VS傭兵
四人が頭をひねっているとき
雪風が人を探して歩いていると見知らぬ男が立っていた。本来この学校に入るのは簡単ではない。それでも見るからに教師でも生徒でもない。おそらく傭兵。
「君が出雲雪風だね」
「あんたは?」
「名前はヴェイス=バイト。精神操作魔法は人によって効きづらかったり、何かの拍子に解かれたりする。俺たちはそんな連中を各個撃破するために呼ばれた援軍ってとこかな」
「わざわざ説明してくれるとはもしかしてあなた馬鹿なの」
「かもしれない。それでもどうしても君を倒したいわけがあってね」
「まあいいわ。私の邪魔をするなら倒す」
雪風を中心に冷気が放出する。周囲の温度が二度ほど下がる。
「アイスエッジ」
複数の氷の礫が生み出され、そのうち三つが敵を襲う。
攻撃に対しヴェイスはさけようとも守ろうともしない。ただの直立不動。
しかし氷の礫はすり抜け奥の壁に突き刺さる。
「すり抜けた?いや」
「さすがに気づくのが速いね。そうさ、俺の適正魔法は幻覚。キミと似て非なるものだ」
幻影と幻覚。
幻影は周囲に魔法でできた景色を張り付け対象に幻を見せる魔法。幻覚は対象の脳や視覚に作用し幻を見せる魔法。結果は同じだがその過程が大きく違う。ゆえに厳密には違う魔法として扱われる。
「だからわざわざ私に喧嘩を撃ってきたということ」
「ああそうさ。似たような能力とくれば俺が出ないわけにはいかないだろう」
相手の行動の意味を知り雪風が少しやる気を出す。
「幻影霧散」
詠唱後、白い霧が現れ、霧散した時には周囲から複数の出雲雪風が出現する。
「これは・・・」
「氷の槍」
氷の槍がすべての雪風の手のひらから出現する。
「ウィンドバック」
暴風が吹き荒れ氷の槍が音を立てながら逆方向に動き。すべてが雪風に激突する。
「まさかすべて囮」
「どこにいるかわからない敵にはすべてを攻撃すればいい。それだけよ。零度の世界」
世界が急激に熱を失う。
「まあそんな簡単に行くとは思ってなかったけど」
凍った世界から現れたのは、大木。その中から人が出現した。
「やってくれるね。でも今度は俺の番だ」
「ウッドアラウンド」
地面から複数の木が出現する。
「そして視界斯界」
地面から先ほど出現させた木と変わらない木が出現する。
「なるほど。質量のある木と質量のない木」
すべての木から蔦が出現する。
「くっ」
そのすべてを避ける。ダメージがあるのは半分。それでも見破る手段はない。
当然避けるのにも限界はある。
「ぐっ」
蔦の一部が肉体にぶつかる。
「まずい」
雪風の動きが止まる。当然それを見逃す傭兵はいない。
「安心してくれ。眠ってもらうだけさ」
ヴェイスが懐からカードを取り出し、近づく。それがいけなかった。
周囲の木がすべて凍る。
そして雪風の体がつかまっていた状態から抜け出し、蹴りを繰り出す。
「なっ」
幻を見せる魔法を使用できる人物を相手にする以上木が凍る現象は驚くに値しない。見せるだけなら容易い。だが相手が緑から抜け出し蹴りを浴びせられたのは現実。
「どうやって抜け出した・・・まさか一部は君の・・・」
「ご名答。でも少し遅かったわね」
「くそっ。アイビーダブル」
二つの蔦が雪風を襲う。だがすでに遅い。
「凍えていなさい。凍結冷結」
蔦が凍る。だがそれは囮。
目の前にヴェイスの姿はなかった。
「逃がしたか。あるいは別の人物をねらったか。まあいい。何度でも倒すだけ。命尽きるまでね」
雪風はまた歩き出した。
職員室内。機材を調べていたロイド=バークは気配に気づき廊下に出た。
「見ない顔だね。医者ってわけでもなさそうだし。いやそれもしても」
ロイドが値踏みするように相手に近づく。
「なんだね」
「あんたいい男だね」
いい男。傭兵のアシュレイは背筋が凍るのを抑えながら答える。
「何なんだ。あんた」
「それはこっちのセリフ。まあある位程度予想はつくけど」
「さすが歴戦の勇者の一人。まあここで眠ってもらうよ」
「え。眠っている間に何をされちゃうの」
「どうもしねぇよ」
ロイドの発言にアシュレイが感情をあらわにする。
それが戦法だったのか。ロイドにしかわからない。
「雷の槍」
電気でできた槍がロイドの手に集まる。アシュレイが言い終えたときにはロイドは戦闘態勢に入っていた。
「そう来なくては」
ロイドも魔法銃N34を構えなおす。
「ファイヤー」
アシュレイがあいさつ代わりと言わんばかりに銃口から火が発射される。
ロイドもあいさつ代わりと言わんばかりに槍で相殺する。
ロイドが距離を詰める。しかし槍の攻撃範囲に入る前にアシュレイは距離を取る。当然それを予測できないロイドではない。
「逃がさないよ。電気監獄の鳥」
職員室を含めた本館の三分の一が庭ごと四角の電気の檻で包まれる。
「まさかこれだけの範囲を・・・」
「悪いね。恋愛以外をチマチマやるのは性に合わないんだ」
「だがここら辺には生徒も教師も精密機械も大量にあると思うが」
「承知の上さ。キミは自分の心配をすれば」
「ファイヤーブースト」
アシュレイのN34から先ほどよりも大きい火が発射される。しかし
「効かない」
「そんなやわじゃないさ。それに電気監獄の鳥の効果は周囲を閉じ込めるだけじゃない」
「何?」
監獄の隅から電気がアシュレイに向けて出現する。
「グガガガガガガ」
「さすがに死なない程度には抑えてあるよ。だから安心して眠ってな。ああそれとこちらから攻撃しなければこいつも攻撃をしてこないから、生徒も教師も問題ないよ」
そのセリフを聞き終えてアシュレイは気絶した。
「校内放送は使えるな。とりあえず中庭にでも人を集めて・・・いや校長室には防御魔法がしてあって放送用の設備もあるはず。だがいまだにしてないってことは何か考えがあるのか?」
ほかの教員と同じように、ロイド=バークも学校長は苦手だった。何を考えているかがわからない。人格がわからない。性格がわからない。目的がわからない。趣味趣向がわからない。だがありとあらゆる方面で高い能力を発揮する万能の天才。戦闘、知識、料理、そこまではまだいい。たとえ明らかに六十は容易く超えているであろうが自分を含めて教師の誰よりも身体能力が高かろうが、世界中から優秀な人物が集められているこの学校の教員の誰もが知らないようなことを知っていようが、たまたま人手不足で調理場に立った時有名料理店で二十年修行してきたプロより料理がうまかろうがそこはまだ納得できる。学校に王族や貴族が苦情を言いに来た時も毅然とした態度で相手の文句をはねのけたのも納得はできる。だがそれでもどれほど考えてもあれほどの人物が今まで隠れていたのかがわからない。
「あの人の計算に水を差すのは・・・」
手を止める。必要ならどうにかして伝えてくる。あの人はそういう人だ。十四年同じ職場にいた自分にはわかる。
それより気がかりなことがあった。
「そういえばそろそろくる時間か。初日にこんなことになるとはね」
二つの戦闘が終わったころ
「とりあえず外か」
学校の中で銀と緑。電気と赤が戦い終えたのを見ながら天音雄我はつぶやいた。
精神操作系の魔法は効果がある時と効果がない時がある。つまり校舎内にいる人はたまたま効果がなかった。そして戦闘をしているということは戦力として数えてもよい。ならば外に出て魔法を発動している敵を叩く。そのためには千里眼で動かずに広い範囲を見れるうえに電気機器に詳しいアンドリューとできる限り早く合流し、ジャマ―を破壊。校舎内の人と連絡を取り、何人かを学校内の守りに残し、残りで外に打って出る。事件解決までの道筋は見えた。だが
「方針は決まった。問題はアンドリューの居場所と魔法が効いていないかだけど」
こういうところで天音雄我の不運が発動する。
雄我はチャイムが鳴ってからすぐに外に出たため、その後カインがアンドリューを誘って断られたことを知らない。当然五時半に正門につくことなど知る由もない。だがやみくもにジャマ―を探しても時間がかかりすぎる。
「傭兵管理協会で口が堅くて電気系統に詳しい人でも雇ったほうが早いか」
そう結論付けた。
その時だった。
ドゴン
近くで何かを破壊する音が鳴った後左手首の電子機器から電子音が鳴った。
『電波が回復しました』
あまりにも無機質な声。
「何が起こって・・・ジャマ―が破壊されたってことか。いったい誰が」
とりあえず音がしたほうへ走り出した。
「何だいまの音?」
アンドリューが本屋から帰ってきて正門をくぐろうとした際に違和感を覚えて千里眼をしようとしたときにその音は聞こえてきた。
「アンドリュー。ここにいたのかちょうどよかった」
「あれ雄我。何があったんだ」
「俺もよくわからん。外から帰ってきたら中にいる連中がおかしくなった」
「で、どうする」
「俺は今の音のほうを見にいく。だから敷地内の状況把握を頼む」
「音のほうにも視界は飛ばせるけど。それでいいのか?」
「できる限る速く敷地内の情報は知りたいからそっちに集中してくれ」
「了解」
校舎から直線距離で二百メートル離れた地点にそれはあった。
「やけに不快な電波があるなと思えば」
破壊した少女。アリシア=バークはつぶやいた。
少女は学校内の異常について何か一つでも知覚しているわけではない。
目的地に向かうために不快な電波を探知しそれを破壊した。それだけだった。
「君は?」
音の場所にたどり着いた雄我が見たのは煙を出しているジャマ―と思われる機器とそれを破壊したであろう少女だった。
「あたし?あたしはアリシア=バーク。その服装クルクスの生徒よね。ならよかった悪いけど案内してもらえない?近くまでくれば分かると思ったけどさっぱりわからなくて」
「ああ」
二人が学校の正門にたどり着いたと同時にアンドリューが一通り視界を飛ばし終えた。
「雄我。とそっちの人は?まさかアリシア=バーク?」
「ええ」
「知ってるのか」