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第28話

 普通の個体と思われるリザードマンの解体が終わり、素材と魔石をアイテムボックスに入れていると、森の奥から何かがぶつかり合う音に気が付いた。

 いわゆる金属音のような甲高い音だ。

 自然あふれる森には似つかわしくない音だったため、すぐに分かった。そのまま耳を澄ませると、不規則な音が響いてくる。

 探知(エリアサークル)の範囲外だが、スキルを使用しなくとも何が起きているのか予測はできる。この先で武器を持つ何物かが交戦しているのではないだろうか。

 

 事前にアイテムボックスから出していた水を使用し手から魔物の血を洗い流したサーシャが、音がした森の方角を見ながら声をかける。



 「クロノさん。今の、聞こえましたか?」

 「俺も聞こえた。普通に考えれば誰かが近くで戦っているんだろうけど…」



 正直、俺には音だけでは何が起きているのか判別できない。冒険者が落とした武具を魔物が持ち、音を出して誘っている可能性も無くはないだろう。まあそこまで知能の高い魔物がいる確率は低いと思うが。

 個人的にはとりあえず様子見をして、もし誰かが交戦中なら必要に応じて加勢するスタンスでいればよいと思う。ただ、急に俺たちが現れたら敵かと思われる可能性もあるし、プライドの高い冒険者であった場合俺たちだけで倒せるから邪魔をするな、などと言われてしまうかもしれない。

 それに、今は魔石が急速に石に変化する不思議なリザードマンを調査するという依頼を受けている身だ。他に構う時間があるのかといわれれば、余裕があるわけではない。

 だが、パーティを組んでいる以上は仲間と一緒に決断するべきだろう。


 まずは保守的な意見を伝えてみる。



 「敵の罠の可能性も捨てきれない。それに、もし冒険者が交戦中であったとしても、こういうときは普通、助けに行くべきなの?余計な事するなって言われないか?」



 サーシャは少し驚いたような表情をしたが、直ぐに冷静な顔つきに切り替え、俺の逡巡の意図を読み取ろうとする。もしかすると、とりあえず助けに行こうなどと言われると思っていたのかもしれない。


 「そうですね…私たちの安全も含めて考えると、このまま何もしないのが合理的かと思います。」


 サーシャは一呼吸おき、意を決して口を開く。


 「ですが、もし誰かが困っているかもしれないなら助けに行くべきと思います。死んでしまったら…何も出来ませんから。」



 遠い目をした彼女は、きっと今まで帰らぬ冒険者を幾度となく見てきたのだろう。新人冒険者やベテラン冒険者、恋人同士の冒険者パーティもいただろう。見送って、見送って、見送って、最後は帰ってこない。もしくは、遺品を家族に届けるという仕事もあるのだろうか。そんな、見守るだけだった彼女が、今は逆に見送られる立場となった。どちらの気持ちも分かるようになった上で、冒険者として弓を持ち自分の心のまま自由に行動できる立場にある。

 実際、俺もその意見には賛成だ。俺が目指す冒険者像は、合理的なことだけで話を進めることはない。

どんな小さな仕事も受けるし、だれかを助けるのに見返りを求めるようなことはしない、そんな愚かでカッコいい冒険者だ。だが、今はパーティとして自分のことだけを考えればよいというわけではない。どんなことにも一緒に納得して決めていきたい。


 よし、サーシャも見に行くべきという意見なのだし、まずは何が起きているのか確認しに行こう。 


 「俺もサーシャと同じ意見だよ。それに、もしかしたら俺たちの目的のリザードマンかもしれないしね。よし。まずは探知(エリアサークル)が使える距離まで接近してみよう。」

 「はい、よろしくお願いします!」


 

 クロノとサーシャは互いに頷きつつ、音のする方角へと歩き出した。方角的にはアルカナ王国から離れて行っている。人の往来が少なくなり、魔物の出現率も増えるだろう。より未知な世界が広がり、その分探索の危険性が増すことになる。 

 しかしクロノにはスキルがあるため周囲の様子は丸わかりだ。事前に状況把握できるため、急な襲来の可能性は低い。クロノは自分の周りに見えないフィールドが展開されるイメージで、探知(エリアサークル)の範囲を広めていく。

 最近判明したことだが、単純に自らを中心に円を描き、その半径の大きさを操ることで効果範囲を調整できるだけではなく、広がる形自体もは自分で決められるようだ。つまり三角形にも長方形にもできるし、一本の長い線の状態にもできる。その為、丸く広がるだけでは届かない範囲にまで自在に距離を伸ばすことができる。当然だが、伸ばすほど他の範囲が薄くなるため、伸ばしている最中に横から敵が来ていたら発見できなくなる恐れがある。そのため、使い方には注意が必要だ。


 今回に関しては多少伸ばす程度にとどめておいたため、至近距離に魔物はいないことは確認できている。襲来があっても防御体制は十分とれる。危険性は低い。


 森をしばらく進んだところでクロノが目的のものを発見すると、サーシャに手でサインを出し、急ぎ且つ静かにサーシャと木の陰に隠れた。

 結果、クロノは両手で木を押しているような格好となり、サーシャは木に背中を預けクロノの両手の間に挟まれている状態になっている。要するに壁ドン状態だ。


 サーシャの綺麗な瞳の色が見えた。じっと見ていると自分の顔がサーシャの顔に勝手に近づいていくような気がする。いや、気がするのではなく、近づいている。それにサーシャも目を背けようとしない。これは不可抗力の類だった。

 しかし、距離が近づき、サーシャの瞳が更にくっきりと見える。そして、その瞳の中に反射した自分の顔が映っているのを見つけ、ハッとする。

 


 「ごほん。あー、スキルの効果範囲内に入ったよ。人間4人と魔物が3体だね。間違いない、交戦している。魔物は、恐らくリザードマンだ。人間の魔力にも見覚えがある気がする…。そう。たしか、風刃の剣とか言ってた人たちだ。」


 どうやら顔見知りの冒険者が交戦しているようだ。


【クロノ】ランク:E 

武器

・黒剣≪ダークリパルサー≫

保有スキル

・経験値

・探知

・不屈

・加速Ⅱ


【サーシャ】ランク:F

武器

・白弓≪ホワイラルアロー≫

保有魔法

・???

保有スキル

・???

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