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第19話

「・・・さん!」

「う・・・ん」

「クロノさん!!」

「・・・サーシャか?よかった。無事起きたんだね。」



 目覚めた俺の目の前にはサーシャが立っていた。

どうやら前に見た私服ではなく、別の私服を着ているようだ。

 白いブラウスに赤いプリーツのロングスカートを履いており、前と違って綺麗と言うより可愛い感じだった。濃いキャメルのブーツが街歩きする彼女を俺に想像させる。そして、俺の中で最早トレードマークとなっている深めの帽子を被っていた。もちろん眼鏡も健在だった。そんなことをボーっと思っていた俺を見たサーシャは見る見るうちに顔を赤く膨らませていった。



「何を言ってるんですか!私の事よりクロノさんですよ!もう1週間も寝たままだったんですからね!?」

「ええっ!!マジか!!」



 俺は怒りの表情に満ちたサーシャに詰め寄られながら驚愕した。

 というか、寝過ぎだろう!俺!



「そうですよ!・・・あれだけの戦闘があったんです。当然と言えば当然と思いますけどッ。でも、心配したんですからね!?」

「あ、はい。」



 それから俺はこっぴどく叱られた。大体無茶なんですよ。魔法に生身で向かってくなんて、などと事細かにあの時起きたことを反省させていく。俺の身体の痛みは殆ど直っているはずなのに、胃がきりきりと痛んできているのが分かった。・・・もう許してください。

 そんな説教を受けつつも周辺のベッドの状況を確認していく。俺たち3人しかおらず、どうやらレントは寝ているようだった。無事直ったのだろうか。

 俺がそんなことを考えている内に、どうやら一気に怒って疲れたのか、サーシャは息を切らしていた。



「ふう。ちゃんと反省して下さいね?」

「はい。本当にごめん。」



 分かってもらえばいいんですと満足した表情で言った彼女は、そこから一転してもじもじと身体を揺らし始めていた。何か言いにくい事でもあるのだろうかと思った俺だったが、彼女は意を決したような表情で話し始める。



「あ、あの、クロノさん!・・・あの約束覚えてますか?」



 約束・・・。何のことだろうか。1週間は寝ていたのだから、間違いなく1週間以上前にした約束だろう。そんなこと覚えている方が凄い気がする。

 しかし、顔を赤らめた彼女を前にして『覚えていない』とは言えない・・・。

 ん?そういえば、戦闘に入る前に話をしたような・・・思い出してきた!



「も、もちろん覚えているよ。あれだろ?何か話を聞くっていう。」

「そうです!よかった。覚えてくれていたんですね。」



 顔を煌めかせて言う彼女に対して今思い出しましたとはとても言えない。



「あ、当たり前だよ。約束は必ず守る。」

「よかった…。あ、そ、それでですね。話と言うのは…私とパーティを組んで欲しいんです!」



 顔が真っ赤どころか噴火する勢いとなって彼女は言った。

 そして俺の思考は一瞬、いや数秒止まっていた。その時間、治療室を静寂が包み込んでいた。

 頭の回転がやっと始まった俺は、ひとまず整理しようと彼女に話し掛ける。



「・・・サーシャ。」

「は、はい。」

「君はギルドの職員だよね?仕事はどうするの?」

「辞めます。そして冒険者になります。」

「待て待て、辞めるって言ってもそんな簡単に行かないでしょ?」

「もうギルドマスターに辞表は提出しました。ここに受理印もあります。」

「え!?・・・だとしても、冒険者には力も必要だし、何より危険が大きい。ちょっと難しいんじゃあ?」

「私、元々冒険者を目指していたんです。ある程度の体術と攻撃魔法が使えます。治癒魔法はその中でも得意です。ちなみに得意武器は弓です。」

「そ、そうなんだ・・・。」



 既に外堀が埋められていることに驚くのも束の間、まさかサーシャは冒険者を目指していたとは知らなかった。この細い体付きで戦うのは想像できないが、魔法というのはそういった個々の体力とかも凌駕するのかもしれないし、見た目で判断するのは良くないのかもしれない。

 一気に色々な事実を告げられ、今度は俺の息が切れていた。



「ということで、いいですよね。クロノさん?」

「ちょ、ちょっと待ってくれるか。」



 冷静に戦力として考えるなら治癒魔法は俺のごり押しでの戦い方には必要だと思う。それに弓と言う遠距離攻撃は魅力的だ。それに、彼女は狙われている。守るのためにパーティを組むのが理想的なのも間違いない。だが、俺が倒したルイドの口ぶりから奴隷としての価値だけではない『何か』が彼女にはあるのだろう。しかしそれを含めても俺は守ると決めた。これはもう曲げない。

 ・・・俺の答えは既に出ている。でもその前に聞いておかないといけない事がある。



「理由を聞かせてくれないか?俺とパーティを組むということは、仲間になるってことだし、仲間としても聞いておきたいな。」



 それを聞いたサーシャは顔を赤くしたり、暗い表情になったりと表情が目まぐるしく変わっていく。

 そして、俺の顔を真っ直ぐに見つめて口を開いた。



「私は、クロノさんを応援したいんです。魔法が使えないとか、剣がまだまだ未熟だからとかそういうことを心配して言っているのではありません。・・・どんなに圧倒的な実力の差があっても最後まで諦めないその心に私は惹かれました。だから、そんなクロノさんを応援したい。いえ守りたいんです。・・・これからもずっと近くで。」



 彼女はそう言うと口を閉ざした。けれど、今までのように顔を背けることも無く、ただただ俺の『答え』を待っているようだ。

 俺は守ろうとしている相手に守られるのか。でも、お互いがお互いを守る。これってパーティを組む上で基本だと思う。でもそんな基本を実践するには本当に信頼を置ける仲間が居なければ不可能だ。

 俺は彼女を信頼している。きっと、素晴らしい連携が取れるはずだ。

 思いをまとめた俺は、彼女をしっかりと見据えて答える。



「サーシャ。ありがとう。俺は絶対強くなるよ。だから・・・これからよろしくね?」

「あ、ありがとうございます!!クロノさん!!・・・これからよろしくお願いします!」



 感極まったのか、サーシャが俺に抱き着いてきた。どうしようと思っていると、俺の身体に当たる柔らかい双丘が敏感に感じ取れる。ゆっくりと身体が埋没されていくように優しく包み込まれていく。それに、漂う彼女の香りが頭の回転をまた鈍らせているのが分かった。反射的に俺も抱きしめようと腕を彼女の後ろに回そうとした。



「あー、お2人さん。ちなみに俺はもう起きてるからよろしくな。」



 ベッドで寝ているはずだったレントさんの声に俺とサーシャは光の速さで離れた。

 い、いったいいつから起きていたのだろうか。顔を真っ赤にしたサーシャの前でそんなことを聞いて、もし最初からと言われたら倒れてしまう気がしたので、余計な事を言わずに、あくまで冷静に口を開く・・・のは無理だった。



「レ、レントさん。無事でな、何よりです。」

「ああ。とりあえず歩くくらいは出来そうな気がするな。・・・しかし、サーシャがギルドからいなくなるのは寂しいなあ。」

「!! す、すいません・・・。レントさん。私の勝手な私情で辞めてしまって。」



 そんな前から聞かれていたのかと思うサーシャであったが、それはそれとして、先輩に断りも無く辞めてしまったことについて謝罪の言葉を発した。

 にしても、レントさんにも言わずにってどんだけ覚悟を決めていたんだろうか。



「謝る必要はないさ。むしろ、謝ってほしいのはクロノの方だな。」

「え!俺ですか!?」

「そりゃそうだろう。お前はギルドの華を奪ったんだ。お前が知らないだけでファンクラブまであるらしいぞ。他の男性職員は涙を流すな。きっと。」



 俺は顔を青ざめた。た、確かにサーシャって可愛し、スタイルもいい。面倒見も良さそうだから職員の間でも高嶺の華と言われても納得できる。

 第三者からは俺が奪ったように見えてもおかしくないだろう。いや、寧ろそれ以外には見えないと思う。

 俺が言葉に詰まっているのを見たレントさんは不敵な笑みを浮かべている。

 クソっ、さっきの話を聞いていたんなら勘弁してほしい。



「私は強引に辞めさせられたのではありません。むしろ私が強引にクロノさんに付いていくと決めたんです。」



 何も言わない俺を見かねたのか、サーシャがフォローに入った。

 その表情からは焦りも羞恥も感じられない。覚悟を決めたような真剣な顔がそこにあった。

 それを見たレントさんは、悪かったよと顔を引き攣らせて謝罪している。これは茶化すのは無理と判断したようだ。気まずいことになる前に修正しよう。



「と、とにかく皆無事でよかった。レントさん、そういうことなので、俺はサーシャとパーティを組みます。」

「ああ。問題無い。ギルマスもその辺は知っているだろうし、直ぐにでも申請は通るはずだ。・・・サーシャ、行ってきたらどうだ?」

「わ、分かりました。ありがとうございます!」



 そう言うとサーシャは俺からギルドカードを受け取り、受付へと颯爽と飛んで行った。

 その姿に苦笑したレントさんだったが、直ぐに表情を真面目なものに切り替えて話し掛けてきた。 



「・・・リベーラと言う組織は謎が大きすぎる。サーシャを奴隷にして売ると言っていたが、それすらも疑問に思えるんだ。わざわざギルド職員を狙うなんて真似をすれば、組織の名前は確実に明るみに出る。ということは、バレても捕まらない自信があるのか。もしくはもうバレても問題ないのかということになる。・・・それにな、クロノ。正直俺はサーシャには何かあるのかもしれないと思っている。」

「何か、とは?」

「いや、そこまでは分からない。ただ、奴らがただの奴隷販売組織には思えなくてな。そんな奴らが狙う『商品』が果たして普通なのか・・・。いや、すまん。失言だった。忘れてくれ。」

「いえ・・・大丈夫です。」



 俺はあの戦闘で見た治癒魔法を思い出していた。

 見たこともない女神の魔法。そして異常な回復スピード。俺が知らないだけで、もしかしたらそんな魔法があるのかもしれないし、一概に言い切ることは出来ないだろう。

 それに、ルイドから言われた言葉も引っかかっているのは事実だった。

 もしかしたらサーシャは俺に何かを隠しているのだろうか。そんなことを思ってしまった俺は、レントさんを責めることは出来なかった。



「俺は、何があっても受け止めて見せます。なんせ・・・パーティメンバーですから。」

「それを聞いて安心した。クロノ、サーシャを頼む。こんなボロボロの身体では説得力が無いかもしれないが、何かあれば俺を頼ってくれ。」

「ええ。こちらこそお世話になります。」

「あ、そうだ。クロノ、俺の裁量でランクアップ申請をしておくからな。おめでとうEランクだ。」

「え、いいんですか?まだ登録して数日ですけど?」

「お前はその実力は既にあるさ。むしろDでもいいくらいなんだが、急にあげると悪い意味で目立つだろうし、とりあえず、な。」



 こうして、俺はパーティを組むことに加えて、冒険者ランクがEとなったのだった。


【クロノ】ランク:E 

武器

・剣

保有スキル

・経験値

・探知

・不屈

・加速Ⅱ


【サーシャ】ランク:F

武器

・弓

保有スキル

???

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