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第10話

 俺は膨れた腹と防具を抱えて宿屋を出る。


 適当に商業街を歩いていくと、武器屋と防具屋を何か所か見つけた。

 見つけて分かったことだが、店は基本的にどちらかをやっているということはなく武器屋と防具屋が併設された店しか無いようだった。

 店の名前を見ると〇〇装備店などで、呼び方も『装備屋』となっているらしい。


 見つけたところから1番良さそうな店から順に入ることにした俺だったが、その先々の店で激怒することになる。



「これは酷いですね~。こんなガラクタ捨てて別の物を買いましょう。」

「今時こんな旧式の防具を使用している人なんて初めて見ましたよ。」

「旦那。これを直すなんて正気ですか?無駄なだけですよ?」



 などと、行く先々の装備屋の店主に俺の気持ちを逆撫でするようなことばかり言われたからだ。


『いいから修理してくれ』と言った俺の言葉に目もくれない奴ばかりだった。


(そもそも、自分の命を守る装備品を信用出来ない人間に作らせてたまるかってんだよ。それに、これはガラクタじゃねえ。元々グランが大切にしていた防具だ。捨てるなんてとんでもない話だ。)



「あーあ。しょうがない。レントかサーシャさんにお勧めの装備屋を教えてもらうしかないか。でも、さっきのところをお勧めされたらどうしよう。正直、もう行きたくないな。」



 俺は不安を抱えつつも、予定を変更してギルドへと向かうのだった。



 ギルドについた俺は、前回と違う雰囲気に驚く。

 あれだけ混雑していた冒険者の姿はどこにもなく、酒を飲んで潰れている者か、防具の傷から察するにクエストを終えて戻ってきている者達が数名いるだけだったからだ。

 そういえば前回来たときは朝だった。もうそろそろ夕方になる時間からクエストを受注する者はいないということなのだろう。

 ガランとしたギルド内は何だか新鮮な気がする。


(何だろう?この視線は。俺を見ているのか?)


 俺はギルドに入り、真っ直ぐに受付を目指して歩いていくと、冒険者達からの視線に気が付いた。

 どうやら俺を見て噂しているようだ。恐らくというか、間違いなくこの間の戦闘のせいだろう。


(まだギルドに登録すらしていない駆け出しなのにな・・・。)


 弱いのに注目を浴びてしまうと、無駄にハードルが上がってしまう気がする。

 早く強くなりたいと願う俺だった。



「あの、ギルド登録をしたいのですがサーシャさんかレントさんはいますか?」

「! あ、はい!しょ、少々お待ちください!!」



 俺は初めて見た職員だった気がするが、相手は俺の名前も聞かずにそそくさと行ってしまった。既に職員の間で噂になっているのか、それともレントが周知してくれたのかは分からないが、反応的には前者のような気はする。


 暫く受付の前で待っていると、奥からサーシャが走って来るのが見えた。

 どうやらレントは一緒ではないようだ



「クロノさん。お待たせしました。・・・あれからまだ数日しか経っていませんが、お身体の方は大丈夫でしたか?」



 サーシャは自分が治癒魔法を使っていた事実など無かったかのような口ぶりで話しかけてきた。

 一言で言えば、仕事モードという奴なのだろう。



「ああ。まだ痛むが、歩く分には何とか大丈夫だ。」

「! まだ痛いんですか!? ダメです!休んでください!!」



 彼女は血相を変えると、受付から身を乗り出して俺に顔を近づけてくる。

 距離が非常に近い。間近に見た彼女の肌は真っ白で艶々としており、薄い桃色の唇がとても柔らかそうだった。しかも、胸元から見えた谷間が思ったより深く、それについ目が行ってしまうのは必然だった。

 それに、いきなりの奇襲に、探知(エリアサークル)も感知出来なかったようだ。うん。これは仕方がない。



「あの・・・。サーシャさん?ちょっと近いのですが?」

「え?あっ・・・。ごめんなさい。つい取り乱してしまいました。」



 サーシャは赤く染まった顔を隠すように受付の椅子に座った。座ると表情は仕事モードに戻っており、それ以上の追及は藪蛇と思われた。

 俺は気になる気持ちを心に留めておくことにする。



「いえ。こちらこそ。・・・サーシャさんはずっと俺に治癒魔法をかけて下さったんですよね?おかげでこの通り、歩けるまで回復しました。本当にありがとうございました!」



 俺は笑顔でお礼を言い、頭を下げた。

 こういうことはしっかりとしなければいけない。自分が辛いときに助けてくれた人は大切にすべきなのだ。

 すると、彼女が何かごにょごにょと言っているのが聞こえる。

『あの子・・・。言わないでって約束したのに。もう。』


 あの子とは、ミランのことだろう。

 それにしても、口止めをするあたり、サーシャさんは本当に天使ですね。とてもやる気が出ます。



「あ、あれは仕事だったからです。べ、別に深い意味はありませんから!!」

「分かってますって。ギルド職員としてですよね。でも、私は嬉しかったんです。」



 そう言われた彼女は再び顔を赤く染める。

 それを見た俺はこんな天使がいるギルドなら毎日通いたいと考え始めていた。



「ははは!さっそくサーシャが口説かれたようだな。俺は見ていて微笑ましいよ。」

「レントさん!別に私は口説かれてなんか・・・」

「そうですよ、レントさん。別に私はサーシャさんを口説こうなどと考えてないですよ。」



 それを聞いたサーシャは一瞬だけ表情が悲しいものに変わった。

 他のギルド職員はクロノに冷たい視線を送っていたが、残念ながらクロノは気づいていない。



「んー。そうか。それに関しては俺からは何も言うまい。それよりも、クロノは登録に来たんだよな?サーシャ、準備を頼む。」



 固まっていたサーシャはレントにそう言われ、思い出したように登録の準備に取り掛かる。

 前回書いた書類に再度不備がないかを確認すると、カードを用意しますと言って奥に行ってしまった。

 レントと俺が2人きりになると、レントが俺にしか聞こえない声で話し始める。



「・・・クロノ、この前は見事だった。正直、魔力が無いのに戦えるのかと疑っていたよ。ま、ある程度戦えなかったら冒険者になっても意味ないがね。」

「いや、仰る通り私が勝てたのは奇跡と思っています。相手が焦って負荷の大きいスキルを連発したから良かったものの、力の差は歴然でしたから。」



 これは俺の正直な気持ちだった。

 もう一度あの戦いをやれといわれても出来る自信がない。俺には肉体的にも精神的にも力が足りないし、何より経験や知識が足りていないのだ。初見攻撃に焦るのは仕方ないと思ってはいるが、最強になるには初見であってもどうにか躱すくらいの実力がなければならないと思う。それにアイツは魔法を使ってこなかった。恐らく攻撃系の魔法を使いこなすのは出来ていなかったのだろう。



「ははは。それが分かっていればお前さんは必ず強くなれるさ。何人もの冒険者を見てきた俺が保証するよ。」

「そう言ってもらえると、俄然やる気になりますね。」



 本当はサーシャの天使さを見た時の方がやる気になるのだが、これも藪蛇だろう。



「ちなみに、気づいているかもしれないがあそこで決闘の話を持ち出したのは、ある騎士から君のことを頼まれたからさ。」

「! それはもしかして・・・。甲冑を頭に被っている、イケメンと噂の騎士でしょうか?」



 それを聞いたレントは考える。


(甲冑を頭に被るイケメン?この国で甲冑を着るようなイケメンと言えば・・・まさか、ジークハルトのことか?いやいや、どうやってそんな勘違いが起きる?・・・待て、シルティア様は外に出るときは身バレを防ぐため常に頭に甲冑を被っている。恐らくその時にシルティア様はクロノと出会ったのだろう。そして、表立って動けないシルティア様の代わりに、その護衛をしているジークハルトがクロノの世話をしていた・・・そういう状況か。だとすると、この状況は面白いな。面白すぎる。)


 実はレントとジークハルトは幼馴染だった。


 昔は優劣を競ってきたレントとジークハルトだったが、レントは最終的に文系の道を歩み、ジークハルトは武芸の道を歩んだのだ。

 その後の縁でジークハルトはシルティア王女と懇意になり、その護衛を任せられるまでになっていた。

 そういった経緯もあって、ジークハルトを通じシルティア王女名で『強くなるという約束を故人としている男がいる。魔力が無いようだったが、面白そうな奴なのだ。』という話をレントは受けていたのだ。

 ちなみにレントが甲冑騎士=王女であることを知っているのは、ジークハルトがレントに王女の愚痴を言う際にうっかり口を滑らせてしまったからだ。

 当然、レントはこのことを誰にも口外していない。



「そうだ。甲冑で顔を隠している騎士だ。既に噂が立っているようだが、実は彼は私の知り合いでね。今回君を推薦してきたのが彼だ。彼からは君が約束のためにギルドに入りたいらしいとは聞いていたが、それ以上は俺も教えてもらっていない。ちなみに、イケメンなのも真実だ。俺も嫉妬しているから間違いない。」

「そうだったんですか・・・。それで、その騎士は今どちらに?」

「彼はこの国の軍に所属している。色々と忙しいのか、中々連絡が取れなくてね。俺にも居場所が分からないんだ。」



 クロノは酷く残念がった。

 それを見たレントは内心破顔する。


(くくく。甲冑を着る騎士でイケメンと言えばジークハルトしかいない。これでクロノはジークハルトに恩があるということになって、後でクロノの猛アピールを受けることになるだろう。仮に出食わしてもあいつはシルティア様を守るために自分だったと言い張るだろうしな。男に言い寄られるジークハルトを想像するだけで・・・あー楽しみだ。)


 レントは親友の末路を楽しみにしていた。

 しかしこの悪戯が、後にアルカナ王国の歴史に残る事件を引き起こすことになるのだった。



「因みにですが、その騎士のお名前は?」

「彼はジークハルトと言う。ということで、クロノのギルド登録は彼が根回ししたおかげでもある。が、俺はクロノの戦いを見て本当に素質を感じている。冒険者は冒険しないとって改めて思ったよ。」



 レントは昔ジークハルトと競っていた時のことを思い出して遠い目をしていた。

 クロノはそんなこととは露知らず、アルカのためにも、そしてお世話になった騎士ジークハルトのためにももっと努力して強くなりたいと再認識していた。



「クロノさん、お待たせしました。こちらがギルドカードになります。紛失には十分ご注意くださいね。」

「ああ。ありがとう。大切に保管しておくよ。」



 俺はギルドカードを受け取ると、記載事項を確認する。

 ランクはF。そしてやはり魔力0と表示されているようだったが、俺はそれをある意味個性であると思っているし、だからと言って誰にも負けるつもりなんてない。

 そんな気持ちを噛みしめながら確認を終える。



「あの・・・。クロノさん。その・・・今日これからのご予定はどうされるんですか?」



 サーシャが俺に今日の予定を尋ねてきた。

 もしかして、俺の体調を気遣ってくれているのだろうか。やはり、天使だ。



「お気遣いありがとうございます。サーシャさん。ですが、私は大丈夫です。安心してください。」

「あ、えっと。そうではなくてですね・・・。何というか・・・。」



 サーシャは顔を真っ赤にしたまま下を向いてしまう。

 俺は下を向いてしまったサーシャさんを不思議に思っているうちにふと、あることを思い出す。



「あ、そうだ。レントさん。どこかに信頼できる良い装備屋を知りませんか?」



 下を向いていたサーシャが顔を上げているようだったが、俺はレントの方を見ていたため、表情はよく分からなかった。



「・・・あー。そうだな、その辺の装備屋には行ったのか?」

「はい。ここに来る前に大体のところには行きました。ですが、どうにも信頼出来ないというか・・・。」

「いや、クロノの言いたいことは分かっている。皆、武器の事より金に目が眩んでいるのだろう?」



 こんなことその辺で話したら不味い発言なんだけどなとレントは続けた。

 その通りだと俺は思っているが、他の冒険者からしたら自分の懇意にしている装備屋を馬鹿にした発言と取られかねない。

 ましてや、中立のギルド職員がそんな発言をしたら大問題になるだろう。

 しかし、俺はこのことでレントの信頼度を一段階上げていた。



「ええ・・・。正直に言うとそんな感じでした。信頼のないところに命を預ける訳にはいきませんし・・・。」

「うーむ。・・・そうだ。実は俺が信頼を置いている装備屋が一つだけある。そこには個人的にも付き合いがあるところなんだが、何せ店主の癖が強い。一見は当然断るし、店主が気に入らなければ仕事を受けてくれない。そんな場所だが、どうだ?一度紹介してみようか?」

「いいんですか!?ありがとうございます!!」



 それは願ってもない話だった。

 レントが信頼を置けるところならかなり期待できる。ただ、問題は俺みたいな弱い駆け出し冒険者を相手にしてくれるかどうかというところだが、そこはもう俺次第だろう。



「よし。そうと決まればこの後にでも行ってみようか。」

「是非!」



 こうして俺は、装備屋を紹介してもらうことになったのだった。






【とある部屋での一幕】


 アルカナ王国のとある場所。

 老朽化したその建物は周辺の住民には今は誰も住んでいないと思われており、誰もその事について疑ったことがない。人の気配を感じることも無ければ、管理している人間の姿を見たこともないのだ。

古くからある幽霊屋敷のように、当たり前にそこにあった。

しかし今、その建物のある部屋では酷く重い空気が漂う。薄暗く、時折カーテンが揺れた時に出来た隙間から差し込む光がとても眩しく感じられる、そんな場所で3人の男が集まっていた。

 1人は真新しい机の上に座り込み、街の露店で買った食べ物を口にしている。

 残りの2人は机に座る男の後ろに立ち、目の前の人物がそれを食べ終えるのを今か今かと待っていた。

 急かすような真似をするつもりは無かったが、今はそれほど時間に余裕はない。



「ミッドレイさん。そろそろ行きませんと。」

「そっかー。もうそんな時間かあ。まだまだアルカナで遊んでいきたかったなあ~。食べ物もワインもおいしいし、街並みも綺麗。宿も清潔で対応も丁寧だしね。」



 ミッドレイは部下の進言に耳を傾けると、残りの食べ物を一気に口にして振り向いた。



「それでルイド・・・今回の収穫はどうだったの?」



 ルイドともう1人の男は、ミッドレイからの急な威圧を感じ身体が震える。そして反射的に頭を垂れていた。

 ミッドレイはいつもやる気のなさそうな顔つきや言動をしているが、仕事のことになると人が変わったように恐ろしい。

 その目で見られると値踏みされているような、べっとりとした嫌な感覚に襲われる。まるで心を読まれているようで、嘘など絶対に付けない。



「は、はい。全部で収穫が8人。内、レアものが2人です。」

「ん~。少ないなあ。収穫の数に関してはあんまり取りすぎると国に目を付けられそうで怖いし、まあ仕方ないと思うけどさあ。」



 そう言うと、ミッドレイは頭を垂れているルイドの頭を上から掴む。



「レアものが2人はないよね~?そうは思わないか?ルイド。」

「お、思います。申し訳ございません!!ミッドレイさん!!」



 肯定と謝罪。これ以外に何を言えば機嫌を損ねないのか分からない。



「やっぱりそうだよね~。そう思うよね~。・・・じゃあ、どうするのかな?」

「・・・・レアものを見つけてきます!今日中に見つければ期日までには間に合うはずです!!」

「そっかそっか。じゃあ、頑張ってね。ちなみに今日中に見つけられなかったら・・・分かってるよね?」



 ルイドは光の速さで何度も頷いた。

 もう二度とあんな目には遭いたくなかった。

 例え、誰かがその痛みを味わうのだとしても自分だけは逃れたかった。



「OKだね。じゃあよろしく。」

「は!!!」



 ルイドは自分の後ろで頭を垂れたままだったもう1人の仲間を連れ、即座に出ていく。

 絶対に失敗は許されないと胸に刻み込みながら。


ミッドレイは部屋に一人残ると、ふざけた口調を辞め、1人想いを馳せる。



「ふふふ。しかし、ようやくここまで来ることが出来た。・・・だが、まだ不十分だ。あの方の悲願の達成のためにも、早急に集めなければ。そのためには、特に純度の高いレアものを探す必要がある。」



 ミッドレイは残っていたワインを口にし、次の獲物について思考するのだった。

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