表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒白の魔法剣士  作者: 傘羅栄華
ケレブレムアニマ編
12/114

予兆

次の日

日課の特訓を終えた雄我が食事をしていると昨日の昼と同じような光景があった。

「「キャー」」

昨日と同じ。いや昨日より多い歓声。歓声を受ける側は減っているのに。

「君たち朝から騒がしいね。でもそんな君たちから僕は元気をもらっているんだ。感謝しているよ」

諫めつつも褒める。

これが日常でこれが彼の手口なのかと雄我が思い始めたとき目の前に生徒が座った。

カインではないアンドリューでもない

「おかしいと思わないか!」

「何が」

目の前の少年。昨日廃墟での脱出で別れてからそれっきり。顔は見ていたが会話はしなかった。セシル=ベルだった。

控えめに言って興奮していた。

「あの歓声だよ」

「少し騒がしいとは思うが、俺は昨日昼に見たばっかりだから平均を知らないが、王位継承権第一位なんだし普通では」

「そこじゃない。人気のある人物に歓声が上がるのは普通だ。だったらなんで僕にはないんだ」

そういわれて雄我はセシルを見る。雄我には人の美醜を図る魔法が使えるわけでもなく、美男子の度合いを測る特殊な能力はないが、目の前の少年は王族や貴族のパーティにいてもおかしくはないぐらいには美形だ。それぐらい古今東西のパーティに参加してきた雄我にはわかる。

「女に好まれる男は、女の心を持ってないとわからねえもんだろ」

「それはそうだ。でも僕だって中学の頃はそれなりに騒がれていた」

「それは知らねえが、なら金と権力じゃないか。王族だし生徒会長だろ」

「いつの世も美形とは王や貴族に囲われるか、嫌われ迫害されるかだ。つまりそういうことだ」

人の容姿を論ずる趣味を天音雄我は持ち合わせてはいない。というよりあまり興味がない。なにせ人は見かけによらないという諺も性格や生き方は顔に出るという賢人ぶった俗物の戯言も努力すれば美しくなれるといううたい文句も信じてはいなかった。容姿なんてものは生まれつき、多少は食事内容や肥満で変わることもあるだろうが、すべては遺伝。金持ちは美人を抱き、生まれてきた子供は富と容姿を手に入れる。ゆえに王族と貴族には美形が多い。長年そう思ってきた。

人の容姿を論ずる趣味をセシル=ベルは持ち合わせていた。それを人生の命題としてきた。

「女子の意見が欲しいね」

「まあ騒いでいるのは女子だからな」

ちょうど近くに女子がいた。

食堂の真ん中でナンパされていた女生徒。出雲雪風。

「雪風」

雄我が呼ぶ。

言い訳を見つけたという表情ではなく、ようやく声をかけてきた。という表情で開いていた椅子に腰かけながら答えた。

「生徒会長のことなんだけどさ」

「あいつがどうかしたの?」

声と表情には明らかに侮蔑があった。

「なんかあったのか?」

「昨日、帰り道に良かったらこの辺を案内するってしつこくて。あの時学校長が通りかからなかったら魔法をかけてるところだったわ」

「生徒会長様が騒がれてこの僕が騒がれないのはおかしいとう話さ」

「権力じゃないの?王族に入れるとならば」

「やっぱりそうなるよな」

セシルはまだ不満だった。


次の日

朝食を食べ終えた雄我にはある違和感があった。

「変だな・・・」

「何が」

いつのまにか隣に座っていた雪風が聞いてくる。

「何が。と言われると言葉にできないが何か変じゃないか」

「あれじゃないか、女生徒の騒ぎだよ。二日連続で聞いたから」

「来る時間がずれたからじゃないか」

「いやどうやらそうじゃないみたいだ。だってあれ王子だろ」

セシルが指さした先にはきょろきょろと周りを見渡しながら三階への階段を上がっていくノア=フェン=イルミナルがいた。

「まるで不審者のような挙動だな。人を探しているのか?」

「騒がれなくて不審がっているんじゃないの」

「いちいち騒がれないと飯も食えないのか面倒なことで。エレベーターがあるのにわざわざ階段を使うのか。そんなに騒がれたいのかね」

「でも騒がれないのはおかしくないか、オレが見てきた限りだと、毎回騒がれていたはずだけど」

「確かにそうだね。だんだん減っていくのならわかるけど、いきなり零になるのは考えにくいな」

「まあオレたちには関係ない。それより今日行ってみたいところあるんだけど」

クルクス高校から電車で一時間。そこにカインの目的地があった。

雄我とカインの二人がたっているのはイルミナル国トゥマリー地区。主に政府関係者や国家公務員が自宅にしているエリア。

「どこだここ。タワマンっぽいけど・・・いやここって」

「そ。オレの実家があるマンション」

「なんでだよ。ホームシックなら一人で解決しろ」

「違うんだよ。入学するひと月前に買ったゲームが難しくてさ」

「だから何だよ」

「ちょっと協力してほしくてさ」

「なんて個人的な願いだ」

「ダメか?」

「まあ、高いところからこの街を見てみたかった気持ちはある。夜景の時間は無理だとしても」

「なら任せろ。オレの実家上から二番目だし」

セキュリティ向上を目的としているためやたら複雑かつ面倒になっている入館手続きを済ませ二人は中に入る。

「かなりきれいだな。お前の親何の仕事してるんだ」

「親父は政治家だったとは思うが詳しく知らない。学校の寮について次の日に生徒会長がオレ直々にあいさつに来たからそれなりだとは思うんだが」

「そんな人の息子が授業の三分の一は寝て過ごしているとは。金持ち三代続かないとはよく言ったものだ」

「うるさいな。俺は親父とは別の道に進むからいいの」

高速エレベーターが目的の階にとまった音がした。

「あれ」

カードキーを入れようとした動作のままカインが固まる。

「どうした」

「鍵が開いてる。母さんはこの時間にいるはずないし。親父か・・・」

「突然俺が入って大丈夫か」

「説明してくる。ちょっと待っててくれ」

「わかった」

ガチャ

「ただいま」

「あれ、どうかしたのか」

奥から出てきたのは先ほどまで仕事だったと思われる五十代ぐらいの見るからに金持ちだとわかる白いシャツの男性。

「友達とゲームを」

「ゲームもいいけど授業はちゃんとついていけてるのか?」

「大丈夫だって」

「初日からいろいろあったみたいだな。大活躍だったって聞いてるぞ」

「いやぁオレはまあ。それより友達待たせてるんだ」

「どうも天音です」

「この人はオレの父親。ベルン=ルーグ。こいつは天音雄我」

「ああ君が・・・歓迎するよ。ただちょっとカインの授業風景を聞きたい」

「構いませんよ。先行っといて」

「ああ分かった。二階に上がってすぐ右だから」

カインが階段を上がる音が聞こえなくなったタイミングで男がきりだした。政治家としての顔でも父親としての顔でも夫としての顔でも違う。もっと深い何か

「何をしに来た」

対する雄我も冷静。少なくとも初めて会った友人の父親に向けるオーラではない。

「何が」

「そのうち来るとは思っていたが・・・しかし早すぎる。第一どうやって」

「ここに来たのは偶然。そのうち探しに行こうとは思っていたが、まさかここで会うとはね。やっぱり俺とお前は相対するのが宿命らしい。少なくとも創造神はそう願っている」

「貴様」

「やめとけよ。お前じゃ俺に勝てない。人が神に勝てないように。まあそれも自業自得だが」

「・・・・・・・」


「よしこれでクリアだ」

「うわっ。まさかほんとにできるとは」

「むしろ地図見るの下手くそすぎるだろ」

「仕方ない。まさかゲーム内で迷い続けることになるとは・・・」

「・・・まあ。ゲームを終わったしそろそろ帰るか。門限も近いしな」

「だな」


次の日の放課後。

十七時を知らせる鐘が学校中に鳴り響いた時だった。前兆はなかった。いやおそらく前兆はここ数日間の違和感。

教室に残って会話に興じていた数人の生徒が突然発狂した。

「「「なkんげwかbkk」」」

「なんだ」

まるでその声でない音が合図であったかのようにつられて何人かが不気味な音を出す。

「「あgjkんgkうぇ」」

「これは・・・」

当然ながらアンドリューにはこんな経験はない。だがさすがに異常事態であることも分かった。

五分後。学外で用事を済ませ学校の敷地内に戻ってきた雄我が見たものは教師、生徒問わず錯乱していた光景だった。

「どうなって・・・とりあえず青色薔薇(せいしょくせいび)系統2」

雄我の手に杖が握られる。

「ホールインスリープ」

魔法が周囲を包む。中の人物は一人また一人と倒れていった。

それでも効かない人がいる。

「とりあえず。離れたほうがいいな」

そうつぶやくと人が少なそうな方向へと向かった。

五分後。職員室では

「グルルル」

獣のような声を上げほかの人を襲う教師。ニール=ニスア

そばにいたロイド=バーグは答える。

「ようやく俺の気持ちにこたえてくれる気になったか。いやそんな場合じゃなさそうだ」

軽い身のこなしでさける。

しかし彼を狙っているのは一人だけではなかった。

「トニー先生、ザカリー先生までどうしたんですか?」

それからさらに三分後。校長室では

「ええそれではそのように」

「今からなら十分ほどで」

「できる限り急いでお願いします」

電話が終わった瞬間。校長室のドアが勢いよくあけられた

「学校長」

入ってきたのは六十七歳の学校常勤医師。すなわち保健室の先生。ヘクター=ワンダー。

「学内の発狂の件ですか?」

「これはいったい。とりあえず何人かは保健室に寝かせていますが・・・」

「複数人医者を呼びました。その中にはあのケネス=リングがいます」

「あの闇医者の・・・大丈夫なんですか?」

ヘクターの疑問は最も。

ケネス=リング。医療を極めるために医者をやめた男。

「彼ほどならば、早く解決できるかもしれません」

五分後。男子寮と女子寮の隙間で雄我は息を吐いた。

「どうなってんだ。とりあえず正気を保っている奴もいるが、ほとんどがおかしくなってる」

こういう時に限って天音雄我の不幸体質が発揮される。

異常事態が起きた際にまずすべきことは現状の把握。だが

「まずいな」

こういう時に限ってタイミングが悪い。学校の敷地内で正気を保っていた人物ならば十七時を知らせる鐘がこの現象を引き起こしたことが分かるが、よりによって鐘がなった数分後に敷地内に入った。そのうえ

「精神操作系か?いやいろいろ重なり過ぎて判断がつかない」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ