第29話
魔の森。その名の通り魔物が徘徊する危険な森だ。アルカナ王国はその中に位置しており、外界からの侵入を防ぐため、高い城壁で国を囲っている。上空については王国お抱えの宮廷魔導士による防御結界を展開しており、魔物からの攻撃を防いでいる。しかし、魔の森にもメリットはある。魔物はその体質から摂れる素材は武具や治療薬にも用いられ、他国への輸出品などにもとても有用性がある。それに貴重な薬草などの植物の中には、人が踏み荒らしたような立地には自生しない物もある。それらはアルカナ王国のような辺境を好む。貴重な植物の殆どは、多大な魔力を吸うことで自生している。つまり、基本的に強い魔物が居る場所に自生するのだ。魔物の中には、植物を食べる者もいないことはないが、動物の肉を好むものが多い。危険を冒してまで貴重な薬草を取りに行くのは人間だけだ。
アルカナ王国では、今まで得た魔物や植物の情報を蓄積し、魔物や植物の自生情報をまとめた地図があり、定期的に更新している。ただ、これは犯罪者の手に渡るのを防ぐために王国上層部のみが所持している。貴族ですら所持は許されていない。重要国家機密として扱われている証拠だ。しかしながら、ギルドはその目的において、地図の閲覧を許されている。
だから、ギルドでの依頼書には王国から目的地までの簡易地図や場所の呼び名などを記載している。冒険者が負う危険性を出来るだけ排除するための対策だ。
そんな依頼書を持ち、風刃の剣の一行は魔の森を歩く。
「アルカナから大分進んできましたけど、この道であってますか?リーダー。」
ライムベルは両手で抱えるように持っていた魔法杖を、傷がつかないよう地面に優しく置くように刺しながら話す。
先頭を歩いていたレックスは立ち止まり、依頼書を確認する。依頼書にはリザードマンの討伐と書かれており、数の指定は無い。倒した分だけ報酬がもらえるという内容だ。
「ちょっと待ってよ…うん。この辺で出てきたって情報なんだけどな。」
グリッドはレックスの手の中の依頼書を覗き込み確認する。
「確かに…もう出会ってもおかしくないはずですがね。」
「ねえ、私にも見せて!」
「あ、おい」
ルミナはレックスの手から強引に依頼書を取り、その文字を確認する。暫く読み込むと、確かに合ってるわねと言い、投げるように依頼書を返してきた。
(全く…こういうところがなければ可愛いんだが)
レックスはパーティーの紅一点である彼女を見つめる。ハーフエルフは基本的に美形しかいない。ルミナも例外では無いし、今まで見たハーフエルフと比べてもレベルが高い方だ。ただ、森の妖精というイメージだったエルフが、今やお転婆娘というイメージに変わっている。
(まあ、そっちの方が気を遣わなくて俺は好きだが。おっとそんなことを考えている場合じゃねえ。)
グリッドとルミナにも見てもらい、改めて場所に間違いが無い事を確認したが、後ろで歩き疲れているライムベルが気にしていた通り、生息予測区域から大分離れてきているのも事実だった。これ以上離れたら我々では対処できない魔物が襲撃する可能性も高まり、危険かもしれない。
リーダーとして、パーティーメンバーに及ぶ危険を極力避けるべきだ。レックスは依頼書を丸めてバッグに詰め込み、こちらを向いている3人に指示を出す。
「進むのはやめて、この辺りを探索しようか。もし居なかったらまた考えるってことで。」
メンバーの皆が自分を見て同意したのを確認したレックスは、ふと、自分に向けられる視線の中に違和感を感じる。その違和感は、何というか、こちらを値踏みするような視線だ。その違和感の正体は仲間の背後に目を向けたことで判明する。判明と同時に腰に収まっていた双剣を一気に抜いた。
「敵だ!」
急に臨戦体勢に入ったレックスに他のメンバーは驚いたが、一瞬で頭を切り替え、その場を振り向くと同時に武器を構えた。
そこには3体のリザードマンがいた。こちらが臨戦態勢に入ったにもかかわらず、何故かゆっくりと近づいてきている。それぞれ腰に小型の剣を差し、服のつもりなのかボロ布を着用している。肩や腰周りには冒険者が使うような小道具入れのようなものを括り付けているが、どれも穴が空いており何かが入っている様子は無い。仮にポーションでも入っていたら、まるで駆け出しの冒険者のような格好だ。
そして、すぐさまライムベルが状況を分析した。
「リザードマン3体。全て剣持ち。飛び道具所持無し。…魔力円 えっ!? 3体とも魔力反応が高い!かなり強そうです!注意して下さい!」
「了解!!」
ライムベルの声を皮切りに、行動を開始する。
レックスは端のリザードマンに向かって突進し、その勢いのまま大振りで切り付ける。リザードマンは腰から剣を抜きそれを受けるが、勢いが乗っていたこともありバランスを崩す。その隙に蹴り飛ばし、他のリザードマンから引き剥がした。
「俺が1体を相手する!みんなは他の2体を抑えてくれ!」
「任された!守護者の視線!」
グリッドはスキルを使用し、リザードマン2体を睨んで離さない。睨まれた敵は一定時間、スキル使用者にヘイトを向け続ける。
リザードマンはグリッドに向けて走り始めた。ライムベルとルミナも一斉に魔法とスキルを使用する。
「天からの施し」
「弓術向上」、「弓術強化」
「レックスが相手を倒すまで、時間を稼くんだ!」
それぞれの戦いが始まった。
【クロノ】ランク:E
武器
・黒剣≪ダークリパルサー≫
保有スキル
・経験値
・探知
・不屈
・加速Ⅱ
【サーシャ】ランク:F
武器
・白弓≪ホワイラルアロー≫
保有魔法
・???
保有スキル
・???




