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俺なら、こういう能力にする!  作者: 包 卵夫(ツツミ タマオ)
8/15

ターンエンド


「そこにいる、姫に触れることができたなら、好きにすると良い」


 先程までの、娘を嫁にやるのが嫌で、ごねている我が儘オヤジ、という様子から一変したのは、どういう風の吹き回しか?


 ムテキングは冷静に、いや、冷淡とも取れる視線で、プリンアラモードに目配せをする。



《どういうことだ?》 



 普段から訓練をしているはずの、騎士(トゥナイト)ですら、自分の動きを追えないというのに、如何にも箱入り娘然としたプリン姫に、触れられない訳がない。


 疑り深い人物なら、何かあると警戒するだろうが、欲に塗れたサードマンは、すぐに疑問を切り捨て、単純に容易いと内心ほくそ笑んでいた。



 プリンアラモードは、軽く頷くと歩み出て、


「わたくしは、ここから一切動きませんので、どうぞご自由になさってください……ですわ」


 と、ニコニコと、一貫した頬笑を絶やさず、腰の後ろに手を組み佇んでいる。



 更に不可解なことに、抵抗すらしないとは……。

 単純に諦めたのか?

 

 さては、何か裏があるわけではなく、被害を拡大させないために、敢えて衆目の前で姫に触れさせることによって、無力感を植え付け、皆の抵抗の意思を削ごうというわけか。

 

 それだけ、先程見せた己の戦闘能力は、脅威に映ったらしいと、サードマンは自惚れる。


 随分と安い親の愛情だなと、内心嘲りながら、彼はゆっくりと姫に向かって歩を進める。


「随分と物分りが良くなったようで何よりだ。ではゆっくりと堪能させて貰おうか」


 そう言うと、彼は両の掌を標的の、形の良い胸の高さに合わせ、わきわきと開け閉めさせながら、がに股になり、距離を詰めて行く。

 弛緩した、だらしない顔つきで。


 書いてて嫌になる、とても気持ち悪い動きだが、対するプリンアラモードは依然として笑顔を絶やさない。

 彼女の神経は、一体どうなっているのか?



「……俺なら二の腕をぷにぷにする……」



 誰かが何か呟いた気がするが、他人の性癖を気にしている場合ではない。



 そしてついに、手の届く範囲までプリンアラモードに接近したサードマンは、


「なかなか乙な、おもてなし」


 等と、妙なことを口走り、手を突きだした。


 トゥナイト達は、悔しそうに目を背ける。



 柔らかい感触を確信するサードマンだったが……。

 感触が……、ない。



《え?》



 当然目線は、自らの手の動きを追っているのだが、プリンアラモードの体に触れているはずの掌は、彼女の胸の中に埋没していた。


 胸に顔を(うず)めるという表現があるが、そうではなく、文字通り体に手が埋まっているのだ。感触が無いから透過というべきか。


 視線を上げ、プリンアラモードを見やる。


 彼女の表情は、いつの間にか変わっており、底冷えするような、冷淡な瞳と目が合った。


 何かが落ちる音が聞こえる。 


「やはりそうでしたか……ですわ」


「なにを言って……」


 思わず視線を逸らし、プリンアラモードの胸元を確認すると………、



 右腕が無い……!?


 いや……、足元に転がっていた……。






「い……、ひぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」



 上腕部の中間にできた、ひっきりなしに血を吹き出す切断傷を起点に、

 全身を駆け巡る、生まれてこのかた味わったことのない痛みに、サードマンは倒れ込み、床を転げ回る。



「触れられていないとはいえ、わたくしの体と同じ空間に、あの汚らしい手があったと思うと、反吐がでます……ですわ」


 自らを抱きすくめるようにすると、プリンアラモードは吐き捨てる。


「姫よ、少しやりすぎではなかろうか?」


 ムテキングは苦笑いだ。


「わたくしの能力は、細かい調整などできないのです……ですわ」


「肉を削ぎ落とす程度に、止めることは可能だろうて」


「良いのですお父様。あのクズは、愛しのトゥナイトの腕を切り落とそうとしました。然るべき報いを受けただけなの……ですわ」


「ひ……、姫」


 プリン姫の突然の告白に、トゥナイトは心底驚いた、といった様相だが、頬が朱に染まっていた。

  

「なんだと……、其方等いつの間に……、トゥナイト貴様ぁ!」


「王……、違うのです! 私も初めて耳にしたのです。」


 眉間に皺を寄せ、鬼気迫る形相のムテキングの眼光に、射竦められるトゥナイトを他所に、

 

「秘かにお慕いしておりました……のですわ」


 と、追い討ちをかけるプリンアラモードは、両頬に手を当て、照れるように首を振っている。


「姫、私はそのような――」


「トゥナイト、貴様ぁ!」


 王と姫を交互に見やり、狼狽えるトゥナイトだったが、その表情はどこか嬉しそうに見える。



「……何故、俺じゃない……?」



 誰かが何か呟いた気がしたが、気のせいだろう。

 いい加減、諦めて欲しいものだ。



 人の腕が切断され、大量の血を辺りに撒き散らすという、凄惨な状況にも拘わらず、そんなことはお構いなしと、言わんばかりに、謎のメロドラマが展開されようとしていた。


 全く相応しくない、サードマンの悲鳴を(バックミュージック)にして……。


サードマンのターン、終了のお知らせ。

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] ああー、かわいそーに三郎くん……。 そーなんですよね、女性って好きじゃない男性にはけっこう残酷になれたりしますからねぇ……ww 最初からお姫様とか狙わずバニーちゃんぱふぱふくらいにしてお…
[良い点] さーぶろーくーん……! あ~あ~……何から何まで、いかにも三下で――。 って、あ。 そうか、三郎の「三」は三下のことだったのか……(鬼)。 それはさておき、前回の戦闘描写なども、これま…
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