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ある熟年夫婦の場合  作者: つよきち
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決して縮まることのない距離

「もういいよ」


誠一は気づいたらそう言葉を発していた。

祥子がこれ以上話さなくても、なんとなく祥子がしたことが分かった。

祥子や横山、そして幸恵も含め、みんな知っていたのだ。

そして知っていながら、誠一に知らないように振る舞っていた。

目的は、祥子と横山が結ばれることなのだろう。

みんながみんな力を合わせて、誠一に嘘をついていたのだ。


誰が何を考え、どう振る舞おうとしたのか。

そんなことを知っても何も変わらないことも知っていた。

だから誠一はこれ以上聞きたくなかった。

もういい。

全部終わりだ。


誠一はこれ以上自分の大事なものを失いたくなかった。

現実を全て知ることが正しいことだとも思わなかった。

むしろ誠一は自分を守るためには、知らない方がいいと思った。

誠一は祥子を見た。

誠一にはいま祥子が何を考えているか分からなかった。

でも知りたいとは思わなかった。

祥子がどんな感情を見せたとしても、それは全部嘘に思えた。

祥子は確かに涙を流していたが、ただそれだけのことのように誠一には思えた。

まるで映画を見ているようだった。

それに感情が揺るがせられないのが、映画とは違った。


誠一は不思議に思った。

あんなに恐れていたことがいま現実に起こっているのに、誠一は普通だったからだった。

やはり人間は意外と強くできている。

そんなことを思っていた。

それとも可笑しくなってしまったのだろうか。

誠一は自分の手を見た。

そして祥子の気配を感じた。

その気配に、きっと自分の手をまじまじと見つめる自分を変に思うだろうな。

誠一はそんなことを思っていた。


祥子は震えていた。

さっきまで泣いていたが、今もまだ泣いているのだろうか。

顔は見えないから分からない。

そして誠一は泣いているのだとしたら、なぜ祥子が悲しんでいるのか理解できなかった。

そんなに悲しむのであれば、どうして悲しまなければならないことをしたのだろうか。

誠一はそんな祥子を見て、あいかわらず勝手だと思った。

出会った時から今までそれは変わらない事実のようにに思えた。

それは、まるで長年かかっていた魔法が解けたような感じだった。

哀れだな。

きっとそれは誠一以外の誰もが誠一に抱いている感情だった。

でもその時、誠一は確かに目の前の祥子に対してそう思っていたのだった。


誠一は祥子にどう振る舞えばいいか分からなかった。

ただ祥子と誠一は一定の距離を保ちながら、それぞれ同じ時間を生きていた。

その距離はこれから決して縮まることはないだろう。

誠一はなぜ自分がここにいるのか分からなかった。

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