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俺なら、こういう能力にする!  作者: 包 卵夫(ツツミ タマオ)
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喉元過ぎれば


 ──工場長は困惑していた。

 

 それもそうである。

 長年、共に働いてきた包が、何やら怪しいアクションを起こしたかと思えば、今度は正英までもがだ。

 包が何を言いかけたかまでは分からなかったが、三郎や正英の発言から考えられるのは、

「俺の部下の中に、二人もあっちの世界の住人がいるかもしれない」

という疑惑である。

 彼等は三郎と違って勤務態度は真面目だし、普通に働いてくれる分には、なんら問題はないのだが、それとは別に、二人に深く関わるのはやめようと決めた出来事であった。



 趣味嗜好、性癖やプライベートがどうであれ、きっちりと仕事を遂行すれば問題ないという点に関しては、三郎も同じではあるが、彼の勤務態度にはムラがありすぎる上に、自分語りも些か度が過ぎたものだった。

 端から聞けば、大半の人間が、

「よくそんなことを、自慢気に語れるな」

と、思うはずであり、少なくとも包はそう感じていた。


 これは全て三郎が自ら語った内容で、同僚であれば誰もが知っていることなのだが、彼はバツ2であり、その離婚の原因は全て当時の妻とは違う他の女性に目移りしたからだそうで、事実その通りである。


 別れたら元妻との間には、それぞれ子を設けているにも拘わらず、上手く(小狡く)理由を付けて養育費は払っていないと誇らし気な上に、子供に会えなくて寂しいと感じるのは、最初の3ヶ月くらいなものだと豪語する始末。


 加えてそんなことを得意気に語っていたわりに、捨てたはずの子供の学校行事を参観するからと、行事前日になっていきなり「明日休ませて下さい」と宣い、同様に学校行事で一月前から休み希望を出していた包に、「報告が遅すぎる」と指摘されるや否や、

「包さんだって子供がいるから、気持ちが分かるはずなのに、どうしてそんなことが言えるんすか?」

などと、情に訴える演技をして逆ギレするクズっぷりである。

 演技と決めつけるのは失礼かもしれないが、こいつは子供をダシにして、仕事サボりたいだけにしか見えない。と言わざるを得ない。


 そして現在の、10歳以上年下の3人目の妻との間にも子供を設けてなお、浮気をしたことがあると自慢していたのは、彼が異世界に飛ばされる以前の話だ。


 以上の事から窺えるのは、三郎という人物は、愛情は元より責任感も節操も皆無なトリプル無しであり(三郎なだけに(我ながら寒い))、無類の女好き、そして面の皮が永久凍土並みに厚いということである。


 これは余談ではあるが、三郎の姉は彼の知らないところで、浮気相手の女性に詰め寄り、

「お前、三郎に嫁がいることを知っていて、手を出したんなら分かっているよな? 落し前だよ!」

などと強迫し、小遣いをせしめるということをやっていたらしい。

 弟が弟なら姉も姉。なかなかに、強烈な姉弟である。  

 

 

 さて、少しどころか、かなり過去の話に比重を置いてしまったが、話を元に戻すとしよう。


 そんな三郎ではあったが、異世界で痛い目を見てからは、『強運』という能力を失ったショックもあってか、数ヵ月前までは大人しかったものの、ここ最近ではすっかり元の調子に戻りつつあった。


 理由としては、

『もう転生したいだなんて、言わないよ絶対』

などと、第12部分のサブタイトルが、某マ○キーの楽曲の歌詞のようになっていることから窺えるように、「2度と転生はごめんだ」と、トラウマになってはいるものの、彼の見解では『運送野郎』という、パチンコ機種をやらなければ、異世界送りは免れるだろうという相変わらずのガバ理論と、『強運』がなくても特に不便を感じなかったこと、そして一番はやはり、彼の培ってきた性格によるところが大きいだろう。


 異世界に行く前はいっぱしに、家族を気にするそぶりを見せた三郎であったが、そんなものは一過性のセンチメンタルに流されただけの、気の迷いであったのだと、これから彼が話す内容を聞けば、お分かりになるはずだ。


 

 ──包と正英の危険なやり取りの後、再び三郎はマシンガンのように喋り始め、包はガラホを覗き、正英は彼女とのLINEを再開する。工場長は変わらず腕を組み、不動の姿勢のままだ。


「やっぱり、女は年下が良いっすよね。年上はダメっすよ」


(やっぱりうるさいな、小説に全然集中できないっすわ。だいたいが年下の嫁さん貰っているんだから、そんなことは言うまでもないだろうに……) 


 いつものことではあるが、三郎のあまりの喧しさに小説サイトを閲覧することを諦めた包は、パタンという音と共にガラホを閉じる。


「若い嫁さん自慢か?」


 何かが琴線に触れたのか、ボソッと工場長が呟くように尋ねる最中(さなか)、相変わらず正英は、どこ吹く風でスマホを弄っている。


「いや、そうじゃないんすよ。俺の登録している出会い系サイト、ババアしか引っ掛からなくてですね、若いの全然来ないんすよ」 

 

「はあ? 今度は出会い系?」


 思わず口を挟んでしまう包に、


「お前、家族のために心を入れ換えたとか言ってなかったか?」


と、呆れ気味の工場長。 


 二人のおっさん上司に注目され、気分が乗ってきた三郎は、饒舌に語り始めた。

 

「いやあ、最初はそう思ったんすけど、やっぱダメっしたわ。そんなの俺じゃないなって。

前にも話したかもしれないっすけど、かみさんがいくら若かろうと、子供を産んで母親の顔になると、なんか冷めちゃうんですよね……

あっ、でも若い人妻は好きっすよ、うん」


「お前が孕ませたんだろーが」


 工場長が苦笑いする。


「いや、三郎くんの好みは聞いてないんだけどさ、そうなるって分かっていてどうして結婚するわけ?」


 包が尤もな疑問を口にすると同時に、


「すいません」


 正英が突然手を挙げた。

 この会話の流れに、彼も何か言いたいことがあるのだろう。

 皆が注目したことを確認すると、正英はいつもの口調で話し始めた。


「すいません、自分不器用ですけど……、三郎さんの奥さんより若い上に、彼女は更に若いんです」

 

「「「黙ってろ!!!」」」


 満場一致の黙れコールもなんのその、正英は全く怯んだ様子もなく、むしろ満足気に子憎らしいイケメンスマイルを浮かべると、再びスマホを弄り始めるのだった。

 大した胆力というか、彼の精神はいったいどこへ到達しているというのか?


 常人では理解し得ない、不器用な若者は放っておいて、おっさん共の会話が再開される。


「で、なんでしたっけ?……、そうそう、何故分かってて結婚するか? でしたっすよね。

俺、今まで全てデキ婚なんすけど、最初はその時のノリで、ちゃんと責任取るポーズを取っちゃうんすよね……ハハッ。

でもやっぱ、俺の人生は俺だけのものだから縛られたくないっていうか、そういうことっすよ」


「……さいですか……」


 こいつとは多分一生分かり合えないと痛感した包は、閉口することを決めたのだが、工場長が意外な粘りを見せる。


「なあ、三郎よ。たしかにお前の人生はお前の物で、自由にするのはお前の勝手だがな……、お前が食い散らかしてきた人間にも人生があるんだ。

それを狂わせておいて、後は知りませんっつーのは無責任すぎやしないか?」


「……なんすか、なにいきなり真面目ぶってんすか?

工場長だって社内不倫して相手に迷惑かけたくせに、今更そんなこと言われる筋合いないっすよ」


「いや、今は俺の話をしているんじゃなくてだな……」


 ──工場長の不倫問題。

 それは、三郎が入社する以前の出来事で、彼には直接関係のないことであり、工場長も馬鹿なことをやったと充分反省はしているものの、思いもよらない説教に気を悪くした三郎には、そんなことはお構いなしであった。しかし関係のない話を持ち出すところが、なんとも子供(ガキ)くさい。


 痛いところを突かれ二の句を継げなくなった工場長をよそに、再び三郎は誰に言うまでもなく、自分語りを再開する。


「いいっすいいっす。それでですね、出会い系がババアしか引っ掛からないから、未成年の姪に声かけてみたんすよ、お金あげたら遊んでくれる()紹介してくれってね。そしたらなんて言ったと思います?

お金くれるなら私が遊ぶって言いやがったんすよ。

こいつ分かってないな、って思ったから濁さずに言ってやったんす。

お前じゃ駄目に決まってるだろ? 遊ぶっていうのは援助交際って意味だってね。

ハハッ、笑えると思いません?」 


(いや、全然笑えねーし)


 三郎のあまりの糞っぷりに、辛抱たまらなくなった包が、「駄目だこいつ、早くなんとかしないと」と思った刹那、彼の意識は途切れ、体は糸の切れた操り人形のように項垂れる。


「ん? どうしたんすか包さん? そんなに面白かったすか? いや~そうっすよね~」


 包の反応にご満悦な三郎が他のメンツの様子を伺うが、正英は相変わらずスマホを弄っており、工場長は腕を組み不動の姿勢のままで、特に反応はない。


「なんすか、つまんねーっすね」


 その三郎のぼやきにも反応を示す者はおらず、包も依然と項垂れたままの状態が暫く続く。


 流石おかしいと三郎が思い始めた頃、おもむろに包が面を上げた。その瞳には生気が感じられなかった。


「ちょっと包さん、なんの冗談っすか?」


 三郎がそう言った直後、「ピシィッ」という音と共に、包の片耳が真横に延びた。


 異様な長さだ。30㎝程は延びたのではないだろうか。

 そして更に、包の体に区画分けされたような線が無数に奔ったかと思うと、先程と同様の音が連続で鳴るのに連動して、彼の正中線を中心に、各々の横長の立方体の区画が左右均等にスライドされていき、包の体が開いていく。


 余りの非現実的な出来事に、三郎は呆然とそれを眺めていることしかできなかったが、開ききった包の体の中から現れたムサイおっさんを目にした瞬間、恐怖が全身を支配する。


 そう、現れたのは彼にとって、忘れもしない人物──三郎に生涯消えることのないトラウマを植え付けた、転生の(女神)であった。


「いや~、ごめんね包くん。ちょっと体を借りちゃたぁ。そして三郎くぅん、おひさ~⭐」


「あ……、あぁ」


 蛇に睨まれた蛙の如く体が硬直し、体が小刻みに震え、奥歯がなりやまない三郎は、呻き声ともつかない声を出すのと、助けを求めるように工場長と正英に視線を向けるのが精一杯であったが、こんな異常事態にも拘わらず、二人は以前と同じ体勢のままだ。


「あはっ、無駄だよ三郎くぅん。僕、一応神さまだからさぁ、彼らの意識の中から僕らの存在を消すことなんて、造作もないことなんだなぁ。

それでさぁ、僕が現れた理由は聡明な君のことだから、もう察しはついているんだろう? 三郎くぅん。

そう、ご明察ぅ! 転生ですよ、

『TE N SE I ♡』

君が以前の素敵な三郎くぅん、に戻ってくれちゃったもんだから、僕としても魅惑の異世界ツアーにご招待しなくちゃって、使命感に駈られちゃったってワケなのさぁ。

次はどんな異世界か楽しみだねぇ、ワクワクしちゃうねぇ、三郎くぅん。

というわけで、早速いってみようかぁ。

転生前の秒読み始めるよぉ!

はいっ、10 9 8 7 6 5──」


「い、いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ──」



 ──こうして、再び異世界に旅立つことになった三郎くんだけど、女神の気まぐれで現世に戻してもらったり、異世界に送られたりを繰り返して、どこかの○宮くん以上に様々な異世界を味わえるスリリングな人生を謳歌したとさ。


 めでたしめでたし♡

三郎くんがノリノリすぎて、予定より長くなってしまいました。

あと、大した出番でもないのに、女神のノリは書いてて疲れました(笑)


サブタイトルは一瞬『何度でも勇者』にしようと思ったけど、流石に怒られるから止めておきました(笑)



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― 新着の感想 ―
[良い点] 登場人物の名前とかがやっつけ仕事っぽいけれど、その脱力感が逆にサイコー! でした。 [一言] 三郎くん、最初はこいつクズやなぁ、と笑いながら読んでいたのですけれど…… どうにもこの職場、三…
[良い点] ダメダメ主人公がやられるっていう発想が面白いです。あと兵士の中に、ズレとるのが一人紛れてるのも好き。 パチンカスな私は、危ないと思っても金文字のために画面から離れられない三郎の気持ちが分か…
[一言] 三郎、ひでぇ奴ですねー。 一応、主人公なのに……。
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