プロローグ
豪華な装飾で彩られた広大な屋内空間。規則的に並んだ天窓は照明なのだろうか? ステンドグラスでできたそれからは、射し込む太陽光程度では賄えない光量が齎されていた。
壁際に等間隔に並んだ支柱の中心に位置する、一際大きな柱には、ゆったりとした衣服を纏った荘厳な雰囲気を醸す筋肉質な壮年男性の彫刻がされている。
入り口であろう巨大な両開きの扉から玉座へと続く道筋を示すように、石造りの床の上に敷かれた赤い絨毯の上で、キョロキョロと辺りを見回す一人の男がいる。
作り物のような整った容姿に、どう形を維持しているのかが不思議な、奇抜かつスタイリッシュな髪形、無駄に前髪が交差しているのはなんなのか?
申し訳程度の面積しかカバーされていない装飾過多な部分鎧に、用を成しているのか疑問な、腰上までしか丈のない外套。
これが闘争を想定しての格好だとすれば、戦いを舐めていると言わざるをえない出立ちである。
男の正面、数メートル先は階段状の段差になっており、登った先には玉座に腰をおろし、派手な衣服に身を包んだ老人がいる。頭上にはこれまた派手な王冠が鎮座していた。
王と思われる老人の傍らに、楚楚として佇む女性は、見た目の年齢から言って、王女といったところだろうか?
重臣と思しき格好をした男と、近衛なのであろう、武装をした騎士も側に控えている。
奇抜な髪形をした男の両側面――絨毯の外側には、整然と並ぶ、全身鎧に身を包んだ兵士達。
周囲を見回す男を余所に、周りの者達は示し会わせたかのように微動だにせず、沈黙のまま彼を見守っている。
男は何かを確認するかのようなそぶりであったが、視線を落とし、自らの掌を見つめ数回開け閉めを繰り返すと、満足したかのように王へ視線を向けた。
そこで初めて王が口を開く。
「おお、勇者よ、よくぞ参られた。その様子だと状況は理解しているように見受けられるな。余はこの地を統べる王、ムテキングと申す者。そなたも名を教えてはくれまいか?」
続けて傍らに控える王女も口を開く。
「わたくしは、プリンセスプリンアラモードと申しますわ。以後、お見知りおきを……ですわ」
そう言い、スカートの両裾を摘まみ、軽く膝を曲げた。
《…………いやいやいやいや、ムテキングにプリンセスってそのまんまじゃねーか! いや、そうじゃない。絶対偽名だよね? 舐めてんのか!? だいたいが、プリンセスのプリンアラモードなのかそのまんまの名前がプリンセスプリンアラモードなのかハッキリしやがれってんだ! つーか長げーよ。あと、語尾に無理矢理『ですわ』ってつけてんじゃねーぞ。そしてもう少し捻れや!》
突っこみの濁流が脳を駆け巡るが、なんとか気を落ち着けると男は逡巡してこう名乗った。
「サードマンだ」
「良い名前であるな。ではさっそくで悪いが、世界を救ってはくれまいか? 勇者サードマンよ」
ムテキング言葉を聞き、センスのない名を名乗った男――サードマンは不敵に口角を吊り上げた。
君も大差ないと思うよ? あ、作者もか!