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第31話

 木の影に隠れ、サーシャとの一悶着を乗り越えたクロノは、気を取り直し対象を目で確認する。

リザードマンと戦っているのは、この間会った風刃の剣の人達だ。



 「苦戦...してるよな?あれは」

 「そうですね。スキルを使用している形跡があります。少なくとも、余裕がある感じではないですね。」

 「普通のリザードマンであれば、この間見たときはかなり倒してたはず。でも今見た感じでは苦戦している。ということは、あれは例の強個体だよね?」

 「そう思います。私はクロノさんのスキルのように相手の魔力を見抜ける訳では無いですが、単純に強そうな気配は感じます」



 レックスとかいう双剣の人は1体のリザードマンと戦っている様子だが、見た感じで言うと攻撃が単調で、全て防がれている。

 その表情にはどうやって倒せばよいのかと書いてある感じだ。

 

 他のリザードマン2体の対処は、大剣を持っている人が壁役になり防御に徹しているようだ。

 よく知らないが、遅滞戦術?とかいうやつか?

 クロノは彼らの戦いの意図を考えると同時に、助けるべきか悩んでいると、サーシャが耳打ちをしてくる。


 「もしかして、レックスさん…あの双剣使いの方が相手している1体を倒すのを待っているのではないでしょうか?あの素早そうなリザードマン2体を相手に大剣はちょっと相性悪いでしょうし。」



 確かに。と思った。

大剣は体力が高く、体も大きいような魔物に対して最大限に効果を発揮する武器だ。

 素早い動きをする魔物相手だと手数を増やす必要があり、面倒だ。



「なるほど、ありがとうサーシャ。今すぐ加勢しよう。文句は言われないだろうけど、もし何か言われたら…その場で考える」

「急に行き当たりばったりですね。でも大丈夫です。あの状況で何か言ってきたら、私も加勢して口撃します」

「元ギルド職員が居れば安心だな。頼りにしてます」



 そして、一呼吸おいてクロノは呟いた。



 「加速II(アクセル)



 物陰から急加速したクロノは、レックスの剣が弾き飛ばされリザードマンが追撃の剣を振り下ろすところを視認した。


(間に合え!)


 クロノはさらに足に力を込めた。筋肉がピリつくような軽い痛みを感じる。


 そして…黒刀は振り下ろされる剣を阻むのに成功する。

 仲間のもとへと走るレックスを横目に、リザードマンと鍔迫り合いに移行する。


  

 「とりあえず助けたはいいけど、これは…」



 クロノは、相対するリザードマンを見て少し後悔した。

 もちろん、目標を発見した段階で、探知(エリアサークル)により高い魔力を保持しているリザードマンであることは分かっていた。

 分かってはいたが、魔力を遠目に見たのと、肌に感じる距離に肉薄して見るのとではまるで印象が異なる。自分が魔力を持っていないためか、もはや別次元の生き物のようにも感じられる。

 こいつは・・・強い。


 (例のDランク相当か?)


 レックスとの戦いを陰から見た限りでは、自分が戦えば何とかスピードで勝てると思えた。だから飛び出してきたのだが、現に受け止めた刃を押し返すことができない。

 このまま単純な力比べを続けてしまうと、こちらに不利に働くと思われた。


 一方、リザードマンは急に現れた相手に困惑している様子だ。

クロノから距離を取ったまま、白く光り輝く弓を構えるサーシャの事も、当然警戒している。

 そして、鍔迫り合いとなっている現状を打破しようとリザードマンが吠える。



 『グガアア!』

 


 気合を入れたリザードマンの腕に力が入る。

しかし、その直前にクロノはリザードマンの体内の魔力が腕へと急速に移動するのを捉えていた。

クロノはリザードマンの腕に力が入るタイミングに合わせて、逆に剣から力を抜き、側面に移動する。

それにより、リザードマンは押し相撲でバランスを崩したような状態となり、前に倒れこみそうになった。

そして倒れないよう、咄嗟に大股で足を前に2歩進め、地面を押すようにして踏みとどまる。

 クロノはその隙を待っていた。



 「はああ!」



 リザードマンの頭部めがけて剣を振るう。

リザードマンは足に力が入っているため、しゃがんで回避することも、バネにして飛び下がることもできない。

 出来るのは頭を後ろに動かすか、腕を動かすことだけだ。

 しかし


 

 『ガアアアア!!』

 

 

 目の前のリザードマンは、腕に持っていた剣を差し込み、攻撃の盾にした。

クロノはその盾に向かって思いっきり剣を叩きつける。

勢いに負けたリザードマンは転倒すると同時に、脇腹を抑えている。衝撃までは防ぎきれなかったようだ。

 しかし、リザードマンはよろけつつも立ち上がる。


 (固いな…どうするか)


 クロノは自分の周りを確認しつつ、作戦を考える。

自分が出来ることとサーシャが出来ることを『手札』としたときにどの札をどの順番で出すべきか。

 サーシャと軽く打ち合わせした時に、いくつかパターンとして頭に入っている。

 そして…選択する。



 「サーシャ、どうにか足止めする!だから、俺を信じて例の攻撃頼む!」


 「いきなりですね!…分かりました、タイミング合わせて下さい!」



 サーシャは魔法詠唱を始めた。


 いくら力が強かろうとも、リザードマンである以上は剣で体は切れるし、頭を穿てば致命傷になる。

一撃で倒そうなどと考えなければよい。

 2対1かつ初見。そして魔の森の地形。この条件なら、使える作戦がある。

そのための俺の役目は敵を引きつけることだ。



 「行くぞ!加速II(アクセル)!!」


 『グガッ!?』



 瞬時というほどでは無いにしても、今まで相対してきた人間と比較して急激なスピード差に目が追い付いていない。

 

 今のうちに剣で攻撃を何度も繰り返す。浅いが、リザードマンの体の節々から血が流れ落ちる。


 しかし、致命傷を与えそうな攻撃を与えられる隙は無い。このまま続けると目が合ってくる可能性もあり、油断できない。反対に、クロノの体に負荷がかかり、スタミナ切れになるかもしれない。長時間の使用は避けるべきだ。



 「今です!」


 サーシャからの合図だ。


 「くらえ!」



 クロノは剣を両手に持ち刺突攻撃を繰り出した。リザードマンの足に突き刺さり、その力の限り押込む。

刃の部分が足を貫通して地中深くまで刺さった。



 『ガッ…ギガア!』



 リザードマンは痛みに耐え剣を振り回す。


 クロノは剣から手を離し、リザードマンから距離を取った。


 リザードマンは武器を手放したクロノを見て、喉を鳴らした。勝利を確信したようだった。

 そんな気持ちが伝わったクロノはゆっくりと告げる。



 『残念だが、俺たちの勝ちだ。』



 クロノの言葉の意味はわからないリザードマンだったが、何故か相手が余裕ある表情をしていることに疑問を抱く。

 そして、もう1人の事を失念していたことに気付き、振り向く。



 「もう遅いです。降り注ぐ光雨!」



 魔法詠唱を済ませたサーシャは魔法を放った。


 攻撃を察知したリザードマンは急ぎその場を離れようとするが、足がクロノの剣によって地面に縫い付けられており、動けない。


 そんな捕らわれたリザードマンの周囲を薄い光の幕が囲う。そして光の幕の上空から無数の光の矢が一直線に放たれる。まさに光の雨のようだった。



『ギガアアア……』



 そして光が止み、血溜まりの中で倒れ伏すリザードマンだけが残った。


【クロノ】ランク:E 

武器

・黒剣≪ダークリパルサー≫

保有スキル

・経験値

・探知

・不屈

・加速Ⅱ


【サーシャ】ランク:F

武器

・白弓≪ホワイラルアロー≫

保有魔法

・降り注ぐ光雨

保有スキル

・???

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