った人物は校長室まで。不審人物を見かけた場合は迎撃または退避を」

「大変なことになったわね」

女子寮と男子寮の狭間でバンジー=シンケールスとセシル=ベルが会話している。二人ともそれぞれの自室にいたが異常を察知し、寮から出てきたところで放送を聞いた。

「まあそれはそうだが・・・これで合点がいった」

「何が?」

長くなりそうなのでできる限り聞きたくないバンジーだったが聞かないと話が進まなさそうなので聞いた。

「僕に告白してくる人がいないと思っていたんだよ。でも精神操作なら納得だ」

「少しずつ発動していたなら効かない人のほうが多いと思うのだけど」

「ぐっ」

その時バンジーの直感が働いた。セシルの返事を聞き終える前にその場からセシルを押して自分も退避していた。

二人がいた地面が光によって削れる。直撃すれば軽いけがでは済まない。そう思わせる地面の傷の付き具合だ。

「何?何?攻撃どこから?」

「左よ」

いち早く状況を把握したバンジーが光が発射された方向を見る。

「・・・まさか避けられるとは」

「誰だ、あいつ?見ない顔だが、ああそうかあれが放送で言ってた傭兵か。にしても」

目の前に立っていたのはいかにも軍人といった衣装に身を包んだ四十歳ほどの女性だった。女性の名前はルシンダ。かつて大戦で大量に雇用されていた軍人の一人。戦争が終わることで軍人たちの大勢がリストラされ彼女も例にもれずその一人。それなりの成果を残したが上層部の目にはとまるほどではなかったため引き続き軍部に残ることもなく、その成果も英雄視されるほどでもなかった。二十代を戦場で過ごした彼女は今も定職にもつかず結婚もせず傭兵で食いつないでいた。

「一応聞いておくけど、なんの用かしら?私たち出身は普通の家よ」

「語る気なんてないわ」

目的が敷地内の人をできるだけ倒すこと。そして学校長をとらえ、交渉をできる限り有利に持っていくこと。ゆえに制服さえ着ていれば相手の出自など関係はなかった。そんな回答に対し予想していたように少女は軽く笑った

「でしょうね。二対一だけどまさか卑怯だなんて言わないわよね」

「当然でしょう。こんな状態になることなんて承知の上で雇われているわ」

二人と一人が構え向き直る。初めに動いたのはルシンダだった。

「二十光弾」

二十の光の弾が斜め上から二人に降り注ぐ。二人は運動能力で入学したわけではないがそれでも意識すればさけられる。それぐらいの数と速度。なにせそれがルシンダの狙いなのだから。

長い詠唱が始まる。

「その命(身)。尽き果てるは誰かのために

その魂(身)。死に絶えるは誰かのために

その思い(身)。止めどなきは誰かのために

主へその身を捧げない光の指揮官と光の兵士(ホワイトディビション)

夕日が集まり複数の軍服に重火器で武装した兵士たちが現れる。

「あいつの狙いは最初から」

「戦争は十一年も前に終わったというのに。それに師団というには数が足りないんじゃなくて」

「うるさい」

「どうにも軍人であったころを誇りにしているタイプなわけね。(優秀な指揮官になりたかった)か(優秀な指揮官であった)かどっちかは知らないけど」

「喧嘩を売ってどうするんだよ」

「お前たち子供にわかるのか。戦争時だけ持ち上げられて人生を棒に振ったということが。平和な世界を享受するお前たちに」

「さあ?わからないわね」

少女はいつものように気怠げに答えた

「一、二、三、四、五、六.六体。奴自身を入れて七か。とりあえず半分は任るわよ、セシル。青き水人形(ウォーターマネキン)

バンジーの周辺から水が噴き出し、それが三つの不定形の人の形を成す。人の形といっても顔があり武器を持つ光で構築された兵士ほどではない、体幹から四肢と頭のようなものがあるだけの案山子に近い。

「仕方がないか…岩礫」

セシルの前身から岩の礫が三体の光の兵士に襲い掛かる。

基本的に詠唱は長ければ長いほど強力な魔法となる。それは魔法学の常識。ゆえに水人形より光の兵士のほうが単純なスペックは高く、操作もしやすい。

「小賢しい。所詮子供の浅知恵」

青の人形と茶の塊の攻撃は白い兵士への攻撃は当たった。が

「ダメージが通っていない?」

バンジーに戦闘経験が多くあるわけではないが、それでも兵士には表情のようなものがあるため理解した。白い兵士は攻撃を受けても何のリアクションもとらない。回避も防御も表情の変化すらも。

「ふふふ、今度はこっちの番」

光の指揮官、すなわちルシンダが装飾過多なアサルトライフルを横に振ると光の兵士たちがどこからか取り出した銃剣を二人に発砲する。

「くっ。動け」

「土下位の煌めき(アンダーワールド)」

水人形うちの一体がバンジーの前で盾となりその身で弾を受け止めた。魔法攻撃でなく実弾であったため、水の体を貫通せず体に残る。

セシルはその体ごと大地の中に隠れ、実弾を回避した。

「ぐっ・・・地面の中に・・・」

当然、ただの実弾であるため大地の中にいる人に当たるはずもない。出てくるところを狙う。後手の戦法。それしかなくなる。

ゆえにそちらに気をとられる。バンジーは戦闘のプロというわけではないが、それでもそのタイミングを見逃すほど平和ボケはしていない。光の兵士に攻撃は通らない。ならば生身の指揮官を狙う。

「水は主となり世界を潤す。

されどその災厄は生命を押し流す

水弾抗無常黎牙(ウォータイラント)

グォォォォ

ただの水の塊が轟音を鳴らしながらまっすぐルシンダに迫る。

敵対するものすべてに恐怖を与えるそんな一撃。

「兵士たちよそのすべてでもって民を守らん。敵前逃亡は死ぐぁぁぁぁぁぁぁ。」

詠唱し終える前に激突する。回避なんてできるはずない。それほどまでに早い。防御なんてできるはずない。それほどまでに強い。しかし

「ぜぇぜぇ。どうにか」

生きていた。そのうえ立った。

「殺すつもりはなかったけどよく死んでないわね。それでもご自慢の兵士たちは皆消えたけど。どうする?弔いでも」

「私をバカにしやがって。絶対に許さない。殺して殺して殺しつくす」

表情に狂気をはらませながら軍服の胸ポケットから二枚のカードを取り出した。

当然だがただのカードではない。今まで使ってこなかったということは正真正銘の奥の手。一発でこの状況を逆転する切り札。

「マジックアイテム。それもカード状の?回復効果・・・発動する前に」

「もう遅い。それにそんな効果じゃない。発制」

二枚のカードを自身の頭に押し付けカードが光る。

見るものに恐怖を与えるほどに狂気をはらませていたルシンダの表情がさらなる狂気に染まる。

「何を・・・」

さすがのバンジーも恐怖する。それほどの気迫。

その時、地中にいたセシルが音をできる限り最小にして地面から出現し後方から攻撃を仕掛ける。前方の女生徒を屠ることしか考えていないルシンダに察知できるはずがない。正気を失い、狂気に身を任せる相手には有効な一手。

「な、なんで」

後方から土でできた小太刀を素手で受け止めた。手から血が出てはいるが構わず小太刀を持っていないほうの手。すなわち左手でセシルの顔を殴りつける。

どんな詠唱も間に合わない。それでもどうにか体をひねって回避する。しかしその代償は大きい。

「ぐぁぁぁ」

セシルの体が背中から大地にたたきつけられる。次の攻撃は回避できない。

「水弾」

バンジーから水が放たれる。速度重視でそれほど攻撃力があるわけではない。それでもルシンダは回避すらせず背中で受け止めた。当然そこからも服が破け血が出る。それにも気を配らない。それでも憎たらしいその声ははっきりと聞こえた。

「三対一だけどまさか卑怯だなんて言わないわよね」

直後、ルシンダの体が足元から凍っていった。

「なんで・・・」

それを最後の言葉に氷像となった。

「あれだけ音を立てて戦っていたらほかの人に聞こえないわけないでしょう」

「はぁはぁ」

「ふぅ」

二人がその場で座り込む。さすがにこちらも限界だった。

「これはいったい何?」

校舎の中から雪風が出てくる。敵を探している間に尋常ではない爆音を聞いて駆けつけピンチになっているクラスメイトを見かけて敵を攻撃した。

「さぁ?最後の手段に何かのマジックアイテム使われてピンチになっていたってところ。とりあえず助かったわ。礼は言っておく」


四人の決着がついたころ正門から三百メートル離れた公園の端で三人が新しくジャマ―を発見していた。

「うーん・・・これだ」

アリシアが指をさしたのは公園の自販機の横にあるごみ箱の中だ。雄我がごみ箱の底から鉄製の工具箱のような箱を取り出し鍵をこじ開けるとそこに入っているのは

「これはさっきの同じ」

「このタイプは割とメジャーどころだ。半径一キロ以内ならば特定の場所に出せる充電式。さっきと同じ種類で同じサイズ」

「とりあえず壊す。はぁー」

アリシアが拳に電気をまとわせて殴ると大きな音を立てジャマ―が壊れる。

「これで三か所目か。今のところカインに連絡しても出ないがまだあるのか?」

「あたしが感知する範囲ではあと二つ」

「しかし変だな」

「誰かひとりでも見張っているか守っているかとは思ったんだけどこれまで誰もいなかったしね。いちいち千里眼使って周囲を警戒しているけど二回連続徒労に終わるとは」

「ジャマ―はあくまで時間稼ぎ、これを探している間に学校の敷地内の制圧が終わるという判断。ってところか」

「あるいは一つにだけ防御を集中しているか」

「あたしとしてはそっちの方がありがたい。そろそろ暴れたい」

「しかし中学校の三年間を全部自然の中で暮らしてたとは、何度聞いても信じがたいな。いやまあ俺も小学校は一年しか通ってなかったが。それでも家に教師は呼んでいたが」

「ほかに聞いたことはないよね。なんで?」

「強くなりたかった。それだけ」

同時刻寮の前にいる別の三人は

「とりあえずこれからどうする?傭兵が少なくとも一人はいるけど」

雪風が疲労困憊の二人に念のため聞いておく。

「さすがにもうこれ以上は戦えそうにない。というか走ることさえままならない。そんな状況ね。セシルは?」

「こっちももはや戦力にはならない。そう断言できる。でもここにいても安全とは限らないんだよね」

「どうにも敵は動ける人全員を襲っているようね。目的は一切わからないけど」

「・・・君たち三人は無事なのか?」

三人が話し合っているとそこに現れたのは学校に在中している医師のヘクターだった。

「今傭兵と思われる人と対決したばかりです。先生こそどうしてここに」

「私は寮の方で怪我人を探しに来ました。自分の暮らしている寮以外に入るには教員以上の権限が必要ですから。のちに学校長も来ます。あなたたちも校長室まで避難した方がいいですよ」

「ヘクター先生がいるのに校長室にも誰かいるんですか」

「別の医者がいます。能力は確かですが・・・」

「訳ありですか・・・二人は校長室に。私はもう少し敵を探す」

怪我人を探すではなく敵を探すといった雪風にヘクターは恐怖しながら避難を進める。

「いえ皆さんは学生ですし、大人に任せた方が・・・」

「敵を倒す方が事件解決は早いですから。それでは」


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