生徒会
医療をつかさどる神は研究の末に不老不死へと至った。ゆえに死んだ。
激動の初日を終え次の日予定通り通常授業が始まった。初日に授業できなかったため、予定より早く進んでいる。とはいえまだ授業は始まったばかり、クラスの三分の一を占める戦闘あるいは運動で入学した生徒もまだ初日はついていけていた。ただ一人を除いて。
一時間目 属性魔法
「魔法とは魔力で現実をゆがめることを言います。その中でも属性魔法と呼ばれるものは七種類。黒、白、赤、青、緑、茶、銀、黒は闇や影、重力を白は光を赤は火を青は水を緑は植物や風を茶は土を銀は雪を生み出し操作します。これは一人一つが原則でしたが。つい五日前にそのルールは破られてしまいました。」
教師の説明に、クラスの半数弱がルールを破った張本人。天音雄我を見る。雄我自身もある程度は予想していたが、あまり心地の良いものではない。この学校にいるものはほとんどが天才、あるいは鬼才としてもてはやされてきた連中。親の収入が月に一千ルーガを超える生徒もざらにいる。だがその中でも少年は特殊。人と魔法の歴史が始まって以降初めての才能を持つ。
「魔法は属性魔法ともう一つ、無色の魔法。一般的に人口魔法あるいは適正と呼ばれているものがありますが、それは別の授業で。属性魔法は四十%が同性の親、三十%が異性の親、五%が祖父母からの遺伝、残りの十%がランダムだと言われています。」
「魔法は魔力を使って使用しますが人によってなぜ魔力の絶対量に差があるのかははっきりしていません。ほとんどが生まれつきだと言われていましたが、最近の研究では、日頃から魔法を使用している人ほど魔力量が伸びやすいことが分かっています。皆さんも魔法を使用するときは周囲に人がいないか確認して使ってくださいね」
二時間目 自国語
世界中から生徒が集まるこの学校では自国の言葉を学ぶのに別の教室に行かなければならない。移動を面倒に思いながら、雄我は隣を歩く雪風に聞いた。
「あの時、何人が俺のほうを向いていた?」
「クラスの三分の一ぐらいかしら。思っていたよりは少ないほうだと思う」
「おそらく信じていない人が何人かいるんだろう。こっちとしてはさらし者になるのは嫌だが」
「近づいてくる人には注意しなさいよ。こっちもあんまりフォローできそうにないし」
「ありがと。まあある程度は覚悟していたし。もともとそういう生活をしていたからな。そういえば昨日あの後どうなったんだ。」
「昨日?」
少女の頭の中から昨日の醜い男は消えているらしい。
「バーナードとかいうやつのことだよ」
「ああ、今頃下水道でも走り回っているんじゃないの」
「おいおい」
「冗談よ」
「セクハラでもされたのか?」
「直接触られたわけじゃないわ。でもまあ・・・」
「どうした?」
「何でもない。命に別状はないはずよ」
「はずが怖いがまあいいや。クビになったって聞いたしもう会うこともないだろう。」
「どこ情報なのそれ」
「担任」
「・・・相変わらず女性には手が早いわね。相手は二十歳ぐらい年上よ」
「別にそういうのじゃない。母親が知り合いなんだよ」
「そういえばあの教師もあなたの母親も表の七色の英雄だったわね。」
「まあ直接会ったのは昨日が初めてだけど。天音家は生まれてきた子供を隠すからな」
そうこう話しているうちに指定された教室に着く。
「授業室三、ここだな、広い。」
自分たちの教室の三倍はある教室で生徒を見渡しながら言った。
「見知った顔ばっかだな。」
「そりゃそうでしょ。日本からこの学校に来ている生徒はたいてい三パータン」
返事したのは隣の美人ではなく、別の美人。
「久しぶり。卒業式の後の船以来かな、龍堂」
「当然でしょ。ひと月ぐらいしかたってないんだから」
「まあな」
仲がよさそうに話す二人を見て、雪風が拗ねていたのを雄我は気づいていなかった。
二時間目の授業が始まった。
三時間目 近代史
「近代史は人類史の中でも第四次世界大戦、通称第一次魔法戦争から現在までをそう言います。同時に人類が魔法を使い始めた時代でもあります。正確に言えば第三次世界大戦後にある日突然数名に人知を超えた能力者が現れました。それから日増しにその数を増やし、わずか半年足らずに全人類が使用できるようになりました。今までフィクションの中にしか存在しなかった魔法という概念が現実に現れました。なぜ使えるようになったのかはいまだに発覚していません」
四時間目 無色魔法
「無色魔法とは自然を表しているとされる七色以外の魔法をこう呼びます。基本的に一人につき一つ適正魔法と呼ばれるものがあり、適正外の魔法は適正の魔法より、約十倍ほど魔力量と詠唱時間がかかると言われています。無色魔法の例は、瞬間移動、念動力、身体強化、時間操作などです。ほかにも魔法が肉体に宿る魔眼なんかもありますね」
午前の授業を終わった後、雄我が教科書を直しているとカインが後方から声をかけた。
「雄我、飯食いに行こうぜ」
「それはいいけど、お前三時間目から寝てなかったか?」
「げ、ばれてた。おかしいな、今まで誰にも気づかれてないオレの技術が・・・」
「さすがに授業始まって初日だぞ。ついていけなくなるの速すぎねぇか、まだ中学の頃の内容の復習ですらない、一般教養の範囲内だからな。それと俺の適正魔法が眠りを操作するから気づいただけで先生はたぶん気づいてない。」
「よっしゃセーーーフ。いやあ戦闘力があれば留年はしないシステムがいいよね」
「だからって一般常識がないのはまずいだろ。お前みたいな考えのアスリートが引退した後、どれだけ悲惨が知らないのか」
「いいじゃねえか、今説教は。それより飯だ飯」
「ああ、そうだったな。確か食堂塔とやらに行けばいいんだよな。」
「食堂塔は男子寮と女子寮の間。五階建てで一階が厨房、二階が一年生専用、三階が二年生専用、四階が四年生専用、五階が教員専用だ。」
先ほどとは打って変わってテンション高めに答えた。
「なら行くか。」
雄我とカインが二人で椅子に座る。メニューは共にカインのおすすめのカレーライス中辛だ。とはいっても二人の皿に盛られた量には差があるが。
「うまいなこれ」
「だろ。オレのおすすめだ。」
「まだ寮にきて八日しかたってないだろ。」
「メニューの半数は食べたぜ」
「早すぎだろ。土日は自炊だろに」
二人が話していると眼鏡をかけた少年が一人開いていた席に座ってきた。
「君は確か・・・」
「アンドリューだ。よろしく。」
「アンドリューというと昨日の。助かったよ。あんたからの情報がなければ、事件解決は遅れていた」
「いやあ。それはいいんだ。僕もああいう事件にはあこがれていたからね。ところで相談なんだが」
「何だ」
早口でまくし立てる少年に若干面倒ごとの気配を感じながら雄我は問う。
「僕をキミたちの仲間に入れてくれないか。キミたちといればこれからもたくさんの事件に出会えるような気がする。僕の情報処理能力がキミたちの助けになるだろう。僕は様々な事件に出会えて幸せ。ウィンウィンというやつだ」
雄我は思考する。目の前の少年が何を考えているのかを。昨日は薄々予感していた、自分を研究したがる存在を再確認するのに十分だった。だからこそ近づいてくる人には慎重にならなければならない。もともと天音雄我は特殊な立場の人間だから。
「ま」
「キャー」
思考の中発した言葉は大きな声にかき消された。
「なんだなんだ?」
「おいでなすったか」
知らない雄我に対し知っているカインがつぶやいた。
「あれが何か知っているのか」
「キミこそ知らないのか。彼らはこの学校ではもっとも有名な七人。生徒会だ」
生徒会。通常の学校ではそれは生徒の代表。入学式や卒業式に会長が言葉を述べたり、進学に有利になったりするぐらいの肩書だが、学校長が時には一国の王を超える権力を持つこの高校ではその役職も特殊。なにせイルミナル国の警備隊が人員と資金が不足しているのはこの生徒会に警備や捜査をさせられるためという噂が囁かれているぐらいには強力。特に今年度は所属する人間も特殊な人間で構成されている。
その中でも特に美形の一人がその騒ぎを収めるようで煽る。
「まあまあキミたち落ち着いてくれ。ここではみんなが食事をする場。騒ぎ立てるのはマナー違反だ」
困っているどころかまんざらではないどころか当然と言わんばかりに微笑む。
その紳士然とした姿とセリフに女生徒がさらに騒ぐ。
「この学校にもああいうのがいるのか。ミーハーすぎる」
ぼやく雄我にアンドリューは語る。
「まずあの眼鏡の女性がマリス=アスト。魔眼持ちだ。ロリ体形がマリー=フラン。白の魔法に関してはこの学校の中でトップ。ルシア=フラット。属性は銀で世界でも数人しかいない絶対零度に全力であればたどりつける。サイラス=アイヤ。自分で大地の使者を名乗る変な人だ。龍堂美春。生徒会、いやこの学校の中でも戦闘力のみなら最強と言われている。長身美人が日本国王族、王位継承権第四位の天音麗華。そして最後にそんな集団を率いるのが。去年行われた。ミスターコンで圧倒的一位をとったノア=フェン=イルミナル。名前の通りイルミナル国の王族。そのうえ王位継承権第一位、すなわちいずれこの星の王になることが決まっている男だ。噂では妹が三人いて全員めちゃくちゃ美人らしい」
「すさまじい情報網だな」
何も見ずにスラスラと早口でまくし立てるアンドリューにカインは驚き、雄我は引いた。
「でこの能力キミはいらないというのか?」
「いらないも何も使うことが・・・」
「隠さなくてもいい天音雄我、君は今まで様々な事件にかかわってきた。三日前にレモン地区で起きた爆発の現場にキミがいたこともわかっている」
「ええ、あれに関わっていたのか?」
アンドリューの問いに雄我は内心驚きながら思考する。
「まあいいよ」
雄我は了承した。
多分こいつは悪気なく事件を面倒にさせるタイプだ。そしてこういうやつはほっとくと面倒なことになる。
長年の経験で答えを導き出す。
「そうと決まれば三日前の事件について聞かせてくれ」
「それはできない」
「えー」
食事を終え教室に戻る。
数学と科学を終え、その日の授業は終わった。




