表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺なら、こういう能力にする!  作者: 包 卵夫(ツツミ タマオ)
6/15

新たな侵略者


「…………余では駄目かのう」


 身を捩らせて、そう発言するムテキングに、辺りは先程とは違った意味で騒然となる。



「王……、そのような趣味がおありとは……!」


「お気をたしかに……!」


「私は、前からそんな気はしていましたよ……」


「……これが譲歩と言えるのだろうか?」


「……俺も混ざりたい……」



 思い思いの言葉を口にする周囲の者達だったが、語気から困惑や呆れが感じ取れるのは、皆同様だった。


 一部例外を除いてだが……。


 

 勿論、最も面食らったのは、会話の当事者であるサードマンなのだが、  

 ムテキングは、ふざけたことを抜かして、煙に撒こうとしているのか、あるいは本気なのか。 

 

 気持ち悪い素振りからいって、後者の気もするが、演技の可能性も捨てきれないと、サードマンはムテキングの意図を図りかねていた。

 

 いずれにせよ、こんなジジイと遊ぶ趣味はない。

 

 というよりも、こんなことを考えてしまっていること自体がおかしいと、サードマンは、はっとなった。 

 


 当初の目的を思い出す。

 

 そう、世界を救ってチヤホヤされる前に、彼らの弱みに付け込んで、姫と遊ぶのだ。

 

 譲歩案というから、王族ではなくとも、傾国の美女クラスが出てくるのかと期待していたのに……。

 それなのに……それなのにコイツが……。



《ムテキング、恐ろしい男だ。たった一言で、俺を混乱に追い込むとは……》



 罵声を浴びせてやろうとも考えたが、なんとか踏み止まったサードマンは、頬を引き攣らせながらも、冷静を装い、答えを告げる。



「……駄目に……決まってるだろ?」




「フフ……当然そうであろうな。その()があれば、あるいは……、とは思ったのだがの」  



 打って変わった、ムテキングのおどけた態度は、サードマンの神経を逆撫でするのに充分だった。


 

「ふ、ふざけてやがんのか?」


 口調に素が混ざり、ギリギリと、奥歯を鳴らす。



「ふざけてなどおりはせんよ。ただ、余は一国の主であると同時に、一人の父親でもある。恥ずかしながら娘の身を案ずることは、当然のことだとは思わんか? しかしながら、このまま国が滅びるのを、指を咥えて見ているのが、王の務めではないことも、重々承知しておる」



《いや、嘘つけ! 思いっきりふざけてやがっただろうが! いきなりシリアスのギャップで誤魔化そうったって、そうはいかねえぞ? で、今度は情に訴える作戦かよ?》


 遠い家族のことが脳裏に浮かんだが、そんなものは不要と、サードマンは自分に言い聞かせ、振り払う。



「要するに何が言いたいんだよ?」


 性懲りもなく今度こそ、傾国の美女か?

などと期待を膨らませながら……。



「今、この国の民は、周りの者達も含め、疲弊しておる。其方をもてなす余裕など無いのだ。だが、平穏が戻れば其方の望みも自ずと満たされるはずだ。だから恥を忍んでもう一度お頼み申す。どうか世界を救ってはくれまいか? この通りだ。」



 そう言って、ムテキングは頭を垂れる。



《よこすモノもよこさないで、この野郎……、ムテキングならぬ、無恥キングじゃねえか》



「俺の機嫌より民を優先かよ……。他力本願のクソ統治者が、寝言ほざいてんじゃねえぞ!」



 無恥や他力本願とはよく言えたものだが、サードマンのあんまりな発言に、辺りは一触即発の剣呑な空気に包まれる。



「この狼藉者が、騎士の刃、覚悟しろ!」



 再び、抜剣しかけるトゥナイトだったが、



「お待ちください……ですわ」



 それを制したのは、プリンアラモードだった。

 

 凛とした口調で彼女は話し始める。



「わたくし覚悟はできております……ですわ」


「ひ、姫!」


「王女という立場であろうと、国を守るのが王族の務め……。『いいこと』とは善行のこと。つまり頼りきるのではなく、共に戦うべきと、サードマン様は仰りたいのですわ。わたくし、感動いたしました……ですわ」


 そして、胸の前に手を重ね、瞳を潤ませ、うっとりとする。




《ちげーよ! 何をどう聞いたらそういう解釈になりやがんだ、このスイーツ女が! かまととぶってやがんのか? 頭の中までスイーツでできてやがんのか!?》



 またもや場の空気が変わる。



「姫……、さしもの余も、その発想は思い至らなんだ……」


「『いいこと』……? ……善行?」


「おお、なんと勇猛果敢かつ、前向きな御心であらせられるか」


「難聴なだけでは?」


「……俺は夜の戦いがしたい……」


 

 思い思いの言葉を口にする周囲の者達だったが、語気から驚愕と困惑が、以下略。






「……いい加減にしやがれ!」



 あまりに下らなく、進展しないこの状況に、このままでは埒があかないと、読者とサードマンの堪忍袋の尾が切れた。



 もういい、『何者をも圧倒できる身体能力』で恐怖を刻み込み、強引に服従させてやる。


「なんだ、一番手っ取り早く、単純な方法じゃないか」と、サードマンは最低な方向性へと、考えを転換させていた。






 もはや勇者でもなんでもない。


 新たな侵略者がこの国――『ムテキングダム』に爆誕しようとしていた。


サードマン、『いたずら』に固執しすぎでは?


次回は一応、バトル展開です。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] おお、三郎くんが真なる三郎くん的行動に……! いや、むしろこの一話、よく耐えた方なのか……。 ……にしても、やっぱり良い腕をしてますねオムライスさん! 構成にしても文章にしても、充分に上…
[良い点] 周囲の反応がなんとも乙ですね! そしてなに?サードマンが……!? いい意味で予想を裏切っていくのが楽しいです!
[一言] あのサードマン君がツッコミ役に回るあたり、なかなかにハードかつカオスな異世界ですが、この状況下で果たして彼はどのような行動に移るのか!? あと、「……俺も混ざりたい……」の兵士は、雑食過ぎ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ